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ようこそ、運命/Novel by 赤木

ようこそ、運命

3,517 character(s)7 mins

カルデア設定。まだ人理修正中。
エミヤが召喚されました。

実は一番最初に書いた槍弓がこちらです。
せっかくなのでupします。

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「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ、参上した」

何度目の召喚かもうわからぬほど戦いに明け暮れることには慣れた。それが使命だからだ。
青い光の中、こちらを見つめる少年に、次のマスターは彼であると直感する。
黒い髪、青い瞳。優し気な顔。まだ幼さが残るこの少年が、と思っているといつもと様子が違うことに気付いた。

「初めまして、アーチャー」
差し出される、手。僅かな魔力。何かが違う。

「あなたが私のマスターか?」

その手を握り、そう思わず口に出してしまうほどに。


少年は困ったように笑った。事情を説明しよう、と出てきた見知らぬ連中に咄嗟に戦闘態勢を取ろうとすると慌てて止められた。
どうやら今回は何もかもがイレギュラーらしい。
「あ、あの……」
しかし、マスターと呼ぶべき存在は彼で間違いないようだ。
少年はなぜかそわそわ落ち着かい素振りで、じっとこちらを見上げてくる。珍しいのだろうか、このサーヴァントが。いや、もっと物珍しさとは違う感情が入っている。何だろう、ひどく……嬉しそうだ。

「あなたが赤い弓兵?」
問われた言葉に、きょとりと目を開く。

「……赤い弓兵は他にいるのかもしれないが」
なんせ、英霊の数は多いのだ。把握しきれるわけがない。ましてや一度の聖杯戦争で同じクラスと出会うことはほとんどないに等しい。
「そう呼ばれたことはある」
答えると、ぱっと少年の雰囲気が明るくなった。

「俺、あなたをずっと喚びたくて仕方なかったんだ」

「は……」
「来てくれてありがとう」
とても嬉しい、と殊更少年は嬉しそうに微笑んだ。


他の職員(ダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれと言った女性は、モナ・リザそっくりでその辺りから余計なことを考えるのを止めた)から粗方の話を聞く。なるほど、イレギュラーもイレギュラーの事態だ。
その内も少年はそわそわと落ち着かず、ついには女史が苦笑した。
「行っておいで。ずっと待っていたのだろう」
落ち着いた声に、嬉しそうに少年が立ち上がる。
どうやら周知のことのようだ。ついてきて、と少年が軽い足取りで先を行く。


広い施設をすいすいと少年は歩いていく。時折、見た目が華やかであったり、明らかに人のそれでないような者たちを見かけた。彼らもサーヴァントなのだろう。
紹介は後でするからね、と少年の声は明るい。
遠くに知った顔を見た。古代の魔女。その美しい顔で薄く笑う。
そこから嫌な予感がしていたのだ。


「あ、いた!」
弾んだ声にその予感が膨れ上がった。視界の端に捕らえた青。それを辿る。
尻尾のように長い髪が揺れ、少年の声に振り返る。その顔。

視線が絡んだ。瞬間、湧き上がったのは確かな殺意だった。
膨れ上がり、体の奥底から湧き上がる力の渦にそれがまるで自然のことであるかのように、口が詠唱を始める。それは男も同じだろう、伸ばした手の先、見慣れた赤い槍が――

「ひぇっ」
しかし、横で短く聞こえた悲鳴に、一気に引き戻される。

「え、なん……」
狼狽している少年のその顔が青を通り越して、すっかりと白い。新参のサーヴァントがいきなり戦闘態勢に入ったのだ。驚いて当然だ。
止まるわけにはいかないまま、慣れ親しんだ双剣の柄を今まさに握ろうとした瞬間、僅かに動いた男の目が何かを視界に入れた。
顔をきつく引き締め、男が自らの得物を、その赤い槍を消す。

「なっ……」
「引け、弓兵」
短い言葉は有無を言わせないものがあった。何を、と反論しようとしたところで槍兵が全く違うものを見ていることに気付く。

男の視線の先には、マスターとなる少年がいた。浅い呼吸を繰り返しながら、青い槍兵を見ている。その顔にあるのは、大きな困惑だ。
「え、と……あの、ね、その……」
少年は言い訳するように、言葉を探している。殺気を綺麗に消し、槍兵はマスターの前に立つ。
「坊主」
その呼び方が内心少々動揺してしまった。しかし、じっと少年を見ている槍兵は気付ないだろうことに安堵する。
男はじっと辛抱強く少年の言葉を待ち、それに応えるよう小さく少年が口を開く。
「赤い、弓兵……」
零れた言葉。窺うように少年が男を見上げる。
赤い弓兵。
最初にそう呼ばれた。二人に交わされた何かがあるのだろう。
「違った、の?」
ひどく幼い仕草で少年が首を傾げて聞いた。男が小さく、息を吐く。
そして、急に肩に手を置かれた。

