【超かぐや姫!】『Remember』のパラドックス―6つの楽曲から読み解く物語構造―
超かぐや姫! 観ました。
初音ミクとVTuberを追い続けている信頼できる友人たちが、映画館を出るなり口を揃えて「観るべき。」と。
私も我慢できずにNetflixを久々に契約して観たあと、友人たちへ一言だけ返しました。
「24時間くらい置かせて」
すぐに感想が出てこない。なんだこれは…
その日のうちに2回目を観ました。
プロローグが伏線だった。
ツクヨミ沿岸ミニライブは、彩葉とかぐやを迎え入れるための舞台。ヤチヨカップを開催して、かぐやが彩葉とトップに上り詰めるのも確定の未来。
「こういうのは最初から誰になるか だいたい決まってんの」
コラボライブはヤチヨの喜びに満ちていた。
ヤチヨは全てを知っているのに、二人へ真相は語らなかった。
3回目・4回目と観ました。
Netflixだからこそできる一時停止も使いながら、
そして、字幕も添えて台詞や歌詞を咀嚼しながら。
求婚してきた5人の皇子たちの元ネタ、最後の求婚相手である帝。
ただの目立つライバルではなかった、作中最強の協力者たち。
2周目以降で変わるヤチヨの表情。
ああ、これすごいわ。
やっと少しずつ感想が言えるようになりました。
この作品に出会える時代に生まれて良かった。
この作品に出会うために色んな経験をしてきたんだ。
このタイミングで見ておいて良かった。心から。
前置きが長くなってしまいましたが、今回は作中のオリジナル6曲にスポットライトを当て、私なりの解釈を書いてみました。
この作品を二度三度と見ていく中での、発見の一助になれたら嬉しいです。
『Remember』のパラドックス
ヤチヨのデビュー曲である『Remember』に命を救われた彩葉。
この曲はオープニングで使われ、2番のイントロからスタートします。
かぐやとの出会いが彩葉の人生を変えたのは紛れもない事実です。でも、もしこの『Remember』に出会っていなかったら。超無理限界ギリの一歩先、崖の淵にいた彩葉は生きるのをやめていたかもしれない。命を繋いだ、あまりにも大切な曲。
しかし物語が進むにつれ視聴者は、この曲がどうやって生まれたかの謎を感じ、ある絶対的な矛盾(パラドックス)、「未来から届いている」可能性に気づきます。
作中で聞けない1番の歌詞にこそ「これから起こる出来事」が紡がれているという仕掛けまで用意されているのでした。
『星降る海』はかぐやへの応援ソング
解釈の分かれるところです。ヤチヨが彩葉を迎える曲にもなっています。でも、ヤチヨから彩葉に伝えたいメッセージは『Remember』でした。ではどうして、ツクヨミ沿岸ミニライブは『星降る海』だったのか。
ヤチヨは自分の経験を全て覚えている。2030年7月18日、彩葉がかぐやを連れてツクヨミへ来ることも。
――途切れかけた夢を見ても大丈夫 一人にはしないよ
――何度だって 互いの引力で引き寄せ合うんだよ
「かぐやなら全部大丈夫。ヤッチョが保証しちゃう!」
「チョー無責任。だけどそのノリ、割と好きだった!」
卒業ライブに臨む前の、ヤチヨとかぐやのやり取り。全部大丈夫。これが、2周目以降になると本当に重たいです。
初めての共作『私は、わたしの事が好き。』
トップライバーに上り詰めていく過程の底抜けに明るい曲で、元となるメロディーは彩葉の「old」フォルダに眠っていた黒歴史曲のひとつ。即興でかぐやが歌詞を乗せた、最初の共作でした。
――誰も止められやしない。歌わずにはいられない。
彩葉もプロデューサー「いろP」として表舞台に巻き込まれていきます。元ネタである竹取物語において、かぐや姫を“この世のものとは思えない美しさ”“噂が噂を呼んで恋慕した”ことを、一気にトップライバーに上り詰めるお話に仕上げています。
そして、父親を亡くし音楽から離れようとしていた彩葉がこれほど明るい曲を隠し持っていたこと。それ自体が、彼女の秘めた生命力の暗喩だったのかもしれません。
『Ex-Otogibanashi』はヤチヨの歓喜を真っ直ぐにぶつけた曲
映画の中で歌われる際は、ちょっとかぐや姫要素を入れた3人にピッタリだな、という感想を持つまさに「主題歌」然とした楽曲でした。しかし曲の終わり前一瞬流れたヤチヨの涙。どうして?どうして今泣いているの。
そうなんです。この曲は続きがあって、フル尺においてヤチヨの本当のメッセージが含まれています。
――八千年分 お願いがあるんだ いいかな?
