【槍弓】運用上の想定外
ランサー特攻持ちのアーチャーが業務効率化する話
無自覚にアーチャーがランサーの胃袋を掴むできてないのにできてる槍弓です
Fateは初投稿。
fgoはまだ2章の途中
ひさびさにアニメを再履修して再燃しました
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『ランサーのことはよく知っているつもりではいたが、こんなに便利な男だとは知らなかった』
これはカルデア職員がエミヤから聞き取ったセリフそのままである。
エミヤ曰く、
『ランサーがいると作業がスムーズに進む』
『視野が広く、状況を把握するのに長けているのだろう』
『理解も仕事も早く、よく働く』
『細かく指示をしなくても察して動くので使い勝手がいいしやりやすい』
『仕事の相手としては申し分ない』
つまり、クー・フーリンと組んで仕事をすることは感情的なものではなく、あくまでも『合理的判断』ということらしい。
「お前オレのこと贔屓してる自覚ある?」
「何を言っている。そんなわけあるものか」
合理的と思っているのはエミヤ一人だけである。
◆
エミヤが召喚された当初のカルデアを表現するなら『ひどい』の一語で事足りた。
物資も戦力も足りていない。
マスターの力量も未熟。
それなのに使命だけは重くのしかかっていて、何もかもがギリギリだった。
故に、召喚されたエミヤがまず取り掛かったのは生活面の改善だ。
戦うことに特化した英霊は自分以外にもいくらでもいるが、こと生活面において自分よりも適した人材がいないのは確定事項だ。
無理をさせている備品の整備をすれば、そこで過ごす者にゆとりができた。
最低限のエネルギー補給にしかなっていない食事を整えれば笑顔と安心が見られるようになった。
その過程を全て1人でこなすつもりはなかったが、他の英霊に必要以上に助力を願うつもりもなかったなかで、手伝いを申し出て、仕事の割り振りをして見せたのがランサーのクー・フーリンだった。
「ここでは敵じゃないんだから協力すりゃいいだろ」
当たり前の顔で言われたそれは否定する余地のない正論で、クー・フーリンの采配でエミヤの負担は格段に軽くなった。
「君は有能なんだな」
「お前はほんとに不器用だな」
指摘された部分が己の性質を指しているのだとわかるので反論もできない。
つい表情に不満が出てしまったがそれを指摘されることもなく新しい仕事をさらっていかれた。
コストの高い仕事を引き受けながら、恩に着せるわけでもない。
少しと言わず助けられた。
「助かった」
仕事の区切りを見越して軽食を届けたのはそのほうが効率が上がると考えてのことだ。
簡単に作ったサンドイッチ。
手間暇をかけたものではない。
クー・フーリンは驚いた顔をしたが、疑うこともなくかじりつき、すぐさまにその差し入れを完食した。
「お前、料理めちゃくちゃ上手いんだな?」
社交辞令の謝辞ではなく本心からの感想なのがわかって、今度はエミヤが驚かされた。
「君がそんなに喜ぶと思わなかった」
「美味いもんが嫌いなやつはいねぇだろ」
確かにそれは一理ある。
助けられているのは事実だ。
ランサーがいるときの仕事はことさらスムーズに回る。
ならば働きを労うのにこれはちょうどいいのかもしれない。
「……、君はどんな物が好きなんだ?」
一瞬だけぽかんとした顔をしたクー・フーリンは、それでもすぐに「肉」と答えた。
わかったと受け取ったエミヤは、そこからは可能な範囲でクー・フーリンのリクエストをかなえるようになった。
仕事の合間の差し入れに希望を叶えればわかりやすく好感触で、作業も捗ったと自己申告のおまけがつけば悪い気もしない。
「君はわかりやすくて助かる」
「お前はめんどくさいけど可愛いとこあるのな」
「頭でも打ったか」
「飯がうまかったってことだよ」
「よくわからないが、そのフィードバックは作り手冥利に尽きるよ」
なにもわからないまま満足そうなエミヤに呆れつつ、クー・フーリンは「明日も期待している」とその日を締めくくった。
