【槍弓】オレの想いを 聞きやがれ
FGOのサマーキャンプで槍弓にはまり、リアルタイムで観ていたSNUBWをもう一度観たり、他のものもちらほら手を出して履修しつつ、いろいろ学んでから槍弓書きたいなあと思ってたんですが、気づいたら手が。動いてました。Fate広すぎて何を履修したらいいのか迷うので、先人の皆さま、オススメがあれば教えてください……。近くに槍弓好きな方がいないです……。
過去のサマーカジュアルの話にブクマやいいねくださった方、ありがとうございました! 素敵な槍弓小説たくさんあるので、埋もれてしまうだろうと思ってました。
以下、本文について。何が来てもおっけー!というタイプの方は特に読まなくても大丈夫です。
・SN記憶持ち(と言ってもあまり活かされてない)のFGO時空の槍と弓です。
・調べられる限りは調べましたが、設定とか呼び方とか想像と妄想で書いている部分が多いです。明らかにおかしいものがあればご指摘いただけると助かります。(ただ魔力供給のくだりについてだけは二次創作なんで、と言わせてください。)
・マスターはぐだ男です。割と出てきます。ある意味一番キャラ崩壊してるんじゃないかと心配です。あれだけのサーヴァントと関わって人理修復してるなら結構図太い神経してるのでは、と思ってます。
・書き始めた当初のタイトルは『ちょろいアーチャーに心配になるランサー』でした。いつの間にか逸れました。多分6000字ぐらいに収まる話にしてたら本当にそんな話になってたと思います。
・「こういう槍弓が好きです!」という王道を書いたつもりなので、特定の何かを真似てはいませんがネタ被りもあるんじゃないかと思います。すみません。
・ラッシーは美味しい。鶏肉の炒め物と手羽先も美味しい。
・以上、暇つぶしにでもなれば幸いです!
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カルデアに召喚されてからいろんな英霊を見てきた。過去の聖杯戦争で出会ったことのあるヤツもいたし、自分自身にまで会った。みんながみんな敵ではなく味方、という状況に最初こそ戸惑ったもののフェルグスなんかの懐かしい面々とも出会えたし、敵は敵で別にいて身体が鈍る訳でもないので現状に不満もない。なかったはずなのだが。
赤い外套が目の端に映った時、やっと来たか、と思った。いつでもどこでも会うのにカルデアには存在していなかったし召喚される様子もなかったので、召喚のメンバーにいないのかと調べた程だった。
「良かったねえ、クー・フーリン。お待ちかねのエミヤだよ」
「待ってねえ」
にやにやと笑うマスターに即否定する。マスター自身が嬉しいのとオレをからかいたいのと、半々の笑いだろこれ。召喚された当人はマスターに挨拶をしてからオレを一瞥した。目が合ったのは一瞬だったが、ああ、コイツ記録を持ってんな、とは分かった。どの記録かは知らないが、少なくともランサークラスのオレを知っている。きゅっと目が細くなったのはオレへの警戒心だろうし、そもそも知らない人間に対してならば言葉を交わすなり武器を構えるなりするのがコイツだろう。召喚に立ち会っていたマスターとマシュがエミヤに世話を焼きに行くのを横目に見送りながら背を向ける。
「えっクー・フーリンが案内してくれるんじゃないの!」
「別にオレじゃなくていいだろ」
振り返らずに片手を振ったので、弓兵の表情は見えなかった。
「早くエミヤにカルデアに慣れてほしいんだけど、どうしたらいいと思う?」
夜、訪ねて来たマスターに聞かれて扉を開けるべきではなかっただろうかとつい思ってしまう。
「何故オレに聞く」
「え、だっていろんな所で会ってたんでしょ。メディアもきっと詳しいから槍のクー・フーリンに聞いてみればいいって言ってたよ」
「確かに記録はあるが、弓兵と仲良かったことはねえぞ。敵同士だったしな」
マスターに悪意はなさそうなのであしらいにくいが、期待されても知ってることは少ない。確かに他のサーヴァントについてよりは詳しいかもしんねえけど。
「あ、そういえばエミヤは相性は良くないとか言ってたな」
チ、とつい舌打ちする。
「言いそうだな、アイツ」
「ほら、詳しいんじゃん」
笑うマスターに言い返せず、頭をガシガシとかく。
「レイシフト」
「うん?」
「レイシフトにでも連れてけ。マスターのことを知り、マスターに自分のことを使い切ってもらうのが好きなヤツだから、戦闘させるのが手っ取り早い」
「戦うのが好きなの? 穏やかそうに見えたけど」
「戦うのがっていうより、人のために何かしたがるっつうか。でも『穏やか』はぜってー違うから認識を改めろ。油断ならんぞヤツは。ただ、何も言わずに無茶するヤツだから、取返しのつかねえような所には連れてかねえ方がいいぞ」
表面的には穏やかと言えなくもないかもしれないが。上手く立ち回るためとはいえマスターを裏切ったこともある、というのはコイツのために言わない方がいいか。
「やっぱり詳しい」
マスターは何故か嬉しそうにする。
「……言っとくが、今オレが言ったのは過去に会ったアイツについてだからな。分霊によって多少変わってくると思うぞ。オレとキャスターだって違ぇだろ」
まあクラスが一緒なら似た側面は出てくるだろうが。腐れ縁のオレと弓兵だって関係性が変わる可能性はある。
「確かに。結局は今のエミヤ自身を知らないといけないってことかなあ」
「根本は変わらねえから、いけすかねえヤツではあるだろうけどな」
「またそういうこと言う」
「聞きてえことは済んだだろ、早く休め」
ほれほれ、と手を振って追い出す仕草をする。レイシフト帰りに寄ったんだろうからさっさと身体を休めるべきだ。他のサーヴァントが召喚された時もいちいち丁寧な対応してんのかよ、というのは少し気になったが、首を突っ込むつもりも話を長引かせるつもりもなかった。
レイシフトのメンバーになる時にはマスターから直接呼出しを受けることが多い。レイシフトまで時間がある時には廊下にメンバー一覧が出ることもあるものの、誰と一緒になろうがやることには変わりないし、連携なんざ顔を合わせてから考えれば事足りるのでオレはいつも誰がいるかなんて気にせずにマスターの元に向かっていた。つまり、今日のメンバーも当然把握していなかった。
「なんでだよ」
顔を合わせて思わず出た声に、弓兵は顔をしかめた。弓兵が召喚されて以来、多分二週間ぶりぐらいに会った。
「なんでもなにも、呼ばれたからだが?」
「相性悪いって言ったんじゃねえの」
「組まないでくれとは言ったが、決めるのはマスターだ。必要があれば誰とでも戦うさ」
つうか組まないでくれとも言ったのかよ。マスターは遠くからオレたちを見守っていて口を出す気はなさそうだ。サーヴァント同士みんながみんな仲良くしなくてもいいけど、殺伐としてたら他のメンバーが恐がるから、できれば穏やかな関係を保ってほしい、というのはマスターが過去にぼやいてた言葉だ。従う道理はないが、今のマスターのことはそれなりに気に入っている。