――思いっきりぎゅっと そう もっとぎゅっとして
劇中のライブシーンでショートバージョンを3人に歌わせ、見終わった後に聴くと全く受け取り方が異なる曲へ変貌する。ちなみにヤチヨのソロverも用意されています。こんなのズルすぎる。
卒業ライブの前半『瞬間、シンフォニー。』
花火大会のシーンを経て、運命を受け入れたかぐや。
運命に抗おうとする彩葉と仲間たち。
卒業ライブはかぐやを連れ戻しに来る月人を迎え撃つ最終決戦でもありました。月人のデザインや立ち位置も本当に良い。きちんと「KASSEN」のルールに従って、悪役に仕立てない絶妙なバランス。
この曲に歌詞を乗せたのも、もちろんかぐやと推測されます。
――帰らなくちゃ 帰らなくちゃ だって それもまた愛すべき運命
――最後まで ねえ 最後まで まだ 新しいメロディーを歌い続けていたい
皆信じていました。ここで勝ってハッピーエンドを迎えるって。
ハッピーエンドにしてくれるって言ったもんね。
卒業ライブの後半『Reply(仮)』
明るいイントロと衣装チェンジしたかぐやのダンス。
勝ち確BGM来た!初見でそう思ったんじゃないでしょうか。私もです。でもこれはかぐや姫の物語。メインメロディーが流れると共に、次々と倒れていく仲間。月に還ってしまうのは最初から決められた運命。
卒業ライブでは、かぐやオタクかつ兄の顔をしっかりと見せる帝アキラ、そして仲間であるブラックオニキスの雷・乃衣の選手生命を賭した決意。サビに入るとともにプロゲーマーの彼らがチート警告を受けているんですよね。一時停止したら意味がちゃんとわかった。つまりあれは、ただの演出じゃない。自分のキャリアを壊す覚悟で、妹のためにルールを破った瞬間だった。正直、一番鳥肌が立ったシーンです。
少し遡って、彩葉は『タイトル未定(彩葉と共作)』を元にこの曲の1番まで作り上げたことが描かれています。
「やっぱ続きはムリだわ…ワンコーラスでいくか」
ここで、のちの『Reply』となる『タイトル未定(彩葉と共作)』に、『Remember』と同じフレーズが使われていることに彩葉は気付きます。そして、ここが初見の視聴者を惑わせ、作中最大のミスリードを誘う引っかけになっていました。
完成した『Reply』
かぐやは月に還ってしまった。また、日常が戻ってくる。なぜなら「かぐや姫」のお話だから。でもここからが「超かぐや姫!」パートの始まりです。畳みかけるようにクライマックスへ。一直線に!
