【槍弓】だってあなたがすきだから
twitterで呟いた140文字を話にしてみました / かっこいいランサーはいません / また食ってる話です / かっこいいアーチャーもいません
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電話を切ると、アーチャーは床にごろごろと転がる男を振り返った。
「ランサー、すまないが私はこれから出る」
「なんかそんな感じの電話だったな」
マイルドじゃない方のめろんクマのぬいぐるみを抱え床で転がっていたランサーは首だけ起こすとお疲れさん、とアーチャーに労いの言葉を向けた。
アーチャーがマスターから貰った引っ越し祝いという名のぬいぐるみは、彼女が学園祭の模擬店で獲得したもの。
そんな思い出の品を人に譲っていいものかと思うが、彼女曰くはあまり思い出したくない記憶らしい。
「なんであの時うっかり勝負になんて乗っちゃったのかしら・・・! 200円もかけて!」
ぎりっと歯を鳴らすマスターにアーチャーがそれ以上ツッコミを入れることは不可能だった。
だって下手をしたら矛先がこっちに向いちゃうから。
『一発でこんな大きなぬいぐるみを落とすなどすごい命中率ではないか』 なんて言おうもんなら
「あなた、まだガンドをくらい足りない?」
なんてさっぱりとしたいい笑顔で言われることぐらい経験則で分かる。
「無駄金を使った勝負には後悔してるけれど、ぬいぐるみに罪はないからしょ・・・どうしたものかと悩んでいたの。
どうせ殺風景な男二人暮らしなんだからぬいぐるみで部屋の雰囲気を明るくしなさい」
処分と言おうとしたなマスターだとか、こんな今にも人を襲いそうな形相のぬいぐるみがどう雰囲気を明るくするのか。
なんてやっぱり言えないアーチャーだった。
押し付けられた凶悪な顔のぬいぐるみは、目下アイルランドの犬が枕代わりに愛用している。
「小僧がバイトから帰れないと連絡があったとのことだ」
「そんでお前が出動なのか? サクラ嬢ちゃんは?」
マイルドじゃない方のめろんクマと顔を並べ、ガオーなどと言いながら聞いてくる同居人にアーチャーは絶対零度の視線を送る。
「貴様の顔とそのぬいぐるみの顔をすげ替えて、貴様の故郷の中央郵便局に送ってやりたいよ」
「そんな荷物を解く局員の心理を思うとやりきれないな。と、いうかダンボールに梱包する前に消滅しちまうから」
「なに、腹をぱっくり割りながらでも岩に己を鎖で巻き付けるといった一人上手な君のことだ、気合でなんとかしろ」
「さりげなく人の伝承をSMに置き換えるな。それでなんでお前が出動すんだよ」
「桜・・・、彼女たちは今日は二人で市外に出て買い物と食事をして帰ってくる予定だ」
彼女たち、という表現に凛も一緒なのかと察する。
「姉妹仲良く出掛けてんのに、セイバーのメシを作りに帰れってのは酷な話だな」
「そういうことだ」
家主の少年がおらず凛も桜もいないのであれば、あの屋敷に残るのはセイバーとライダーのみ。
「今日が賞味期限の鶏肉があり、小僧はそれを今夜の夕飯にするつもりだったそうだ」
「焼くぐらいライダーに出来るんじゃねぇの?」
「ライダーもバイトで、今日の戻りは20時を越えるらしい」
「さいでっか。お前、本当にセイバーには甘いよな」
ランサーは諦めるとマイルドじゃない方のめろんクマの腹に顎を乗せ視線だけでアーチャーを見上げた。
「それは君の誤解だ。下手に彼女に店屋物を取らし、それを知った凛からのとばっちりを受けたくないだけだ」
余計な出費を嫌う凛こと、他人の家の家計であっても無駄金を使わせたとなれば怒りがこちらに向く可能性は高い。
なぜあなたがいながらセイバーに店屋物を取らせたのだと、いい笑顔で詰問する凛の姿が簡単にランサーの頭にも浮ぶ。
「そういうことなので行ってくる」
「オレの夕飯は無視か」
「一食ぐらい抜いたところで死にはせん」
それをセイバーに向かって言ってみろ、とは言えないランサーだった。
「まぁ、いいけどよ」
癒しを求めてぬいぐるみの腹に頬を擦り付ける。
凶悪な顔に似合わない、ふっかりとした感触はランサーが気に入った理由のひとつ。
「では行って来る」
「はいよ」
いい大人がぬいぐるみに懐くなと突っ込むこともなく、アーチャーはランサーを残して出ていった。
「オレにだって出来る料理はあるんだぜ!」
お夕飯時。
窓の向こうが真っ暗に変わった頃、ランサーはめろんクマを放り出すとコンロの前に立った。
シンク下から引っ張り出した大鍋にたっぷりと水を張り、湯を沸かす。
「パスタはどこだ~」
ぐらぐらと煮立った湯に適当に塩を入れ、バイトで身につけた感覚で300gのパスタを掴むと鍋へと入れる。
