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子犬/Novel by CSI

子犬

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キャラ崩壊したアーチャーがいます。シャドウ寄りなのかもしれません。

表紙の写真を提供してくれた@ConnorHomeに感謝します

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入口に大男がもじもじと立っている。
腕には『もやもやとした霧』の様なものを抱えて。
「今日から暫くレイシフトなんだ。この仔の所有者もまだ見付けられなくて」
戻る迄面倒を見てくれないか、ともじもじ男は言った。
「・・・なんだ、それ?」
不審な表情を隠さず問うと、
「見ての通り、子犬さんだ。大人しい仔で吠えたり噛んだりしないから、ゲリとフレキのついでにご飯と水をあげてくれるだけでいいのだが、駄目かな?」
見ての通り・・・子犬・・・さん?このもやもやしたのが、か?
「こいつは、子犬、なのか?」
「そうだが?」
「俺には子犬に見えねえんだが」
アーチャーは、腕の中の靄と俺を交互に見てから、
「子…犬じゃない?え、と、狼とか?…タヌキ?とか??」
キョトンとした顔で聞いた。
成る程、ソレは、小型のもふもふした獣なのか。俺には靄にしか見えねえんだが。
負の気配はないので、呪いや悪霊の類ではなさそうだ。しかし、魔力も感じない。
・・・何なんだ、これは?
取敢えず、カルデアに害があっては困るので、強めの結界を貼る。これで管制室へアラームが表示され、この部屋は強制監視下に入るだろう。
モニター上で、コレが何なのか、判別できるといいのだが。
『キャスター?エミヤくんも!何事?』
早速、管制室のダビンチちゃんが応答してきた。アラーム音は切っているのか、照明が点滅しているだけで、危機感があまりない。
センサーやモニターにも映らないのか、これは。
「ああすまん。アーチャーが子犬を持ち込んできてな。カルデアが外部からの侵入を見逃したのかと思ったんだが」
『子犬?それが本当なら大事だよ~そいつは今どこに居るの?』
「アーチャーの腕の中、だそうだ」
ポカンとするアーチャーに視線が集まる。
『・・・何も・・・見えないねぇ』
「俺にはもやもやした霧のような物は見えてるが、それも見えてない?」
『見えないねえ』
「だ、そうだ。アーチャー。そいつ、どこで拾った?」
「な、なんにも…なんにもいない」
思考が止まったような顔で、靄を背中に隠すアーチャー。
「よこしなさい」
「なんにもいないったらー」
靄をギュッと抱きしめて後ろを向いてしまった。・・・やはり呪いか何かか?
「このままじゃ埒が明かねえな。おいアーチャー、お前にはどう見えてる」
と言ってキャスターは、片手でアーチャーの左目を覆い、反対の手で、自身の右目を覆った。一瞬、チクリと痛みが走る。
「ほう」
『何が見えてるのー?』
「犬…だな。犬種は分からんが、まん丸とした白い毛の子犬だわ」
「そう!くまのぬいぐるみみたいで可愛いだろう!」
やっと理解されたのが嬉しくてパッと振り向いたアーチャーの顔から、キャスターの手が離れて、
「う!」
アーチャーの左目に、キャスターが見ていた『もやもやした霧』が写る。
「これが、俺に見えているものだ」
キャスターが左手を下すと、又チクリとしてからアーチャーの視界は元に戻った。
白い子犬が怯えて、キューンと鼻を鳴らす。アーチャーは子犬をヨシヨシしながら、
「この仔が子犬ではない事は理解したが、では何なのだ?どうして私だけに見えてる?こうやって触る事も出来るのに」
悲しそうに問うが、キャスターもダビンチちゃんにも、答えは出ないようだった。
『とりあえずさ、それ悪いモノではなさそうだしさ、今日からのレイシフトは他のアーチャーに頼むから、エミヤはそのままキャスターの結界の中に居てよ。じゃあ、私は調整とかあるからあとは任せるねキャスター。あ、監視はこのまま続けるから何かあったらすぐに報告してね』
「え!」
「え!」
丸投げされたキャスターと、久しぶりのレイシフトをお預けされたアーチャーが、悲痛な声をあげるも、ダビンチの写るモニターは消えて、代わりに部屋の入口に『モニター中』の表示が点灯して、ポーンという軽快な通知音が一回鳴った。

