light
The Works "なにひとつこぼさず(槍弓)【寄稿】" includes tags such as "槍弓", "Fate(腐)" and more.
なにひとつこぼさず(槍弓)【寄稿】/Novel by うたみ

なにひとつこぼさず(槍弓)【寄稿】

13,513 character(s)27 mins

カルデア再会槍弓が再びくっつくまでジタバタする話。もとい、書きたいアーチャーさんの泣き顔シチュを、これでもかと詰めこんだ話です。
槍弓泣き顔アンソロ『泣かぬ蛍が身を焦がす』様に寄稿した文でした。
アンソロのテーマが、「アーチャーさんの泣き顔or泣きそうな顔」だったため、上記のような内容になりました。
書きたいシチュが多すぎて、ひとつに絞りきれなかった……。
悲しい涙も幸せな涙も全部美味しい! の気持ちで書いたので、どれかの何かが刺されば光栄です。

■槍弓泣き顔アンソロジー「泣かぬ蛍が身を焦がす」
illust/103203416
↑こちらが参加させていただいたアンソロです。
全作品最高なので、ゲット出来るうちにゲットしてください。是非……!
素晴らしい企画にお誘いいただき、ありがとうございました!

1
white
horizontal

「クー・フーリンとエミヤって、仲が……悪いのかな?」
 口を開くまでたっぷり三十秒は要した割に、投げられた問いは言葉を選んだ様子もなく直球だった。訊きにくいことを訊いたという自覚はあるのだろう。赤毛の少女――マスターは神妙な顔で、テーブルの向かいに座るランサーを見つめた。
 マスターとカルデアの廊下でたまたま行き会ったところ、訊きたいことがある、と呼び止められたのだ。立って話すこともないだろうと、昼下がりで人気ひとけのない食堂へ場所を移し、隅のテーブルへ腰を落ち着けた。
 大抵はマスターの隣にいるマシュの姿も、今日はない。いったいどんな密談があるのかと、内心では興味津々だったランサーに、マスターからぶつけられたのが件の問いだ。
 さてどう答えたものか、とランサーは思案する。
 自分とアーチャーの関係を、一から十までマスターに説明する気はない。ランサー個人の感情としては、明かしても別に構わないが、アーチャーはおそらく嫌がるだろう。
 それが分かる程度には、自分はあれのことを知っている。しかし知っているということと、仲の良し悪しは別問題だ。
 結果、ランサーは少し卑怯な答えを返した。
「マスターの目には、オレとアイツが仲悪く見えるか?」
「え!? えっと……その……」
 答えに困って目を泳がせたマスターに、助け船を出すつもりでランサーは言葉を続ける。
「別にどう見えてたって怒りゃしねえよ。直接訊いてくるくらいだ。そう思うきっかけがあったってことだろ? ついでに言えば、オレとアイツの仲が悪いと、マスターに何か不都合があると見た。違うか?」
「そこまで分かるの!?」
「おう。そうでもなきゃ、わざわざサーヴァント同士の話に首突っ込まねえだろ。いくらマスターといえどもな」
 分かっているから遠慮なく話せ、と。言外に伝えたかった言葉は、上手く伝わったらしい。マスターの肩から力が抜けた。一呼吸の間を置き、実は、とマスターが話し始める。
「しばらく前の話ではあるんだけど……。クー・フーリンがカルデアに来てすぐくらいの頃かな、エミヤに言われたんだ。英霊にも相性があるから、青いランサーとは同じチームに入れないでくれ、って」
「は!? アイツ、んなワガママ言ってやがったのか!?」
「青いランサーって、やっぱりクー・フーリンのこと……なんだよね?」
 恐る恐る尋ねてくるマスターに、不本意ながら肯定を返す。すると途端にマスターが、うわーそっかー、と頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「本っ当に申し訳ないんだけど、わたし、最近までエミヤに言われたこと忘れてて……。割と何度も、戦闘で同じチームにしちゃってたよね? クー・フーリンは嫌じゃなかった?」
