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Wild Liliy (Blue Side)/Novel by ぐらたろ

Wild Liliy (Blue Side)

9,458 character(s)18 mins

以前上げた物の槍サイドです。こちらが弓視点novel/2399822です。大河さんの出番が多いです。■ネタばれ、真名ばれ、ご都合時空、未来捏造ありますのでご注意ください。なんでもお許しくださる方のみどうぞ。

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――前からずっとすきでした。

いつも通りのバイト中、客としてやってきた藤村大河の連れ――坊主や嬢ちゃんと同じ学校の制服を着たなかなかに可愛い女子高生だった――が、そう告白してきた。真剣な目にみつめられ嬉しいよりも、困ったな、と思った。

だってオレには本命がいる。正直ほかは眼中にない。






遠くからでも一目で気付ける。たしかにやつは国籍不明の偉丈夫で、商店街では目立つ風体だがそういうことじゃなくて、オレの目が特別ヤツを見つけやすいだけだ。ガラス張りの店内作業していた視界の端に映った姿に、作業の手を止めあわてて店先に出る。
「よお、執事殿。買い物か?お嬢ちゃんに花でもどうだい?」
半分行き過ぎていた後姿に声をかけると、ヤツは足を止め、そしてゆっくりと振り返る。あいかわらず美しい立ち姿に今日も見蕩れる。その隙のない身のこなしと、手にした買い物袋の所帯地味た感じのギャップがなんともいい。思わずにやけてしまう。ヤツは一瞬目を見開いてオレを凝視した。花屋にいたのが意外だったのだろうか?が、すぐにいつもどおりの仏頂面にもどると、手に持った買い物袋をかるく持ち上げ、オレの問いに今日も坊主の家で夕飯作りだと応える。まったく、マメで家庭的なやつだ。初戦のときにはこういうやつだなどと思いもしなかったのだが、いまではそういうところもたまらなく魅力的に映る。
さて今日はどうやって話をしようか?
食品をあつかうバイト先なら、商品を売りつけるセールストークなど話題はいろいろあるのだが、あいにくここは花しか売っていない。、とりあえず他愛ない軽口のやりあいをしながらヤツの周囲の嬢ちゃんたちを対象に、手近にあった花を適当に選んで、手早く小さなブーケをつくって花を勧めてみる。可憐な花でつくった小さなブーケに、ヤツの表情がほころんだ。オレに見せる鋭い目つきとは打って変わって、柔らかくカーブをえがく唇と、かすかに細めた目。
(ああ、そんな優しい顔もできるんじゃないか)
花を見て純粋に愛でたのか、それともそれを誰かに贈った時のことを考えたからか。なんにせよ、その表情はオレ以外に向けるためのものだろうと思うと心がざわついた。話の接ぎ穂とはいえ花なんか勧めたことを一瞬後悔した。だが他にも買い物があるからとヤツは花を断った。どこかほっとして、オレは花を引っ込める。やっぱりコイツには食料のほうが魅力的らしい。つくってしまったブーケはあとで飾りをつけて売り物にまわすことにして、とりあえず水バケツに放り込んだ。振り返ると、立ち去るでもなく店先の花を眺めている。自分で選んで花を買うつもりなのだろうか。そう考えるとまた心が波立って、オレは気の利いた言葉も思いつかずただ店先をあちこちいじりながらアイツの様子を伺った。
「……仕事熱心だな」
ややあって、ぽつりと話しかけられた。花をみてるとばかり思っていたが、オレの働き振りもチェックしていたようだ。
「おう、花屋は見た目が大事なんだよ。ま、タイムセールやらクーポンやら活用しまくってるお前ほどじゃないがな」
何か買うのかと続けようとしたところで、遠くから聞き覚えのある姿が手を振りながら近づいてきた――所で回想は終わる。