しばらく呆然と突っ立っていた大男二人は、ハッとしたキャスターが、ややもするとそのままで居そうなアーチャーから『もやもやした霧』を取ろうと手を伸ばすと、
「だ!駄目だ!」
『もやもやした霧』を抱え込んで後ろを向いた。
「なにもわるいことしてない!」
さっきからなんだこの茶番。と思いながら、
「なんもしねえから、それ寄こしなさい」
すったもんだの末、やっとキャスターの手に移された。
「ふーん…」
靄は今、手の中にあるが、質量として感知できない。形もそうだがおおよそ重量というものが感じ取れなかった。『もやもやした霧』と眼では認識しているが、一旦目を閉じてしまうと、気配ですら無くなってしまう。
「ある」が「ない」のだ。
キャスターは『もやもやした霧』を揉んだり伸ばしたりしながら、考察を重ね、その様子をアーチャーはハラハラと見守った。
ついに、
「めんどくせー!」
といって、『もやもやした霧』を放り投げた。
「わ!」
アーチャーは慌てて『もやもやした霧』を受け取り、胸に抱きて、撫でり、
「キャスター!いい加減にしろ、可哀そうに怯えているではないか」
クワッと睨み付けた。その様子を眺めて、
「お前が抱くと、質量を得るのか。手の形が、確かに小動物の形に沿っている。うーん…もう一回、お前の眼を借りるぞ」
キャスターの腕が伸びて、アーチャーの左目に指先で触れると、今度は直ぐに手を離す。先ほどと同じ、チクリとした痛みがあったが、今度は『もやもやした霧』は見えず、子犬の姿のままであった。
キャスターには、片目で『もやもやした霧』を、反対の目でアーチャーの視界が見えている。慣れるのに少し間をおいてから、もう一度子犬に手を伸ばす。
子犬は、彼の手が触れる前に少し怯えてみせたが、逃げもせず、大人しく触れさせた。
「おお・・・こいつは・・・」
キャスターの手が子犬を撫でる。
イカの耳になっている子犬の背をゆっくりと撫でる。柔らかな毛並み、筋肉の動き、未発達な骨格、早くて生温かな呼吸、湿った鼻先、どれもが本物の子犬の様だった。
撫でる手を止めると、鼻先を掌に押し付けて、もっと撫でるように催促までしている。
「はは、君にも懐いたようだ。やはり犬好きは分かるのかな」
アーチャーが腕の中の子犬をやさしく手渡す。
ズシリと重かった。
前足の付け根に指を回し、胴体をブランとぶら下げて見た。四本の脚と肉球を確認し、耳を触ったり口の中に指を入れて牙のチェックをしても、吠えたり噛みついたりせず、キャスターの腕の中で、ジタバタとポジショニングをして、心地よい体勢を見付けてから、スヤリと眠った。
「見た感じ、普通の犬だな。犬種は分からんが、足の具合から見てデカくなりそうだ。乳歯がまだ残ってるから生後3~4か月てところか?あと、雄な」
「ほー」
「それで?こいつ、何処から連れてきたよ?」
頭を指先でコリコリと掻きながら聞いていたアーチャーが、ギクリとした。
「お前、周回にはずっと行ってないよな?ならYARIOファームかナーサリー花畑のどちらか。いやお前さんはあそこに顔出し出来んかったか。まさかカルデア内で見付けたとか言わんよな」
「ギクリ」
分かりやすく挙動る。
「まさか。あり得ねえ…」
「その、報告しなかったのは、悪い、とは、思っていたのだが、フォウさんとか…ミニク―ちゃんとか…おもちみたいなものかと・・・だからすぐに飼い主が見つかると・・・」
あっけにとられる。
この男、誰だ?冷静沈着で皮肉屋の、あの、アーチャーだよな?槍持ってる俺とバチバチの弓兵だよな?
誰だこいつ?・・・いや?・・・いや、そうか。まあ。うん。そういえば。
キャスターは、うーん、と眉間にしわを刻みながら「ランサー」の記録を読み返す。
・・・
エミヤだわ。
うんうん、エミヤで間違いないわ。そういや、こいつ、こういう奴だったわ。
動揺するアーチャーを前に、独りスッキリとした顔で納得をした。
「報告が遅れた事は、俺は口を出す立場じゃないから、置いといて、だ。こいつを、いつ、何処で見付けたのかは今、詳しく話せ」
キャスターが寝ている子犬を渡すと、アーチャーはホッとして受け取り、
「三日前の夜、遅出の面々とキッチンの片付けを済ませて、食堂の前で別れた後、独りで自室に向かっていたら。その。廊下の真ん中に、ちょこんと、座っていたんだ。この仔が」
腕の中の子犬が目覚め、アーチャーの顎の下をクンクンと嗅いでいる。
「周りを確認したが、誰の気配も無くて、勿論敵勢反応などある訳もなく、しばらくその場に留まっていたが、誰も迎えに来なくて、もう夜も遅いし、報告は明日でいいかな、と」
「それでそのまま部屋に連れ込んだのか」
「・・・はい。」
「で、次の日は?」
「翌朝、目が覚めると、この仔が、用意していた犬用のベットから出てきて、私の布団の中に潜り込んでいてね。とても可愛、ゲフンゲフン、大人しく寝ていたので、ご飯と水を置いてそのままキッチンへ向かったんだ。あの日は、ほら、ドゥリーヨダナがマスターと紅閻魔師匠にいちゃもんを付けて、Wコヤンスカヤにお仕置きされたり、マスターがピグレットにされたり、宿題地獄で、深夜にまでかけての大騒ぎが続いたろ?」
「ああ、あったな、ありゃあ酷かった」
「そんな訳で、子犬さんの報告どころではなくて、ね」
「ほう」
「帰室してみれば、子犬さんは悪戯もせず、排泄もきちんとおしっこシートの上でしているし、吠えたり噛んだりせず、大人しく私の帰りを待っていて、本当にお利口さんでねぇ。難を上げるとしたら、寝る時はどうしても私の傍が良いらしくて、折角準備した犬用のベットを全然使ってくれない事位で~」
嬉々と話すアーチャー。そのまま延々話を続けそうなので、
「それでお前さんは、情が湧いて、報告もせず、そのまま自室で飼っていた、というわけかい」
「・・・はい、そうです」
がっくりと項垂れた。
「そんで今日、俺の所に連れて来て、なんて言い訳をするつもりだったんだよ」
「・・・君も、犬を飼っているから、見逃してくれないかな・・・、と」
「さては、てめえ、バカだな」
「君には分からないんだ!生前だって犬さんに囲まれて暮らしていた君には飼いたくても飼えない者の悲しみが!しかも君は、サーバントになって迄も傍に犬さんが二匹も居てくれて、ずるい!」
「ずるいって、なんだよおいw名前にも犬背負ってんだ、それ位アリだろw」
なんか可笑しくなってきたキャスター。
「うるさい!犬養毅でも、犬飼ってなかったんだぞ!」
「誰だよ、イヌカイツヨシってww」
「はなせばわかるのひとだろ~~~」
わ~となっているアーチャーの顔を一生懸命ペロペロ舐める子犬と腹を抱えて笑うキャスターと、「この仔には罪は無いんだ悪いのは全部俺だーだから命だけは助けてやってくれー」の阿鼻叫喚がしばらく続いた。