「嫌じゃなかった、って……」
 大体の人となりは知っていたが、この少女はどこまでお人好しなのか。
「嫌も何もねえだろ。使える兵を使うべき時に使わなくてどうするよ。オレがここに来た頃は、サーヴァントの頭数だって揃っちゃいなかっただろ」
 今でこそ、能力や戦術の相性を考えて、レイシフトのメンバーを選べるようになっているが、ランサーがカルデアに来た頃は選択肢など無いに等しかった。マスターがアーチャーの言葉を忘れていたと言うのも、単なる不注意ではなく、戦力不足の状況で最善を尽くすためには忘れているしかなかった、ということだろう。
「オレはアイツと組んだからって、戦いに手ぇ抜くようなことはしねえし、アイツもそれは同じだろう。偏屈なヤロウだが、その筋を分からねえような馬鹿じゃねえよ。今まで文句が無かったんなら、マスターの采配には納得済みだ」
「そうかな……? そうだといいけど」
「そうだそうだ、そういうことにしとけ。あのへそ曲がり相手に、気を揉む必要なんざねえよ」
 放り投げるように言って、ランサーは椅子に背を預ける。すると、マスターが物言いたげに、じっとこちらを見つめてきた。
「どうした?」
「うん……、エミヤはああ言ってたけど、クー・フーリンは別にエミヤのことが嫌いってわけじゃないんだなって。むしろ、よく分かってる? ような?」
 盛大に疑問符が付いているが、マスターの指摘は意外に鋭い。あるじが聡くて何よりだと、ランサーは口元に笑みを浮かべる。
「前に言っただろ? あの弓兵とは何でか、召喚先でよく出会でくわすんだ。会う回数が増えれば自然と知ることも多くなる。ま、他に召喚された時のことを思い出せるなんざ、ここの召喚は相当変わってるがな」
「普通は覚えてないんだっけ? いつも初対面?」
「ああ。ついでに言やあ、会えば大抵は敵同士だ。だからな、仲の良し悪しなんて一言で言えるもんでもねえのさ」
「へえ、じゃあクー・フーリンにとって、エミヤってどんな人? それこそ前は……、“運命”とか言ってたけど」
「げ、そんなこと言ったかオレ?」
 余計なことは覚えてやがるな、と呆れるランサーに、マスターはあくまで『どう思ってるの』と食い下がる。ランサーは渋々ながら口を割った。
「厄介なヤロウだと思ってるよ。性格も戦い方も、在り方も」
「在り方って、エミヤが普通の英霊とは違う成り立ちだっていう話?」
「おお、何だマスター、知ってたか」
「説明聞いても、よく分からなかったんだけどね。アラヤとか抑止力とか」
 えへへ、と誤魔化し笑いをしてから、でも、と続ける。
「エミヤがたくさんの人を助けるために、英霊になったんだってことは分かった。カルデアの目的とも近いのかな。人間が滅びないようにするってことは、人理を続けていくってことだもんね。あ、だから特異点Fで最初に召喚に応えてくれたのが、エミヤだったのかも」
 ひらめいた、という顔でマスターが言う。確かに抑止力が作用した側面はあるかもしれないし、あの弓兵の場合、土地の縁もあったかもしれない。しかし。
「アイツが応えたのは、多分お前さん・・・・にだと思うぜ」
「わたし?」
「ああ、アイツはな、“助けを求める人の声”ってのに弱いのさ。特に、英雄でも何でもねえのに、後がないところでギリギリ踏ん張ってるような奴のな」
 他の大層な由来を持つような英霊では、聞き逃してしまうような小さな声。それをあの男は拾うのだ、と。気づいた時には溜め息しか出なかった。どんな英雄も――神ですら、全てを救うなど出来ないというのに、あの男はひとりでいったいどれだけを背負うつもりなのか。
 心底呆れ果てて、それから。そんな無謀で健気な馬鹿は、とても放っておけないと思った。
「な? 厄介だろ?」


◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 覚えている光景がある。
 夜だった。対峙したのは北欧の深い森。生い茂る木々の隙間、僅かに差した月の光を受けて、赤い外套の弓兵が構える二刀だけが、薄く輝いていた。
 そこで行われたのは、聖杯戦争と呼ぶにはあまりに粗悪で稚拙な儀式だった。しかしだからこそ、紛い物の聖杯にすら縋りたい者が、マスターとしてつどっていたと言える。
 弓兵のマスターが余命幾ばくもないことは、一目見て知れた。華奢な少女にしても細すぎる手足。血の気の失せた顔色と、そこに浮かんだ死相。おそらくは何か重篤な病に冒された体を、魔術で騙して無理矢理に動けるようにしているのだろう。
 彼女の脱落は時間の問題であり、弱った獲物をわざわざ狩るような真似を、ランサーがする必要もなかったのだが。弓兵のマスターは、ただ座して死を待つつもりはないようだった。
 遠目に偵察していたランサーへアーチャーが放った一矢は、牽制や威嚇ではなく明確な殺意を帯びていた。こちらの眉間を正確に狙った狙撃は、開戦の合図に充分だった。
 当初、戦いは互角だったと言っていい。
 射撃の間合いを許さず、接近戦に持ち込んだランサーに、アーチャーは臆すこと無く黒白こくびゃくの双剣で対応して見せた。弓兵風情がと吐き捨てられるほど、その剣技は甘いものではなく、ランサーは内心、驚きと高揚を覚えていた。
 己の槍を受けた刃を砕き、喉元を薙いだ剣を弾き飛ばしても、次の瞬間には何事もなかったように、アーチャーは二刀を手にしている。どんなトリックなのか。そもそもこの弓兵はどこの誰なのか。見極めるために、ランサーは宝具発動の構えを取った。
 一撃必殺の気配を感じ取ったか、弓兵のマスターが『こちらも宝具を!』とアーチャーに指示する。アーチャーは一瞬躊躇う素振りを見せ、しかしマスターの縋る視線に押されるように、こちらへ掌を向けた。次いで、低い詠唱が耳に届く。
 弓兵を殺すことと、その正体を知ること。どちらを優先するか迷い、ランサーは後者を取った。朱槍を開放するタイミングを計る内に、弓兵の詠唱が完成する。
 と、瞬く間に魔術が世界を塗り替えた。
 固有結界。自身の心象風景を世界に具現化する大魔術。弓兵に行使出来るような魔術ではない、という点に目を瞑れば、確かに宝具に値するだろう。事実アーチャーは、固有結界内に無数に存在する剣を雨あられと降らせることで、ランサーの宝具発動を封じ、圧倒して見せた。
 もしその攻防があと数分続いていれば、アーチャーはランサーの隙を突いて霊核を砕いていたかもしれない。狙いを定め一点を撃ち抜くのが、弓兵の本分なのだから。
 しかし勝負は、固有結界の崩壊で呆気なく幕を閉じる。固有結界の膨大な魔力消費に、アーチャーのマスターが耐えきれなかったのだ。
 赤い荒野が夜の森に戻ると、アーチャーは倒れ伏すマスターへ駆け寄った。アーチャーに抱き起こされた少女は、安心したように微笑み、二言三言、何かを言ったようだった。おそらくは、謝罪か、感謝か。最期に伸ばされた手が、アーチャーの頬に触れ、力なく落ちる。
 アーチャーは何も言わなかった。ただ少女の手を取り、懺悔でもするようにこうべを垂れる。
 その横顔に一筋、伝い落ちたものを見て、ランサーは目を逸らした。敵であろうと、いや、敵だからこそ、主人の死を悼む者の涙を、不躾に眺めていいものではない。
 後味の悪い結果になったが、もう勝負はついた。
「……強かったぜ、アンタ達」
 純粋な賞賛だけを置いて、その場を離れる。
 森を抜けると、最期まで戦い抜いた少女を弔うよう、星がひとつ空を流れるのが見えた。その星は、先ほど見たアーチャーの涙にも似ていた。

Comments

There is no comment yet
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags