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【槍弓】忘れじのショコラシュー/Novel by 田中M

【槍弓】忘れじのショコラシュー

16,762 character(s)33 mins

体だけの関係の槍弓。そんな弓が甘くないショコラシュー見つけて、これなら槍も食べられるのではと思ってバレンタインに買って渡そうとしたら、全く同じものを槍が食べているのを目撃した話。(2ページあります)

*えみご時空。
*みんな女々しい。
*細かいことは気にしない。
*いつもの感じ

それでもよければお読みください。

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ポカポカシステムが楽しい今日この頃

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1.冬木にて①


それを食べた時に思ったのは、これならあの男も食べられるのでは、ということだった。

それはショコラシューとも呼ばれるチョコレートシュークリームだった。
シュー生地にチョコレートが練り込まれており、挟まれているクリームもチョコレート。ひどく甘そうな見た目をしているシュークリームだ。

エミヤがそのシュークリームをもらったのは、新都にあるレンタルキッチンスペース。
バレンタインに向けての料理教室の助手として、顔見知りの講師にエミヤがかりだされた時のこと。
レッスン後、講師とキッチンを片付けていた時、此度の料理教室の主催者がやってきて、今日のレッスンのお礼にとそのシュークリームを置いていったのだ。

白い箱に入ったシュークリームを、エミヤはまじまじと見る。
講師曰く、それは新都の駅前に新しくできたパティスリーのものらしい。

生地にチョコレートが使われているため、通常のシュークリームよりも茶色い。大きさも、通常のものよりも小さいが、その代わり背が高い。上のシュー生地と下のシュー生地は完全に分かれており、上の生地はまるで貴婦人の帽子のように、たっぷりのチョコレートクリームの上にちょこんと乗せられていた。

箱にスプーンも入れられていることから、これは手で持ってかぶりつくのではなく、クリームをスプーンなどで掬いながら食べるものなのだろう、とエミヤは思った。
現にエミヤの横にいた講師は、上の生地でクリームを掬って食べていた。

美味しい、目を輝かせながら食べる講師を見て、エミヤもクリームを付けた生地をひと口食べてみた。

鼻に抜ける、芳醇なカカオの香り。
そして次に思ったのは、甘くない、ということだ。
たっぷりのチョコレートクリームはさぞ甘かろうと思って口に入れたのだが、驚くほど甘くない。なのに、チョコレートの美味しさはしっかり感じられる。
またこれだけのクリームを使っているのに全く重くなく、むしろひとつでは足りないとすら思える。
どうやら中のクリームは1種類ではなく、何種類かのチョコレートクリームが混ぜられているようだった。これがおそらく、このショコラシューの美味さの秘密なのだろう。

これは美味しいショコラシューだ、とエミヤは思った。
それと同時に、これなら甘いものがそこまで好きではないあの男も、食べられるのではないかと思ったのだ。



ランサーのクー・フーリンとの関係を適切に説明する言葉を、エミヤは未だに見つけられていない。

これが聖杯戦争中ならば簡単だった。
敵。倒すべき相手。それでよかった。

だが今、この冬木で聖杯戦争は行われておらず、召喚されたサーヴァントは人に混じり、人のように生活をしている。
だから、敵対をしていない相手を敵と呼ぶのは、あまりふさわしくない。

ならば仲間かというと、それは違う、とエミヤは言い切れる。仲間なんていう生優しい関係ではない。今は平和でも、いつ敵対するわからない相手である。だから、あの男の前で、エミヤは決して油断できなかった。

客観的にみると、商店街のアルバイトと客、というのが一番しっくり来るだろう。
あの男は商店街でバイトをしているし、エミヤもその商店街によく買い物に行く。あの男に代金を払い、花や魚を買ったことだってある。

でも、ただの商店街のアルバイトと客は、体を重ねたりはしない。
エミヤはこの世界に召喚されてから、何度もあの男に抱かれている。
それは恋人だから、好きあっているから、というわけでは決してない。

エミヤはサーヴァントであり、その体は魔力でできている。本来ならマスターからパスを通じて魔力がおくられてくるのだが、エミヤは今マスターと契約はしていない。
元マスターがイギリスに旅立つ前に残してくれた宝石に貯められた魔力と、日々の食事から得られる微々たる魔力で、その体を維持していた。

だが、元マスターである遠坂凛が残した宝石は、そんなに多くはなかった。
それでも、遠坂凛が次に帰国するまで保つだけの量はあったのだが、ある夜、遠坂邸に侵入しようとした魔術師を撃退した時に魔力を大量に使ってしまい、足りなくなってしまったのだ。

できる限り節約はしているが、このままでは遠坂凛の一時帰国までエミヤの体は保たないだろう。
消えるのも仕方がないと思ってはいたが、それで自分がもっと宝石を置いておけば、と遠坂凛が責任を感じてしまうのはエミヤの望むところではない。
だから、エミヤは彼女の帰国までに、魔力を別の方法で手に入れる必要があった。

