【2/24無配】おばけやしきと見栄っぱり
2/24 第20次ROOT4to5で無料配布しました小話です。
新刊「夜」と合わせて、こちらも楽しんでいただけたら嬉しいです。
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先日のイベントでは、当スペースまで足を運んでいただき、誠にありがとうございました。
不手際等多々あったと思いますが、読んでくださっている方と直接お会いすることができて、また温かいお言葉をたくさんかけていただき、嬉しかったです。
イベントに出した既刊2冊と新刊1冊は、後日全てboothから通販する予定です。
今再版の手続きをとっておりますので、今しばらくお待ちください。
準備が整い次第、ツイッターで告知いたします。
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「アーチャー。ちょっと面貸せや」
とある夏の昼下がり。アーチャーが商店街を散歩していると、ランサーに呼び止められた。
そして、訝しむ間もなく強引に連れて来られたのは、郊外にある遊園地だった。
「……なぜ遊園地などに」
「花屋によく来る姉ちゃんが、ここにあるお化け屋敷をプロデュースしてる会社で働いてるらしくてな。客入りが芳しくないから、どうかお友達と来てくれって割引チケット置いてったんだよ。代わりにたくさん花を注文してくれたし、行かなきゃ悪いじゃねぇか」
だからと言って、なぜ男二人で。
目の前にある建物からは、恐怖を煽るような曲と太鼓の音。時折、明らかに合成された女性の悲鳴が聞こえてくる。
夕方とはいえ、まだ陽は高く、遊園地には多くの人がいた。家族連れや、恋人達。学生の集団と思われる楽しそうな声も響いてくる。にも関わらず、この建物の周りだけ、妙に閑散としていた。
「ま、パッと行ってパッと帰ろうぜ。とりあえず一回入れば、義理は果たしたことになるだろ」
近くにいたスタッフにチケットを二枚差し出し、ランサーは入口にかけられた暗幕をくぐり、中に入っていく。
エミヤは溜め息を吐き、黙ってその後ろをついていった。
建物の中は空調が効いていて、外よりはるかに涼しかった。人間ならば、少し肌寒さを感じるくらいだろう。中は暗く、狭い通路が続いている。どうやらマンションの廊下を模しているらしく、両側に部屋番号が記されたプレートが並んでいた。
そこでふと、エミヤはあることに気付いた。
「ここは機械仕掛けではなく、生きた人間がお化け役をするタイプのお化け屋敷か」
「ん?機械仕掛けの方が好みか?」
「好みどうこうではない。気配でどこに誰が潜んでいるか大体わかってしまう。これでは、驚こうにも驚けない」
そっちもそうだろう、と言えば、ランサーは、まぁ、そうだな、と答えた。
それとほぼ同じに、右側の扉が勢いよく開き、そこから血塗れの男が飛び出してきた。
予想していた通りの登場に、エミヤ達はそれを一瞥した後、特に歩調を速めるわけでもなく、通路を進んでいった。
「次は左だな。二人いる」
「ああ。ひとつ前の扉からも来るぞ」
「わかっている。そうやって追い立てて、この部屋に誘うんだな」
淡々と会話しながら、出てきたお化け役達をかわし、わざとらしく扉が開いている部屋に入る。
そこは、桜色のかわいい壁紙に包まれた部屋だった。中にはベッド。その上には古いタイプの携帯電話がひとつ、ぽつんと置かれている。
二人の後ろで、入ってきた扉がぱたりと閉まった。
「暖色系よりも寒色系の壁紙のほうが、睡眠には効果的なのだが」
「雰囲気だろ、雰囲気。こういう方が、いかにも女の子の部屋って感じがするじゃねぇか」
そんな話をしていると、突然置かれていた携帯電話がけたたましく鳴り出した。
その音が不自然に歪みだしたかと思えば、部屋の壁がばんばんと激しく叩かれる。
「すげぇな。この壁叩くの、二人でやってんのか」
「まぁ、そこまで人員は割けないのだろう。人件費も最近は馬鹿にならんからな」
次第に壁を叩く音はおさまり、かちゃ、と音がして、入ってきた扉とは別の扉が開いた。
出た先は部屋の廊下という感じで、フローリングのような模様が地面に描かれている。
その先には、玄関を模した暗幕の下がった出口が見えた。
どうやら、あそこでお化け屋敷は終わりらしい。
後ろに数人の気配を感じることから、ある程度進んだら後ろからお化け役が追いかけてきて、そのまま出口になだれ込む作りなのだろう。
ようやくこの茶番も終わるのかと息を吐けば、ふと、廊下の途中に、女性がうずくまっていることに気付いた。
周りの気配に気を配り過ぎていたせいか、近くにいたのに全く気付けなかった。
きっと、この女性が脅かすのが合図になって、後ろの集団が追いかけてくるのだろう。
そんなことを考えながら近付いた時、女性がすくりと立ち上がった。
