【槍弓】それは◯だな
サマキャン復刻にいてもたってもいられずに書きました。サマキャンメンバーと夏の霊衣ですが、イベントのネタバレになるような要素はないです。というかイベントに沿って考えると時間軸が謎です。
お互いに好意はあるしそれをなんとなく察してはいるけど、特に付き合ってはない槍弓。
去年のサマキャンで弓の霊衣良いなと思いつつ、弓ってこんな陽気なキャラだっけ……という辺りから気づいたら槍弓にはまっていたので復刻嬉しいです。サマキャンに関する話、1000作ぐらい読みたいです。
状況によりますが、11月に槍弓でイベント参加できたらいいなあと漠然と考えています。本を……がっつり書きたいです……。
2021/10追記 11月28日のイベント申し込みました。新刊、楽しみながら書いてます。
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ゆさゆさと身体が揺さぶられる感覚に目を覚ます。コテージの窓から僅かな月明かりが差し込むベッドの横に、男が立っていた。月の大きさは半分より少し大きい程度だが、柔らかな光だけでも見慣れた男であることは分かった。大学生風だ、などと言って浮かれて着ていた夏の霊衣姿だ。オレが覚醒したのを見て取った男は、オレの肩を押していた手を止める。両手を自身の肩に回して上着を脱いだかと思うと、ぱさりと上着を床に落とした。露わになった厚い筋肉を持つ腕と、上着を着ている時から時折見えていた脇が目に入る。
「おい」
何を、と制止するオレの声は気にも留めず、男はベッドに身を乗り上げる。大の男二人を支えるようにはできていない小さなベッドはキシリと不穏な音を立てた。男は脚を開いてオレの身体を挟むように覆いかぶさってくる。オレの頭の横に置かれた腕からチャリ、と腕輪が鳴る音が聞こえた。オレを覗き込む目から感情は読み取れない。
「何か言いやがれ」
男は口を開いてまた閉じる。億劫そうにまた口を開いた。
「まりょくがほしい」
てっきり返事はないものと思っていたので驚く。
「断る、と言ったら?」
男との距離が更に近づく。下りてくる唇を避け、首を掴む。力は大して込めていない。しかし苦悶の表情を浮かべた男を見て確信する。
「悪いが愛しい奴以外との口づけや魔力供給はお断りだ、なあ!」
朱槍を出現させて男が動く暇さえ与えずに足を貫き、ぐらりとバランスを失った身体の下から抜け出す。……と行きたかった所だが、重い身体に阻まれる。男は――最早性別も分からないので男と言っていいのかは分からないが上に乗っていたものは――形も保てなくなってきたようでぐにゃりと身体を歪ませる。槍を今度は脇腹だった所に突き立てるが体勢が悪くて力が入りにくい。
「ッチ」
舌打ちをした瞬間、頬の横を矢が飛んで行く。衝撃に揺れた身体はやがて動かなくなり、絶命していた。弛緩した身体を押し退けると、覆いかぶさっていた白い頭を矢が貫いている。ちょうど弓を下ろしたアーチャーが目に入った。やはり夏の霊衣姿だ。
「よお」
「君は人間以外も惹きつけるのかね」
気安く挨拶をしたら、いつもよりも深く眉間に皺を寄せて溜息を吐かれた。態度は不満そうだが、言っているのは賛辞じゃねえか? どうやら今度は本物ということで間違いないようだ。
アーチャーの偽物の形を取っていたエネミーは消失した。また一人になったベッドをぽんぽんと叩く。
「ちょっとこっち来い」
「何故」
無言で腕を広げるとアーチャーは怪訝そうにしながらもベッドに近寄る。ご丁寧に身を屈めてくれたので、そのまま引き寄せた。
「おい!」
「いいからいいから」
首筋に鼻先を当てる。アーチャーの肌の香りとスパイシーな匂いがした。確かにアーチャーだ。
「明日のメシはカレーか?」
「献立の確認としてもう少しましな方法はないのかね」