今日も惚れ惚れするような立ち姿だった。大河と女生徒がやってきたおかげでアーチャーは帰ってしまい逢瀬は終わってしまったが、それがなければもう少し話をしていられたのにと残念に思う。
そうだった、女生徒。
思い出して我に帰った。ここは花屋の店内。今しがた女生徒に告白されたのだが、好きなやつがいるから、ときっぱり断ったら泣きながら走り去ってしまった。
なかせてしまったことを申し訳なく思いながら、ランサーは遅まきながらも店先に出る。通りを視線で一巡したが、すでに女生徒の姿は遠くに消えており、追うのを諦めた大河がとぼとぼともどってくるところだった。
「トラの姉ちゃん…悪ぃな…追いかけなくて良いのか?」
「うーん、今は一人にしといてあげたほうがいいかな。後でフォローしとくわ」
大河は頭をかきかき、店先に戻ってくるとしばらく弱り顔で少女が走り去った方向を見ていたとおもったら、くるりとランサーを振り返る。
「それにしてもランサーさん、好きな人いたのねー。あんだけしょっちゅう女の人にちょっかいだしてるから、てっきりフリーなんだと思ってたわ。ね、ね、どんな人?聞きたいなー聞きたいなー」
今度は好奇心丸出しといった具合で両手を胸の前で組み合わせて目を輝かせている。あからさまな態度の変わりようにさすがに呆れてランサーも渋面をつくった。
「おいおい、かわいい教え子が傷心だってのに、お気楽に聞いてくれるなぁ。それでも先生かよ」
「あら、心外ね。傷心させたのはどこのだれよ。私はあの子の代弁をしてあげてるんですー。今は取り乱しちゃって飛び出していっちゃったけど、あとで落ち着いたらきっと気になると思うわ。自分を袖にしたあの人は、いったいどこの誰を好きなのかしら、私はどうしてフラれちゃったのかしらーって」
「そういうもんか?」
芝居がかった調子で身振り手ぶり大げさに語る大河にはどうも押される。こっちが引いた気配をかんじとった大河がここぞとばかりに詰め寄ってくる。
「そうよ!乙女心はそういうもんよ!で、さ。あの子を慰めるためにも、ランサーさんの好きな人がどんな子なのか教えてよ。名前までは聞かないからさぁ」
「とはいわれてもなぁ…」
なかなかに言いづらい。べつに隠すつもりはないのだが、ランサーがアーチャーを好きだと公になったらいろいろとやりづらいのだ。せっかくここまで関係を育てて、いい友人というか喧嘩仲間というか、とにかく微妙な関係になれたのに、周りから面白半分に騒ぎ立てられたらすべてご破算になるかもしれない。
だが大河は拝むような仕草でランサーに詰め寄ってくる。
「お願い!教えて! そしたらあの子だって、想いを引きずることなくスッパリ諦めて、立ち直りも早くできると思う。ね、いたいけな少女を助けると思ってさあ…ほらほら、勿体ぶらないで教えなさい。もう、フったんだから、メンタルケアまで責任とりなさい」
次第に興奮してきたのかつかみかからんばかりに詰め寄ってくる大河。そこまでいわれちゃしょうがねぇ。しかしどう表現したものか。
ランサーはしばらく悩むと、店内を見回し、ひときわ大きな花器にいけてあった白百合を手に取った。
「オレの好きなやつはこの花みたいなやつだよ」
そういってランサーは白い花弁に唇を寄せた。


