「……貴方、誰?」
「…………………………」
召喚されたのは浅黒い肌を朱い外套で纏う銀髪の男。
その鍛え上げたであろう体躯は常人にしては大したものだ。
だが、自分が呼び出すはずだった大英雄にしては……いささか物足りないものがあった。
おまけに私の顔をみたまま馬鹿みたいな表情で驚いたかと思えば、その後はずっと黙っている。
「念のために聞くけど……貴方はギリシャ神話の英雄、ヘラクレスよね?」
「……申し訳ないが違う」
「はぁ?そんなわけないじゃない!」
正直、レデイとしては恥ずかしい程に裏返った声で叫んでしまった。
お爺様達が用意してくださった触媒と完璧な魔方陣、儀式。
イレギュラーが起きる要素など何処にもないはず……だったのに。
目の前に立っているこの男は、そうではないという。
「そう……じゃあ、貴方はどこの英雄なのかしら」
「……すまないが、良くわからない、どうもイレギュラーのせいか記憶に一部欠損があるよう だ」
「…………」
こみかみを押さえる、どうも、自分が思っている以上に深刻な事態のようだ。
「……後、私は狂戦士として呼ぶ筈だったんだけど」
「……それは、勘弁してくれないか、それでは弓兵としての私の持ち味が生かせなくなる」
「……でしょうね、貴方のステータス酷いもの、狂化してもね……はぁ、なんでこんな事になった のかしら」
しかも、クラスはアーチャー。
最優のセイバーですらないとは。
溜め息の一つもつきたくなる、それですむわけもないのだが。
「まぁ、戦いかたは覚えている、そこは問題じゃないさ」
「大問題よ!」
真名が思い出せないということは、英霊の切り札たる宝具も使えないということではないか。
「まぁ、いいわ……本当は良くないけど仕方ないわ、あなたがどこのだれであれ、アインツベル ンの威信を背負ってもらわなければならないのは確かだし……せめて無様な散り様だけはやめて ちょうだい」
「散ること前提なのか……?!……まぁその点も大丈夫だろう 、その辺はなんか自信がある気がするんだよ俺」
得意気に語る事じゃないわよ!
……自分から言ったことだから文句言わないけど、不安が一気に増えてしまった。
「大丈夫だよ、何があってもマスターの事は俺が護るさ」
「………あまり、気安い言葉は使わないで、貴方は私のサーヴァント、下僕なんだから」
だけど、そう言ったこのへっぽこ英霊の笑顔は何故か無条件で受け入れられてしまった
……そんな笑顔一つ、言葉一つで落とされる安い女なんて思われたくないから、素っ気なく返すけど。
色々不安ではあるけれど、これ以上は言っても仕方ない。
「とりあえず、アーチャー、そこに座りなさい」
「あ、あぁ」
「どういう座り方してるのよ!」
「君が座れと言ったんじゃないか!」
「…片膝はたてなさい!貴方、本当に英霊?蛮族じゃないでしょうね!」
……後で知ったけれどアーチャーの姿勢は日本で言う『正座』と呼ばれるものらしい。
どうして私が英霊に騎士としての礼儀を教えなければならないのか。
本当にこの男、英霊なのかしら?
……だけど、もう決めた事だから。
「……アーチャー、貴方にアインツベルンの威信を託します、私と共に戦い、我等が悲願の達成 を、聖杯をその手に掴みなさい」
「了解だマスター、かの大英雄には及ばずとも、彼に恥じることのない戦いをして見せよう!」
「……ふふ、なんで貴方、そこまでヘラクレスに拘るのよ、そこは私に忠誠を誓うのが筋じゃな いの?」
「……さぁ、何故だろうな」
一応、主従としての形式は整えようとしたのに。
彼の的外れな誓いに思わず笑ってしまった。
「ふぅ……何だか、もうどうでも良くなって来ちゃった、アーチャー精々頑張ってね」
「おい、なんか軽くなってないか!」
アーチャーの抗議を無視して歩き出す。
「早く行かないとフライトに遅れるわ……これ以上、無駄な時間は使えないもの」
本当に、時間は貴重
特に、私にとっては。
この先がどんなものであれ
この先の結末が、定めらたものだとしても。
それでも、私は歩き出した。
私が生まれた意義を為すために。
「そんなに急がなくてもいいだろう、転ぶぞ、マスター」
「その時は、貴方が支える…そうよね?アーチャー」
やれやれと呆れたような顔をしながら。
それでも一瞬、真摯な顔で頷き、アーチャーは霊体化して消えた。
どこからくるとも知れぬ不可知の脅威から私を護る為に。
能力不明、真名も不明。
おまけに騎士としての礼儀も持ってない。
だけど、そんな彼と戦っていくと決めた。
残り少ない私の時間を彼と歩いていくのも
取り合えず、悪くはないと思えたから。