「・・・タイマーがない。まあいいか」
この部屋でキッチンに立つのはほぼアーチャー。
なので彼に必要がない物はこのキッチンにあるはずがない。
「時計を見りゃいいって、このパスタ何分茹でだ?」
口笛を吹きながら大雑把に調理を進めていく姿はたぶんかっこいい、はず。
だけど悲しいかな。
部屋には置いていかれたランサーと、物言わぬマイルドじゃない方のめろんクマだけだった。
茹で上がったパスタをザルに上げ、手早く湯を切ってランサー専用大皿へと移す。
「さぁ!こっからはスピードが勝負だぜ!」
最速の英霊はそう言うと冷蔵庫から出してあったバターを掬い取り湯気を昇らせるパスタへと落す。
「もうちょい入れるか」
高級品であるバターをもう一欠、目分量で投下する。
先に落としたバターがパスタの熱で溶け、小麦とバターの交じり合ういい香りが立ち昇る。
「そんで、醤油」
ぴゅっと半周程度、醤油を廻しかけると菜箸でかき混ぜる。
「うっし!完成!」
醤油バターパスタ(具無し)
炭水化物と脂と塩分だけの男の料理。
うきうきと皿をリビングへと運ぶとフォークを刺す。
「いただきます」
ぱん、と両手を合わせて食事にかかる。
誰もいなかろうが自分で作ったものであろうが、食事の前にはいただきます。
アーチャーと士郎と桜によって衛宮邸で食事を摂る者誰ひとり例外なく徹底された躾の賜物。
フォークに熱々のパスタを絡め、大きく開いた口へと運ぶ。
「うっめぇえええええええええ!!!」
バターのコクと、醤油の香ばしさ。
脂の甘さと、塩分。
もちもちとしたパスタの弾力。
それらが三位一体となって口の中で融合する。
シンプル イズ ベスト
玉子かけご飯に匹敵する分かりやすい旨味。
「うまい! ほんっとーにうまい!」
噛む間さえ惜しくて次のパスタの固まりを口に入れる。
「アーチャーがいない時しか食えねぇってところもポイント高いんだよなー」
はふはふと食べながら独り言に頷く。
「あいつにこんなん作ってくれなんて言ったところで―――」
出てくるのは、きっと野菜や鮭を絡ませた和風パスタ。
「そうじゃねぇ! そうじゃねぇんだよこれは!」
バターと醤油をかけただけでいいのだと訴えたところでアーチャーは勝手に具を足すなり味を調えたりするだろう。
それが分かっているだけに、醤油バターパスタはアーチャーの不在時だけに味わえる楽しみ。
「冗談半分で作ったのがこんなにウマいなんて今でも信じられねぇぜ」
きっかけはTVの 『ネット見つけた人気簡単レシピ』 のコーナー。
独身男性に人気ですと紹介されたレシピは、簡単すぎるパスタメニュー。
オレはメシウマな恋人が居て幸せだぜ!
なんて思いながら上から目線で眺めていたら、無駄に性能がいい脳が勝手にレシピを憶えてしまっていた。
それを視聴してから数日後、昼食の支度にとりかかる直前に強襲した凛によりアーチャーが連行されたために作ってみることにした。
「鼻から抜けるバターの香りがたまんねぇぜ!」
もっしゃもっしゃと勢い良く食べる姿はアーチャーには見せられない。
「私の作った料理とそれは同じ位置なのかって、くだらねぇことで凹みそうだからな」
弓兵の作る料理とこの単純な味は比較できない。
というか、普段の食事がきっちりとしている分こういう味に強く惹かれるのは仕方がない。
だから、ランサーはこれをアーチャーのいない時にだけ食べるようにしていた。
「よし、満足したんで次!」
三分の一ほど食べ終わった時点で一旦パスタをレンジで再加熱すると顆粒のお吸い物の素を入れてかき混ぜる。
「2度目のいただきます!」
ぱくりと口に運べば、広がる和風出汁とバターが織り成す味のコラボレーション。
「これもうめぇ!」
味をさらにランクアップさせると、ランサーは滅多に会うことのできない味を楽しんだ。
が、数分後―――
「つまんねぇ」
残りあとフォーク3巻きほど。
突然ランサーはフォークを放すと、床に転がしていためろんクマを足の間へと据えその頭に顎を置く。
時計を見上げれば20時前。
ライダーが屋敷に戻るのはもう少し後だろうか。
「あいつンのことだからライダーが帰るまでセイバーを一人にしないだろうしなあ」
ふう、とため息を吐くと目を閉じる。
「アーチャー、何時に帰ってくんのかなー」
呟き、瞼を上げると玄関の方向を見る。
灯りを点けない玄関は暗く影を落とし、物音ひとつしない。
「帰って来いよー」
誰に聞かれることもない小さな声。
「アーチャーぁ・・・」
足の間のぬいぐるみを抱き込むと、ランサーは残ったパスタを忘れて床に転がった。
「なんだねこれは、だらしのない」
帰ったアーチャーを待っていたのは、食べ残しのパスタにシンクに放置された洗い物。
それから、ぬいぐるみを抱いて眠るランサー。