好きなやつ、とはなにをかくそう、さっきまで話をしていた男だ。
聖杯戦争中から気になる存在だったが、今では完全にほれ込んでしまっている。自分の気持ちに気付いたときは愕然とし、有り得ない、よりによってあいつか、と考え直そうと何度もした。だが会うたびに惹かれていくのを止められない。やがて好きなもんは好きなんだ、しょうがないと開き直ることにした。望みが薄かろうが、なんだろうが、想いを我慢したりねじまげたりする気はない。ただヤツは難攻不落の要塞のようにガードが硬い。鉄壁だ。
だが壁が高ければ高いほど攻めがいもあるというものだ。以来押してみたり引いてみたり、喧嘩ふっかけてみたりいろいろ手を尽くし、最近やっと向こうも少しくだけて、雑談したりたまに笑顔を見せてくれるようになったわけだが。
シフトも終わりに近づいた日没。ランサーは飾り紐をパチンと切って鋏を置いた。
「できた……けどどうすっかなぁ」
さきほど、大河に聞かれるままに本命について話をしていたらおかしな約束をさせられてしまった。振った少女のためにも、潔くその本命に告白しろという。
(まったく、突拍子もないこと言い出すお姉ちゃんだよな…)
しかしめちゃくちゃ言っているようで逆らおうという気が起きないのは彼女の素養というか、あれでも一応教師だからだろうか。
ランサーはため息をついて、たったいま完成させた花束を見る。自腹をきって店の花で作った大振りな花束は、白百合をメインに白と赤で彩られており、自分で言うのもなんだがアーチャーのイメージにぴったりだ。だが花束の出来はともかく告白のほうは勝算は薄いだろう。
(あいつどんな反応すっかなぁ……とにかくやってみるしかねぇか)
正直望みは薄い。ぎりぎり友人とは思われているかもしれないが、まさか恋愛となると対象外だろう。気色悪いと殴られるかもしれない。
しかし、さっき告白してきた少女を思い出す。あの子だって必死だったんだろう。名前は覚えていないが、ときどき商店街で見かける顔だった。その程度の関係でも、勇気を振り絞って告白してきたのだろう。緊張にふるえていた声と、握り締めて白くなった手は純粋にランサーの心を打った。あの子を振ったというのに、自分は望みが薄いので告白できません、などとは言えない。
正直、ここのところ攻めあぐねて現状に変化が欲しかった。最初のうちこそじっくり時間を掛けてアーチャーの壁をくずしていこうとおもっていたが、本来そんなやり方ランサー向きではなかった。慣れない穏健策と一向に進展しない仲にじれったくなってきたところだ。ここらでズバっと本心を伝えてしまうのも悪くない。振られたらそのとき。また他の手を考える。一回断られたくらいで諦める気はなかった。
大河には明日首尾をききにくるとまでいわれている。今夜のうちにカタをつけなければ。
ランサーは花束を店舗の手提げ袋に入れ、店主に挨拶をすると店をでた。


アーチャーを探して衛宮家の近くまで来てみた。今日はここで夕食当番だといっていたからいるはずだ。石壁にはりついて中の気配を伺ってみる。少し耳をすましただけで、藤村大河が大声で昼間のランサーとのやりとりを話しているのが丸聞こえだった。
――おいおい、なにやってんだあのねぇちゃん……
ランサーはがっくりと項垂れた。凛や桜までもが大盛り上がりで話しているのが切れ切れに聞こえてくる。こんななかに入っていくのはさすがにご免だ。面白おかしく突かれるのが目に見えている。
それにしてもこうも吹聴してくれるとは。これはいよいよ逃げ場はなくなった。これでやっぱり告白はなかったことにしてくれ、などといえば、大河だけでなく冬木の管理人や黒聖杯からも責められることだろう。もう玉砕覚悟で決行するしかないようだ。しかし観客有りの告白劇は避けたい。なんとかアーチャーを屋外に連れだそうと携帯で目の前の家に電話をかけてみた。予想通り、話に夢中な女性陣ではなく、若い家主が電話口にでた。小声で確認すると中にいるのは女性陣だけで、アーチャーはもう帰ったと言う。ランサーは電話したことを女達に内緒にしてくれと頼むと、若い家主は話は藤ねぇから聞いた、まあ頑張れと小声で応援してくれた。礼を言って電話を切る。
アーチャーがいないのならばここには用はない。気づかれる前にさっさと家の前から立ち去ると、人目につかない場所でアーチャーの行方をルーンで探してみた。痕跡が町のそこここで反応する。どうやら町中を動き回っているらしい。パトロールでもしているのか、かなりの速度で動き回っているようで、その地点に行ってみてもすでにそこにはいない。そんな空振りを何回か繰り返し、やっと川沿いの公園でその姿を捉えることができた。


捜索している間にとっくに日は落ち、川沿いの土手からは涼しい夜風が吹いている。あたりは人通りもまばらで、等間隔にならんだ街灯の真下だけがぼんやりと明かりをまとっている。
アーチャーはその街灯の一つの下、土手沿いのフェンスにもたれ、暗い川面を眺めているようだ。眉間にしわをよせ、思い悩んでいるようなその姿は近づき難い雰囲気を感じる。というか、ものすごく機嫌が悪そうだ。話しかければ嫌味の一つ二つどころか、機関銃のようにあびせられるような気がする。
昼間店先で話をしたときは普段どおりの様子で特に変わったこともなかったように思う。まさか自分のせいで機嫌が悪くなった、のではないと思いたい。今日は坊主の家で食事当番と言っていたから、おおかたそこで家主とまた一悶着おこしたのだろう。
などと考えながら、ランサーは首をひねって歩み寄り、声をかけた。
アーチャーは後ろに立ったランサーにまったく気付いていなかったようでひどく驚いた表情で振り返り。
「何故ここにいる!?」
鋭い声と同時に、瞬時に距離をとって身構える。
ずいぶんな対応に少々傷つく。そんなに毛嫌いすることもないだろうに。昼間は普通に会話したのに。やはり坊主の家で何かあったのだろうか。そもそも考え事をしていたとはいえ、こいつが背後の気配に気づかないのはらしくない。そう考えてそれを口に出すと。
「らしくとはなんだ、私だって考えごとくらいする!それに君が私の何を知ってるというんだね。勝手に決め付けないでくれ!」
さらに怒鳴るように言い放たれた。二度も拒絶され、さすがに気持ちが萎える。
私の何を知っている、と言われれば、たしかによく知るほどの仲でもない。友人と言えるかどうかも怪しいレベルなのだからしょうがないが、アーチャーの口からそう言われると、格別に堪える。やっぱ告白するのは日を改めたほうがいいか、そんな考えが頭をよぎる。
だが言葉の内容の割に言った本人はそっちが怒られたかのようにしゅんと落ち込んだ様子だ。ランサーをみてはいるが、視線に力がない。いつも姿勢よくすっと伸びているはずの背筋にも力がなく、どことなく肩を落としている様に見える。
やはり何かあったにちがいない。
「……なぁ、アーチャー。なんか機嫌悪いだろ?坊主んちでなんかあった?」
「なにもない…」
真摯に問いかけてみるが、アーチャーは視線を逸らしてそう言ったきり答えない。暫らく黙り込むアーチャーを見つめていると、不貞腐れたようにこっちに話を振ってきた。
「――貴様こそこんなところで何をしている? 藤村大河から、貴様が今日は一世一代の告白劇を披露すると教えてもらったのだが、それはもう済んだのかね」
しまった、トラのねーちゃんめ。
まさか本人にまでその話が広まっているとは。ランサーは内心で舌打ちをした。
「その話、お前も聞いたのか!?」
「ああ、事細かに聞いたとも」
アーチャーの返事にがっくり膝をつきたい衝動にかられた。
「そうか知ってたのか…」
動揺して声が震えてしまった。もしかして、機嫌が悪いのは大河からランサーの本命の話を聞いて、相手が誰か思い当たったからか。その上でのこの拒絶なのか。――だとしたら絶望的だ。告白しても断られるのは目に見えている。
だがアーチャーの次の台詞を聞いて、どうやら違うようだ気がついた。
「こんなところをうろついているヒマがあったら、その本命とやらのところに向かったらどうだ?それで告白でもなんでもして、派手に振られてくるがいい」
言い終えたアーチャーの顔がくしゃりとゆがむ。
(あれ、なんか、泣きそうな顔してないか?)
この顔は、最近みた。そう昼間、店先で女生徒が告白してきたときだ。ランサーの断りの言葉を聴いたとたん、女生徒は顔をゆがませたのだ。こんな風に。
って、それじゃまるでオレがこいつをフッたみたいじゃないか――と思い、はたと新しい可能性が頭にひらめいた。
いつも生意気なくらい冷静なアーチャーが、背後に立っても気づかないほどに心ここにあらずだった理由。それにさきほどからの取り乱し様。パズルのピースがランサーの頭の中でするすると当てはまっていく。――だとしたら。
しかし言い終えたアーチャーはくるりとランサーに背を向け歩き出そうとする。このまま逃がすわけにはいかない。ランサーは咄嗟に後ろからその腕を掴んで引き寄せた。
「待て!いくなアーチャー!」
「な!? 何を」
