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おもちもちもち&スキトキス/Novel by ひろせ ゆう

おもちもちもち&スキトキス

10,246 character(s)20 mins

元日にTwitterでフォロワーさんにおねだりしてお恵みいただいたお題話。
・槍弓とお餅
・7日間の恋人の二人と新年の抱負
のベッターに上げていた二つです。
本当にありがとうございました。

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 餅みたいだ。焼かれて、まぁるく膨らんだ、よくつかれて米の粒が感じられないほどキメ細かな、餅。
 拗ねています、と大人気なく頬を膨らませる相対する男は、私が何も言わないのを見て青い尾っぽを大きく揺らして顔を背けた。つっけんどんを擬態した様子に溜息が零れるのも許して欲しい。
「だから、すまないと言っている」
「許さねぇ」
「仕方ないだろう、その日は宴会なんだから」
 何度も告げているどうしても外せない予定を再度口にすれば、親の敵か仇討相手か、鋭く尖った赤がこちらに突き刺さる。睨まれるのもこれまた何度目か分からぬ現状に、もう一つ小さく溜息を零した。
「君だって、楽しみにしてただろう?好きなだけ酒が飲めるし、肉も食えるって」
「だけどまさか、そっから丸三日お前が拘束されるとは知らんかった」
「それは…まぁ、その、仕出しをする者がいなくては宴会は成り立たないだろう?」
「坊主にやらせりゃいいだろ」
 繰り返し繰り返し交わした討論。確かに、会場の家主である衛宮士郎に任せてしまえば私の手は空く。だが、それは許せない。
 年始にかこつけて藤村組から貢がれる、普段はお目にかかれない選りすぐりの良質な食材達を、より美しく、より美味しく調理するには、あの子供の腕ではまだ心許ない。
 ならば、誰が調理する?私しかいなかろう。
「だから、その後なら時間をとるから、」
「一日じゃなきゃ意味ねぇんだって」
「…」
「……」
 話はいつまでたっても平行線。
 私がここまで調理に拘ると言うのも、正月を初めて味わう目の前の恋人、ランサーに様々なものに舌鼓を打って貰いたいからなのだが、ランサーはランサーで何かしたいことがあるらしく、小一時間ほどこの言い合いを重ねている。
「…わかったよ、宴会の料理頑張んな」
「っ!ありがとう!」
 素直に例を言えば、神性の赤を閉じた男は小さく息を吐き、肩を竦めて笑った。仕方なさそうなのを隠さない仕草だが、私にとっては最高の結果だ。
 良かった、これで、君にこの国の新年を楽しんで貰える。


おもちもちもち、やきもちもちもち


 なんて思っていた去年の暮れ。
 日付は回って一月一日、除夜の鐘の音が何処からか響くこの時間、ランサーは衛宮邸には居なかった。
「こんな日までバイト入れるなんて、ワーカーホリックじゃないの?あいつ」
 蕎麦を啜り終え、テレビの中で新年の挨拶をする芸人達を追って青い目を動かす黒髪の少女が呟くのに、その隣の金髪の少女が小さく頷く。
「彼は存外マメで真面目なようですね」
「それはそうとしても、こういう日くらいは別に休んでも良くない?というか、進んで休みそうじゃない。お酒を飲むいい機会なんだから」
 そろり、動いた青が斜向かいで船を漕ぐいい歳をした女性にピントを合わせる。一升瓶を抱えたまま幸せそうに口を動かしている、本来ここにいる人間の中で誰よりも歳上のはずの女性は、夕方から飲みっぱなし食べっぱなしで今度は睡魔に懐いていた。
 取り敢えず伏せてもいいようにその周りから片付け始めていたアーチャーは、幸せそうに夢を食む顔に微笑みながら、向かいの少女達に聞こえぬ程度に息を落とす。
「アーチャー、洗い物は俺がやるぞ」
「…貴様に任せてはくもりが出そうだ。私がやるから座って茶でも飲んでいろ」
「む、料理は殆どお前かやっちまったんだから、片付けくらいはさせろよ」
 後ろからかけられた声に屈めていた背を伸ばし、頭一つ小さい所へ分りやすく視線を向ければ、赤茶の髪が僅かに揺れる。引く気は無いのか、色素の薄い瞳が強く上を向き、アーチャーの手に乗っていた数枚の皿を攫った。
 いつもは使わない、ガラス細工の入った祝い皿達が硬質な音を立てる。
「お節だってオードブルだってもう作り終わっただろ。多分初日の出見たら藤ねえはまた飲み始めるし、がっつり片付けなくてもいいだろ」
「だからと言って散らかしたままでいる訳にいかないだろう、たわけ」
「そうじゃなくて、その、なんだ…」
 寝ている者を起こさないレベルの言い合いだが、双方共に的を射ないもどかしさに、話を聞いていた凛がテレビから顔をこちらに向けて、大袈裟に溜息をつく。視線を集めるための態とらしさにアーチャーがそちらを見れば、あのねぇ、と声を上げた。
「美味しい料理いっぱい作ってくれてありがたいけど、あんた年の瀬から動き回りすぎ。やってもらった側が言うのもあれだけど、そろそろ休みなさい。ランサーも居ないんだし」
「な、」
「そうですね、とても美味しい料理の数々でしたが、張り切った先の待ち人来ずでは疲れもひとしおでしょう。早めに休まれて、皆で大橋にでも初日の出とやらを見に行きませんか」
「あら、いいわね、それ」
 己のマスターはともかく、機微に少々疎い騎士王にまで言われてはアーチャーに返せる言葉はない。唖然と口を二、三開閉し、真一文字に閉じる。
「…って訳で、これは俺が洗っとく」
 士郎が遠回りに休むように言って来たのは、ここに居ない男を匂わせない為だったのだが、少女達、特に凛には配慮する謂れがないため堂々と言われてしまった。
 来ない待ち人、ランサーは、話に上がっていた通り今日も今日とてバイトに勤しんでいる。恋人関係が暴露されてしまっている現状、新年を迎える瞬間を恋人と居たがりそうな男なのに何があったのかと各々なりに心配していたのだ。
 また小さなことで喧嘩でもして、バイトを入れたのを知ったアーチャーが、腹いせにいつも以上に張り切って料理を拵えたのではないか。言葉にしないが、周囲は現状をそう捉えていた。
「言っておくが、私が張り切っていたのは決してあの男のせいではなく、」
「はいはいはい、そういうのいいから。取り敢えず一回寝てスッキリしてきなさい。明日もし来たら、仲直りするのよ」
「待て、凛、」
「おやすみなさい、アーチャー。いい初夢を見れるといいですね」
「違うぞセイバー、初夢というのは一月一日の夜から二日にかけて見るもので、こら、待て、」
 ピシャリ、いい音を立てて閉められた襖に、背を押されて追い出されたアーチャーは振り返って訂正を入れるが応える声はなし。完全に再び入室するのを却下される形の退室に、本当に休む他なくなってしまった、とひとりごちた。
「…折角、作ったというのに」
 冷たく透き通った空気が満ちた廊下を、足音を消して歩く。宛てがわれている客間はほんの目と鼻の先で、あっという間に着いてしまうのだが、このまま寝るのは何となく癪で、アーチャーは空を仰いだ。