そんなエミヤに対して、あの男にはマスターがいた。あの男の体には、常に豊富な魔力があった。
もちろん他にもマスターのいるサーヴァントは何騎かいる。だが、女性にそんなことを頼むことはできず、多少交流があり、エミヤの申し出を受け入れてくれる可能性のあるサーヴァントは、残念ながらあの男くらいしか浮かばなかった。

食事を提供するから魔力を寄越せと言えば、あの男は、手合わせに付き合ってくれるなら、とすんなりとエミヤを受け入れた。
それからエミヤは、食事の用意と手合わせをする代わりに、あの男から魔力をもらっている。

いわゆるセフレだろうか。だが、一概にそうとも言い切れない。
セフレの場合、体を重ねたくなったらそう申し出る権利は双方にあり、双方がその行為を楽しむから成り立っている関係だとエミヤは思う。

でも、エミヤと男は違う。エミヤが魔力不足にならないと、その行為には及ばないし、逆にそれ以外で二人きりで会うこともない。せいぜい商店街で買い物をする時に、軽く顔を合わせる程度だ。

エミヤの魔力が減ってきたら、エミヤがあの男の住むテントに行くか、街にいるあの男に声をかけてアパートに来てもらうかして行為を行う。
声をかけるのはエミヤだ。向こうからは何もない。
だから、真っ当なセフレとも少し違う気がした。

医者と患者のようなものだろうか、とエミヤは思う。
医者の治療がなければ、患者は生き残れない。だから医者に代価を払って処置をしてもらう。
やっていることは一番近いが、治療のために医者がその身を差し出したら、現実には大問題だ。

ややこしい関係だ、とエミヤは胸中で呟く。

こんなに悩むことになるのなら頼まなければよかった、とエミヤは何度も後悔した。
戦いもないこの世界に、自分がいる意味などない。さっさと座に帰った方がいい。敵になるかもしれない相手に抱かれながら無様に生き永らえるなど、そんなものはただ見苦しいだけだ、と。

だが、遠坂凛に変な罪悪感を植え付けることだけはしたくなく、エミヤはこうして醜態を晒しながら今も存在し続けている。

あの男は、そんなエミヤのことをどう思っているのだろう。
自分の好みでもない男を抱き続けるのは、代価があるとはいえ、辛いのではないだろうか。
その申し訳なさから、エミヤは男へ提供する食事はなるべく手をかけ、手合わせにも一切手を抜かないようにはしている。
だが、そんなことで本当に代価になっているのかと、エミヤは密かに不安だった。

あの男は、友人であれ恋人であれ、敵となれば一切容赦をしない冷淡さを持っているが、なんだかんだ情が深いところもある。
だからもし、エミヤのことを対等な取引相手ではなく、他人に抱かれることでしか体を維持できない憐れな奴、という情で抱き続けているのであれば、それはやめてほしいと思った。

あの男に余計な気をかけられたくない。同情など欲しくはない。
温度のないビジネスのような関係でいい。
その方が、エミヤの方も割り切れる。余計な期待をせずに済む。
胸の底に生まれた醜い感情も、これ以上育たなくて済むのだ。



「ありがとうございましたー」

紙袋を手に、エミヤは店を出る。
中に入っているのは、いつか食べたショコラシューだ。

バレンタインという今日この日にこれを買ったことに深い意味はない、と、エミヤは自分に言い聞かせる。
そもそも美味しいシュークリームだった。まず、大前提にそれがある。

エミヤはあの男に代価として渡すものは、いつも手を抜かない。自分で一番良いと思うものを渡すことにしている。そして最近一番美味しいと思ったのが、この甘くないショコラシューだった。

これならきっとあの男も食べられる。そして、こんなものがあったのかと、柘榴のような真っ赤な目を輝かせるに違いない。
その顔を、エミヤが見てみたいと思っただけだ。

別にバレンタインだから渡すわけではないし、店員の女性に「バレンタインの贈り物でしたら、バレンタイン限定のギフトシールを箱にお貼りしますね」と言われ、特に断らなかったのも、彼女がとても忙しそうで口を挟みづらかっただけだ。そこになんの下心もない。

そろそろエミヤの魔力がなくなる頃で、もともと今日、男に声をかける予定だった。
そして、それがたまたまバレンタインだっただけ。
今日男と会うこととバレンタインは、一切関係ない。
誰に言うわけでもない言い訳を、エミヤは頭の中で何度も繰り返す。

それに、このショコラシューはあくまでデザートだ。
メインは食事。メニューもすでに決めている。
最近は寒いから、暖かいビーフシチューでも作ろうと思った。それにサラダとワインも添えて。
シチューは少し多めに作って、余った分をスープジャーにでもいれて男に渡せば、テントに帰ってからも飲めるだろう。

そんなことを考えながら、エミヤは新都のスーパーでシチューに合わせるバケットを買い、住んでいるアパートに戻ろうとした。
その時、偶然通りかかった公園で、エミヤは見慣れた青い髪を見つけた。