思ったよりも腕を引いた手に力がはいってしまった。態勢を崩したアーチャーの身体が腕の中に飛び込んでくる。その勢いのまま、振り向かせれば、目の前に潤んだ眼のアーチャーの顔。あまりの近さに戸惑い、言うべき言葉をすっ飛ばして、気付けば花束をただ突きつけるように渡していた。
「オレは、お前のこと探してたんだよ!…これ、受け取れ」
アーチャーは呆気に取られたようにきょとんと眼を見開いたまま、しばし花束を見つめる。その顔がいつになくあどけなくて、ランサーの動悸が跳ね上がった。
(んな無防備な顔すんなよ。不意打ちじゃねぇか。)
丸く見開いた鋼色の目。そうしていると随分幼く見える。やがて驚きの表情がゆっくりとほどけ、安堵したようにほうと息をつく。そしてアーチャーはわずかに小首を傾げて問いかけてきた。
「なんだこれは。渡す相手を間違えているのではないかね?」
台詞はいつものように嫌味たらしいが、口調はあきらかに穏やかになっていた。それにさっきの安堵したような顔はやはり。
目の前のいつにないアーチャーの表情の変化に眼を奪われていたランサーだったが、気を入れ直してまっすぐアーチャーを見つめる。
「間違えてねぇ、お前に渡そうと思ってずっと探してたんだよ」
その肩をぐいと、引き寄せ、鋼色の眼を真っ直ぐに覗き込む。
大河から事の次第を聞いた、とはいっていたが、花束を渡しただけで終わらせる気はない。言葉ではっきり伝えて返事を聞かなければ。
「お前が好きだ」
言いながら、アーチャーの手をとって強引に花束を握らせる。
「え…」
ぽかんと口が開いたままの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
(あ、やっぱり。コイツ、オレのこと好きだ。)
予想が確信に変わる。
はやく、彼自らの口からそれを言って欲しい。彼の声で決定的な言葉を聴きたい。
アーチャーは戸惑ったように視線を花束とランサーの顔の間を彷徨わせぱくぱくと動く唇から掠れた声が漏れる。
「何を言って…貴様、フラれたのではない…のか?」
やはり勘違いしているようだ。オレが好きなのはお前だっつうの。まぁ、そのおかげでアーチャーの気持ちに気付けたわけだが。
ランサーはガリガリと頭を掻き、大息をついた。そしてアーチャーに向き直ると逃がすまいと両肩をしっかりとつかんで瞳を覗き込んだ。
「いいか、ちゃんと聞け。ずっとお前が好きだった。フるもフらないもお前次第だ」
もう一度、勘違いの余地をかき消すようにはっきり伝える。アーチャーは目を見開くと、さっと花束に顔をうずめてしまった。それでは表情が見えない。なにひとつも見逃したくないのに。無理やり顔を上げさせて返事を急かしたい衝動を抑えて、じりじりしながら待つとようやくアーチャーは掠れる声で一言呟いた。
「たわけが…もっと早く言え」
「それって――?」
さすがに痺れをきらして、ランサーは明確な答えを強請った。
「こ、これは受け取る――返せといわれても返さんぞ?」
さっきよりももっと小さな声で、アーチャーが言い、その言葉通りに返さないという意思表示か、ぎゅうと花束を抱え込んだ。
(なんだその可愛い反応は――!)
たしかに好きとか直接の言葉じゃなかったけれど。その仕草は反則だろう。
気付いたら花束ごとアーチャーの体を抱きしめていた。背中に手を回してかき抱き、感触をかみしめていると腕の中のアーチャーがうめいた。
「ぐっ……こら、花が潰れる!」
「花なんかまたプレゼントしてやるって」
贈った花を大事にしてくれるのはありがたいが、花の心配よりも、まず両想いになったらすることがあるだろう。ランサーはアーチャーの頬に手を伸ばし顔を寄せようとした。が、大ぶりな花束が邪魔で届かない。ランサーは両手で花を抱えていたアーチャーの手ごと花束を握り片手で脇へよけると頬の手でぐいと顔を寄せる。今度こそ届いた。唇越しにアーチャーがはっと息を呑む気配が伝わる。そのままそっと唇を味わう。見た目の印象とは違い、柔らかい唇。かるく食むとアーチャーの口からため息のような声が漏れる。その声の甘さにかっと頭が熱くなる。ランサーは頬の手を襟足にまわし、さらに深く唇をかさね中をむさぼろう―としたが。
「――こんなところで何をするか!」
次の瞬間、衝撃とともにランサーは地面にうずくまることになった。