「アイルランドで土下座してこい」
言いながらも静かにコートを脱ぐと、アーチャーは眠るランサーの顔をのぞきこむ。
「・・・よく、寝ているな」
サーヴァントに睡眠は必要ないという前提が揺らぎそうなくらいには良く寝ているランサーから目を放すと、テーブルに残された皿を取り上げた。
具無しパスタにアーチャーの眉間にしわが寄る。
「なんだこれは? 冷蔵庫にエリンギも鮭もあったというのに」
不思議に思いつつもアーチャーは皿を持ったままキッチンへと移動し、小鍋を取ると水を張る。
そして冷蔵庫をのぞいて野菜を取り出すと、シンクに投げ出されている調理器具を片付け出した。
漂ってきたいい香りに目を覚ます。
「んぁ・・・、あー、アーチャー」
ぬいぐるみを放り出すと、ランサーはキッチンに立つアーチャーの後ろへと移動する。
「あー、いいにおい」
背後から硬い身体を抱き締め、その首筋へと顔を寄せる。
「邪魔だランサー」
「じゃましてねーし」
しっかり抱き付いてきて邪魔じゃないもクソもないだろう、とは労力の無駄だと知っているアーチャーは言わない。
「サーヴァントのくせに寝ぼけるとは器用なやつだ」
「アーチャーのだきごごちいいなー。めろんクマとおおちがい」
「たわけ、そんなものと比較されて誰が喜ぶ」
背中に大きな生物を貼り付けながら、アーチャーはフライパンで焼いていた一口サイズの鮭の火の通り具合を確認する。
「ふむ、こんなものか」
鮭を転がしながら端に寄せ、そこにたんざく切りにしたエリンギと、賽の目に切った山芋を入れる。
じゅー、と大きな音を上げるフライパンを箸で混ぜつつ、小鍋のスープの味を確認。
「薄いが、こんなものだろう」
「なにがー」
「黙れおんぶお化け」
背中の生物とコミュニケーションを図りつつ、残ったパスタをフライパンに投下。
先に炒めていた具材と絡めつつ、冷めたパスタに火を通す。
「ランサー、離れろ」
「ヤダ」
「テント暮らしに戻るかね?」
すごすごとリビングに戻るランサーに見向きもせず、アーチャーはカップボードから食器を取るとフライパンと小鍋の中身を移す。
「なんだよ、向こうで一緒に食って来なかったのか?」
片手にぬいぐるみを小脇に抱え、テーブルに肘をついた手で頭を支えてランサーが訊ねる。
「食べてきたさ。鶏モモと野菜の柚子胡椒焼きとつくね汁と蒸鶏サラダをな」
盆に皿と丼を載せながらアーチャーが答える。
「なんだその焼き鳥屋のようなメニューは。鶏肉パーティかよ」
振り返り、盆を持ってランサーが座る場所へと進む。
「隣家からのおすそ分けらしい」
ガラクタから食品まで。
なんでも持ってくる大河の顔を思い出し納得する。
「そんじゃ、これはなんだ?」
ランサーは目の前に置かれた載せられた盆を指す。
「それは君の追加の食事だ」
「追加?」
尋ねながらも箸を取る。
アーチャーから出された料理を断る理由はない。
醤油バターの香りを湯気とともに上げる皿から鮭を取ると、ぱくりと口へ運ぶ。
鮭には味を付けていないのか、パスタから移ったと思われる程度の薄い味。
それから、少しだけ舌先にぴりりと走る刺激。
濃いものを食べていた口にその刺激は有難く、続けてエリンギを拾う。
「ちょっと辛くなってる、うまい」
「柚子胡椒を足してみた」
言われてみれば香りに柚子が紛れている。
「君の摂った食事があのパスタだけだとしたら、栄養価に問題があると思ってな」
サーヴァントに栄養バランスもなにもあったもんじゃないが、ランサーはツッコまずにカップを取ると野菜の甘さが引き出されたスープを飲む。
「あー、滲みる」
「どこでそんな言葉を憶えるのだか」
はんと皮肉げに笑いながら、アーチャーはランサーが食事をしている間に風呂を沸かそうと腰を上げた。
その腕を、素早くランサーが掴む。
「待った」
「なんだね?」
「オレが食い終わるまではここに座ってろ」
返事を聞く前に、ランサーはぐいと腕を引く。
「たわけ、危ないだろう」
「お前がこんなんでバランス崩すか。いいから座ってろって」
子供のわがままそのままのランサーに、アーチャーは馬鹿にしたような顔を作ると鼻で笑う。
「なんだね、一人でのお留守番は寂しかったとでも?」
「おう」
短い返事。
馬鹿にするなという言葉を想像していたアーチャーの目が丸くなる。
「お前がいないのが寂しかった。そんなわけで、帰ってきたんだからオレの傍にいろ」
続いた言葉はさらにアーチャーを驚かせ、引かれた腕のままにぺたりと床に尻をつく。
それにランサーは笑うと、心の底から満足して二度目の夕飯に取りかかった。
「いただきます」
んんんんめちゃめちゃかわいいですめっちゃ好きです…… あとめちゃめちゃお腹が空きました……