この曲は完成させなければ。1度決めた進路を断って。生活を投げ売って。やっと完成させた曲を、マンションのバルコニーから腕輪を通して月へ届ける彩葉。
――昨日の続き(喋りたかった)くだらなくても(ちょうどよかった)
――本音を聞かせて ただ叶えてみたい
そう、卒業ライブのタイミングで歌ったのはかぐや。
『Reply』1番は、
かぐやから彩葉への告白。
そして、かぐや帰還後にフルを完成させたのは彩葉。
『Reply』2番は、
彩葉からかぐやへの返信。
全てを思い出したかぐやは、地球からの『Reply(返信)』を受けてすぐに飛び立ちました。
『Reply』から『Remember』へ
タイムリープをしようとした月の宇宙船は、不慮の事故でおおよそ100倍もの時間を通り過ぎてしまう。8000年前に不時着し、そこに彩葉が居ないと気付いたかぐやはずっと独りぼっちでした。あるのはFUSHIの体だけ。
噴火も、戦争も、震災も、大火も全部見てしまった。何度絶望しようとしたか。それでも、絶望できなかった。その誰かが、未来の彩葉につながるかもしれなかったから。全てが大切に思えた。
――この一瞬を 最高のパーティーにしよう
かぐやは「いつも思い出してた」
――大切なメロディーは 流れてるよ あなたの ハートに
彩葉は「この曲で、生き残れた」
パラドックスする『Remember』
かぐやはずっと待っていた。ここは、いずれ彩葉が生まれる世界だということ。彩葉とインターネットで出会うときに真っ先に見つけて欲しかった。
あのメロディだけは忘れずに、『Remember』を引っ提げて月見ヤチヨとしてデビューした。
自分がヤチヨだったなんて。どうして最初から教えてくれなかったの。
『Remember』は彩葉に届いた。彩葉はちゃんとここまで来てくれた。
「ヤチヨ。ヤチヨのデビュー曲って、もう歌わないの?」
「あれはもう届いたから。お役目かんりょー。」
でも…?その『Remember』が無ければ、かぐやと出会う前に、彩葉はこの世から消えていたかもしれない。ファンとしてツクヨミに現れなかったかもしれない。このパラドックスは解決しない。だからこの作品は、胸の中に納まりきらず、想い続ける余白を残しています。
「超かぐや姫!」を彩るカバー曲たち
私は音楽を聴くとき、人の声や歌詞よりも、リズム感やグルーヴを優先するタイプの聴き手でした。人の声が入っていないゲーム音楽、サウンドトラックばかり聴いて育ってきました。
しかしこの作品では、シナリオと楽曲の歌詞が幾重にも折り重なっていて、かぐやと彩葉、そしてヤチヨを音楽で視覚化している。
VOCALOID曲を中心としたカバーソング「ロンリーユニバース」「竹取オーバーナイトセンセーション」「トリノコシティ」「夢をみる島」「Tell Your World」「ワールドイズマイン」「ハッピーシンセサイザ」「ray」「メルト」どれもこれも、物語やキャラの心情にリンクする仕組みになっています。どうしてこんなことが出来るのか。
やはり特筆すべきはエンディングテーマに採用された『ray 超かぐや姫! Version』で、公式ムービーは本編の真の完結編であるとともに、12年前に公開された『BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU「ray」』のシーンをいくつかオマージュしています。メジャーバンドとネットカルチャーが手を取り合ったあの瞬間。リアルタレントとバーチャルアイドルが並んで活動している現代にしっかりと繋がっていて、新しく、強い強いメッセージ性を持っています。
1000年も前に作られた物語をベースに、歴々のボカロ曲を結んでいく作業。途方もない芸術です。
音楽は時空を超えるタイムマシン。
「超かぐや姫!」は、紛れもなくそれを証明した。
技術進歩への夢、インターネットの魅力、目まぐるしく変わるエンタメ。令和8年、とうとうこんな作品が世に出たという多幸感が残る、最高傑作でした。「2000年頃からのカルチャーを見てきた人々への祝福。そんな体験だった」とは、一緒に映画館へ行った友人の残した感想です。
自分自身、もう感じています。
この映画に出会う前の自分と、その後の自分が明らかに違う人間になっていること。人って出来るか出来ないかじゃなくて、やるかやらないかなんだ。そんなパワーを引き出してくれました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
SF観点、ボカロ観点、VTuber観点、ネトゲ・メタバース観点、VR技術観点…こんなに語る要素があって困る作品は初めてです。
マリン船長と同時視聴した一味の皆さんにも、ぜひ2周目の楽しみを味わって欲しい!
もしあなたが視聴を終えたばかりなら、
ぜひそれぞれの楽曲をもう一度聴いてみてください。
その受け取り方が、少しだけ、いや、かなり変わっているはずです。もしそう感じたなら、そっとスキを押してもらえると嬉しいです。


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