アイドラトリィ2017
ランサーのクー・フーリンくんがクー・フーリン拗らせのエミヤくんをついうっかり揶揄い過ぎて泣かせちゃう感じのカルデア槍弓です
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どうにもガキくさいと感じたり、世間擦れしねえ若造じみた青臭さが鼻についたり。
オトナではない。
と、思うのは、まあおおよそ、生き方と感性の違いだとは思っちゃいるんだが。
合わねえなら放っておきゃあいいし、いつものオレだったら考える間も無くそうするし。正直なところ、わざわざ絡みに行く必要性ってのもねえんだけど、何となくいけすかねえなんて思っちまうのは、卵が先か鶏が先かってな話と本質はおんなじなんだろう。
煽られるから噛み付くし、噛み付くから煽られるし。
そのクセ、扱いは雑だが当たりが強いのとはまた違うってのが、何とも言えずイヤらしい。
ある種の信頼と畏敬は感じる。
ついでに敵愾心と対抗心も。
気安さ、慣れ、あとは身内感か?
この辺はアレだ、冬木で一緒だった奴らに見せる態度とも共通してるっちゃしてるんだが、オレに対しては特に遠慮がねえような気がする。気のせいとか自意識過剰とか言うにゃ、あんまりにも無駄な絡みが多いだろ?
……オレのせいか?
ンな訳あるか。オレはいつ何処でどんなカタチで召喚されようが、オレはオレだ。
“オレ”という中身がブレない事が、何よりも己が自己同一性の証明ですらある。
若かろうが、槍の代わりに杖持って別の役割を担おうが、聖杯の願掛けで造られようが。自身が「クー・フーリンである」という芯の部分だけは、何人たりとも揺るがせない。
――と、いうのは。
生来からの自覚でもあるし、英霊となってからも譲れ得ぬ矜持でもあるし。
……それをこういう風に、憧憬混じりの眼差しで、ニコニコ肯定されたいなどとは露ほども思っちゃいなかったし。
内心ドン引きしつつ眺めた会話相手は、オレが“クー・フーリンであること”からブレぬことが、身勝手にも心底から嬉しいらしかった。
ファンかよ、と呆れを隠さずそう吐き捨てると、それを罵倒どころか的確な指摘と受け取ったらしい、頭のイカれたお相手は「おおよそそのようなものだろう」と、オレの言葉を何故か若干誇らしげに肯定する。
「……そもそも君という存在自体、『若く美しい非業の英雄』の偶像みたいなものじゃあないか」
そりゃあ、まあ、なあ。
オレぁ生前からそんな扱いだったわな、というのは一切否定せんけども。
よりにもよってただでさえいけ好かないこいつから、キラキラした瞳でそう告げられるのは何だかいただけない。
いただけないっつーか、なんつーか。この捻くれまくった男があまりにもバカ素直すぎて、割と純粋に気色が悪い。加えてこの手の話題はどうにも守護者にとって触れづらい厄ネタ過ぎて、おいそれとテメエも英雄だろが、なんて気軽にツッコミもできねえし。
なんだかね、などと不満に思うのは、都合のいい偶像として英雄視されることにでも、このどこかガキくさい男がヒーローに憧れる目線でオレを見つめていたことでもないんだろう。
むしろ納得の方が先に立つ。ヤツからの信頼も畏敬も、“神話のクー・フーリン”という偶像に根差したものだ。それは否定できんし、オレだってそういう目で見られることには慣れている。神話サイクルがオレより後の奴らだって、普通に半神のオレを御子と慕い敬ってくる。
このオレが『後の世に伝承されしクー・フーリン像』を体現すればするほど、その手の奴らの瞳がキラキラ輝いてく、なんてのはよくあることだ。今さら珍しくも何ともない。
だから、別段珍しかねえけど。
何かこう……どうにも釈然としねえっつーか、喉元につっかえたような不快感があるっつーか。
まあ、正直に言や明確な理由のないムカつきを覚えはした。
無駄絡みでしょっちゅう喧嘩ふっかけてくるわりにゃ、ぼくクー・フーリンにあこがれてます〜ってのを当人に隠さねえのはおかしくねえか?
