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6/29 「思想強い」と言い出したのは誰なのか

 そもそも「思想が強い」とはなんなのか。わかっていることといえば、なんとなく揶揄か冗談っぽいニュアンスを含んでいることと、それを言われた側はだいたい腑に落ちないということくらいだ。また、「自分って「思想が強い」のかな……?」と疑っているひともいるだろう。  
というわけで最初に、「これに当てはまったらあなたは「思想が強い」かも!?」という判断基準をひとつ紹介したい。もちろん絶対ではないが、これに該当するなら「思想が強い」可能性が高いだろう。


街で聞こえてくる他人の会話に、苛立つことはありますか?

 たとえば電車内、学校や会社、エレベーター内……ありがちなのは居酒屋だ。酒が入った人間は、普段表立って言わないような話を、アルコール入りのデカい声で語りだす。たまたま隣の席にいた自分もそれを聞く。どうも内容に苛立ちが募る。今なんつった?こんなやつが普通に生活してんのか?なんで笑ってんだ?ちょっとひとこと言ってやろうか……!結局、そんなことはしない。イライラしながらも無視して忘れる、友達に話す、あるいはツイートしてみる。あぁ、しかし腹が立つ!

 見知らぬ他人の会話を聞いたときにイライラする、あるいは違和感を覚えることがよくある(もちろん、友人や家族と会話するときなんかでも良い)のなら、「思想が強い」かもしれない。思想の強さは、ある価値観についての確信の強度に比例する。己の抱く価値観がゆるぎなくあればあるほど、あるいはその価値観に救われていればいるほど───即ちその否定は自身へのそれと相違ない───そこからの逸脱は看過しがたい不正と映る。
 「思想」というと堅苦しく小難しい感じがするが、一般に「思想が強い」とは、決して共産主義者や無政府主義者批判の言ではない。たとえば「就活のために髪を切りたくない」「性別を理由におごったりおごられたりしたくない」……こういった些細な、しかしやや普通の感覚とはそぐわないスタンスの表明に対してこそ、この「思想が強い」という言葉は使われる(あくまでリアルでの用法を想定している。ネットであればもう少し政治的意味合いを含むことが多いだろう)。

 要は一般的に、あるいはそのコミュニティにおいて「そういうもんだよね」とされていることに反した主張は「思想が強い」と認定されがちだ。それは空気を乱すものへのけん制だが、同時に、真面目だったりセンシティブだったりするような諸々の「変な空気」を防ぐためのある種フォローの意図で発されることも多く、「思想が強い」というツッコみが常に悪意や揶揄に満ちているというわけでもないだろう。言われた側の受け止めは別として。

「思想が強い」というツッコみは空気を守るために発せられるのだ。すなわち、ツッコまれる側の「強い思想」はにたとえることができるかもしれない。ある空気に水を差す。この水を思想と呼ぶ。

しかし、「思想が強い」という言葉はしばしば批判の対象となる。批判の対象というか、ブチ切れられている。たとえばこんな感じ。

マジギレだ。そんなキレなくてよくない?差別発言とかじゃないんだぞ。ちなみに、後者の竹田は「思想が強い」という揶揄に関するnoteまで書いている。

一読して「まぁ身内ウケは良いだろうけどな……」という感想を抱いたが、この感想が浮かぶのも、それはそれでこっちの「思想が強い」からかもしれない……ところで「思想が強い」と言いだしたのはいったい誰なのだろうか。


「思想強い」ブームを巻き起こしたのは、この男〜!!






フットボールアワーの後藤輝基である。

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俺。

後藤自身が「思想が強い」と評されていたわけではない。「思想が強い」は、後藤のツッコミフレーズのひとつだったのである。彼がこのツッコミを盛んに繰り出していたのは、2011~2016年に放送されていた「ざっくりハイタッチ(12年9月末までは「ざっくりハイボール」)」という番組だ。そこで「他の芸人が小難しいことを(ボケで)語りだす→後藤が「思想が強い!」とツッコむ」というやり取りが定番化していたらしい。たとえば以下のような。

ジュニア:今年はどんな一年にしたいんですか?
後藤:いや、やっぱり
全員:( クラッカーを鳴らす )
後藤:あの~やっぱりね
全員:( クラッカーを鳴らす )
後藤:タイミング
スタッフ:( 笑 )

このロケを行った日が後藤さんのお誕生日ということで、後藤さんにおいしい思いをしてもらおうとジュニアさんと小籔さん、岩尾さんがそれぞれ考えたプレゼントを用意

ジュニア:誕生日っていうのは祝われる人のためにあるんじゃないねん。祝う人のためにあんねん
後藤:ほら。哲学が強い
スタッフ:( 笑 )

小籔さんも思想が強い話をしていましたが、後藤さんに 「 思想が長く強い」 とツッコまれたので割愛

ジュニログ ざっくりハイタッチ (fc2.com)