「まあ、仕方ねえや」
溜め息を堪えて後ろを向く。流石に顔を合わせていたら余計なことを言ってしまいそうだ。
「……ああ」
弓兵の「ああ」がどういった意味を持つ相槌なのかは分からないが、拍子抜けしたような様子には聞こえた。
「メンバー揃ったね? みんな、調子は特に問題ない?」
改めてレイシフトメンバーを見渡す。オレと弓兵以外にはセイバークラスが二人とランサークラス、アーチャークラスがそれぞれ一人。クラスが偏り過ぎているような。
「どういうメンバーだこれ?」
「ん? 俺が考える割と最強のメンバー、かな?」
「弓兵は来たばっかだろ」
「ふふ、クー・フーリンの知らない間に、結構強くなりました!」
じゃじゃーん、と弓兵を紹介するように手を広げる。
「へー」
「興味なさそう!」
「足手まといになんなきゃなんでもいいや」
弓兵は腕を組んだままうんともすんとも言わない。
「何はともあれ、今日はちょっと強敵だから。よろしくねみんな」
レイシフトの準備は整ったらしい。マスターに続いて戦場へと向かった。
結論から言うと、ものすごく戦いやすかった。真っ先にデカいヤツにつっこんで行くオレの後ろで細々した敵を薙ぎ払い、隙ができれば弓で援護する。オレが駆けてても容赦なく矢を放ってくるのにはちょっと腹が立ったが、まあ避けられるので問題ない。というか、オレが回避するのを前提で打ってやがるな。
マスターは強敵だと言ったが、後衛のヤツらが出るまでもなく勝利する。多少傷は負ったがすぐ帰らなきゃならねえほどでもねえ。槍を振るって血を落とし、返り血のついた頬を拭って後ろを振り返る。
「おいアーチャー、お前、できんじゃねえか!」
素直に褒めたつもりなのに、ただ目を丸くしている。
「アーチャー? ケガでもしてんのか?」
ぺたぺたと腕や身体を触る。アーチャークラスでありながら剣も使うので、オレとさして変わらない汚れっぷりだった。ぱしん、とようやく反応が返ってくる。まあ手を振り払われたんだが。
「問題ない。君こそあの程度の敵でなんで血濡れている」
「あー? オレの血じゃねーよ。まあ返り血避ける余裕がない程度にはテンション上がってたけどよ」
今日のオレは機嫌がいい。笑って嫌味を受け流す。
「やっぱり相性悪くないじゃん?」
足元に散ったいろんなものを避けながらマスターが近寄ってくる。
「実際の所どうなのかなと思って組ませてみて正解だったなー」
「強敵ってのは」
「俺はちゃんと『ちょっと』強敵だって言ったよ」
いやその言い方、「それなりに強敵」だと思うだろうよ。「少しだけ強敵」って意味かよ。呆れながらもう一人の功労者に声をかけにいくマスターを見送る。
「ふ、強かなマスターだな」
「お前に言われるって相当だろうよ」
アーチャーの皮肉まで鳴りを潜めたらしい。アーチャーは自分の右手を握ったり開いたりしている。
「共闘というのも不思議な感覚だったが、だいぶ慣れてきたな」
「あー普通の聖杯戦争なら組んでもせいぜい二・三人とだもんな」
「君はカルデアに来たばかりの頃は周りを置いて勝手に突っ走ることが多かったんじゃないか?」
「ああ?」
煽るような言葉にアーチャーを睨みつけて槍を持ち上げる。
「ちょっとー! 言い争いぐらいはいいけど私闘はやめてね!」
マスターの呼び声に仕方なく槍を下ろす。アーチャーも上げかけていた腕を下ろした。
「カルデアのシミュレーションルームはもう使ったか? 今度手合わせしようぜ」
「気が向けばな」
返事は素気なかったが、口元が緩んでいるのをオレは見逃さなかった。
味を占めたマスターはレイシフトを一緒に組んでくることもあったが、一番アーチャーを見かけたのはキッチンだった。来たばかりの頃はレイシフト続きでキッチンに入るどころではなかったようだが、最近は毎日見かける。飯を作ってる時は手捌きは素早いもののなんだか和やかに見えてアーチャーらしくなかった。
もともと食事はどちらかというと好きな方だったから食堂にはよく顔を出していた。アーチャーが来たからという理由で席を外すのは気に食わなかったし、結果的にアーチャーと顔を合わせる機会は増えた。通りがかった時になんとなく覗いても大抵いたので、どんだけキッチンに入り浸ってるんだよ、と思う。
「変な時間にごめん~。何か食べるものある?」
マスターの声が聞こえてきて食堂を覗きこめば、ほら今日も、食事の提供時間は終わっているのにまだいる。マスター含めカルデアでは不規則な時間の生活になりがちなものの、食事が出される時間というのは一応決まっていた。時間外には基本的には自分で何かしら作るしかない。ちなみに運が良ければ何か余り物があったりするらしいが、オレは残念ながら素材の形のものにしか会ったことがない。
「姿を見かけないなと思っていたんだ。全く、遅くまで起きているのは身体によくないぞ」
「うう、眠気より空腹が勝っちゃって」
「すぐ用意できるものを作るから、少し待っていろ」
「ありがとう」
頼りになるぅ~!という調子のいいマスターの言葉を背に受けながらアーチャーは奥に引っ込む。
「よう」
アーチャーの姿が完全に見えなくなったのを確認してからマスターの横のイスに浅く腰を掛ける。
「あれっ夜中なのに珍しい」
マスターと違ってサーヴァントは食べることを必要としないので、食事が出る時間以外に食堂に来る意味はない。サーヴァントになっても生前と同じように暮らしたいヤツらや夜中に食べるカップラーメンは格別!とか言うヤツらは別として。
「マスターの声が聞こえたんでな」
「へへ、エミヤがいたから注文しちゃった。何がくるか楽しみだなあ」
食べる前から表情をとろけさせていやがる。ふんわりといい香りがキッチンからしてきていた。つい鼻をキッチンの方に向ける。
「とりあえず米はあるな。後は、鶏か?」
「ご飯の匂いはいいとして、鶏? 鶏って匂いで分かるもん?」
「分かるだろ。なんか炒め物だな」
匂いではなくジュージューという音から。今度はマスターも頷いた。
「いいよねえ、ご飯待つ時間って。作ってくれる人がいるってありがたいなあ」
「昔は作る余裕さえなかったもんな」
「レーション続きの生活にはもう戻れないよ」
話しているうちに手早く作り終えたらしくアーチャーが顔を出す。
「寝る前だから消化のいいものにしたぞ。ほんとうはおかゆにしてそちらにささみを入れるべきだったんだろうが、時間がかかるしな……ん? 何故貴様がいる」
マスターの前に置かれたのはご飯と鶏とじゃがいもやにんじんを炒めた物。ご丁寧に汁物までついてやがる。豆腐の味噌汁か。
「ただの通りがかりだ」
構うな、と手を振る。
「ふむ。……マスター、ゆっくり食べたまえ」