食事の効果かは定かではないが、業務は円滑に回り、
結果として、カルデアのインフラはエミヤを起点にどんどんと息を吹き返して現在に至る。
ここに至るまでに1人、また1人と少しずつ英霊を迎えて、不便なカルデアで役割を分担しながら少しずつ立て直しをしてきた。
キャスターのクー・フーリンが召喚されたときは少しだけ微妙な空気が流れたりもしたが、別側面の概念もすぐに受け入れられてすぐさま呼びわけについての議論が始まったので平穏にやれていると判断していいのだろう。
いまでは当初荒んでいた時期が想像できないほどに整備が行き届き、滞ることなく魔力が流れている。
人手も申し分ない。
それなのに、いまだにエミヤとランサーのクー・フーリンは二人で仕事にあたることが多く、さらにこれはカルデアで過ごす者にとっての共通認識にもなっている。
「選択肢が自由な感じの仕事はほぼ確でセット」
「名前も呼ばずに相手を指定」
「呼吸合わせたみたいに同時に立って同時に消える」
二人ともがあまりに当たり前のように相手を選ぶので、周りももう「そういうもの」としてセット扱いだ。
「仲良く見えないのに息はあってる」
そんな声もそこかしこであがっていて、それに対してはエミヤもクー・フーリンも否定の余地はない。
直接的に指摘されても返す言葉は肯定だ。
「ランサーとは仕事がスムーズに進められてとても都合がいいしやりやすい」
「アーチャーは皮肉がうっとうしくて自己肯定感が死んでるとこ以外は文句の付け所がねぇからな」
二人ともがこんな調子だ。
文句をいいつつ離れる様子はないのだからやはり相性はいいのだろうと周りは受け入れている。
なにせ不満気な物言いをする割にお互いに相手への理解が高いし当たり前の顔をした配慮に余念がない。
組むたびにエミヤがクー・フーリンの好みに寄せた軽食やら弁当やらの準備をしているのを誰もが知っている。
「質のいい食事はモチベーションの維持には必要だろう?」
あくまでも仕事の一環だと言わんばかりに主張するが休日に酒のツマミをつくってやっているのも周知の事実だ。
「ランサーの好みに詳しすぎない?」
「一緒に仕事をすることが多いからな」
あまりにはっきりと言われるので、そんなものなのか?と問いかけた方は一度は飲み込むが、いやいやいき過ぎだろうと一度は飲み込んだ疑問が処理できなくなる。
追撃でいきすぎなのではないかと指摘をしても、当のエミヤは首を傾げ、クー・フーリンの方は「アーチャーの飯は本当にうまい」と指摘の趣旨とは別ベクトルの答えを返すのだから始末に負えない。
エミヤはともかくとしてクー・フーリンのそれは自覚のうえでの誤魔化しである。
誤魔化しているのをわかったうえで一歩踏み込んだのはキャスターのクー・フーリンだ。
「あいつはお前の好みを本当によく知ってるよなぁ」
「『一緒に仕事をすることが多いからな』」
「よく似てる」
「一緒に仕事することが多いからな」
キャスターは愉快そうに笑う。
それだけじゃないのは明白だ。
「賭けのネタにしていいか?」
「あ?」
「おまえたちが『今後、どうにかなるか』」
ランサーの眉間にシワが寄る。
「やなこった」
心底嫌そうな反応をみせる自分に、キャスターが一層楽しそうに笑った。
これ以降、クー・フーリンは自分たちに向けられる視線に意識を割かざるを得なくなった。
今のところ大っぴらに賭け事のネタにされてはいないが、そういった目で見られていることは疑いようもないし、クー・フーリンとしては自覚がないわけでもない。
「合理的とかじゃねぇだろ」
「なにがだね?」
エミヤだけがまるで無自覚で、それでも当たり前の様に食事が美味いのだからたちが悪い。
仕事の合間の軽食を平らげて、今日もめちゃめちゃうまかったなと再認識する。
「おまえ、ほんと、どんどんオレの好みに寄せてくるよな」
ごちそうさまでしたと手を合わせるつもりがついそんなセリフが口からこぼれた。
「………、は?」
間違えたな。と、冷静に言い直す。
「飯の話な」
