覡としてカミに仕える身でありながら、こんな関係を持っていること自体が、すでに罪なのだ。心のどこかで——本当にどこかで——この瞬間を待っていた自分が、ひどく醜く思えた。
背中を壁に押しつけられながら、迫ってくる萬燈の体温に、この熱に溶かされたいという、卑しい欲望が胸の奥で暴れ始めていた。
自分はこんなにも脆く、こんなにも貪欲だったのか。
「先生……っ」
冷徹で、狂おしいほどの情欲を湛えた萬燈の眼差しに、比鷺は息を止めた。
心が、まるごと射抜かれる。恐怖と悦びが同時に胸を抉る。この瞳に捕らわれたら、もう二度と逃げられない。
比鷺は自分を問い詰めていた。なぜこの男に、ここまで心を奪われる? 覡の宿命を背負いながら、なぜこの熱に縋ってしまう? 答えなど、出るはずがない。
熱い。痛い。甘い。永遠に消えない烙印。萬燈の指が、比鷺の顎を軽く掬い上げた。
視界のすべてが、萬燈の顔だけで埋め尽くされる。逃げ場など、最初からなかった。
覡としての誇りも、カミへの祈りも、すべてがこの一瞬で砕け散った。
唇が重なった瞬間、比鷺の意識は熱で爆ぜた。最初は、柔らかな感触と、唇から伝わる生温かさ、そして微かに香るお香の匂い。それはすぐに、貪るような口吻へと変わった。
「……ん、っ……あ……」
比鷺の小さな喘ぎは、萬燈の唇に吸い取られた。
萬燈の舌が、比鷺の口内を蹂躙し、自分の領域に塗り替える。
唇の熱、頰に触れる髪、鼻腔を満たす彼の匂い——すべてが比鷺を閉じ込める。ただ「萬燈夜帳」という存在だけが、脳髄に直接、劇薬のような悦びを流し込んだ。
胸が締めつけられる。苦しい。愛しい。怖い。もっと欲しい。
この悦びは、罪だ。カミに背く悦びだ。なのに、こんなにも満たされる。こんなにも惨めで、こんなにも幸せだと感じてしまう自分がいる。
愛してほしい。
うなじの化身が、熾火のように疼いた。
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