「カルデアが認識できないものを処分、といってもなぁ」
温かいお茶の入ったマグカップをアーチャーの前に置く。子犬が腕の中から乗り出して、湯気をクンクン嗅いでいる。アーチャーは子犬の頭を撫でながら、神妙にしていた。
「センサーに反応しない、モニターに映らない、実際に見ても靄にしか見えない、お前にだけは子犬に見えるって、何だろうなあ。メディアに相談してみようかねぇ・・・ん、そういや、」
何かに気付いたキャスターが指笛を小さく鳴らすと、ゲリとフレキがキャスターの足元に現れた。
「なあ、おまえらには、こいつはどう映る?」
フレキの頭を掻きながら、見上げるゲリに向かって話しかける。
フレキはそのままの姿勢で正面をじっと見ている。ゲリは振り返りアーチャーの胸元をじっと見詰め、又キャスターの顔を見上げる。
フレキはまだアーチャーから視線を戻さないが、毛も耳も、特別な反応を示さない。
「居る、が、興味もない、か。まるでゴーストだな」
子犬はキャスターの指笛には反応していたが、突然現れた大型の狼に怯える事もなく、アーチャーの腕の中でふくふくと過ごし、時々二匹を見ては、小さなあくびをするのだった。
「・・・この仔は幽霊なのか?その、動物に幽霊とか・・・あるのか?」
おずおずと質問する
「さあねぇ。お前さんの言う幽霊ってのは、恨みを持ったまま死んで成仏できない奴の事だろ?」
コクリと頷く。
「分かんねえけどよ、こいつが恨み残して死んだようには見えねえし、そういうんじゃなくて…まあ、これは俺の単なる思い付きなんだが、どう説明したものか…ん、ああそうだ、お前はアブラハムの宗教※↓では無かったな」
「え、いや、私に宗教は、」
「そういうのは今いいから。俺んとことお前んとこは死生観が似ているから、話しは短くて済む」
手を挙げてアーチャーの否定を遮り、説明を続ける。
「死者の魂は通常、逝くべき処へ向かうが、この世に留まる魂もあるし、行ったり来たりも出来る。そういうのあるだろ、お前ん所にも」