「で、めでたく両想いになったわけか?」
「そうなの! もうランサーさんたら、ご機嫌だったわよぉ。今日から彼女さんがおうちにゴハンつくりにきてくれるんだって!もう熱い熱い! それでね、『おかげさまで』、なんて、コレもらっちゃったぁ。この分なら、しばらくは割引いっぱいしてくれちゃうかもよ、士郎」
夕暮れの衛宮家の居間。大河がさしだした商店街の袋からいいにおいが漂ってくる。開封してみると、精肉店のあつあつの惣菜がたっぷりとはいっていた。お夕飯のおかずにしてね!と大河が目を輝かせて弟分に話しかけている。
「へぇ。オレも後でよってみようかな」
なんにせよ、うまくいってよかったなぁと人の良い笑顔をうかべて顔をほころばせる赤毛の少年に、横から凛の鋭い声が飛んだ。
「オマケ狙いはいいけど、その相手のことをあんまり根掘り葉掘りきいちゃだめよ。特にアンタは」
「なんでさ?」
「藪をつついて蛇を出すことになるっていってるのよ」
「え、そんな怖い相手なのか?」
「遠坂さん、もしかして相手の人のこと知ってるの?」
身構える士郎と、期待に満ちた表情で首を突っ込んでくる教師に、凛は『しってるもなにも』といいたい衝動をおさえ、ただ眉をひそめて溜息をついた。
「……人の恋路に首突っ込むとろくなことない…ただの一般論ですよ藤村先生。ほら、衛宮君、それより夕飯お願いね。そのお惣菜のにおいで、私おなかすいちゃったわ」
「あ、今すぐ準備するよ」
いそいそと台所に向かう家主。
「ところで凛、今日はアーチャーはこないのですか?」
ここのところ毎日のように夕食の支度をしてくれていた人物の不在を疑問に思ったらしいセイバーがといかけてくる。
「ええ、用事ができたの。当分は夕飯時にはこれないそうよ」
「そうですか…」
生真面目なセイバーの顔が残念そうにしおれる。しばらくはアーチャーお手製のおやつも抜きですね…と大河と寂しげに語り合っている。
(まったくよ。うちのアーチャーを突然もってっちゃうなんて……)
今朝方、にやけきった面相で報告にきた蒼髪の男の姿が脳裏に思い出され、苛立った心のまま架空のガンドを脳内で数発打ち込む。彼の加護をもってすれば、実際は有効な攻撃手段ではない。あくまで想像の中での行為だ。だがすこしは気分が収まる。さて、と夕飯を待ちながら、どうやって意趣返ししようかと稀代の魔術師は思案にくれた。
(この代償は――高くつくわよ、覚悟なさい)

Comments

  • わんわんお
    January 13, 2025
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