「気が触れたかと心配したぞ」
原因はお前だろ。
と、思いはしたがすんでのところで飲み込んだ。
「お前の飯がどんどんうまくなるって話」
何を当たり前のことを、という顔でエミヤは肯定する。
「一緒に仕事をすることが多いからな」
嗜好を知る機会が多いのだから不思議はない。
それがエミヤの主張で、クー・フーリンにとっては想定通りの反応だった。
「お前って馬鹿なの?」
「喧嘩なら買うが??」
喧嘩にはならなかったがその日エミヤはずっと不服そうで提供された夜食は漬物だけだった。
「美味いけどたんねぇよ」
「あやまって追加もらってこい、どうせお前が怒らせたんだろ」
「焼きおにぎりが食べたいって言ってきて」
プロト、キャスター、セタンタがなじる。
行きたくないとランサーがごねたせいでその日のクー・フーリンによる身内だけの宴席は早々と解散になった。
でかい男が漬物を取り合うのはかなり惨めだったが、翌朝の朝食には小鉢のおまけがついたので、衝突の決着としてはかなり甘めの手打ちと言えるだろう。
「昨夜、たりなかっただろう?」
「ん、あんがと」
そのやりとりで周りの空気に困惑がにじんだ。
まるで気づく様子のないエミヤに、クー・フーリンは心のなかで苦笑する。
向けられる好奇心が痛い。
「いただきます」
とりあえずまずは腹ごしらえだ。
◆
「もう付き合ってるって言われたほうが納得できるよね」
「まぁなぁ」
「アニキ的にはどうなの?」
ストレートに聞いてくるマスターに、思うままを答える。
直球をぶつけてくるのはマスターだけだが、他も考えているのは同じようなことだろう。
「そーゆーのでは、ねーんだよなぁ」
そう言ってクー・フーリンは、湧き上がった困惑をひとまずエミヤからひきはがす。
「エミヤはどうなのかな」
「つつくとこじれるぞ」
そうだよね、と、一拍。
「じゃぁ、ちょっと遠回しにきくから、もしこじれたらフォローしてね」
は??
まさかそのままいってしまうとは思わず対応が遅れた。
マスターは元気にエミヤの名前を呼んでいる。
「ねぇ、エミヤはなんでアニキといつも一緒にいるの?」
エミヤは驚いた顔をして、それから思案の様子を見せる。
『ランサーがいると作業がスムーズに進む』
『視野が広く、状況を把握するのに長けているのだろう』
『理解も仕事も早く、よく働く』
『細かく指示をしなくても察して動くので使い勝手がいいしやりやすい』
『仕事の相手としては申し分ない』
これは周知となっているエミヤのクー・フーリンへの認識だ。
ここで何かが変わるのかとその場にいるものが固唾をのむ。
「ランサーとはやりやすい」
効率的で、無駄がない。
「それだけだよ」
納得はしていない様子だが、一先ず今日のところはそこで引き下がるらしい。
フォローをしないといけないほど踏み込んだとも思わないが一応様子を見ることにする。
「なあ、なんか食わせてくんね?」
マスターにつつかれた直後なので少しは空気がかわるかとおもったが、エミヤはどこまでいってもエミヤだった。
「ちょうど、君の好きそうなものがある」
自信満々に目の前に差し出される好物。
何とも言えない気分になってすこしだけ返事をためらった。
「……お前、そういうとこだぞ」
あからさまにしか思えない特別扱いだが、本当に自覚はないらしい。
クー・フーリンの反応に不思議そうな顔を見せてから、自慢気に自分の仕事を誇ってみせる。
「君とは仕事で一緒になることが多いからな」
特別サービスだ。と。
これは業務効率化を意図した運用の中で発露した想定外の副反応であり、それ以上でも以下でもないということらしい。
(無理があるだろ)
合理的には程遠い。
「ほんと、そういうとこだぞ……」
カルデアの職員いわく、呆れた様子でランサーのクー・フーリンはこうぼやいていたらしい。
『アーチャーのことはよく知っているつもりではいたし、面倒な男なのをわかってはいたが、こうまでとは思っていなかった』
ただの贔屓だ。と。
Comments
- なぎさんFeb 15th