ぱくぱく、もぐもぐ、ごっくん、ぺろり
槍と弓がいろいろ食べているうちに、槍→弓になり、槍弓になる話。
6ページに分けてます。
※えみご時空
※御都合主義で偽造満載。ルーンを都合よく使ってます。
※スマホなんてない。
※モブ幼女とか出てきます。
とにかく、なんでも許せる方向け。
それでもよければお読みください。
<目次>
1.コーヒーをひとつ
2.ハンバーガーとフライドポテト
3.カレーライスを大盛りで
4.お花見BENTO
5.サイダーをふたつ
n.ソーダアイスをはんぶんこ
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槍弓春の飯祭りに参加させていただきました。
素敵な企画を、ありがとうございます!
可愛くて気軽に読める話を、と思って書き始めたのに、結果いつもの感じになりました。
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1. コーヒーをひとつ
アーチャー・エミヤは、買い物の途中に立ち寄った公園で、見覚えのある青い髪を見かけた。
暖かくなったきた柔らかな風に、絹糸のような髪がふわりと揺れている。
アルバイトの休憩中だろうか。男はギャルソン姿で、ベンチにゆったりと座っていた。
特に声をかけるような用事もない。
気付かれないよう、そっと距離を取ろうとした時、ふと、あるものが目に入る。
ベンチに座る男の前にいたのは、2、3歳くらいの見慣れぬ幼女だった。
エミヤは思わず、近くに交番もしくは公衆電話がないか探した。
「おい、そこの弓兵!なにしようとしてんだよ!」
遠くに公衆電話を見つけ、一歩踏み出そうとした時、後ろから鋭い怒鳴り声が飛んできた。
振り向ければ、ベンチの男の赤い目がこちら睨みつけている。
「特に何も。強いて言うなら、犯罪を未然に防ごうとしただけだ」
「俺はこの嬢ちゃんに指一本触れてねぇよ。勝手に人を犯罪者にすんな」
「それも時間の問題かと思ってね」
エミヤの言葉に、男が額に青筋を立て、さらに何か言い返そうとした時、あどけない声がそれを遮った。
「ともだちー?」
発したのは、男の前にいた幼な子だった。
肩までの黒い髪をふわりとゆらし、小首を傾げている。
エミヤはその子どもに歩み寄り、目線を合わせる為に、その前で片膝をつく。
「お嬢さん、あいにく私とこの男は友達などでは…」
「こーいー、いるー?」
被せるように投げられた言葉に、エミヤは首を傾げる。
こーいー、とはなんだろうか。
よく見ると、彼女の小さな手には透明なプリンカップがあった。
そこには八分目くらいまで砂や土、落ち葉などがいれられている。
「いま、こーいーつくってたの」
「こー…、あぁ、もしやコーヒーのことか?」
「うんー。つぎはー、おたとう」
言いながら彼女は足元の砂を片手で掴み、プリンカップの上にバサッとかけた。
入りきらなかった砂が、地面にはらりと落ちる。
「あとはー、かじゃりつけー」
ベンチの横に生えていた雑草をぶちりと千切り、それも持っているカップに入れた。
茶色の中で、緑色がよく映えている。
「さいごにー、まほうのおこなー」
彼女は、もう一度足下の砂をひとつかみして振りかけた後、土や砂でいっぱいになったプリンカップをエミヤに差し出してきた。
「はい、どうじょー」
「あ、ありがとう」
「あつーいから、ふーふー、ねー」
これは、言われた通り、ふーふーと息を吹きかける振りをした方がいいのだろうか。
戸惑いながらそれを受け取れば、横から笑いを噛み殺したような声が聞こえた。
「笑うな、ランサー」
「悪い悪い。想像以上にかわいいやりとりだったもんでな」
ランサーはひとしきり笑った後、エミヤにプリンカップを渡した子どもに向き直った。
「なぁ、お嬢ちゃん。俺にはくれねぇの?」
「えー」
彼女は辺りを見回した後、隣のベンチでおしゃべりに興じていた女性グループを見つけ、そちらに駆けていった。その中の1人の女性が持っていたナイロンバックの中を探り、エミヤが持っているものと同じプリンカップを取り出す。そしてその場でしゃがみこみ、再び土や砂をその中に詰め込みはじめた。
「あの子はよく魚屋に来る客の子でよ。バイトの休憩でここに来たら、ばったり会ったんだよ」
ベンチに座る男の声に、エミヤは顔を上げる。
「顔見知りなのか」
「おう。今日は同じ幼稚園の友達と遊びに来たらしいぜ。隣のベンチにいるのは母親達だ」
ちらりとそちらを見れば、目があった数名の女性陣が、ぺこりと挨拶するように頭を下げてきた。エミヤも、軽く頭を下げる。
確かにあたりを見回せば、砂場や滑り台には幼い子ども達が楽しそうに遊んでいた。
そんな穏やかな光景を少し眺めた後、エミヤは立ち上がり、膝についた砂を払う。
「お前は散歩?」
「買い物の途中に立ち寄っただけだ」
そう答えた時、ずっとしゃがみこんでいた子どもが、すくりと立ち上がり、こっちに向かって駆けてきた。
おそらく、ランサーの分のコーヒーとやらができたのだろう。
なんとなく眺めていると、駆けてくる彼女の足がもつれた。
その小さな体が、前に倒れこむ。
「あ」
呟いたのは誰だったのか。
エミヤが動くよりも先に、ランサーの姿がベンチから消える。