アーチャーは特にオレを追い出すでもなくマスターを制する。さっそくふぅふぅと冷ましながら急いで食べ始めたマスターを見ていたら、オレも口が寂しくなってきた。
「アーチャー、オレにも何かくれ」
「本来なら食堂が開いている時間ではないんだが?」
「マスターには出してんじゃねえか」
「マスターは特別だ」
「ずりぃ」
「全く」
文句を言いつつキッチンに向かうので、何かしら作ってくれるらしい。味方同士になったとはいえ、本当に態度が丸くなった。マスター用みたいに胃に優しそうなもんじゃなくてガッツリ食べられるものを、ってちゃんと注文すれば良かった。
「アーチャー、って呼ぶようになったんだね」
オレとアーチャーのやり取りの間黙っていたマスターは、ある程度食事を腹に収めて落ち着いたらしい。
「は? 前からだろ」
「え、最初は弓兵、って呼んでたよ」
「そうだったか?」
過去の聖杯戦争でも「アーチャー」と呼んでいた記録が残っている。カルデアでも自然と同じように呼んでいるつもりだったが。
「うん。いつからか知らないけど『アーチャー』になってたよ。他のアーチャークラスと紛らわしくないのかなって思ったから間違いない」
「まあ弓兵でもアーチャーでも変わんなくね?」
「意味としては同じだけど、アーチャー、っていうとクラス名って感じするよね」
「ま、アーチャーはアーチャーだろ」
どの聖杯戦争でもヤツはアーチャークラスだった。アーチャー=アイツという認識になっていても仕方ない。
「エミヤの方はなんて呼んでるの?」
「そりゃ、ランサーって……ん?」
呼ばれたことがあっただろうか、カルデアで。
「いや、呼ばれたことねえわ」
「じゃあ『クー・フーリン』?」
「そもそも呼ばれたことがねえ」
「……やっぱり仲悪い?」
「別に敵対心は感じねえんだけどなあ」
飯を作ってくれてる時点で嫌われているという線はないだろう。頼んだから断れなかったという可能性ならばなくもないが、オレ相手で気が乗らなかったらすっぱり断るだろう。つかマスター、気の毒そうな顔すんのは止めろ。
「何を黙り込んでいるんだ」
アーチャーがマスターの前に湯気の立つお茶を置いた後、手羽先を焼いたものをオレの前に置く。キャベツとたまねぎを刻んだものも横に添えられていた。
「お、マスターのメニューとは違うのか」
「味噌汁とご飯は一緒だがな。同じタイミングで注文してくれれば手間が省けたんだが?」
「酒の合いそうなメニューだなー」
嫌味はスルーする。反論して小競り合いになって食いっぱくれるのは本意ではない。
「未成年のマスターの横で呑むんじゃない」
「別に呑ませる訳じゃねえんだし」
「俺は気にしないよ。お茶飲み終わったら戻るし」
むくれながら箸を取って、はて、と思う。手羽先も箸で食うべきなのか? 手の方が早くねえ?
「ほら」
どうすっかなあと迷っていたらアーチャーがティッシュを差し出してきたので遠慮なく手でつかむ。
「うめえ」
ほろりと口の中で崩れる鶏肉は味付けの醤油がしっかりと効いている。
「口に合ったようならば良かった」
皮肉も交えず嬉しそうな顔をするアーチャーに、まあ穏やかなアーチャーも別にありか、と現金なことを思いながら次の手羽先を手に取った。
「アーチャー、何か食わしてくれ」
マスターと共に食事をしてから、オレは事あるごとにアーチャーに声をかけた。人目がなければアーチャーの肩に顎を置いたり、腰を抱いたりしながら。どこまでなら許されるのか気になったのだ。
「またか」
最初こそ戸惑った様子だったアーチャーはしかし、オレの言動全てを拒否することなく受け入れた。
「何か作ってくれと言われても曖昧で困るんだが」
「だって食いたいもん言っても材料がなかったらいくらお前でも作れんだろ」
「自分で材料を捕ってくるぐらいの甲斐性を見せたらどうなのかね」
「えっ捕ってきたら作ってくれんのか?」
レイシフトで取ってきた食材は基本的にはカルデアの共有財産となるが余剰分は自分用にしても良いことになっている。
「唐揚げか……魚料理も捨てがたいな」
知っている料理を頭の中に思い浮かべる。捕るだけ捕ってきてアーチャーに任せるのもありかもしんねえ。
「君はそんなに食べることが好きだったか?」
「あん? オレはアーチャーの作るメシが食いてえだけだが?」
アーチャーが数秒固まる。
「ランサー、それは」
「あ!」
オレの大声にアーチャーが一歩下がる。
「テメエ、ようやくオレの名前呼んだな」
「名前」
「ランサーってよ。貴様とか君とか気取った呼び方ばっかしやがって」
「ランサーも名前ではないだろう」
アーチャーがまた一歩下がるので代わりにオレが一歩前に出る。
「でもお前が呼ぶランサーってオレだけだろ」
「はあ。君が何故そんなに拘るのか」
「ランサー」
「は?」
「ランサーって呼べ」
「……ランサー」
「おう!」
満面の笑みで応えてやると、アーチャーはずるずると崩れ落ちるように蹲る。
「どうした」
オレも座り込んで顔を覗き込もうとすると顎を思いっきり押されて、天井を向くはめになった。首が痛くなる程ではないから一応加減はされている。
「アーチャー?」
「ちょっと黙っていろ」
たっぷり一分程経って、ようやく手が外された。
「どうしたんだよ」
「どうもしてない。何でもない」
本当に何でもなかったように普段通りの顔をしている。
「何でもなくはないだろ」
「気にするな」
頑なに口を割る気はないらしい。
「そういえばさっき何か言いかけてなかったか」
仕方なく話題を変えようとしたら、余計なことを思い出すなたわけ、とどう考えても理不尽に怒られた。
カルデアにも随分とサーヴァントが増えた。話の合うヤツもいれば気に食わねえヤツもいるが、集団生活の中でそれなりに上手くやっている、つもりだ。アーチャーは一部の知り合いのサーヴァントを除いて紳士的に対応していた。外面を繕うのは本当にうまいヤツだ。まあ、見ていて気づいたが一部のサーヴァント、特に英雄と呼ばれるようなサーヴァントに対しては武器をじっくり見たいようでそわそわとしていたが。ほとんどのサーヴァントから嫌われないようにと振舞っているのは分かったし、周りも英霊エミヤが嫌いってヤツは少ないんじゃねえかと思う。しかし意外だったのは子供の姿のサーヴァント達に懐かれたことだ。
「お菓子を作る前に手を洗っておいで」