ここでツッコまれているのはジュニアと小藪だが、どうやら主に小藪に対してなされることが多かったようだ。(ジュニアに対しては「哲学が強い」というツッコみがあったようだが、それは流行らなかった模様)
それでは、小籔の「思想が強い」語りとは、どのようなものだったのか。あるブログに端的に説明されていたので、そちらを紹介する。

物事に対するこだわりは相当なもので「ざっくりハイタッチ」では小藪が政治や神道について語り、フット後藤から「思想が強い」とツッコミを入れられるのがパタンとなっている。

これはロケバスの中でジュニア、フット後藤・岩尾、とのフリートークから為されることが多いが、ジュニアのパタンの「哲学」よりも造詣の深さを感じさせる。

小籔千豊 - お笑い芸人評論所 (fc2.com)


具体的にはこういったものらしい。

ジュニア 飛行機での出来事

移動で飛行機を利用した際、千原ジュニアはCAが女性物のシュシュの落し物があったと連呼していた話をした。後藤は「男性物はないですからね」とコメント。一方で小籔は国際社会で強くなるにはグローバリゼーションが必要だという思想を熱弁した。

ざっくりハイタッチ 2013/07/28(日)01:15 の放送内容 ページ1 | TVでた蔵 (datazoo.jp)

たしかに思想が強い。ジュニアには「男性物はないですからね」と当たり障りのないコメントをしていた後藤も、小藪には「思想が強い!!!!」と力強くツッコまざるを得ない。
 では、この「思想が強い」というフレーズはいつから後藤の手を離れ、現在のようなかたちで一般的に使われるものになったのだろう。「ざっくりハイタッチ」が放送していた2011~2012には、すでに流行っていたのだろうか?

「思想が強い」を遡る

ここでは簡単に、Twitterでの使用例を検索してみる(もちろんリアルの場でも「思想が強い」と言われることはあるが)。まずは放送より前の2009~2010を確認してみよう。

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確かにあまり使われていない。「○○思想が強い」という使われ方はしているようだが……それでは、放送が始まった頃の2011~2012はどうだろう。

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あまり変わらない。先に引用したブログ等を見る限り「思想が強い」というツッコみが始めてなされたのは2013年あたりらしいので、当然かもしれない。では、2013~2014年を見てみよう……。

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おぉ〜だいぶ使われてきている!あくまで小籔ネタとして「ざっくりハイタッチ」視聴者のみが使っているようにも見えるが、少なくともパワーワードとしてやや流行りくらいはしているんじゃないか。では、これを「ざっくりハイタッチ」視聴者以外も普通に使いだすのはいつごろなのだろうか?

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来た!「思想が強い」が、ほとんど今のネットと変わらない形で使われているように見える。どうやら2013年から徐々に使われるようになり、そして2015~2016年の間に一般化したフレーズのようだ。これ以降は使われ方に大した変化はなさそうだし、Twitterでの変遷を見るのはもう十分だろう。

 2016年にはフジ系の情報番組「ワイドナB面」(現在では日曜午前中に放送されている「ワイドナショー」が、かつて二部制だったころの「二部」にあたる番組)にて、小藪が「思想が強い」語りを披露する一幕が放送されているようで、この頃には小藪=思想が強いというキャラが定着しているらしい。すでに「後藤のツッコみフレーズ」ではなくなり、小藪のキャラ、あるいは小藪がするような「尖った」言動を指して「思想が強い」といわれるようになっているようだ。
ちなみに、本来は政治的・宗教的なトピックだけでなく、吉本への不満を言う芸なんかも「思想が強い」扱いだったらしい。

 そうして、バラエティー番組という場の空気に合わない語りという「ボケ」に対しての「思想が強い」というツッコミは、場や常識にそぐわない語りをおこなう存在へのそれとして一般化していき、現在に至る。

空気に水を差す。その水を思想と呼ぶ。

 ツッコミとは、おかしなことを言ったボケ役に「おかしいぞ」と指摘する役割だ。誰かがボケたにも関わらず、その場にいる人間の誰も上手くツッコめずにいる空気を想像してみてほしい。「え、どうするの?この空気……」という感じで、居心地が悪いはずだ。ツッコミは、その空気を立て直してくれる。みんなが笑うことで空気はリセットされ、一度は異物を担ったボケ役も回復した正常な空気のなかへと再度迎え入れられる。すなわち「すべる」というのは、ツッコミが機能せず、ボケが異物のまま漂ってしまうことで空気を壊す現象だ。頻繁に「すべる」人間は、いずれ正常な空気を壊す存在と見なされ排除される。ここまでの説明からすると、いかにもツッコミが「正常」を、ボケが「異常」を担っているように見えるだろう。

