情報の「予防接種」、大統領選で効果検証 ファクトチェックとも比較
「予防接種」のように先回りして正しい情報を広げておくと、「不正選挙」を訴える誤情報に対し、後から誤りを指摘して修正するよりも効果的な可能性がある――。米英などの研究チームが、「プレバンキング」と呼ばれる手法の効果を調べた結果を発表した。民主主義の基盤となる選挙への信頼維持に有効な手法として期待される。
論文は29日(日本時間30日)に科学誌サイエンス・アドバンシズで発表した(https://doi.org/10.1126/sciadv.adv3758)。
「不正選挙だ」という誤情報 世界中で課題
選挙に不正があったとの誤情報を訴え、候補者や支持者が結果を受け入れない事例は世界中で問題になっている。米国のトランプ大統領は2020年の大統領選で敗れた際、不正選挙を根拠なく主張し、支持者らが連邦議会議事堂を襲撃。ブラジルでも22年の大統領選で敗れたボルソナーロ前大統領が敗北を認めず、支持者らが大統領府を襲撃する事態に発展した。
研究チームはこの2国を対象に、二つの誤情報対策の有効性を調べた。
プレバンキングと事後的な修正を比較
一つが「プレバンキング」だ。例えば、選挙前にあらかじめ誤情報が流れそうな話題について正しい情報を広めておく。すでに拡散した情報を後から検証する「ファクトチェック」よりも効果が期待され、近年注目されている。
もう一つは「信頼できる情報源による事後的な修正」だ。不正選挙を疑う人にとって信頼できる情報源という意味で、例えば、トランプ氏が敗れた大統領選の結果を疑う人に対し、同じ党派の共和党員が後から説得するものだ。事後の修正という点ではファクトチェックに近い。
チームは、22年10月~23年2月に実験を実施。約3千~4千人規模の参加者を「プレバンキング」「信頼できる情報源」「何もしない(比較対象)」の3集団に分け、過去や将来の選挙への信頼度など、6指標で有効性を探った。
「注意喚起」つけると逆効果か
その結果、米国でもブラジルでも、プレバンキングには誤情報対策として一定の効果があると確認できた。特にブラジルでは、プレバンキングのほうが、信頼できる情報源による修正よりも有効だった。
さらに、チームがプレバンキングの際に「このような誤情報に気を付けて」などと注意喚起もする場合としない場合も比較。すると、注意喚起しない場合の方が有効という結果だった。これは誤情報への注意喚起が逆効果になっている可能性を示した。
選挙以外の政治的論争にも
研究チームの米ダートマス大のブレンダン・ナイアン教授(政治学)は論文公開に先立つ会見で「先行研究では、プレバンキングにおける事前の注意喚起が重要だと示唆されていたが、むしろ効果を低下させる可能性が示唆された。重要なのは注意喚起よりもプレバンキングにおける事実情報だ」と説明。警戒して不信感につながる人が出る誤情報の注意喚起よりも、あらかじめ選挙結果が信頼できる理由を説明するほうが効果的であるとの見方を示した。
ナイアン氏は、選挙に関するプレバンキングは、メディアやSNSのプラットフォーマー、選挙管理委員会などが担うことを提案。さらに、気候変動問題を代表例に、ほかの政治的論争が大きい課題でも使える可能性があるとした。
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