 瓦の軋む音に、そうっと息を吐き出せば、白く広がって月光を反射した。宵も半ば、青黒い星空に映える吐息は寒さの象徴。
 下に起きている者が居るため、実体化したまま可能な限り足音を殺し、屋根の上へと上がった。昼間から雲一つなく晴れていた空は、年をまたいだ今も、隠すものなく満点の星と盃状に光る月を浮かべている。
「馬鹿者が」
 悪態を零せばすぐやり合いになる仲だ。恋人になってからは控えていた言葉たちが、胸の内に湧いては破裂してモヤモヤと広がっていく。
 何をそんなに一月一日に拘っていたのかは知らないが、仕出しをしている身だから衛宮邸を離れられないアーチャーと違って、ランサーが居さえすればこういう風に周りが時間を作って二人きりになれたかもしれないというのに。
「そもそも貴様が居なくては、意味が無いだろう」
 持ち込まれた食材は、どれもやはり極上品だった。肉を中心に魚は勿論野菜達も、どれも普通に買ったら食獣のお陰でエンジェル係数で首吊り待ったなしの代物たち。いつもに増して腕によりをかけて下拵えし、仕上げた料理の数々は、腕を組んで胸を張るほどにはいい出来だった。
 それを食べさせたい一番の者がいないのに。
「……一緒に年越ししたい輩でも出来たのか」
 ポツリ、考えぬようにしていた醜い感情を零したアーチャーは、膝を抱える形で瓦に腰を下ろす。尻臀から冷たさが骨身に伝わるが、熱く重くなった思考には丁度いいと、構わず背を丸めた。
 元来、気の多い男だ。現界が何故か続行された当初、道行く女性に声をかけては茶を嗜んだり遊びに行ったりしようとしていた。所謂ナンパ野郎というやつだ。
 ごたごたの後に恋人関係に落ち着いてからは見かけなくなったが、言うことを聞かず我儘を言う恋人に嫌気が差したのか、当て付けか、腹いせか。どれにせよ、ランサーが今ここにいない事実だけが確かにある。
「明けましておめでとうくらいは、言わせろ」
「それはこっちのセリフだ、たわけが」
「っ!?」
 急に感じた人外の気配に咄嗟に腰を浮かせ、瓦が鳴るのも構わずに脚に力を込める。足元から淡く青い光を纏って実体化した姿に、安堵と緊張の織り交じった息を呑む。
「ったく…風邪ひくぞ、なんで何も着ねぇで屋根に上がってんだ」
「ラ、ンサー」
 自分が着ていたファーのついた青い上着を脱いだアーチャーの待ち人は、白いTシャツ一枚になるのも構わずにそれを黒シャツ姿の男の肩に羽織らせた。温もりを持って乗る質量に、突然の事で空回る思考のアーチャーは口を戦慄かせ、噤む。
「お前さん、なんでこんな所にいるんだ」
 それこそこっちのセリフだ、と言い返してやりたかった。今更ふらりと現れて、折角打った蕎麦も残りがあれば是非と瞳を輝かせた騎士王が啜ってしまったし、海老も大盤振る舞いで入れたかき揚げは材料提供者がいたく気に入って平らげてしまったのだ。
 現に、今彼に差し出せる宵の食事はこの邸宅にはない。
「…君こそ、今日はバイトだったんだろう。何で居るんだ」
「あ?そりゃ終わったからに決まってんだろ」
「何で、今更来るんだ」
「はぁ?」
 美味しいと、笑う顔が見たかった。年を超えた瞬間にこれからも宜しくと伝えられれば充分だった。欲を言えば、少し唇を重ねたりしてみたかったが、けたたましいテレビに夢中になりやすいこの時分なら、目を盗んでこっそりすることも吝かではなかったのだ。
 居てくれたら叶っていた、聖杯に願うにも値しない小さな願望。胸に秘めていたものだから、他者に透けることなくひっそり思っていた、アーチャーの年末年始計画は、ことも無残に恋人に打ち砕かれた。故に、多少キツイ態度をとるのも心の機微というものだ。