 しかし、ボケもまた「正常」へのツッコミとして機能している側面があるはずだ。たとえば、髪が鎖骨まである男が「就活のためにスーツを買いたいんです」といえば、「まず髪を切れよ!」とツッコまれるだろう。しかし「長髪のまま就活しようとする」というボケ(?)は、「就活生の男は髪を短くするべき」という「正常」へのツッコミとなる。一見「異常=ボケ」に見える振る舞いそのものが実は、「そもそも前提とされている「正常」こそ「異常」じゃないか!」というツッコミになるのだ。それに対して「おかしいのはそっちだろ!」とツッコミ返されることで、ツッコミだったはずのものがボケへと変容させられる。だからこそ、「思想が強い」と言われた側は苛立つ。「自分はおかしいことにツッコミを入れているのに、それをボケとして受け取られ、逆にツッコまれている」ことを不満に思うのは当然だろう。

 だが、自分は「ボケ」扱いも悪くないと考える。その扱いを受け入れることで「思想」を語りやすくなる───すなわち「空気に水を差しやすくなる」側面があると考えるからだ。
「空気に水を差す」のは難しく、勇気がいる。自分の違和感や意見を口に出して「変な空気」になってしまうのは怖いし、周りに「思想が強いw!」とツッコまれるのは気恥ずかしい。それにイラっとする。決してボケているわけではないからだ。しかし、言わずに黙っていればモヤモヤが残る。なので、口に出してみる。「思想が強いw」とツッコまれるが、場はウケる。
重要なのは、場がウケるということだ。先述した通り「すべる」ことは空気の破壊であり、「ウケる」ことは空気の再構成だ。よって、ウケさえすればそこから排除されることはない。むしろ「思想が強いキャラ」として求められるようになる。要は、小籔のようになるのだ。小籔は「「思想が強い」キャラ」になった。共演者や視聴者から「「思想が強い」キャラ」として求められるようになった。そうなれば、空気から排除されることなく(むしろ歓迎されながら)「思想が強い」語りを続けることができる。

 ただし、ボケへの擬態とでもいうべきこの振る舞いは、誰にとっても有意義なわけではない。自分の「思想」の正しさ、あるいはそれを表明することにためらいがなければ、このような振る舞いは必要ないだろう。先にツイートを引用した白井聡や竹田ダニエルであれば、「ボケ」としての扱いを肯定的に引き受けることなど屈辱的でしかないはずである。彼らは、彼らが語る「思想」に確信を持っているからだ。(この特性は、人を優れた運動家や発信者たらしめる資質でもある。)
 しかし「思想」は、「空気に水を差す」ことは、そのようなひとにのみ独占されるべきではない。「これって自分が変なのかな/変なのだろうな」という葛藤を抱くひとによって、迷いながら差される水があっても良いはずだ。「「思想が強い」キャラ」として受容されることは、空気を乱さずに水を差し続けるという一見アンビバレントな在り方を可能にする。

 「思想が強い」と評される価値観は、政治的・社会的側面を含むことが少なくないため、しばしば綺麗事や机上の空論のように思われることも多い。しかし、実際のところ「その価値観を語ることで、その人自身が生きやすくなる」という理由で語られている側面も大いにある。であれば、やはり誰もが簡単に語り得るべきだ。「空気を乱す」ことを厭わない、ある種の強さを持つものだけが「空気に水を差す」ことが可能な状況は健全ではない。妥協や、「なめられる」ことの潔癖主義的な回避は、そして「思想」を語るならそう在らねばならないとでも言うようなスタンスは、少なくない「確信や覚悟こそないが、思想に触れる/語ることで救われる者」を排除する

 私たちは、常識や暗黙の了解、社会的規範と呼ばれるような諸々に対して「仕方ないのかもしれないが、でもやっぱりいやだな」と思うことがある。そんなとき「仕方なくなんかない!それはおかしい!」という意見は確かに心強いかもしれない。そう言えれば楽なのだろう。しかし、「仕方なくなんかない!」と確信を持って言い切ることのハードルは高い。

 しかし今、人々は「仕方なくなんかない!と言い切れる人」と「仕方ないこととして、平然と受け入れる人」のどちらかを選ぶしかないとされているように見える。竹田ダニエルのツイートは象徴的だ。

昨今、「思想」についての立場は二分されているのだ。賛成か反対か、味方か敵か、左か右か、「思想強い」か「思想弱い」か。中途半端や、どっちつかずは許されない。中間層が捨象されている。

だが、本当はそうではないはずだ。「仕方ないかもしれないとも思うが、受け入れるのもいやだ」と、どっちつかずで中途半端な「思想」の持ち方が、選択肢としてあって良いはずなのだ。

そしてその可能性は、空気や場の常識にそぐわないことを語りながらも「ボケ」としての扱いを肯定的に引き受け、「思想が強い!」とツッコまれて周囲を笑わせるキャラにこそあるのではないか。

……と思うんですが、どうですか?後藤さん!!

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~終わり~




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