日本中東学会

お知らせ

日本中東学会第21期理事会による、中東地域における武力行使の即時停止と、日本を含む関係諸国に国際法に則った適切な対応を求める声明

2026年03月18日

日本中東学会第21期理事会による、中東地域における武力行使の即時停止と、日本を含む関係諸国に国際法に則った適切な対応を求める声明

2026年3月18日

日本中東学会は中東研究の専門家のみならず、様々な形で中東に関わる人々が集い、自由で活発な交流や研究活動を展開する開かれた場です。中東地域の安定と平和は、学会の研究・交流の礎であり、何より重要な前提です。本学会の会員は、中東の人々と様々な形で交流を重ね、多年にわたって現地に通ってきた者も少なくありません。中東地域の諸問題の粗暴な善悪論に還元してはならない複雑さや、その地の豊かで多様な文化を理解しようと努力し、なによりそこに住む人々と個人的体験を通して知り合ってきました。それゆえに、私たち、日本中東学会第21期理事会は、中東で多くの犠牲者を出し、破壊を伴いつつ武力行使がなされている現状を深く憂慮しています。

2026年2月28日に開始されたアメリカとイスラエルによるイランへの大規模な軍事攻撃は明白な国際法違反であり、許されません。これらは、武力による威嚇や武力行使を禁止する国連憲章に違反します。すべての国連加盟国は、国連憲章の原則を尊重し、国際法を遵守する義務を負っているはずです。

今回のアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃では、イラン国内の学校や病院などの民間施設にも被害が及び、多くの子どもを含む非戦闘員に、すでに1,300人以上の犠牲が出ていることは報道が示すとおりです。一方イランによる報復攻撃は、イスラエルの軍事施設や中東地域に展開するアメリカ軍だけでなく、湾岸アラブ諸国をはじめとする中東の国々の民間施設をも巻き込み、非戦闘員に多数の犠牲者を出しています。さらに、レバノンの武装組織であるヒズブッラー(ヒズボラ)が、イランに呼応してイスラエルを攻撃したことに対して、イスラエルは2026年3月2日にレバノンに対する大規模な軍事攻撃を開始し、これによって、やはり多くの子供を含む850人以上の非戦闘員がすでに犠牲になっています。これらはいずれも、文民保護を含む国際人道法(1949年ジュネーブ諸条約及び追加議定書)に違反するだけでなく、主権国家の領土保全又は政治的独立に対する武力による威嚇又は武力の行使に該当し、国連憲章第2条第4項にも違反します。

こうした人的・社会経済的被害の拡大に加えて、ユネスコは、アメリカとイスラエルの攻撃により、テヘランのゴレスターン宮殿やイスファハーンのエマーム・モスクなど、4つの世界遺産が被害を受けたことに深い懸念を表明しています。歴史的遺産や文化財への破壊行為は、歴史や文化的アイデンティティをなきものにする暴力行為であり、これもまた、国連憲章や国際人道法の原則に反する看過できない不法行為です。

私たちは、中東の政治情勢の急激な悪化を懸念しています。これらの一連の事態は、法の統治に基づく秩序と国際平和を脅かし、その影響は中東に留まらず世界全体に波及するでしょう。

私たちは当事国および関係諸国に対し以下のことを強く求めます。

  1. アメリカとイスラエル、イランに、国連憲章の原則を尊重し、国際法を遵守することと、ただちに武力行使を停止し、事態の収拾と平和的解決に尽力することを求めます。
  2. 日本を含む関係諸国に、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、外交交渉に積極的に関与することと、当事国に対して、国際法を遵守し、紛争の平和的解決のために直ちに外交交渉のテーブルにつくよう働きかけることを求めます。
  3. 当事国ならびに関係諸国に、国際法上の義務を遵守することと、国際人道法に則って人権を尊重し、非戦闘員を保護することを求めます。
  4. 当事国ならびに関係諸国に、歴史的遺産と文化財の保護と保全を求めます。

ペルシア語古典文学を代表する文人の一人であるサァディー(1291年もしくは1292年没)が、その著書『ゴレスターン(薔薇園)』のなかに書き残した、あまたの詩のある一首は、次のような詩句で始まります。

強き腕と指先の力もて

か弱き貧者の掌をくじくは罪なり。

不運なる者を赦さずして、はゞからざれば

足を踏み外すとも彼の手を取る者なからん。

そして、この詩に続くもう一首の詩の締めくくりでは、次のように詠まれています。

汝また他人の苦痛を悲しむことなくば

人と呼ばるゝ価値なかるべし。

[サァディー『ゴレスターン』沢英三訳(岩波文庫)1951年、51‒52頁]

私たちは、これらの詩句を、対話を拒み、異なる見解や志向を武力で押さえこもうとするすべての主体に対する警句と受け止めます。自由な意思表示と、対等な立場で対話ができる安全で開かれた場が、人類社会のあらゆるレベルで必要です。私たちはそのような場の重要性を訴え続けますし、その実現を心より願ってやみません。

なお、上にその末行を紹介した二番目の詩は、その全文が、ニューヨークの国連本部の会議棟2階に掛けられたペルシア絨毯に金糸で織り込まれています。
https://www.un.org/ungifts/persian-carpet

以上
日本中東学会第21期理事会