「っ!」

何をするとその手を跳ねのける前に、思いもよらない言葉が耳に入った。

「俺が待ちかねていた赤い弓兵はこいつのことだ」

「な……」

「ありがとな、坊主」
と、男の大きな手が伸び、くしゃりと少年の髪を柔く乱す。
随分とまあ穏やかな言い方だと視線をやると、マスターは幾分かほっとしたように表情を緩めていた。
「びっくりした」
「気にすんなよ、俺たちの挨拶みたいなもんだ」
からからと笑いながら、男の手が勢いづいて少年の黒髪をくしゃくしゃにする。
「喧嘩しないでね」
身を捩ってそれを避けようするが、全く逃げることが出来ていない少年は、ついには両手でぐしゃぐしゃと掻き混ぜられ始める。
「おう。保証はできねぇなァ」
「クー・フーリン!」
少年が非難するように声を上げる。
止めてよ、と嫌がる素振りを見せているが、本気のようではない。むしろどこか嬉しそうでもある。いつものこんな風にじゃれ合っているのか、とふいに胸の奥に湧き上がる感情に弓兵は心の中で首を傾げる。懐かしさとも似ていると思ってすぐにその思いを斬り捨てる。
「止めたまえ、ランサー」
仮にもマスターなのだろうと言外に含ませると、男のピタリと動きが止まった。不自然すぎるほどにだ。
「何だね?」
「いや、何でもォ?」
ニヤリと笑う端正な顔。半神の美しい造形にこの表情をのせる男だったと思い出して苛立ちが増す。そうだ、この男はこういう男だ。
それを隠さずに表情に出すと、マスターとなる少年の眉が八の字になった。
「エミヤ」
何の躊躇もなく呼ばれ、体が跳ねたのは弓兵だった。そして、そうかと気付く。英霊同士が共闘するこの場所では真名は隠さずとも良いのだ。
しかし、呆気なく暴かれるとどうも落ち着かない。
「あ、名前。呼ばない方がいい?」
「いや……、すまない。慣れないだけだ」
槍兵に対してとは逆のおずおずとした少年の態度に、ここでは自分が新参者であることを痛感する。
「カルデアの説明、まだ途中だったよね。ごめんなさい。どうしても、会ってもらいたくて」
少年の言葉に他意はないのだと表情からも態度からもよくわかる。ごく普通の少年なのだと。その細い肩に世界がのっているなど誰も思いもよるまい。
「おう、マスター。こいつの案内なら俺がしてやろうか?」
何を言い出す、と口を開く前に少年が言う。
「駄目だよ。絶対喧嘩するもん」
「ンだよ、初っ端からしねぇよ」
「だめ!エミヤの案内は俺がする」
しかし、この槍兵に対する強かさからも彼がただ平凡なわけではないこともよくわかる。数々の修羅場を越えて来ているのだろう。立派なマスターの顔だ。
「兄貴、絶対変なこと吹き込むから!」
「吹きこまねぇよ!!」
大きな声に弓兵は短く笑う。
「マスターに従いたまえ、ランサー。私も貴様に案内される気はない」
「……」
じっと見て来た槍兵のその赤い瞳に落ち着かなくなる。
昔から、ずっとずっと前から、この目が苦手だ。何度巡り合っても、全てを見透かすようなその目に慣れることが出来そうにない。
その目がすうっと細められる。まるで獲物を前にした獣のように。
「まあ、何だ。アーチャー。今回は同じ陣営だ。仲良くやろうぜ」
差し出された手。ふいと目を反らす。
「貴様と慣れあうつもりはない」
「つれねぇなァ」
拒否されたというのに、ランサーは気分を害した風ではなくただ口の端を上げた。その目が心底楽しそうに歪む。
そうでなくては、とでも言うように。

「付き合いきれん」
二人を交互に見、ハラハラと心配そうな不安げな顔を隠さないマスターに、行こうと促す。
振り返りもせず、歩き出す。


「ようやく、会えたな。アーチャー」


聞こえたその声、そう名を呼ぶ響き。
満たされたような気分になると同時に、全てを奪い去られるような気がして、ひどく落ち着かなくなる。

視線があまりにも強すぎて、首筋にピリリとした痛みが走る。どこか甘やかなそれを知らぬふりをする。


何も気付かないふりをした、それが最初の過ちだったのかもしれない。


『ようこそ、運命』



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