アーチャーの前に並ぶナーサリーとジャックの前に屈みこんでアーチャーが言い聞かせると、はぁい、と行儀の良い返事が返ってくる。ジャックは気に入らないことがあれば気配を遮断するし、ナーサリーも本の姿に戻ってしまってマスターですら会話を成立できず苦労していることがある。アーチャーは来る者拒まずでも子供(の姿をしているだけで中身も子供と言っていいのか微妙な者もいるが)にはダメなことはダメと言う。アーチャー相手ならふざけてもケガをするようなヘマはしないし、忙しそうにしていても構ってくれるから子供にとっては格好の遊び相手だろう、と思ってからうん?と首を傾げる。待てオレもアイツらと同じ扱い受けてねえか? 子供と同じってか? むくむくと苛立ちが湧き上がってきてアーチャーのことを睨んでしまう。でもアーチャーは小麦粉をこねるのを手伝うのに一所懸命で全く気づかない。ガキ扱いってだけじゃない。アーチャーにとってオレはその他大勢と同じ存在か? オレにとってのアイツはただ唯一の存在なんだが? 問い詰めたい、引き寄せて自分の側に置きたい、という衝動を堪える。アーチャーならばオレの相手をすることはできるだろうが、カルデアのキッチンを大破する訳にはいかない。抑えがたい感情に覚えはあったし、成程アーチャーのことばかり目で追うはずだとも思った。サーヴァントになってまで感じるものだとは思わなかった。
ふとアーチャーが顔を上げて真っ直ぐにオレを見た。片眉を上げて何か言いたそうな顔をする。手を拭いオレの方に向かってこようとするのを引き止めたのは子供達で、アーチャーは迷いつつもキッチンに留まった。正直、賢明な判断だと思うぞ。アーチャーと目が合ったことで少しだけ冷静さを取り戻して、テーブルに肘をついた。すぐに食堂を離れてキャスタークラスのオレや故郷の面々と他愛ない話でもしに行って、頭をもっと冷やすべきだろうなと分かっていながらもオレはアーチャーと子供達がクッキーを焼き上げるのを待った。
どのぐらいじっとしていたのだろう。ことりと自分の前に小皿が置かれる音がして顔を上げる。焼き立てのクッキーが目の前にあった。
「『きっとお腹が空いて不機嫌なんだわ。少し分けてあげて』だそうだ。ナーサリーとジャックの温情に感謝するんだな」
いつもの皮肉屋のアーチャーだ。
「二人は?」
「もう部屋に戻った。今日は随分と殺気に満ちた視線だったな?」
星や月の形をした茶色いクッキーを一つ手に取って口に入れる。焦げているから茶色いのかなと思ったらチョコレート味だった。アーチャーがついてて焦がすことはねえか。
一つだけあったハートの形のクッキーをアーチャーに差し出す。
「私はもう味見している。ランサーがもらったものなんだからランサーが、むぐ」
受け取る気がなさそうなので無理矢理口に突っ込む。自分の手についたアーチャーの唾液はぺろりと舐め取った。
「……どうしたんだ、本当に」
子供達が作ったものを無下にはしたくなかったんだろう、しっかり咀嚼してからアーチャーは問うてくる。
「アーチャー」
声に出したらダメだった。自分の声が甘くなっているのが分かるし、アーチャーはびっくりしたように目を見開いていた。イスから立ってアーチャーの頬に手を添える。そのまま顔を近付けようとして違和感を覚えて止まった。コイツなら逃げをうつぐらいできるだろうに、何故微動だにしない。
「オレが何しようとしてるのか分かってんのか」
「分かっているつもりだが」
目を逸らさずに答えるアーチャーの意図は読めない。受け入れる意思があるのかないのか。どうでもいいと思っているのか。分からないのが悔しくて、押しつけるように口づけて、一度だけ舌を絡めて離れる。アーチャーの魔力なのかクッキーのせいなのか、甘い味がした。
口づけた後もアーチャーは全く動揺することもなく、別の日になっても特にいつもと変わった所はなかった。オレにとって口づけるというのはそれなりに意味のある行為なんだが、アーチャーにとっては違うんだろうか。すっきりとしない気持ちを抱えたまま、それでも隙あらば掠めるような口づけをした。アーチャーは協力的ではなく、かといって拒絶する様子もなくただ唇を引き結んでいた。
「お前らそういう関係になったのか」
今日もやっぱり味気ない口づけを交わした後、人通りの少ない廊下を歩いていたらキャスタークラスの自分に呼び止められた。
「……誰と誰がどういう関係だよ」
確信はないが見られているような気配はなかったはずだ。
「お前とアーチャーがコイビト関係にだよ」
「なんで」
分かったのか、という言葉は口に飲み込む。肯定していることになってしまう。キャスターは自分の口元をとんとん、と人差し指で示す。
「魔力残滓」
「誰ってことまで分かるかあ?」
「解析するまでもねえ。カルデアでクー・フーリンが縁を結ぶ可能性が高いのはアーチャーじゃねえか?」
「何を根拠に」
「オレがお前だったら選ぶのはアーチャーだろうなってだけだ」
「それはテメエもアーチャーとどうこうなる可能性があるってことか?」
先程せっかく言葉を飲み込んだ意味がなくなる。低い声で唸るとキャスターは両手を上げた。
「可能性が全くないとは言わんがその気はねえ。オレにまで威嚇すんじゃねえよ」
「信用ならねえ」
他ならぬ自分のことだ。油断ならない。
「その気があったらとっくに奪いに行ってる」
静かなキャスターの声にようやく確かにと納得する。惚れたら抱く。オレだって抱いてはいないが手は出している。
「しかしよくアーチャーが許したな」
「いや別に許されてはねえ」
「は?」
「オレが一方的にやってるだけだ」
キャスターはオレを胡乱げな目で見て寄りかかるようにしていた杖を神経質に叩く。
「何やってんだお前さん」
「だってアーチャー嫌がんねえし」
「あのなあ、オレ達の生きてた時代とアイツの時代じゃ感覚が違うんだよ。拒否されなかったらOKってことじゃないんじゃねえの」
「生娘じゃあるまいし、イヤなら抵抗すんだろ」
筋力差があるとはいえ、無理矢理押さえつけるようなことはしていない。
「どうだかなあ。またややこしいこと考えてんじゃねえのアイツ。お前聖杯と恋愛相談でもしろよ」
「聖杯に何聞けってんだよ」
ちょっとアーチャーの気持ちを教えてくれってか? 答える訳ねえだろ。
「想いの告げ方でも聞いてみろ。まあアーチャーならオレ達の言い方でも通じそうだけどな」
「馬鹿馬鹿しい」
「ま、どうしようと自由だけどな。喧嘩してカルデア半壊とかはやめろよ~」
槍なしのオレは会話に飽きたらしい。億劫そうに手を振って去って行った。
言われた通りにするのも癪だなと思いつつもアーチャーとの関係が行き詰っているのは事実なので、自室に戻ってベッドに寝っ転がり、聖杯で現代の恋愛観を調べる。告白をして付き合って、ようやく手を繋いでキスをして……とかなりまだるっこしい。というかこの順番通りだとすればオレだいぶすっ飛ばしてねえか。キスしてんだから通じていていい気がするものの、言動の動の部分しかなかったのは自覚した。今更告白とやらに立ち返るのも、と思うがアーチャーの反応からして分かっていない可能性も高い。つうか告白? 告白ってのは、ああいや聖杯から答えを得る気はねえ。自分の言葉で考える。しかし思いを伝えるっつってもな。オレの炉端に来い……は現代で言うプロポーズになるから行き過ぎなんだろう。オレとしてはプロポーズでも構わないが。というかプロポーズじゃいけないのか? 恋人から? 恋人ってなんだよ。いいなって思って口づけてまぐわって、じゃダメなのか。ダメなんだろうな現代的には。そしてほぼ現代の生まれと言って差し支えないアーチャー的には。