別に食事の内容を知りたかった訳ではないが。
「悪かったな、準備の邪魔しちまって」
「別に君だって呼びたくてエネミーを招いた訳じゃあるまい」
アーチャーは身を起こして腕組みをする。
「よくエネミーがオレの方に出てると気づいたな」
騒がしかったのだろうかとも思うが、それならアーチャー以外も駆けつけてきそうなものだ。
「私の所にも出たからな」
「はあ?!」
「食事の準備の邪魔をされたので、ご退場願った」
「おお」
危うく食材が無駄になる所だった、と憤慨している。気にするのそこかよ、と思うがまあメシが無事なのは何よりだ。
「マスターは確認しに行ったらすやすやと眠っていた。マシュとイリヤがいたので見守ってくれるように頼んでいる」
「おう」
アーチャーがオレの所にいる時点でマスターの方は大丈夫だろうと思っている。
「マスターの様子を見に行った時に式部さんに会ったので、他の部屋も見てもらうようお願いした。君の所には最後に来るつもりだったんだが」
「そうかよ」
自分の身ぐらい自分で守るが、お前の中でのオレの優先順位は最後かよ。不機嫌な声になったオレにアーチャーは首を傾げる。
「だって君は怨霊程度には負けないだろう」
「……他の奴等だってサーヴァントなんだからそう簡単にやられねえよ」
なんだ、戦闘力を信用されてのことか、と気分が浮上する。どうにもコイツには気持ちを振り回されがちだ。
「私の方は君の姿をしたエネミーだったよ」
「趣味悪いなほんと」
「全くだ」
溶けたような形の時には怨霊の姿をしていた。大方、身の回りの者に化けて出たといった所だろう。
「仲間の姿になって油断させたかったんだろうな。槍も振り回されたら少々厄介だっただろうが」
アーチャーも同じ見解らしい。願望が形を取ったのだろうかとも思ったが、自身の望むものだとしたら言動もアーチャー本人に近くなるべきだろう。
「結界がそんなじわじわ破られるとも思えんから、同じタイミングで侵入してきたんじゃねえの? 倒した上でオレの方見に来たってことは、すぐにオレじゃないって分かったのか?」
「君にしては目に輝きがなかった。動きも鈍かったし」
しれっと褒めているように聞こえるが、素で持ち上げるような奴だ。オレに対して好意に近いものは多分あるが、憧れから来るものなのかなんなのか、未だに掴みかねていた。
「君の方こそ、私ではないと分からなかったのかね」
「いや、目に入った時点で見破りはしたけど」
アーチャーならばまず上着を床に落とすことはしないだろうし、そもそもプライドが邪魔をするだろうから素直に魔力を欲しがるはずがない。オレの方が瀕死で魔力供給を申し出るというならばまだしも。更に恋人関係という訳でもないオレの上に覆いかぶさってくることもなかろうし、首を絞めたとしたら反応は冷えた視線と皮肉な言葉だろう。違うだろう、という要素を理解しつつも放っておいたのは、ひとえにアーチャーがオレと接触するとしたらどんな感じなんだろう、と興味があったからだ。まあ、本人でないなら意味のないことだが。
「ま、助かったわ」
どう言っても機嫌を損ねそうなので、おざなりな礼だけ返す。カルデアに来て随分と丸くなったが、好意を素直に受け取る奴ではない。アーチャーは納得できないような表情をしつつもああ、と答えた。
「しかし、よく自分の姿の頭をためらいもなく射れたな」
射られた時には姿を現し始めていたとはいえまだアーチャーの形を保っていたが、矢の飛び方に迷いはなかった。
「外見だけ自分にされてもな。しかも君にちょっかいを出しているときた」
「あーなるほど、行けるな」
特に自分の姿をした何かがアーチャーに覆いかぶさっていたりしたら即穿つ。想像でも胸糞悪いな。
「何を顔を顰めている」
「はー。いや、なんでもねえ。なあ、さっきどの時点から見てたんだ?」
