「15歳の少女は、生まれた子に会いたくないと言った」 紛争下の性暴力、なぜ深刻化するのか 国連特別代表が語る「壁」と「希望」【国際女性デー2026】

インタビューに答える国連事務総長特別代表のプラミラ・パッテン氏

 中東・ガザ、ウクライナ、スーダン…。世界各地の紛争地において、性暴力が、相手を攻撃するための「兵器」として戦略的・組織的に使われている。紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表、プラミラ・パッテン氏に、現状の課題と、彼女自身が抱える苦悩を聞いた。(共同通信編集委員=宮川さおり)

▽25%増という「危機的水準」にある被害

―国連が把握する直近の被害状況を教えてください。

  「昨年の国連事務総長報告書に書かれていますが、2024年は、4600件以上の事例を確認しました。前年比で25%増。特に18歳以下の子どもの被害は35%増という危機的水準です。ですが、これらは国連が把握し、一定の基準に照らし合わせて認定したもので、氷山の一角に過ぎません」
  「性暴力の被害者の中には、幼い子どもや、両親の目の前でレイプされた少女もいます。性的欲求を満たすというより、相手を辱め、住民を強制排除するための『最も安価で効果的な戦術』として、戦略的・組織的に実行されているのです。子どもが被害にあうと、『こんな所にはいられない』と、住民が集団でその地を去ることを狙ったものです。 ウクライナやガザだけでなく、スーダンやコンゴ(旧ザイール)、ソマリアなど、国際社会から『忘れられた』紛争地域でも、コミュニティーを壊すための意図的な戦術として用いられているのです」

インタビューに答える国連事務総長特別代表のプラミラ・パッテン氏

▽「生まれた子に会いたくない」 15歳少女の叫び 

―どのようなことが起きているのでしょうか。

 「スーダンでは『強制妊娠』を目的とした組織的暴行が行われており、被害にあい、妊娠してしまった15歳の少女が『生まれた子に会いたくない』と語っていました。彼女たちの尊厳が、兵器としての暴力によって根底から奪われているのです。単に性加害だけでなく、凄惨な暴力によって大けがを負う場合も多い。そして、被害に遭ったことで、女性たちは家族やコミュニティーに戻れなくなります。標的は女性や少女だけでなく、拘禁施設などでは男性や少年への拷問としての加害も深刻化しています」 
 「私たちのチームは、被害に遭った人たちに対して医療面だけでなく、心のケア、そして家族やコミュニティーへの再統合を支援します」

▽「物乞いの器」を持って回るような無力感

―調査を阻む壁や、資金不足も深刻だと伺いました。  

 「現在、私たちは厚い壁に直面しています。ウクライナのロシアが管理する地域や、軍事作戦下のガザでは国連のチームのアクセスが拒否され続けています。国連の事務総長はこれらの国に、いわゆる『性暴力の加害者ブラックリスト』に載せる可能性を通知しています。掲載されると国際的な非難だけでなく、制裁対象になる可能性もある。真実を明らかにし、司法手続きに則って加害者を処罰するための努力を止めるわけにはいきませんが、実態把握は困難を極めます」 
 「同時に、国連の支援枠組みも重大な岐路にあります。世界の軍事費が膨れ上がる一方で、サバイバー(生存者)を救う予算が削減され、シェルターや医療施設が閉鎖の危機に瀕しています」
  「現場から戻るたびに、眠れない夜が続くこともあります。圧倒的なリソース不足を前に、まるで『物乞いの器』を持って回っているような無力感にさいなまれることもあります。ですが、紛争地域のテントの中で私に救いを求めた女性たちの顔を思い出すとき、私が立ち止まることは許されないと確信します」

インタビューに答える国連事務総長特別代表のプラミラ・パッテン氏

▽日本の「揺るぎない支援」への感謝

―日本はどのような役割を果たしていますか。

 「日本は2014年以降、計1600万ドルの資金を私たちのチームに提供し、揺るぎない支援国であり続けています。例えば、コンゴで児童への強姦に関与した地方議員の起訴・有罪判決を勝ち取るなど、対策の柱のひとつでもある『加害者を逃さない仕組み』を実質的に支えてくれています」
 「日本の拠出金がいかに個人の人生を支えているか。スーダンやソマリアで生活再建に励む人々の姿を日本の納税者の皆さんに伝える責任を、私は痛感しています」

▽国際秩序の「レッドライン」を確立する

―最後に、今後の展望について教えてください。

 「性暴力を戦争の副産物として議論を後回しにするのではなく、超えてはならない国際秩序の『レッドライン』を確立すること。そのために政治的努力と継続的な資金、専門的人材が不可欠です。日本のような信頼できるパートナーとともに、生存者の尊厳を取り戻す闘いを続けていく決意です」 

   ×   ×  

 PRAMILA・PATTEN 1958年、モーリシャス生まれ。弁護士、国連の女子差別撤廃委を経て2017年から紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表。

◎紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表事務所
 安保理決議号に基づき2010年に設置された国連事務局の機関。性暴力を「平和と安全への脅威」と位置づけ、その根絶に向けた国際的な政治対話や提言を主導する。事務総長直属で、専門家チームによる法の支配の強化や加害者の特定、生存者支援を横断的に推進している。日本とも連携して「加害を許さない国際秩序」の構築を担う。

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