一陣の風の後、叩きつけられるはずだった彼女の体は、男の手に受け止められ、そのままゆっくりと地面に降ろされた。
どうやら怪我もなさそうだ。
エミヤは、ほっと胸をなでおろした。
事態に気付いた幼女の母親らしき女性が、隣のベンチから駆けてきて、ランサーに何かを言って頭を下げている。
その横で、彼女は地面に座り込んだままだった。
「…どうした?どこか痛いところでもあるのか?」
呆然としたままの彼女を放っておくことができず、エミヤは再び膝をついて声をかけた。
すると、ない、という小さな声が返ってきた。
なんのことかと辺りを見渡せば、彼女の少し先にプリンカップが落ちていた。おそらく、彼女が転ぶ直前まで持っていたものだろう。彼女が一生懸命に詰めた土や葉っぱは、地面に落ちた衝撃で、ほとんど溢れてしまっていた。
彼女の顔が、不意にぐにゃりと歪んだ。
口角が下がり、大きな目には徐々に膜が張っていく。
ああ、泣いてしまう。
そう気付いたエミヤは、素早く落ちていた容器を拾い、彼女から見えないように自分が持っていたカップから中身を半分移す。
そして、ずいっと彼女に差し出した。
「ほら、なくなってない」
涙で潤む目が、ゆっくりとエミヤを見る。
エミヤは安心させるように笑いかけながら、さらに言葉を重ねた。
「君が作ったコーヒーだろう?冷めないうちに、あの男に渡すといい」
そう言って小さな手にプリンカップを持たせてやれば、彼女は少し目をさ迷わせた後、すくりと立ち上がり、母親と話していた男にそれを差し出した。
「はい、どうじょ!」
「おお、ありがとうな。嬢ちゃん」
そのコーヒーを受け取った男は、にかっと笑った。
そして、それを飲むふりをして中味を空け、空になったものを男は彼女に返した。エミヤも慌てて飲むふりをし、空のプリンカップを差し出せば、彼女は嬉しそうに笑って受け取った。
それはまるで花が咲くような、かわいらしい笑顔だった。
「さて、俺もそろそろ行くかね」
公園から出て行く親子を見送った後、ランサーはぐぅっと背伸びをして言った。
エミヤもそろそろ買い物に戻らねば、遠坂凛に頼まれた夕食の支度に間に合わない。
さて、どこから行くかと考えていると、男が、あ、声を上げた。
「そうだ。これ、やるわ」
男が放ってきた物を、エミヤは反射的に受け止める。
見れば、それは缶コーヒーだった。
「休憩中に飲むつもりだったんだが、あの嬢ちゃんの相手してたら、今の今まで買ったのを忘れてたわ。もう時間もないし、適当に処理しといてくれや」
酒じゃなくて悪いな、と言いながら、男はエミヤの横を軽やかに通り過ぎていった。
エミヤは慌てて、それを追いかける。
「待て、ランサー!」
「なんだ?酒の方が良かったのか?」
「違う。そもそも酒は飲まない。じゃなくて、これは貴様が買ったものだろう。責任を持って自分でなんとかしろ!」
「だから、もう時間ねぇっつってるだろ」
「バイトが終わった後に飲めばいいだろう。別に腐るものでもない」
「あー、いちいちうるせぇなぁ。じゃあ、あれだ。さっきのコーヒーのお礼だ」
コーヒーだと、と言いかけ、思わずエミヤは口を閉じる。
土と砂でいっぱいのプリンカップ。
拙い言葉で、どうぞと差し出してきた幼な子の笑顔が蘇る。
「お前のを分けてくれただろ?その礼ということにしておいてくれ」
見られていたのか。
なんとなく恥ずかしい気持ちになり、一瞬言葉が止まる。
エミヤは誤魔化すように、大きく咳払いをした。
「…まぁ、そういうことだったら受け取っておこう」
「そうしておいてくれ。じゃあな」
男は青い髪を翻し、公園の出口に駆けていった。
残されたエミヤは、手の中の缶を見る。
どこでもよく見る黒いパッケージのそれ。
おもむろに蓋を開け、ひとくち、口に含む。
まぁ、悪くはない味だった。
少しずつ飲みながら、公園を出る。
さて、まずはベーカリー。次にスーパー。最後に精肉店に行くか。
最適のルートを考えながら進んでいると、道沿いにある店のショーウィンドウに映る己が、妙に機嫌が良さそうなことに気付いた。
表情はいつもより柔らかく、口の端もほのかに上がっている。
どうしたのだろうか。
ガラスの向こうの自分が、訝しげに眉をひそめる。
そしてふと、その手にもつ缶コーヒーが目に入り、まさか、と思う。
たかが缶コーヒーをもらったくらいで、自分は浮かれていたのだろうか。
そんなことで機嫌がよくなるなど、自分も随分と安くなったものだ。
呆れるように息を吐き、残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
確かに今の生活は、かつてないほど穏やかだ。血で血を洗うような戦いも、一方的な殺戮もない。
それでも、一定の緊張感を持って生活していたつもりだったが、気付かないうちに気が緩んでいたらしい。
むしろこの平和な状況こそ、ありえない異常なことなのだ。
これに慣れ過ぎないよう、気を引き締めていかなくては。
そう考えながら再び歩き出せば、ふと自動販売機が目に入った。
その隣には、缶専用のゴミ箱が置かれている。
ちょうどいい、と空になった缶をそこに捨てる。
指を離す瞬間、ほんの少し名残惜しい気がしたのは、きっと、たぶん、気のせいだ。
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