暗闇に白い肌がぼうっと浮き上がる。身長は低く、エミヤの胸くらいまでしかない。着ているものは、黄色いTシャツにショートパンツ。足は裸足だ。前髪が長く、俯いているため、その顔は半分以上見えなかった。
随分と現代的な服装だ。もう少しお化けらしい格好をした方がいいのではないか。
そんな余計なことを考えていると、女性は、さびしいの、いっしょにきて、と、エミヤの方に手を伸ばしてきた。
このようなお化け屋敷の場合、お化け役の役者は決して客には触ってはいけない、という決まりがある。以前、そんなことをテレビで聞いた記憶があった。
エミヤはちょっとした悪戯心で、このまま避けないと、この女性はどうするのだろうかと、あえて動かずに、じっとその動きを見つめていた。
その時、エミヤの腕に熱いものが触れた。
腕を掴んだそれは、思い切りエミヤを後ろに引っ張った。突然のことにエミヤは思わずバランスを崩し、後ろに数歩下がる。
代わりにエミヤの目の前に飛び出したのは、青い髪。
どうやら、ランサーがエミヤの腕を引っ張り、女性との間に割って入ってきたらしい。
そしてランサーは、女性にはっきりとした口調で告げた。
「コレは俺のだから駄目だぜ、嬢ちゃん」
この男はいったい何を言っているのだ。
呆気に取られていると、女性は悲しそうな顔をして、ふっとその場から掻き消えた。
まるで、本物のそれのように。
「こういうところは、たまに混ざっているからな。もしかしたら客入りが悪いのも、ああいうのがいるからかもしれん。ん?どうしたアーチャー?」
尋ねてくる言葉を無視し、今度はエミヤがランサーの腕を、がしりと掴んだ。
きょとんとしている男を引きずるようにして、足早に出口へ向かい、お化け屋敷の外に出る。
そのままエミヤは猛然と歩き続け、遊園地を出たあたりで、ようやく男を掴んでいた手を離した。
辺りはお化け屋敷に入る前よりも橙色に染まり、遠くからヒグラシの鳴く声も聞こえてくる。
「……ふっ、なかなか楽しめたな」
「すげぇな、お前。あからさまに怖がっておきながら、その態度が取れるか」
「何を言っているのかわからんな、ランサー。さて、用も済んだし帰ることにしよう」
言いながら平然を装って歩き出せば、男も後ろからついてきた。
「そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃねぇか。お前は最近の英霊だから、ああいうのと馴染みが薄いんだろ?」
「うるさい。それ以上言うと口にパクチーをねじ込むぞ」
「ぱくちーが何かわからんが、嫌な予感がするからやめてくれ。わかった、わかった。悪かったって」
言いながら追いついてきたランサーが、ひょい、とエミヤの顔を覗き込む。
夕日に照らされたその顔を見て、男は不意にニヤリと口の端をあげた。
「なぁんだ、アーチャー。恥ずかしいのはそっちだったのか」
「言っている意味がわからんな。暑さで頭でもやられたのかね」
嫌味ったらしく言葉を投げつける。だが、その切れ味はいつもより鈍かった。
きっとランサーは気付いている。
エミヤの顔が、夕日に負けないくらい真っ赤になっていることを。
「俺のものって言われたのがそんなに嬉しかったか?いつも言ってるじゃねぇか」
「うるさい。さっさとその口を閉じろ」
「第三者にそれを宣言するっつーのが良かったのか?」
「うるさい!余計な分析をするな!」
顔を赤くして怒りながら歩みを早めれば、男も軽い足取りでついて来た。
「なぁ、アーチャー、アーチャー」
「キャンキャンうるさい!それ以上無駄口叩くと夕飯をやらんぞ!」
「ちなみに今日の夕飯は?」
「豚しゃぶだ。ピリ辛ごまダレの」
「マジで?俺の好きなヤツじゃねぇか!」
「わかったら、余計な話をせずにさっさと帰るぞ」
「へいへい。いいじゃねぇか。ちょっとくらい」
未だに不満そうにぶつぶつと言葉を漏らす男を、エミヤはぎっ、と睨みつける。
「なんだね、そんなに私をからかうのが楽しいのか?」
「へ?」
恨みがましく言えば、男はきょとりと目を丸くした。
「別にからかってねぇよ」
「は?じゃあ、さっきまでの態度はなんだというんだ」
「嬉しかったんだよ。俺の言葉でお前がそこまで喜んでくれのなら、俺も嬉しいに決まってんだろ」
さらりと告げられた、その言葉。
一瞬の間の後、エミヤの顔にさらに熱が集まった。
何を馬鹿なことを言っている。とうとう頭がイカれたんだな。ご愁傷様。バーサーカーに一回殴られてこい。そうしたら、その頭も多少はマシになるかもな。
脳内を様々な罵り言葉が駆け巡る。
いくつもの罵詈雑言が浮かんでは消え、浮かんでは消え、ようやくエミヤの口から出てきたのは。
「……よ、喜んでない。喜んでなどいない!」
驚くほど拙い否定の言葉に、目の前の男が嬉しそうにまなじりを下げたのは、言うまでもなかった。
(終わり)
再販楽しみです。ありがとうございます!