外へ遊びに行きたいゲリとフレキが、閉鎖されたドアの前にお座りをして、開くのを待っている。キャスターは、彼らの水入れに水道の水を入れて床に置き、二匹を呼んでから、又、話しだす。

「それとは別に、精霊や怪異というものが存在していて、そういうのが混じり合い、生者に影響を及ぼす。特に負の遺産を持つ魂、負の影響を受けやすい魂は、悪霊と呼ばれ、生物への影響が大きいから、宗教や死生観に関係なく認識されやすい。一方正なる魂は、迷うことなくまっすぐ逝くべき場所へ向かうから、生者へ影響しない。だが正も負も持たない無垢な魂は、綿毛のようにふわふわとしていて掴みどころがなく、誰にでも触れられるが、触れた事に気付ける者は、ごく稀でな」

アーチャーの腕から子犬を抱き上げ、ゲリとフレキの横に置いたティーカップの受け皿の前に座らせると、中の水をぺちゃぺちゃと飲みはじめる。

「それらは、存在を認識されなければ、無と同等で、月光よりも儚い。アブラハムの宗教に寄っているカルデアスには、明確な害意を持たない霊的な存在は、この世界に何の意味もなく、それはつまり、初めから存在しない、「無い」という判断だ」

水を飲んだ後、今日はドアは開かないと理解したゲリとフレキは、キャスターのベットに上がり、寝そべった。子犬もベットに上がりたがって、何度もジャンプしてはぺしょっと床に転がる。キャスターは、ゲリとフレキに「ベットの上は駄目だって言ってるだろ」と、ため息をつきながら子犬を持ち上げ、ベットの上にのせた。

「ほら、ゲリとフレキの水は減っているが、子犬の水は零れてすらない」
水入れを指差す。
「・・・しかし・・・ちゃんと、触れるのに・・・ずっしりと重くて、暖かくて、湿った息遣いとか・・・」
情けない顔をするアーチャーに、
「俺はこの部屋にいる間、こいつの鳴き声を聞いていない。三日間にお前は聞いたか?部屋にあるトイレシートは本当に汚れていたか?餌は?何を食べていた?」
静かに問いかける。
ふくふくと丸い、白クマのぬいぐるみのように愛らしい子犬は、キャスターのベットの上でアーチャー達を見ながら嬉しそうにしっぽを振っていた。

今もきっと、振っている。

キャスターの持つアーチャーの眼にはもう何も映らなかった。こめかみを揉んで一度大きく瞬きをする。キャスターの眼にも、あの『もやもやした霧』は映らない。
「…ふと、誰かに引っ付いてここに来ちまったのかもな。たまたま通りがかったのがお前だった、そんで偶然お前と波長が合ったのか。撫で上手に可愛がられて満足したのかねぇ…あっけないもんだ。…おいお前さん、まさか泣いたりしてないよな?」
「…泣くわけないだろ」
「えー?そうかぁ?」
と顔を覗き込んでくるキャスターを押しのけて、
「しつこい、たわけ」
と言った。
心なしいつもより黒目がちなアーチャーが、名残惜し気にベットの上を見ていると、ゲリとフレキが前足に頭をのせたまま大きな欠伸をして、とてもくつろいだ様子で、それが、「なにか特別なことが起こったわけでもなし、逝くべきものが逝くべき場所へ逝っただけですよ」という風に見えて、妙に、なんというか、「納得」してしまった。
別れには慣れている。いつものようにただ、平時に戻るだけさ。
「さて、では、管制室へ報告をして、このアラームを解いてもらわないとな」

色々な雑事を片付けて夜遅くに自室に戻ったアーチャーが、部屋の片隅にある新品の犬用ベットや水入れやペットシートを見付けて、一瞬、のどの奥がツン、と引きつった。
「・・・やはり、少し、さみしいな」

その夜アーチャーは、陽だまりの下、地平線まで続く草原で、ふくふくの白い子犬と遊ぶ、とても穏やかな夢をみた。


※アブラハムの宗教:ユダヤ教キリスト教イスラム教の3つの宗教の総称で一神教。

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