「そりゃあ、…この時間になりゃ少しは手が空くかと思ったんだよ」
「…は?」
「仕出ししてても、年越してひと段落ついた頃合になればお前さんも解放されるだろ。その時間まで他のことして潰さねぇと、攫っちまいそうだったから、」
 攫う、とは。不意に奪い去ることを示す言葉を紡がれて、アーチャーは噤んだ口を小さく開く。肩にかけただけだった男の上着が、光沢のある材質のため滑り落ちかけて、慌てて掴んで思考が晴れた。二人きりになりたいのを我慢するために、バイトを捩じ込んだとランサーは言いたいのだ。
「楽しみにしてるってあからさまに分かってんのに、水を差すのも悪ぃだろ。ただ、同じ所にいて酒を飲んじまうと、気が緩んで多分部屋に連れ込んじまってただろうし」
  首後ろを掻きつつ、寒さなど微塵も感じさせないで佇んでいる。吐く息は双方共に白く、互いの言葉にしなかったものを昇華するように空へと昇っていく。
「私が楽しみにしていたのは、君に料理を食べて欲しかったからだよ」
 吐露すれば、青暗い世界に浮かぶ真紅が見張る。どんな顔をしているのかアーチャー本人は気付いていないが、寂しくて、それでいて恋しさを隠さずに揺れる鋼色がランサーを見詰めていた。
「殆ど食獣と材料提供者に喰われてしまって、もう残っていないがね」
 眉を垂れて笑う様に、二人してやっと思い違いに合点がいく。ランサーは“皆の為に料理を振る舞いたい”と思っていて、アーチャーは“ランサーに食べて欲しい”と思っていた。きちんと言葉にしておけば生まれなかった些細なすれ違いに、どちらとも無く乾いた笑いが漏れる。
「はは…あー…ったく……」
「普段はやけに口が回る癖に、こういう時は駄目だな」
「全くだ…いや、お前だけじゃねぇぞ、俺もだ」
 空笑いしながら瓦にしゃがみ込む青髪に、白髪も続いてしゃがみ込んだ。両手を後ろにつき、完全に足を投げ出した格好でふと、上着を返そうと持ち上げると手で制される。
 首を傾げてやれば白シャツがずいと近付き、持ち上げた側の腕をとってその肩にかけた。一つの上着に二人して包まれる形になったので、おしくらまんじゅうよろしく、つめつめの距離。吐息はおろか瞬きの風すら感じられる近さに、また自然と笑う息が漏れた。
「やきもちってやつ、初めてやいたわ」
 もちはもちでも、食えぬ餅。やくは簡単、膨れに膨れて破裂しては大変な代物。幸い今回は破裂せずに萎んでくれたが。
「普通の餅なら、焼いて食えるが」
「ついたのか」
「いや、備蓄の切り餅だ。つくのは明日の昼間にでもと、もち米は用意してある」
 ふむ、と息つくランサーに、変に遠回りした罪悪感と、ほんの少しの好奇心で重なった肩を僅かに揺すり、鼻先を軽く擦り寄せて溢れる白を薄く形の良い唇に当ててアーチャーは呟く。
「やきあがったもちならここにもあるが」
 食べるかね?と、言い合っていた日の男を真似て膨らませた頬を見せてやれば、真似られた男は虚をつかれた顔をし、堪らなさ気に目を細めた。
 弧を描く瞳を是、と受け取りアーチャーは瞳を閉じる。すぐに唇に触れた熱は硬いエナメル質を伴って、もちの咀嚼を始めた。
 初夢にも姫始めにも一日早いが、恋人がいる男なんてこんなものだろう。唇の端で笑みを漏らして、これからもたらされる捕食にその背を震わせた。


 もちはもちでも食えぬもち。けれど、やいた者が喰えぬとは、誰も言ってはいなかろう。

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