雪のほとんど降らない地域に住む三歳の娘が、テレビで見た雪景色に憧れ、和室いっぱいに“あるもの”で「雪」を作った出来事。突然の光景に驚きながらも、その発想の可愛らしさに思わず笑ってしまう私。心が温かくなる冬の思い出として残った、筆者のエピソードです。
雪に憧れた三歳の娘
晩ご飯の支度に追われていた冬の夕方、テレビのニュースでは東北地方の大雪が報じられていました。画面には、膝まで埋もれそうなほど積もった雪や、真っ白な街の様子が映し出されています。けれど、わが家のある地域ではほとんど雪が降りません。降ったとしても、うっすらと地面が白くなる程度です。
三歳だった娘は、そのニュースを食い入るように見つめながら「いいなあ」とぽつりと言いました。外で思いきり雪遊びをする子どもたちの姿が、とても楽しそうに見えたのでしょう。私は「いつかみんなでスキー旅行に行って、たくさん雪遊びしようね」などと声をかけながら、台所で晩ご飯の準備を続けていました。
和室いっぱいに広がった“雪”
しばらくすると、娘が和室の方へと走っていきました。六畳ほどの小さな部屋です。ふすまをぴたりと閉め、「見ちゃダメよ!」と弾んだ声が聞こえてきました。何をしているのだろうと思いながらも、私は台所で鍋をかき混ぜながら様子をうかがっていました。
やがて「ママ来て!」と呼ばれ、ふすまを開けて中に入った瞬間、思わず言葉を失いました。
畳の上が、白いものでびっしりと埋め尽くされていたのです。
近づいてよく見ると、それはすべて丸めたティッシュペーパーでした。箱から取り出してはくしゃくしゃに丸め、部屋中に広げたのでしょう。青々とした六畳の畳の上は、まるで本当に雪が積もったかのように白く覆われていました。
「ママ見て、雪!」
娘と片付けた温かい時間
娘は満面の笑みでそう言いました。自分で作った“雪景色”がよほど誇らしいのでしょう。私は一瞬だけ固まりました。床いっぱいのティッシュの光景に、頭の中で「どう片付けよう」という現実的な思いがよぎります。
けれど、その発想の可愛らしさに耐えきれず、次の瞬間には声をあげて笑ってしまいました。雪に憧れていた娘が、自分で雪を作ってしまったのです。
ひとしきり笑ったあと、私は娘と並んで座り、畳の上のティッシュを一つずつ拾い集めました。丸めたティッシュを広げて畳み、また箱に戻す作業を、二人でひたすら繰り返します。娘もまだ小さな手で、一生懸命に手伝ってくれました。
あのときの部屋いっぱいの“雪景色”と、得意げな娘の笑顔。そして二人でティッシュを畳み続けた時間は、今でもふと思い出しては、胸の奥がじんわり温かくなる冬の思い出です。
【体験者:40代、筆者、回答時期:2026年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:M.Noda
家族との何気ない日々や子育ての経験が「誰かの力になれば」とライター活動をスタート。事務職で培った「正確さ」と、主婦・母としての「リアルな視点」を武器に、家族や義実家、人間関係の悩みに向き合う。自身の体験をベースにした共感度の高いエピソードを大切に、読者の心にそっと寄り添うコラムを執筆中。