聞こえてくるのは人々の助けを乞う叫び声。
血のように真っ赤に燃える業火。
瓦礫の中から伸びる無数の手。
全て私が助けられなかった人々。
否。助けられなかったのではない。
助けなかった。
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「なあ、なんでお前は素直に俺に言ってくれねえんだよ」
この男と敵対してたとは思えない程の恋仲になってから聖杯の不祥事によりここに現界して約半年。
私の膝でゴロゴロと寝転がる男は不機嫌そうな雰囲気を醸し出したまま私に問い掛けた。
「…だから、なんだって言うんだ」
「仮にも俺はお前の恋人なんだぜ?なのにお前は俺の前で笑いもしない、甘えもしない。少しぐらい我儘だって言えばいいのに」
「…馬鹿か貴様…」
ため息混じり漏れた声にまた男は口を尖らせ先程より不機嫌になり眉間の皺を深くする。体を起こし私と向き合う形になった。
「その態度が気に食わねえ。もっと俺に抱き着くとかよ、それぐらいもしない」
「……はあ。光の御子様はそんなくだらない事で悩んでるのか」
「今なんて言った?」
「くだらない、そう言ったが?私の事でそんな事を考え時間を無駄にするぐらいなら家の事を…」
「お前、それもう一変同じ事言ってみろ。許さねえぞ」
「…っ」
紅く鋭く光る眼光は私を見据えたまま離さず魔力も頬にチリチリと当たりご立腹な事が目に見えてわかる。頬に添えられた手は綺麗な骨張っておりその感触が酷く心地良い。
「…貴様がそんなに私の事を考える意味がわからない」
「ん?そりゃあ、お前好きだからに決まってるだろ?」
「…そ、うか…」
さも当然かのように言う男にあっけらかんとする私の顔は間抜けに見えるであろう。しかし、この男の正直な正確は少し羨ましく、妬ましく感じた。すると、触れるだけのキスを頬にされくすぐったそうなしぐさをすればそれが嬉しかったのか額、鼻、頬とキスの雨が降り注ぐ。
「ん、ランサー…」
「可愛い…ほら、来いよ。存分に甘えさせてやっから」
「〜…」
伸ばされ広げられた腕。それに簡単に飛び込めたらどれだけ楽で幸せな事か。私が中々腕の中に飛び込めないのはこの男は知っているかのように宝石のような髪を靡かせ優しく微笑む。その姿に胸が高鳴ったまま鳴り止まなかった。
腕を伸ばす、が。
「…やはり…」
「ほら、何も気にするものなんかねえよ」
蘇り続ける過去の記憶。腕を伸ばすもあと一歩の所でそれがフラッシュバックする。聞こえるのは人々の悲鳴。目に焼き付いたままの死体の山。
「…出来ない。私は…例えランサーであろうとも…人に頼るなんて事は出来ない…寧ろ…してはいけない」
「お前がどれだけの苦難を乗り越えたか、苦しくて息が止まりそうな程嫌な過去でも、それは過去だ」
「…だが…」
「だから、今ある生を否定すんな。過去があるからお前がいる。俺と出会えた事、嬢ちゃんにまた出会えた事。全てを、俺を、今ある幸せをお前は無かった事にしたいのか?」
真意を感じ取れる程の迫力で私を見つめる目は怒りを感じるもののどこか穏やかで暖かった。
信じて、信じて、信じて、裏切る事をしなかった私は信じる事にでさえも裏切られ私…俺の手からは…
何も残らなかった。
残ったのは゛人殺し゛と言う異名だけだった。
「…や、だ…わたし、は…っ
君の、そばに…いたいっ」
絞り出すように出た声は震え、過去の記憶に大きくヒビが入る。崩れていく過去の風景の中からは男の姿が見えた。
この男と在りたいと心が叫ぶ。その微笑みは美しく見目麗しい。鮮やかすぎて眩しすぎる程この男の全てが私を漆黒から救ってくれた。
縋り、乞う姿はどれだけ滑稽であろうと男の前では私は私では無くなる。
「…やっと、来たな…エミヤ」
「っ、君が…好きだ…」
「それでいい…もっと俺を好きになれ、縋り付け、しがみ付け…俺だけを求めろ」
腰に回る手は力強く、私を離さない。首に回した腕にもうこの男を離す事なんて出来ない。密着した体は互いを求め合い、貪り、絡み付く。
今の幸せが好きになった。
とにかく、アーチャーには幸せになて欲しかっただけです…。
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- 月城 紗弥October 19, 2023