【7/12 コピ本サンプル】馬鹿な男
2020/7/12 蒼天赤を穿つ にて発行予定
5号館 チ48b 「vivimos」
酔った勢いで告白して振られたアーチャーが無人島にフライアウェイする話です。
某無人島開拓ゲーム設定(?)をお借りしました。
「馬鹿な男」A5/2段組/8頁/100円(予価)
通販予定はありません。
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大学を出て、そこそこの企業に正社員として入社して、それなりに独身生活を楽しんだ後に結婚する。そういう真っ当に幸せな人生を歩んでいる人たちからすれば、失恋して自棄になって無人島への移住を決めた自分は随分と馬鹿な男に見えるに違いない。
未だ名前すらない小さな島に降り立ったアーチャーは、そう自嘲した。
◇◆◇
とある会社が社運をかけて立ち上げた離島開拓プロジェクト。今だ手探り状態の、ほぼ実験のようなこの企画は当初予定していたほどの希望者が集まらなかったらしい。アーチャーが参加を決めたのはほんの三日前だが、なんと第一陣の中に組み込まれてしまった。
手ぶらでよいということだったので、アーチャーは着の身着のままで飛行機に乗り、うとうとと微睡んでいるうちにしばらく――もしかすると永く――住むことになる島へと到着した。自然豊かな島で、ところどころ百合が咲いている。遠くには崖と、滝が見えた。アーチャーは寝ていたので気付かなかったが、同乗していた他のメンバーによると川と池も飛行機の中から確認できたという。探検するのが楽しみだなぁ、と溌溂とした青年は笑っていた。
離島でのスローライフ、と謳っているからには早期リタイアした中高年が多いのかと勝手に想像していたのだが、他の参加者は全員アーチャーとそう年の変わらない若者ばかりだった。よくよく考えれば自身での開拓が大前提なのだし、コンビニも病院も無い無人島は高齢者向きではないのだろう。どちらかといえば、難易度の上がったキャンプのようなものだ。見る限りではアグレッシブな性格の者が多い。もっとも、参加者はアーチャーの他は二人だけで、あとは世話係のような社員が一人いるだけなのだけれど。
「それじゃあ、島の代表はアーチャーさんということで!」
「えっ」
到着後、あれこれと説明する社員の話をぼんやりと聞いていたら、いつの間にかアーチャーは〝島の代表〟などという大業な肩書をもつはめになった。
事前に提出していた島の名前の案が採用された結果だというが、いいのかそれで。もっとリーダーシップとか、企画力だとか、そういう能力のある人がいいんじゃないのか。アーチャーは五分ほど力説して辞退しようとしたのだが、結局は押し切られてしまった。実質的な運営は社員が行い、代表は決め事の際に取りまとめ役をやるだけだと言われて「それなら……」と承諾してしまったのだ。
アンタって案外押しに弱いのよねぇ、と年下の幼馴染の呆れたような声が聞こえた。当然幻聴である。
かくしてアーチャーの無人島開拓生活は幕を開けた。季節は春、風に冷たさを残すものの日差しは随分と暖かい時節だった。
◇◆◇
無人島といっても他にも住民はいるし、社員のサポートも手厚いのだが、便利な生活に慣れ切った現代人にはちょうど良いくらいだろう。アーチャーはさっそく支給されたテントを海岸近くの森の中に張り、DIYの素材に使えそうな石や小枝を集めた。
手先の器用なアーチャーは次々と必需品を作り出し、作りすぎたからとプレゼントすれば住民たちに大層喜ばれた。この島で取れる木の枝や木材は特殊な性質を持っており、子供の工作のような釣り竿でもジンベエザメが釣れるのだと社員は胸を張る。さすがに冗談だろうと受け流し、けれどアジのような小魚は釣れるかな……と食料を得るべくアーチャーは海へと向かった。
――十七匹目フィィィイッシュ!
――うるさっ!
美しい海だった。かつての、きらきらしい記憶が蘇るほどに、美しい海だ。
のんびりと釣り糸を垂らしていた彼の横にわざわざ陣取って、釣果を(一方的に)競って、今から思えば何とも小学生じみたアピールだった。あの頃はまだ自分の恋心を自覚していなかったので、純粋といえば純粋だったのだが。
「告白なんて、しなければ――」
今でも隣に居れたのだろうか。
そんな詮無いifを考えて、けれどアーチャーは頭を振った。どのみち限界は近かった。一緒に飲みに行った居酒屋で、就職先が分かれて、腐れ縁もここまでかと寂しさを紛らわすように飲み干していたら、普段の摂取量を大幅に超えていた。そうして、それで、その勢いで。
――君が好きだったよ。ずっと前から。
冗談だと誤魔化すには、あまりにも真剣な声音だった。取り返しのつかないほどに本音だった。
(続)
続きが気になりますが、失恋した相手のこと、考えながら弓は島で奔走するのでしょうね。すてきです。 読めないのは残念ですが、イベント、がんばってくださいね。