安価なドローンが塗り替える空の戦争
「地上部隊派遣せず」にこだわる米国、
安価なドローンで抗戦するイラン
過去数十年にわたり、空の戦闘は高性能軍用機とその操縦訓練に費用を投入できる富裕国が圧倒的に優位な立場を独占してきた。しかし安価な攻撃型ドローンがその優位性を侵食しつつあり、小さな非富裕国の勢力でも敵に大きな損害を与えることができるようになっている。
一方、米国はその巨大な軍事予算を背景に、世界でも最も高額な航空戦力を長年維持してきた。以下は、米軍が対イラン「猛烈な怒り作戦(OPERATION EPIC FURY)」に投入したとされる軍用機の一部だ。
F15戦闘機(イーグル)
F35ステルス戦闘機(ライトニングII )
F22戦闘機(ラプター)
F16戦闘機(ファイティング・ファルコン)
A10サンダーボルトII攻撃機(ウォートホッグ)
B2ステルス爆撃機(スピリット)
EA18G電子戦機(グラウラー)
FA18戦闘攻撃機(ホーネット)
P8A哨戒機(ポセイドン)
早期警戒管制機(AWACS)
電子偵察機RC135(リベット・ジョイント)
戦略爆撃機B1B(ランサー)
C17輸送機(グローブマスター)
C130輸送機(ハーキュリーズ)
無人機MQ9(リーパー)
自爆型ドローンLUCAS(低コスト無人戦闘攻撃システム)
米軍は約200機の戦闘機を攻撃任務に投入した。コスト問題と開発遅延が問題となっていたF35戦闘機は、米軍による実戦での本格的な使用が初めて実現した。
B2爆撃機は、最大約18トンの精密誘導爆弾を搭載可能な長距離ステルス機だ。
大型機の一部は空中給油や偵察を担う。また、ボーンの通称があるB1B爆撃機は、最大約34トンの各種弾薬のほか、巡航ミサイルを最大24発搭載できる。
米軍の無人機のうち、MQ9(リーパー)は地上のパイロットが遠隔操作する。また今回初めて使用されたFLM136LUCASは片道攻撃型ドローンで、イランの無人機シャヘドと酷似している。
イラン自爆ドローンシャヘド136
片道攻撃型で、目標に向かって飛行し、着弾時に爆発する。
イランは長年、無人ドローンを製造して友好国などに供給してきたが、今や自国でも大規模に展開している。2月28日に米国とイスラエルがイランを攻撃して以来、イランはイスラエルや米国と同盟関係にあるペルシャ湾岸諸国に向けて、数百発のミサイルと1000機を超えるドローンを発射した。この戦術は精度よりも数量重視で、大量のドローンを同時に発射することで防空システムを圧倒することを狙っている。
ドローン本体の製造コストは比較的安価だ。戦略国際問題研究所(CSIS)の推計によると、シャヘド1機のコストは2万─5万ドル(約320万─800万円)とされる。
軍事空域の支配権を巡る参入障壁がいかに変化しているかを示すため、ロイターはパトリオット迎撃ミサイル1発分のコストで何機のドローンが製造できるかを試算した。
パトリオット迎撃ミサイル1発のコスト400万ドル(約6億円)で…
… 1機約3万5000ドル(約525万円)の片道攻撃型ドローンを115機製造できる計算になる。
紛争開始から1週間で、イランは1000機以上のドローンを発射。月産能力は約1万機と推定されている。
近年、戦争の技術は急速に進化した。その変化を鮮明に示すのがウクライナとロシアの戦いだ。戦車と砲撃によって始まった戦争は、ドローン戦争へと変貌を遂げつつある。従来型の装甲車両や航空機で劣勢に立たされたウクライナは、偵察・攻撃用の安価な無人システムに活路を見出した。ドローン攻撃によるロシア軍の死傷者は全体の約70%を占めると推定されており、遠隔攻撃を可能にすることでパイロットや乗組員のリスクを大幅に低減している。
米国の最も戦闘能力が高い航空機は高度な訓練を受けた乗組員に依存している。例えば乗員2人のF15戦闘機は、多大なコストと時間をかけてパイロットを訓練する必要がある。そのような航空機が撃墜された場合、米国は機体だけでなく、乗組員をも失う可能性がある。
一方、低コストのドローンは遠隔操作される。ドローンが破壊されても操縦者は無事であり、代替コストは数万ドルで済む。