「あーどうすりゃいいんだ」
思わず一人でうめく。そもそもアーチャーの気持ちが分からないのが問題だ。深く魔力供給をすれば記憶とか考えていることとかも垣間見えてくるのかもしれんが、触れるだけの戯れ程度の口づけでは何も見えない。無理矢理自分のものにするにしても力ずくにはどう考えても向かない相手だ。隙あらば逃げるに決まっている。口づけてからもなんだかんだ料理を作ってくれたり邪険にしない辺り嫌われてないと思いたい所だが、アーチャーは天性のお人好しだから、オレ相手でも放っておけなかったとか言いかねない。どうあれ、サーヴァントにだって感情はあるのだからアーチャーの心を動かすことも不可能ではないはず。やはりアーチャーの今現在のオレに対する感情を知る必要がある。
「やっぱりすぱっとアーチャー本人に聞こう」
よし、じゃあさっそく聞きに行くか、と立ち上がったらコンコン、と扉をノックされて拍子抜ける。
「ランサー、いるか?」
しかもアーチャーじゃねえか。まあ出向く手間が省けて丁度いいか。
「おう、入れ」
端からロックはかけていないし、つまみを持ってきたりレイシフトに呼びにきたりするアーチャーも開いていることは知っているのでなんのためらいもなく扉を開けて入ってきた。浮かせていた尻を戻してベッドに座り直す。
「新しいメニューを考案中だから試してみて欲しいんだ。どうせ暇なんだろう? ランサーなら舌も確かだしな」
相変わらず褒めてんだかけなしてんだか分からないヤツだ。厨房に入る時によく纏っている黒い霊衣姿のアーチャーの手元をちらりと見る。左手の上にトレー、トレーの上のグラスには白いとろみのありそうな液体が入っていた。
「いろんな国のサーヴァントが増えてきたからマスターや食堂のメンバーとも相談してメニューを追加することになった。これはカルナに聞いて作った飲み物でな」
「アーチャー」
よく回る口を一旦止めさせる。コイツが一方的に話している時には大抵何かしらウラがある。
「なんか隠してねえ?」
「別に? 飲まないのならば他のサーヴァントに頼むが」
「飲むけど、一回置け」
ベッド横のサイドテーブルを指し示す。アーチャーは不満そうにしながらもトレーを置いた。
「冷めたら良くねえもんか?」
湯気が出ているようには見えない。
「いや、元々冷えているものだ」
「そうか」
グラスからアーチャーに視線を戻してアーチャーの腕を掴み、引き寄せようとするがアーチャーは頑なに動かない。
「それで、お前の魂胆は?」
「何もないと言っているだろう。そんなに疑わしいならば毒味でもしようか?」
ハッと鼻で笑うのをじっと見つめる。逃がしたら絶対に口を割らないし、敵同士ではないカルデアにおいて隠していることがあるとすれば、例えば自身の零基の不調だったりするんじゃないだろうか。アーチャーは眉間に皺を寄せつつ視線を受けとめていたが、やがてつめていた息を吐き出した。
「君が……ランサーが」
君、と言いかけたのを言い換える。ランサーと呼べと言ってから、アーチャーは律義に「ランサー」と呼んでくれていた。
「最近浮かない顔ばかりしているだろう。何があったかは知らないが、気紛れにでもなればと思ってな」
ふん、と顔を背ける。
「オレ? アーチャーの不調じゃなくて?」
「私は至って普通だが? キャスターの君と仲違いでしたのかと思ったんだが違うのか」
「アレとの不和で浮かない顔になることはねえわ」
そもそも喧嘩らしい喧嘩をするような状況になるとも思えないし、するならしおらしく悩むんじゃなくぶちのめすかぶちのめされるかの二択だろう。
「オレ、元気ないように見えたか」
「そうだな。マスターに心配をかけるようなことはやめろ」
「マスターが何か言ってたのか」
「いや、特に異変には気づいてないんじゃないか」
アーチャーは怪訝そうな顔をする。不思議そうな顔をしたいのはオレの方だ。マスターも気づかぬような表情が何故分かる。
「アーチャー、ちょっと座ってくれ」
ベッドの空いているスペースをぽんと叩く。アーチャーは今度は大人しく腰かけた。重みが増えてベッドが沈む。
「なあ、キスしたいんだが」
アーチャーはせっかく置いた身体をそらす。
「いやなんでだよ、今まで普通に受け入れてただろ」
「わざわざ予告してやってきたことなんてないだろう。何を企んでいる」
じろり、と今度はオレが疑われる。
「ちゃんと言ってなかったなと思っただけだ」
「誰の入れ知恵だ」
オレが思い至ったとは考えないのかよ。思わず口を尖らす。
「槍なしのオレ」
「ほう。彼の助言によるものならばまあ聞こう」
仕方なく伝えたらなんか納得された。
「なんだよその信頼感」
「彼なら少なくともカルデアのためにならないようなことは言うまい。それで? 他に言うことは?」
腹立たしいのは横に置き、ゆっくりと目を閉じて開き、仕切り直す。
「好きだ、アーチャー。オレと付き合ってくれ」
「構わないが」
あまりにもあっさりと返される。
「はっきり言え」
アーチャーはとても告白を受けているとは思えない、淡々とした様子だった。
「付き合おう、君と」
アーチャーの首根っこを掴んでかみつくように口づける。アーチャーの抵抗はやっぱりなく、言質も取った。懸念事項はなくなったはずなのに、気は晴れない。アーチャーは手を放すとするりと立ち上がって自身の霊衣を撫でる。外套もない姿で、整えるも何もないと思うんだが。
「飲み終わったらグラスは食堂に返しておいてくれ。後で洗うから」
トレーを持ってさっさと立ち去るアーチャーを見送って置いて行ったグラスに手を伸ばす。初めての飲み物はドロリと喉を通りぬけて行く。美味かったが、釈然としない思いが残った。
お付き合いとやらを始めるようになって何か変わったかと言えば少なくともオレの方は何も変わらなかった。聖杯によると告白の次の段階にあたるデートとやらはカルデアでは難しいし、アーチャーも表面上は何も変わっていなかった。相変わらずオレの方から口づけるだけでアーチャーは無抵抗。当然向こうから何かしてくることはないし、心ここにあらずという様子だったからオレも口づけ以上のことはしなかった。会えば皮肉を言われるし、共闘には全力を出す。捉えようによっては穏やかとも思える関係の中でおかしい、と思ったのはアーチャーの料理だった。最初に気づいたのは告白の翌日で、味付けが濃く感じた。サーヴァントによって味の好みが違うので時々アレンジを加えていたりするが、和食はどちらかというと薄味のことが多い。他の面々は特に気にせずに食べている筑前煮を首を傾げながら食べた。次はパスタ。ソースに苦味を感じた。次は麻婆豆腐。嫌がらせかってぐらい辛かった。ただこれは直前に誰かに見られる可能性のある厨房で抱き締めたり口づけたりしていたので本当に嫌がらせかもしれない。と言ってもこと料理に置いてプライドを持っているアーチャーが食べにくいものを作るとも思えないが。ちょっといろんな味を試しているんだとでも言われれば納得してしまえるような些細な違和感が続いたある日。
