「次の金融危機はもっと悲惨なものに」リーマン・ショックを予見した経済学者が警告する理由
金融システムが「操縦不可能な領域」に
2008年に起きたリーマン・ショックとそれに起因する世界的な金融危機を予見した経済学者のリチャード・ブックステーバー。世界最大級のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエーツでチーフ・リスク・オフィサーを務め、オバマ政権下では市場安定のためのルール策定にも携わった、金融市場における重要人物だ。 【画像】もしAIブームがはじけたら…そのときに起きること 彼は米紙「ニューヨーク・タイムズ」への寄稿で、金融市場がすでに重大なリスクを抱えていると指摘する。 AI投資や2兆ドル(約300兆円)規模のプライベート・クレジット、さらには台湾やイランといった地政学リスク──通常は個別に取りあげられるこれらの事象はすべて「地続きの問題」だという。 ブックステーバーによれば、金融システムはそのプロたちがコントロールできない領域にまで足を踏み入れており、ひとたび問題が起きれば、それがほかの問題へと瞬時に引火し、リーマン・ショックをも上回る、広範かつ深刻な「破局」を招く可能性があるのだ。 同氏の指摘を2つのポイントに分けて、解説する。
「金融リスク」から「物理的リスク」へ
2008年の危機を拡大させたのは「金融システム」だった。斬新で複雑な金融商品がリスクを隠蔽したために住宅市場はバブル状態に陥り、失速した際には金融商品が金融システム全体を「道連れ」にした。 リーマン・ショックでは、いわば「数字上の幻想」が崩壊したことに対し、今回の金融危機リスクは、私たちの文明を支える物理的インフラに直接根を張っている点が決定的に異なると、ブックステーバーは述べる。 「現在の金融システムは、単一の問題が起きることで崩壊するわけではない。異なるショックが同じ構造の中を伝播し、しかもそれが予測しにくい形で広がることによって機能不全に陥るのだ」 たとえば、中東での地政学ショックによってエネルギーが枯渇すれば、データセンターの運営コストが増す。そうなると、AI企業は収益が悪化する……といった問題の連鎖が起きるとも考えられる。 ブックステーバーが危惧するのは、現代の金融モデルが「価格の変動(ボラティリティ)」は読み取れても、エネルギー供給網の断絶といった物理的なトラブルを読み取る指標を持っていないことだ。 市場データに異常が表れたときにはすでに被害は発生しているだろう、と彼は指摘している。
COURRiER Japon