こうした非対称性は戦略的問題となりつつある。攻撃コストが低下する一方で、防衛コストは急騰しており、米国とその同盟国は市販部品で組み立てられた安価なドローンを撃ち落とすために、数百万ドルの迎撃ミサイルを発射せざるを得ない状況が生じている。
THAADランチャーおよびパトリオットランチャーの迎撃ミサイルの概要と、そのコストを示したイラスト
米国防総省の主任兵器調達担当者ビル・ラプランテ氏は2024年5月、米上院歳出小委員会で、「5万ドルの片道攻撃型ドローンを300万ドルのミサイルで撃墜するというのは、コストとして割に合わない」と述べ、防空体制の経済性が持続不可能になりつつあると警告した。
この不均衡は海上でもすでに顕在化している。米当局者や防衛アナリストによると、23年末以降、米海軍は紅海を航行する船をイエメンの親イラン武装組織フーシ派の低コストドローンやミサイルによる攻撃から守るために、10億ドル以上の弾薬を消費したとされる。
ミサイルはコストの一部にすぎない。迎撃には、軍艦とその護衛艦、燃料・整備、訓練された乗組員、情報・監視アセット、そして迫りくる脅威を探知・撃破するための指揮統制ネットワークが不可欠だ。
LUCASドローンを初使用、イランを追う米国
米国は急ぎ対応を迫られている。米政府は小型軍用ドローンの開発を優先課題に位置づけ、低コスト無人戦闘攻撃システム(LUCAS)などの承認を通常より迅速に進めた。25年7月、ヘグセス国防長官は「米軍によるドローン支配の急拡大」と題する指令を発し、ペンタゴンに対して規制の撤廃と全軍へのドローン展開加速を命じた。指令では、敵対勢力が年間数百万機のドローンを生産する一方、時代遅れの調達慣行により米国の取り組みが遅れていると警告した。
LUCASとシャヘド:似通った設計
LUCASとシャヘド136ドローンを比較し、弾頭部分、アンテナ、垂直安定板、後部プロペラエンジン、コスト、作戦行動半径の似通った設計を比較するイラスト
自爆ドローンLUCASはイランのシャヘドによく似ている。片道攻撃システムのシャヘドは、ロシアがウクライナで広く使用してきた。シャヘドの浸透により、巡航ミサイルに似た機能を持ちながら、そのごく一部のコストで運用できる新たな兵器カテゴリーの使用が一般的になった。攻撃型ドローンが普及・低コスト化する一方、対ドローン防衛システムの整備は遅れており、防空に空白が生じている。
その他の対ドローン技術
各国軍は安価な攻撃型ドローンの拡散に対抗するため、電子妨害システムや迎撃ドローン、光速で目標を無力化する高エネルギーレーザーなど、様々な技術を開発している。これらのシステムの多くは、高価なミサイルに代わり電力や再利用可能なプラットフォームを活用することで防衛コストの低減を図れるが、射程や出力・悪天候への耐性・規模の面で依然として限界があり、実戦配備はまだ始まったばかりだ。
米海軍、米陸軍、イスラエルが所持している対ドローンシステムのコストを比較したイラスト。ロッキード・マーティンの高出力レーザー兵器「ヘリオス(HELIOS)」、エアロバイロンメントのレーザー式対ドローン兵器システム「LOCUST」、ラファエルの高出力レーザー迎撃兵器システム「アイアンビーム」、ラファエルの対ドローン防空システム「ドローンドーム」の推定コストとレーザー照射1回あたりのコストを示している
再使用可能な迎撃ドローンであるフォーテム・テクノロジーズの「ドローンハンター」とレイセオンの「コヨーテ」の概要とコストを比較したイラスト
これらのシステムが成熟して広範に展開されるまでの間、各国軍は依然として防空ミサイルに頼り、艦船や基地・都市を脅かすドローンに対処している。米国とその同盟国にとっての課題は、対ドローン技術が攻撃型ドローンの進化に十分な速さと低コストで追いつけるか、あるいは防衛が引き続き高コストの迎撃体に依存し続けるかどうかにある。
出典
ボーイング、米中央軍、ラファエル、ロッキード・マーティン、フォーテム・テクノロジーズ、レイセオン、フォーキャスト・インターナショナル
編集
Claudia Parsons、Joe Brock、Rebecca Pazos、Julia Wolfe
翻訳
山口香子
日本語版制作
照井裕子