「クー・フーリン、ランサーの方、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「おう、なんだ?」
食堂を出る所でマスターに呼び止められ、そのままマスターの部屋へとついて行く。マスターはオレにイスを勧めて向かい合うように座る。
「最近、ご飯を食べていて何か気づくことはありませんか」
何故か敬語のマスターは顔の前で手を組んで真剣に考え込むようにする。
「あー、前とちょっと味が違えな?」
「良かった。気づいてはいたんだ」
マスターはほっと息をつく。
「誰が調理担当の時になってるかは分かる?」
「アーチャーだな」
「うん。何か訳があるのかなーと思って本人に聞いたら珍しく動揺しているように見えて、意図的にやってるんじゃないんだなって。後からタマモキャットに聞いたら、塩と砂糖を間違えてたこともあったって」
「アーチャーが?」
「そう、あのエミヤが! しかもその後上手く誤魔化してむしろ美味しくなってたって!」
「良かったじゃねえか」
「良くなっいやその料理については良かったけど! エミヤがミスを連発するなんて、何かあったのかなって。心当たり、ある?」
オレにマスターに心配をかけさせるなと言っておきながら、アイツ。
「あると言えばあるが……」
しかし口づけには平然としていたのに、想いを知ったからといって突然挙動不審になるものだろうか。
「エミヤだから戦闘面では完璧なんだけど、不安定になってることで事故に繋がったりしたらイヤだし、料理が上手くいかないのもストレスになるだろうし」
「不安定とかストレスとかってタマかよ」
「だからクー・フーリンに聞いたんだよ」
「あ?」
「エミヤが表面繕えなくなるぐらいに何か考えこんじゃうなら、相手はクー・フーリンかなって」
「……なんで」
キャスターのオレには何かあるならアーチャーとだろうって言われたし、そんなにオレ達にセット感があるとは思えないんだが。
「だってエミヤ、ランサーのクー・フーリンと話してる時、いつもなら楽しそうだもん。最近は変だけど」
「楽しそうだあ? めちゃくちゃ突っかかってくんじゃねえか」
「エミヤ、他のサーヴァントとかスタッフに対しては男女問わずすごい丁寧じゃん。俺に対してさえも。クー・フーリンにだけは遠慮なく接せるのかなと思ってたんだけど」
違うの?とマスターに言われて考える。むしろ最近のアーチャーは従順すぎるような。告白のことだって、例えアーチャーの方にオレへの想いが少なからずあったとしても皮肉の一言でも添えた上で受け入れるのがアイツじゃないか? 隠すのが上手いだけで料理以外にもおかしな点はあったんじゃないか?
「素直に答えるとも思えんが……まあ聞いてみるかな」
余計なことを考えて泥沼にはまってそうだ。放っておいたら勝手に座に還ってました、なんてことになりかねん。
「エミヤにはいろいろ教えてもらってるし元気になってほしいんだけど、できればカルデアは壊さないでね」
「あのな、オレ等だって肉体言語以外も持ってんだよ」
どいつもこいつも同じようなこと言いやがって。
「クー・フーリン」
立ち上がって扉に向かいかけたら呼び止められる。
「俺はクー・フーリンにも元気になってほしいからね。原因がエミヤなのかは知らないし、深入りはしないけど。……しない方がいいんだよね?」
おお。オレもアーチャーのことどうこう言えなかったな。しかしカルデアには相当数のサーヴァントがいるってのによく見てる。しかも気遣いつき。
「任せな。アーチャー説得できるならオレも元気になるからよ」
「関係性、聞いてもいい感じ?」
おずおずと聞いてくるのに笑って答える。
「オレは構わねえけど、アーチャーが嫌がりそうだからな」
「き、気になるんだけど!」
答え言ってるようなもんじゃねえか。悶えるマスターを置いてアーチャーの元へと向かう。
「おうアーチャー邪魔すん、ぜ」
声をかけながらアーチャーの部屋に入ったらアーチャーは着替え中だった。着替えと言っても赤い外套を脱いでいるだけだが、ちょうど上着部分を取り外して畳んでいる所でつい脇に目が行く。
「ノックぐらいしろ。何の用だ」
アーチャーは気にする様子もなく腰布の部分も外していく。うん、男同士だし際どい所が見えている訳でもねえから別に問題はないはずなんだが、イケナイものを見ている感がすげえ。
「ランサー?」
問いかけにようやく我に返る。
「お前さんちょっと無防備すぎねえか」
「何がだ」
「服脱いでる時に恋人が来たらもうちょっと焦らねえ?」
露わになった腰を抱いて太腿に触れる。至近距離のアーチャーはうんざりしたような視線しか寄越さない。
「上着を脱いだだけだろう」
「上着を脱いだだけでもオレがどうこうしたくなるとは考えねえのか」
「私に対してか? 悪いものでも食ったのか、とは考えるが」
まじでコイツ分かってねえな。アーチャーの言葉にがっくりと項垂れる。しっかりと背後から腰は抱いたままなので下げた頭はアーチャーの肩にぶつかった。
「あのなあ、請われれば誰にでもなんでも許すのか?」
抱き締めることも唇もひょっとしたら身体までも許すというのだろうか。
「まあ、ある程度までは」
ぷつん、と自分の中で何かが切れる音がする。
「オレと付き合ってるのもお前の意思ではなくオレが望んでるからってか?」
「……」
答えないアーチャーにじれて槍を顕現させる。アーチャーが動くよりも早く、向き直って首の横に槍を突き立てる。頑丈な壁は貫通はせず、パラパラと破片が落ちてくる。アーチャーは動じることなく槍を見遣った。
「情けをかけられる謂われはねえ」
「ならば付き合うのも止めるかね?」
アーチャーはよくやる嘲笑を浮かべようとしたんだろう。しかし表情を作る前に一瞬見えたものを指摘していいものか迷う。
「なあ、アーチャー。なんで泣きそうなんだ」
迷って口に出した結果、アーチャーの手元で高濃度の魔力が編まれる。
「泣きそう? 私が?」
出現したのは干将・莫耶。オレは壁に突き刺さった槍を抜いて後ろに跳びすさる。
「調子に乗るのも大概にしろランサー」
拒否もできんじゃねえかと思いつつ、うやむやなままに終わらせようとさせられているのも気に食わないし先程の発言にも腹が立ったままだ。
「ヤる気なら受けて立つ」