その男は、人気のない公園のベンチにひとり座っていた。
背中をこっちに向けているせいで何をしているのかはわからないが、おそらくアルバイトの休憩か何かだろう。
ひとつにまとめられた青色が、エミヤの前でふわりと風に揺れる。

これはちょうどいい、とエミヤは思った。
荷物を家に置いた後、男に今日の予定を聞こうと思っていたのだ。
万が一、今夜男に用事があるのなら、エミヤは帰ってビーフシチューを作るのをやめなくてはいけないし、ショコラシューだってエミヤが処理しなくてはいけない。
探す手間が省けた、と、エミヤは足を公園に向けた。

エミヤが来たことに、向こうも気付いたのだろう。
男が首だけでこちらを向いた。
よ、と、エミヤの気も知らずに呑気に声をかけてくるので、エミヤは眉間に皺を寄せ、ここで何をしているのか問おうとした。
だが、男の前に移動し、その手に持っているものを見て、一瞬、言葉が止まった。

「……こんなところで、何を食べている。ランサー」

男の手には、齧られたシュークリームがあった。
しかも、エミヤが買ったものと全く同じショコラシュー。
よく見ると、男の横には、今エミヤが持っている袋と全く同じものが置かれていた。

「んあ?……あー、まぁ、ちょっとな」

男にしては珍しく歯切れの悪い回答だ。
おそらくバレンタインでもらったのだろう、とエミヤは思った。
その証拠に、さっきまでショコラシューが入っていたと思われる白い箱の上には、バレンタイン用のギフトシールが貼られていた。
エミヤが持っている箱に貼られているものと、同じもの。

もらったならもらったと普通に言えばいいのに。
妙に言いにくそうにしている様が気に食わなかった。まるでエミヤに遠慮しているようだ。

別に遠慮してもらう必要などない。
それが、バレンタインに自分だけチョコレートをもらって悪いな、という意味にしろ、男に対してエミヤが淡い想いを抱いていることに気付き、そんなお前の前で無神経に食べて悪い、という意味にしろ、腹が立つことには変わりない。

でも、エミヤはムッとしつつも、それを口には出さなかった。
たしかにそのショコラシューを食べている男を見た時、エミヤががっかりしたのは本当だ。
それは自分が買ったショコラシューが無駄になったからだ。
せっかく買ったのにもったいない。そう思ったから。それ以外は何も思っていない。

同じものを渡してもしょうがない。これは自分で処理することにしよう。
そう頭の中でショコラシューの処遇を決めてから、エミヤは口を開く。

「ショコラシューか。なかなか良いものをもらったようではないか。そのショコラシューはどうやらかなり手が込んだ作りになっていて、中のクリームも実は違うものが3種類入っているそうだ。結構な量のクリームを使っているのに、食べても重いと感じることはない。甘いものが苦手な君でも、美味しく感じるのではないかね?」
「まぁ、そうだな」

エミヤの問いに男がさらりと答え、大きな口を開ける。そしてショコラシューにその犬歯を突き立てた。
シュー生地がざくりと割られ、横からクリームがどろりと溢れる。それが、男の白い頬を汚した。

「……確かスプーンが付いていただろう。それは齧り付くものではない」

たまらずエミヤが口を挟めば、男はうるさいと言わんばかりに眉間に皺を寄せた。

「いいじゃねぇか。別にどういうふうに食っても」
「贈り物なのだろう?ならば綺麗に食べるのも、贈り主への礼儀ではないかね?」

そんなことを言うエミヤを、男は鬱陶しそうにじとりと睨んだ。
そして汚れた顔で、それ、とエミヤが持っている紙袋を指差す。

「てめぇも同じもの持ってるじゃねぇか。誰かにやるのか?」

これは。
エミヤは一瞬言い淀む。

本当は目の前の男に渡そうと思っていた。
甘くないショコラシュー。これなら男も食べられると思ったから。食べたら、きっとその美味しさに驚くと思ったから。
でも、男はそのショコラシューを誰かからもらって食べていた。
同じものは二つもいらない。二番煎じもいいところだ。
だから、これを男に渡すわけにはいかない。

「君には関係ない」

きっぱりとエミヤは言った。
そうだ、この男には関係ない。
これから家に帰ったエミヤがこのショコラシューをひとりで食べることも、この美味しさを男に教えるのがエミヤではなかったことに落胆していることも。
この男には関係のないこと。男が一切知る必要のないことだ。

「そうかよ」

男はつまらなそうに吐き捨て、もう一度シュークリームに歯を立てる。
綺麗に整えられたショコラシューは潰れ、だいぶ平らになってしまっている。
どうせなら、この気持ちも潰してくれたらいいのに。
そんなことを思いながら、エミヤは踵を返した。

今日は一人でいよう。
エミヤはそう思った。
魔力ならあと1日くらいは保つ。別に今日、どうしても魔力が必要なわけではない。

ただ。
このショコラシューを食べて、驚く男の顔が見たかった。

そんな己の思いを、エミヤは小さく嗤った。



Comments

  • わんわんお
    February 8, 2025
  • かべ
    October 18, 2023
  • ねいねい
    July 15, 2023
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