まさかまじまじと身体を見つめていたのもバレただろうかと思っての問いに、アーチャーは黙り込む。おい、と再度呼びかけたらようやく口を開いた。
「君はカルデアにも好ましい者がいるのか」
「あー……」
聞かれていたか。
「いや、別に深入りするつもりはない」
背けてしまった顔が寂しそうに見えるのはオレの都合の良い解釈だろうか。視線をこちらに向けたくて、ほら、とアーチャーに手を差し出すと、は? と冷たく返される。
「また姿変えたエネミーが出るかもしれんだろ。くっついとけば間違えんだろう」
なんなら腰でも抱いてやろうか、とふざけて付け足す。
「問題ない。君の見分けぐらいすぐつく」
アーチャーはつれなく扉に向かう。部屋を出る前に、どたどたという落ち着きのない足音が聞こえてきた。
「ごめん、大丈夫?」
勢いよく橙色の髪を乱しながら飛び込んできたマスターをアーチャーがおっと、と言いながら受け止める。後ろではマスターの護衛を兼ねてついてきたらしい虞美人が、ほら大丈夫だったじゃない、と呆れている。
「あれ、エミヤもいる!」
「私達は無事だから、少し落ち着きたまえ」
アーチャーがマスターの手を取って椅子に座らせる。
「焦っちゃってごめん。気持ち良く眠ってたらエネミーが入り込んでるんだもん、びっくりした」
「わざわざ起こすこともないだろうと思ったんだが、逆に不安にさせたか。他の者も特に問題なかっただろう」
「うん。みんな無事」
マスターはほっと息を吐く。
「入り込んだの、二体だけだったのかな」
「アーチャーとオレの所に出た二体か?」
飲み物でも淹れようか、いいわよわざわざ、とアーチャーと虞美人がやり取りしている横でマスターに聞き返す。
「あれっ二人の所にも出たの? なら四体だ。ブリュンヒルデとシグルドの所に出たって聞いたんだけど」
「あーそりゃ瞬殺だろうな」
「何、他にもいたのか」
アーチャーも会話に入り込んでくる。
「うん。でも紫式部がコテージに結界張り直してくれたからもう大丈夫。綻んでる所があったって」
いくら結界を張っていようと、イレギュラーの多いこの場所では多少乗り越えて来るものもいるだろう。
「っていうかそう! 聞いて! ブリュンヒルデとシグルドの所に出たエネミーなんだけどね!」
安心したのかマスターのテンションが上がる。
「ブリュンヒルデの所にはシグルドの、シグルドの所にはブリュンヒルデの姿をしたエネミーが出たらしいんだけどさあ、一瞬で見破って即屠ったんだって!」
「嫌よねえ、愛する人に槍だの剣だの突き立てるのって」
「うん、気の毒だなあとは思うんだけど、すぐ気づいたのさすが想い合う二人って感じしない? 駆け付けた蘭陵王はさっぱり分からなかったって言うぐらい似てたらしいのに。愛じゃない?」
盛り上がるマスターとは対照的にアーチャーは固まる。
「あたしだって項羽様ならば判別できるわよ。他の者なら気づかないかもしれないけど」
「いや、近しい者ならば分かるのでは?」
我に返ったらしいアーチャーが言い訳を試みる。
「蘭陵王だってブリュンヒルデとかシグルドのことよく知ってるよ」
「しょっちゅう見てる者ならば……」
「えー、よく見てるってことは好きってことでしょ?」
「俺は別に、ランサーならばつまみ食いしそうなものだなと思っただけで」
「うん? ランサーって?」
おいアーチャー、どんどん墓穴掘って行ってないか。というか、判別の仕方がちょっとひどくないか。言葉に詰まるアーチャーの肩を抱く。いつもより生地の薄い霊衣越しにアーチャーの筋肉を感じるのが肌に心地よい。アーチャーは振り払うことはせずに気まずそうに顔を反らした。逃げるか反撃するかの余裕さえないのだろう。せっかく許されているので、腕に力を込めて至近距離で口を開く。
「マスター、それは愛だな」