ビシッと槍を向けつつその槍を振るうことなく扉へと跳ぶ。部屋の中で槍は振るいにくい。アーチャーは扉を塞ぐように動こうとしたが一歩遅い。廊下に出たオレに向かってアーチャーが踏み込んでくる。弾き返して反動で後ろに背をそらしたアーチャーの横をすり抜けていく。何事かと戸惑ったような視線を周りから感じるが声をかけている余裕はない。アーチャーの部屋は厨房のすぐ近く、その奥にある場所を目指して床を蹴る。足はオレの方が早いがアーチャーには弓がある。狙いをつけさせないように他のサーヴァントやスタッフを避けつつ左右に不規則に跳びながら、目当ての場所、シミュレーションルームに駆け込む。
「割り込んで悪ぃ、ちょっと使わせてくれ!」
手合わせをしていたらしいビリーとロビンフッドが驚いたように横に避ける。アーチャークラスの練習として設定されているとは運が悪い。自由に場を設定できるシミュレーションルームには森が現れていた。
「使用中なんだけど?!」
ビリーの叫び声は悪いが無視させてもらう。代わりにアーチャーが二人の間に割り込んだ。
「すまない。埋め合わせは後で必ずする。今はあの男を打ち据えなければ気が済まん」
「ケンカか?」
「腹が立ってるだけだ」
「それをケンカっつうんじゃねえの。ったくしゃあねえな。おいビリー、オレは青い方に賭ける。勝った方がコイツのメシ食わしてもらうことにしようぜ」
「オッケー! エミヤ、勝ってきてね!」
勝手なこと言いやがる。
「おい、ランサーにも何か償わせるべきだろう」
「料理作るのでも手伝ってもらえば?」
軽口を叩きながら二人はシミュレーションルームを出ていく。横の制御室のモニターで観戦するつもりなんだろう。アーチャーは溜息を吐いてからオレに向き直る。オレはまた槍を構えた。
「何をのんびりしている。奥に行っていればいいものを」
「逃げも隠れもする気はねえよ」
距離を取る方が不利だしな。アーチャーは夫婦剣を打ち込んでくる。怒りが収まらないのかいつもより読みやすい動きだ。
「そもそも何故貴様は私なんぞに構うんだ」
「はあ?」
そっからかよ。話しかけられても手は止めない。連撃を受け流すように槍を繰り出す。武器同士が擦れ合ってオレとアーチャーの間で火花が散る。
「好きだっつっただろうが」
「だから何故私なのかと聞いている。カルデアには素晴らしい英霊がいくらでもいるだろう」
「お前こそなんで今更聞く。想いを告げた時にちゃんと聞き返せっ」
防ぐ一方だったのを攻撃に転じる。右手の剣を突き崩させた槍は左手の剣に阻まれる。アーチャーの頬に一筋血が走り、再度出現した右の剣は槍の柄で受け止める。膂力でもって弾き返すが、左の剣が脇腹をかすめて霊衣が裂ける。
「気紛れだろうと思ったんだ。すぐ関心をなくすだろうと」
「理解できんのなら何度でも言う。オレはお前が、アーチャーが、好きだ」
一言ずつ言い聞かせるように告げる。
「戦ってるのも楽しいが傷つけたくねえと思う程度にはな」
「たわけたことを」
アーチャーが突然武装を解いたので突き出そうとしていた槍を慌てて止める。
「腑抜けた君は見たくない」
アーチャーは苦しそうな顔をする。
「腑抜けと呼ばれるのは不本意だな。オレは大事なものがある方が力が出るが?」
オレも槍を消す。刺し穿てばアーチャーに反応される前に勝てるかもしれないが、話を聞きたい。ようやく何かしらの想いを吐き出そうとしているようだから。
「情けない姿を見られるのはもっとイヤだ」
「オレは見てえな。そう易々と誰にも見せねえんだろ」
「悪趣味な」
「別に弱っている所が見たい訳じゃねえ。戦闘してるお前も料理しているお前も、喜んでいるお前も苦しんでいるお前も全部知りたいだけだ」
「君は何でも受け入れる度量があるな」
アーチャーは穏やかだった。まるで何かを諦めたように。
「アーチャー」
一歩踏み出すと、寄るな、と鋭く制される。
「ロビンとビリーが見ているだろう。何を見せる気だ」
言い聞かせて、抱き締めて。あわよくばその先も。
「まあ奴等に見せたくはねえな」
アーチャーの腕を引いて森へと進む。樹の枝葉があれば視界は遮られるし、カメラが感知できたとしてもあの二人ならば野暮なことはするまい。本来異常がないか見るためのものだから、音声も基本的には切られているはずだ。
「奥の方行くぞ」
アーチャーは大人しくついてきた。多分今までの受け流すような態度としてではなく、自分の意思で。
「なあ、なんで今まであっさりと受け入れてきたんだ、いろいろと。慈善じゃねえだろ?」
何か施そうというなら自分からも動くはずだ。アーチャーは天井を見上げた。オレもつられて上を見る。先程の場所よりも木々が生い茂り、陰を作っている。光は差しているが暖かみはない人工のものだ。ぼんやりとしていたらガッと足を払われて咄嗟に反応できない。せめて衝撃に備えて受け身を取ろうとしたら背中にアーチャーの手が回った。打ちつけることなく地面に横たえられる。ふかふかに感じるのは草だろう。アーチャーは上に覆いかぶさるように乗り上げてきた。
「おいおいおい随分積極的だな?」
「違う。抵抗されんようにしている」
更に両腕まで押さえつけてくる。
「私が従順だったのはな、ランサー。足掻かない方が貴様がすぐに飽きるだろうと思ったからだ」
「オレに飽きてほしかったのか?」
アーチャーはオレが怒るだろうと思って拘束したのかもしれないが、感じたのは怒りよりもむなしさだ。
「伝承を見る限り、貴様は抵抗された方が燃える性質だろう。じっとしていれば私のことなど興味をなくすだろうと」
「オレに嫌われたかったのか」
「憧れの英雄に好意を寄せられ続けても無感情を貫ける程ならば良かったんだがね」
ぽつん、とコイツは今とても大事なことを言わなかったか。
「伝承は確かにオレの一部だがオレ自身ではない。今のオレをちゃんと見ろ。お前にも好意があるのなら、何故享受しない」
「サーヴァント同士で、男同士だ。問題しかあるまい」
「男とか女とか考えてなかったな。生きてる時は女が好きだったがサーヴァントに子作りとか関係ねえし、その辺の感覚も変わってるんじゃねえか?」
言葉は響かないらしく、オレに乗り上げたまま目を伏せるのが見ていられなくて体勢を入れ替える。アーチャーを組み敷いて視線を合わせる。予想をしていたのか灰色の瞳に驚いた様子はなかった。
「戦闘に支障がなければマスターも周りも文句は言うまい」
髪についた草を頭を振ることで落として髪留めをつけ直す。結びそこねた髪が一房アーチャーに触れた。
「貴様の寵愛を受けた人々と並び立つのは気が引ける」
「生前は生前で愛した者達がいるし、別に忘れるつもりはねえ。ただ今のオレはお前が欲しい」
「欲張りだな」
言い訳を探しているのが手を取るように分かる。伊達に何度も出会ってないし、特に今回はよく見てきた。
「往生際が悪いぞアーチャー」
「そうだな……」
アーチャーが腕を伸ばしてオレの首に回し、引き寄せる。顔を見せずにまだ何か誤魔化すつもりだろうかと疑いつつも身を寄せる。
「愛しているよ、ランサー」
