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裁判官2500人を可視化「裁判官マップ」公開、口コミ投稿に「圧力になる」と懸念も…開発者の弁護士に聞く
法廷(takeuchi masato / PIXTA)

裁判官2500人を可視化「裁判官マップ」公開、口コミ投稿に「圧力になる」と懸念も…開発者の弁護士に聞く

全国の裁判官の所属裁判所や担当部、経歴などを一覧できるウェブサービス「裁判官マップ」が3月14日、公開された。

目玉の機能は「口コミ」だ。裁判官の訴訟指揮や審理の姿勢について、弁護士や当事者などのユーザーが匿名で投稿したり、閲覧できるようになっている。

裁判官に関する情報が可視化されることに期待する声がある一方で、不満や恨みが書き込まれ、個人攻撃や圧力につながる懸念も弁護士などから指摘されている。

開発したのは、インターネットの誹謗中傷問題に取り組む田中一哉弁護士だ。生成AIサービスを使い、今年2月から一人で開発に着手し、約1カ月で公開したという。

その狙いや問題意識はどこにあるのだろうか。田中弁護士が弁護士ドットコムニュースの取材に応じた。

●「裁判官に関する情報が十分に可視化されていない」

──裁判官マップは、どのようなサービスなのでしょうか。

全国の裁判官約2500人の所属裁判所・担当部・経歴等の情報を一覧できるウェブサービスです。

裁判所公式サイトや官報に基づく人事異動データに加え、裁判所公式サイトで公開されている判例情報のAI要約、そして利用者(主に弁護士や当事者)が裁判官の訴訟指揮や審理の姿勢について匿名で口コミを投稿・閲覧できる機能を備えています。

──どのように開発したのでしょうか。工夫した点や、完成までにかかった期間も教えてください。

今年2月に「Claude Code」を使って、私一人で開発に着手し、約1カ月で公開しました。技術的にはNext.jsとSQLiteを用いたウェブアプリケーションで、裁判官データは裁判所公式サイトの裁判官名簿と官報の人事異動情報から取得しています。

判例の要約にはAI(Claude)を活用し、現在までに約2000件の判例について700〜1200字の解説文を付けています。最終的に裁判所公式サイトで公開している約6万7000件の判例すべてに解説を付ける予定です。

工夫した点としては、匿名性の確保とプライバシーへの配慮を両立させることです。

投稿にあたって、メールアドレスなどの個人情報の登録は一切不要とする一方、IPアドレスは暗号化して保存し、裁判所からの開示命令などにのみ対応できる仕組みにしています。また、投稿ガイドラインにおいて、裁判官の職務と無関係な私生活上の情報の投稿を禁止しています。

──このサービスを作ろうと思ったきっかけや問題意識は何でしょうか。

直接のきっかけは、自分が担当した訴訟で東京高裁から受け取った判決です。

Googleマップの口コミに関する名誉毀損訴訟だったのですが、裁判所は「Googleマップの口コミは、一般的に、投稿した個人の主観的な事実の認識、評価を示すものと理解されており、閲覧者において、直ちに投稿された事実や評価を信用するというものではない」として請求を棄却しました。

この判決を読んだとき「それなら裁判官の口コミサイトを作ったらどうだろう」と思ったのが出発点となりました。

もともと、弁護士として実務に携わる中で、担当裁判官がどのような訴訟指揮をする人なのか事前に知りたいというニーズはありましたし、そうした情報は一部の弁護士の間で口伝えされるだけで、体系的に共有される仕組みがありませんでした。

裁判官は強大な権限を持つ公務員でありながら、その職務遂行に関する情報が十分に可視化されていないという状況を変えたいと考えるようになりました。

●「建設的な口コミは、司法の質の向上に寄与する可能性がある」

──情報の可視化は、どのような意義があると考えていますか。

裁判を受ける権利は憲法が保障する基本的権利ですが、当事者が裁判官について事前に知り得る情報はほとんどありません。

裁判官の訴訟指揮の傾向や審理のスタイルが可視化されることで、弁護士はより的確な訴訟準備が可能になり、当事者は自身の裁判に対する理解を深めることができます。

また、裁判官自身にとっても、自らの訴訟指揮がどのように受け止められているかを知る機会になり得ます。

裁判官は閉鎖的な人事システムの中にいるため、外部からのフィードバックを受ける機会に乏しい面があります。建設的な口コミは、司法の質の向上に寄与する可能性があると考えています。

●「適切な『見える化』は不当な圧力ではない」

──「裁判官への圧力になりかねない」といった懸念もあります。どのように受け止めていますか。

この懸念は真摯に受け止めています。裁判官の独立は司法の根幹であり、特定の判決結果を誘導するような圧力があってはなりません。

ただし、裁判官の独立とは、具体的な裁判において、良心に従い法と証拠のみに基づいて判断する自由を意味するものであり、その職務遂行についての公正な論評・批判から遮断されることを意味するものではありません。

むしろ、裁判官が市民の目から完全に隔離されている現状こそが問題であり、適切な「見える化」は裁判官への不当な圧力ではなく、民主主義社会における当然の監視機能であると考えています。

なお、投稿ガイドラインでは、虚偽の情報や侮辱的・差別的な表現を禁止しており、不適切な投稿については通報機能による対応もおこなっています。

●「司法が開かれた存在になることが理想」

──今後、司法にどのような変化を期待しますか。

最終的には、裁判官マップのようなサービスが必要なくなるほど、司法が開かれた存在になることが理想です。

しかし現在は裁判官に関する基本的な情報すら十分に公開されておらず、市民が司法を評価する基盤がありません。

短期的には、裁判官マップが弁護士の実務や市民の裁判理解に役立つツールとなることを目指しています。

中長期的には、裁判官の情報が可視化されることで、司法に対する市民の関心が高まり、裁判官人事の透明化や司法制度改革の議論が深まることを期待しています。

裁判官は国民のために存在する公的存在であり、その職務について国民が知り、議論できる環境を整えることは、司法の信頼を損なうものではなく、むしろ強化するものだと信じています。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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