それともアレか?
コイツにとっちゃこのオレは、“クー・フーリン”じゃないとでも?
「…………そんな筈あるか。君と神話上の“クー・フーリン”が同一かつ不可分であることくらい知っている」
じゃあその、微妙に不服そうな表情はなんだっての。
だとしたらオレと“クー・フーリン”との扱いが違い過ぎるだろと指摘してぶすくれてやれば、自分でもその辺りは自覚があったのか、普段の口達者にしちゃずいぶんと歯切れの悪い口調で、しどろもどろと弁解し始める。
曰く、英雄幻想なんてモノは流石に粉々にすり潰されて跡形もないさ、と。
「君に限らず、英雄やら人類史に名を残すような傑物はおしなべてアクが強い連中ばかりだろう? ……別にそれはいいんだ、当然だし。天才っていうのは得てして理解され難い生き物なんだろうし。かと言って僭越ながら、私だって伝記や伝承を読んだ際に感じたイメージを守りたい」
つまりはアレだ。偶像って代物が様々な媒体によって構築された実体を伴う虚像であることは重々理解しているけれど、自分は楽屋裏を覗ける立場にあるのだけれど。それはそれとして、心の片隅では偶像は偶像のまま愛でていたいと。
……はーん。なるほどなー。
言いたいことはなんとなくわかっけど実感としてはさっぱしわかんねえし、何か知んねえけどスッゲェムカつくわ。
「……フン。君にムカつかれてもどうしようもない。これでも公私はきっちりと分けているし、他の偶像の前で常識を超えて浮ついたりハメを外したりなんてマネはしていない。特に問題はない筈だ。
ーーーー……ない筈、だろう?」
文句があるのなら今日の昼間に提供したようなオマケの唐揚げ辺りが、次回からは一切合切消えるだけだと悔し紛れを言いつつ、明後日の方向を向いてガキくさく拗ねたカオを隠そうとする。
いやオマエ、機嫌損ねてそっぽ向くとか、そんな態度でバレてねえと思ってんなら、そりゃ知らずは本人ばかりなりってヤツだろフツー。
「……そんなはずは」
あるな。
あるわ、確実にあるわ。
「…………まあ、エジソン氏と発明・改造談義をしているときは、後でちょっと盛り上がり過ぎたかな、などと思うこともあるが」
おう、アレひどかったよな。
何つーかお宝フィギュアについて語るキャスターと同じ目ェしてマシンガントークしてたもんな、オマエら。
そう教えてやると、驚愕と羞恥で顔をくしゃりと歪めて、恥ずかしそうに黙り込む。
……コイツアレなんだよな。
素というか地が出てるときの態度や表情がガキくせえのを、本人が自覚してねえんだよな。普段は精一杯カッコを付けて、ああいうニヒルで余裕ぶったポーズを取ってんだろうなぁとも思うのだけれど、あれはあれで本人が無理してるつもりもないんだろう。
公私は分けられてる、なんて調子のいいこと言ってんのもきっと本心からだ。
そういうオトナの対応が、出来ないほどには不器用じゃないが、ボロを出さず出来るほどには器用でもない。
生きるにおいて全てが全てそうだったんだろうな、この男はと呆れ果てつつ。
加えてこの類の拗らせた憧れなんかはコイツにとっての可愛げの部類だと、認めて流してやるのが同僚の対応として正解だわな、というのも心の底から理解しつつ。
ふと身の内から湧き出てきたのは、果たして悪戯心だったのか、嗜虐心だったのか。
葉の上を一生懸命前進するかたつむりを、ひょいとひっくり返すような気軽さで、男の気位に根差す部分を摘んでやる。
度々コイツに感じていた苛立ちの、腹の虫がおさまらなかったって訳でもなけりゃ、腹を立てたままでいるほど男自身に興味があった訳でもなくて。
だと言うのについつい、そう動いちまったのは……まあ、多少の軽率も混じってるんだろうな。コイツだったら気安いし、雑に扱っても良かろっていう慣れや身内感は、オレの側にだって十二分にあったんだよ。
だから、仔猫を持ち上げるかのようにあいつの襟足を引っ掴んだとき、むんずと掴んだ指先に感じた白い後れ毛の感触が、思ったよりも柔らかいなと意外に思った。
男の項に手を回しつつもその無防備な頸を折るでもなく。そのまま互いの唇と唇を合わせて、じゅうと吸って。目を見開いたまま瞬きすらしない男の、煙水晶みたいな瞳を存外複雑な色をしていると眺める。
性感を高め合う気もないので戯れ程度に舐ったあとに解放してやって、ホラ、こういうタチの悪いイタズラは、“クー・フーリン”じゃなくてオレがやったことになるんだろう、とか。
そんな軽口で揶揄ってやる気だったんだ。
いけ好かないあいつの見開いた眼球に、薄く水膜が張っていくのを目にするまでは。
バッと後ろに飛びのいてオレから距離を取り、手の甲で口元をゴシゴシ擦りつつ。
何をする、と激昂するのではなく、感情が昂ぶって目に涙が滲んできてしまったことの方に、自分自身でも動揺したのだろう。
男は手の甲で口を隠し、「違うんだ」という言葉ばかりをうわ言みてえに繰り返して、オレと目を合わせぬように俯いたまま「そういえば火急の用が」などと、見え透いた嘘で逃げ出そうとする。
そんな、成人した男が取るにしちゃ、初々しいどころか痛々しい振る舞いしか出来なくなっている男を、引き止めるとか揶揄するとかなんてこと、とてもじゃねえけど出来なくて。
自分が仕掛けたことの言い訳や弁明をする前に男をみすみす逃亡させてしまったあと、オレは自分で自分の頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。
バカ。バカだ。
完全にオレの失策、失態だ。
ネンネちゃんだと揶揄おうとして完全にやり過ぎた。
いや実際、こんなことであんなにショックを受けられるなんて想像してなかったんだけど。あそこまでショックを受けられたことに、オレの側がショック受けてるレベルなんだけど。
さっきのは確実に、オレが加害者だしアイツが被害者だ。
「ああ〜……」
距離感を間違えちまったと反省する気持ちもあり、あの男の幼稚でめんどくせえ部分を八つ当たりで責めたくなるような気持ちもあり。
でも全部ひっくるめて総括すると、いじめたのに即座に謝れなかったって時点で、全般的にオレが悪者だなと思う次第なんですけども。
「…………どうすっかね、コレは」
こんなくだらないことでなど、元服前にすら悩まなかった気がする。
番犬を絞め殺してゴメンなさいするより、あの赤バカにキチンと謝る方が難関とか、割とシャレにもならねえし、あの野郎の立ち位置やモンスター化した保護者たちの存在を考えると、下手すっとオレは命を脅かされる覚悟をしとく必要があるかもしれねえ。
何にせよ、己が何の気なしにぶちゅっとやってしまった色気のない接吻ひとつで、ランサー[クー・フーリン]は切実な生命の危機にさらされているっつー訳で。
……いや、マジで。笑いごとでも冗談でもなく。
しゃがみ込んだまま、はあと大きくため息を吐く。
この事態に思うところがあったというか、これを機会についと気付いてしまったというか。
あの、口元を押さえて飛びのいたときの、瞳を潤ませ頬を上気させた例の男の顔を、脳裏にもう一度思い返してみる。
途端、ずくん、と脈動のように自身の中心部に感じるのは、まごうことなく何かしらの情動と欲なのだと、あの男と違って往生際のいいオレは、片意地を張らずに認めざるを得ない。
コンビニ前のヤンキーのように座り込み、大きく頭を項垂れた情けない姿で、本日数度目のため息を吐き出す。
ちら、と自身の臍下に目をやる。
兆してはいないが熱のくすぶる自身の股間に、宥めるようにふう、と吐息を吹きかけた。
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