耳元で囁かれてうっかりアーチャーの上でつぶれたりせずに持ち堪えた俺を、誰か褒めてほしい。
素直になったアーチャーの破壊力はとんでもなかった。顔を見せないようにオレを抱き寄せたまま、共闘が楽しかったこと、料理を食べるオレの姿を見るのが幸せだったこと、ご飯が食べたいと言われるのがプロボーズのようで動揺したこと。オレの笑みが好ましいこと。でも今、相対して戦うのにも高揚したこと。オレの気づかなかったアーチャーの内面を次々に告げる。アーチャーがどんな顔をしながら話しているのか見てみたかったが、正直オレの顔を見せられる状況じゃない。
「口づけのことはどう思ってたんだ」
「犬に舐められたようなものだと」
「おい」
「冗談だ。親愛によるものだとでも思っていた方が、気が楽だったんだ。それなのにランサーが言葉にするから」
少しだけ身じろぎしてアーチャーの頭を撫でる。
「そんで告白についてはオレに抗わないように受け入れた、と」
「想いを持て余していた。諦めるなら早いうちが良いと思ってな」
結局捕まったが、という言葉にアーチャーの頭を抱える。
「諦めんでくれて良かった」
「うん」
常とは異なる幼さを感じる返事に、ああコイツオレのことを大好きでいてくれたんだなあ、と思う。オレ自身に悟らせない程に隠し通したのはらしいっちゃらしいが、今後は暴かせてもらおう。
「もう話すことはない。貴様こそなんで私なんぞを」
恥ずかしくなってきたのか身体を起こそうとするのを抑えつける。私なんぞ、という言い方は気に食わないが言っても直らないだろう。自身を卑下しているというよりも、オレを神格化しすぎなきらいがある。
「想いになんでも何もねえよ。ただアーチャーを独占したいと思ったし甘やかしたいと思っただけだ」
「ふむ」
アーチャーは上手い言い返しを思いつかないらしい。珍しいこともあるもんだ。
「なあ、料理の味が変わったのは?」
びく、とアーチャーの身体が跳ねる。
「気づいてたのか」
「おう」
「多分もう大丈夫だから安心しろ」
「オレは料理の心配をしてる訳じゃねえよ」
「気にするな」
アーチャーの首筋をかぷりと甘噛みする。
「きちんと聞いておかないとこじれるのは今回よく分かった。なんでおかしかったんだ?」
「魔力が」
なおも迷うようにするアーチャーをじっと我慢強く待つ。
「ランサーの魔力で舌がおかしくなっていた。後はランサーが何故オレに口づけたり好きだと言ったりするのか理解できなくて、まあ多少悩んでた」
「待て、魔力で変になるってことは、今後は口づけらんねえってこと?!」
がばっと起き上がってアーチャーの顔を見る。
「魔力供給は共感力が高まる程馴染みやすくなるだろう。だから多分大丈夫だろう、と言ったんだ」
お互いの気持ちがきちんと分かったからということか。思わず頬が緩む。
「悩みもちゃんと消えたか?」
「まあ、目下の悩みは君が浮気をするんじゃないかということだな」
「両想いになった途端に心配すんのヤメロ」
「恋多き男だろう、君は」
「面倒な恋人が出来たんで、一人で手一杯だ」
他に目を移している暇もつもりもない。ぐりぐりと肩に頭を押しつけてから、口づけ、試してもいいか、と問いかける。
「ああ」
そっと唇に指で触れてから、呼気を奪うように口づける。舌も絡めるのは初めての時以来、まだ二度目だ。甘く感じるのは今度はクッキーのせいではない。アーチャーの魔力の特徴なのか、オレが甘く感じているだけなのか、好ましい味だった。満足するまで触れ合ってから離れると、アーチャーは浅い呼吸を繰り返す。
「味覚、大丈夫か」
呼吸が落ち着くのを待ってからアーチャーを引き起こす。二人で向かい合うように座った。
「何か食べてみないと分からん。違和感はない」
ぺろり、と確かめるように舌で口内を確かめている様子を察してしまってまた口づけたくなる。
「アーチャー、さっきお前、抵抗された方が良いんだろうとか言ってたし確かに気の強えやつは好みだけどよ、善がってんの見るのも悪くねえ」
「は」
「快感に身を任せてくれても嫌いにはならんぞ」
アーチャーの眉間に皺が戻ってくる。あれ、距離の詰め方間違えたか。
「明け透けな言い方は止めろ」
「何だよ、またお前が考えすぎるかなと思って」
「たわけ。それよりシミュレーションルームを出るぞ。ロビンとビリーに謝らなければ」
完全に忘れていた。奴等賭けとかしてなかったか。草を払ってゆっくりと歩き出すアーチャーについて行く。
「どっちも勝ってねえし負けてねえもんなあ。引き分けか?」
「二人共に迷惑をかけているのだし、二人に料理を振舞うのが道理だろうな」
「オレも手伝う」
「ああ、頼もう。ランサーは器用だから捗るだろう」
あーもうほんと、本音を言うようになったらこうも変わるものか。褒めようとしてるんじゃなく素で言ってるようなのがアーチャーらしい。
「あ、そういやあ、マスターにも心配かけてたから話に行った方がいいな。お前の料理のことも気づいてたぞ」
「そういえば、何かあったのか、と聞かれたな。ただでさえ大変なのに、余計な心配をかけさせてしまった」
「ちなみにオレも心配させた」
「ランサーが? 何の?」
「元気なさそうだってよ。アーチャーの気持ちが全く分かんなかったからな」
「……悪かった」
「謝ってほしい訳じゃねえ。オレも自分の想いばかりで気づかってやれなくて悪かった。お前嫌がるかもしれないけど、マスターには伝えておきたいんだが」
アーチャーの顔色を窺うように下から覗き込む。
「好き合ってて、付き合うようになった、ってよ」
「心配もかけてしまったんだ。言うべきだろう」
アーチャーはあっさりと頷く。
「ちなみに他の奴等に言うのは?」
「隠せとは言わんが。しかし好奇の目で見られるのは必須だろう」
渋い顔をする。まあ、言うなと口止めされないだけマシか。アーチャーに色目を使いそうなヤツがいたら誇示してやろう。
「あっやべえ」
満足感に浸ろうとして、気づく。
「アーチャーの部屋の壁、壊しちまったんだった」
マスターに釘を刺されていたのに、すっかり怒りに支配されていた。隣りの部屋に影響がないとはいえ、部屋に入ればすぐに気づかれてしまう程度の傷にはなっているだろう。
「あの程度なら私でも直せる」
「まじか」
「カルデアの壁の構造はそう難しいものではない。ただ魔力が必要だな」
アーチャーの顔が近づいてきて、ちゅ、と唇が一瞬触れる。
「魔力供給に協力してくれるなら直そう」
「はっちょ、もう一回!」
初めて、初めてアーチャーの方から口づけをした。
「魔力供給に……」
「言葉の方じゃねえよ!」
いや、お誘いの言葉も最高だけど!
「もう外部と接続できる場所になるだろう。音は拾わなくとも見た目は隠せん」
「アーチャァ」
不満の声を上げると、後でな、とアーチャーは至極楽しそうに笑った。
わ~すごい好きです読めて良かった幸せ…好きです