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メリー&デッドゴーラウンド/Novel by 妹尾アキラ

メリー&デッドゴーラウンド

50,450 character(s)1 hr 40 mins

某海外ドラマの某トリックスターエピソードを元ネタにしたHA後槍弓です
HA期間中にデキてない、糖度ゼロに近い二人

パロディというほど元ネタの原型はありませんが、弓の人がスペランカーの如くコロコロ死ぬので、詳細な描写が無くともそういった話が苦手な方は充分にご注意ください

あとついでに申しますと元ネタの海外ドラマの方はS3までしか観てないです、ごめんなさい

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 荘厳なオルガンの音で目覚めた。

 珍しく、そう、本当に珍しいことに、己がマスターである少女が、早朝から教会のオルガンを奏でていた。眠りに落ちた記憶もない己はその音で急速に意識が覚醒し、横になっていた木製の長椅子からがばりと跳ねるように起き上がる。
 睡眠なんて霊であるサーヴァントには本来不必要な行為だから、伝承のように寝起きが悪かったり寝ぼけて暴れたりはしない。堅い木のベンチで寝ていたからか、背や首の筋が強張っていると感じたが、動かしていたら解れて元通りになる程度の違和感だ。首を捻るとゴキゴキと鈍い音がして、何で昨日の自分はこんなところで寝入ってしまったのだろうと考える。そもそも教会なんて、従者使いの荒いマスターに布っきれで捕縛されたんでもなきゃあ、進んで寄り付きたいような場所でもなかろうに。

 ーー起きたときに聴こえたオルガンの音色は、まだ続いている。

 あの性悪な少女マスターのことだ。オレがこの礼拝堂の端っこで寝てることに気付いていながら、嫌味のひとつも吐かずに無視して演奏し始めるなんてことはなかろうし、幸運にも存在に気付かれていないのなら、厄介な相手に気付かれる前に早々にこの場を立ち去るに限る。余計な用事をわんさと押し付けられた後では遅いのだ。
 今さらのような気もしたが、気配を消しがてらそうっと霊体化すると、オレはそそくさと人気のない礼拝堂を後にした。
 そう、早朝にこの教会に訪れるような者は少ない。礼拝のある安息日ならまだしも、生憎今日は平日だ。ぐるぐると繰り返していた日々も無事五日目を迎え、後処理やゴタゴタがある程度収束した頃合いの、十一月半ばの火曜日。まだ少しクリスマスやトシノセとやらの準備をするには早い時期、らしい。
 ま、バイト先の店長やセイバーのマスターであるあの坊主が言うには、そうらしいってやつだ。聖杯からそういった情報を引き出せはするが、オレ自身には馴染みのない行事だから、実際のところはよく分からん。
 オレにとっての冬というのは、サウィンが過ぎてから訪う死と闇の季節。だがこの国では冬はそこまで冷たい印象ではなくて、季節とやらも、反転する二つではなく四つに分かれているそうだ。
 ……まあ、それはそれ、だ。
 知識として与えられこそすれ、実際に体験してみんことには質感は伴わない。知識と実感は違う。けれども、生きたオレが暮らした場所とは、国も地域も時代も異なっているのは百も承知なのだ。
 それに、雪も冷え込みもそう厳しくないというのは少し嬉しかった。サーヴァントだから大した障害にはならんが、温度を感じぬ訳ではないから寒いのはあまり好きじゃあない。
 面倒くさがって冷え込み始めても手持ちの半袖のまんまでウロついているが、バイト先の店長や道行く人間の反応を見るに、そろそろ上着を用意した方がいいんだろうがなぁと思案しつつ外に出て、しゅるりと姿を現した途端。
 覚えのある気配と声が降ってきて、思わず「うげえ」と声が出た。

「……これはこれは、ランサー」

 おお、ヤダ。声だけで嫌味っぽい。
 常に代わり映えのしない、面白みのカケラもない黒いシャツに黒いスラックスという出で立ちで教会の前に立っていた男は、オレを見るなり眉を顰めてわざとらしくため息を吐く。

「君、秋も深まって、大半の人間が冬の始まりを感じる季節になっている、というのは認識できているかね? あのド派手なアロハシャツでなかったことだけは褒めるべきなのかもしれんが、さすがにこの温度と気候の中をTシャツ一枚で過ごすというのはいただけない」

 せめて上に何か羽織りたまえよと忠告する男自身の服装に、全く季節感も洒落っ気も無いんだから、正直おまえが言うな以外の何物でもないんだけどな。
 そう言い返してやっても良かったが、軽く喧嘩を売ろうものなら売り言葉に買い言葉で長くなっちまうのがオレとアーチャーの野郎の関係な訳で。朝っぱらからそんな奴の相手をしてやるのが何だか億劫で、これから見繕いに行くところなんだと適当に返事を返す。
 ちょうどそのことを考えてはいたんだ。必要なモノだし、本当に仕入れに行ったっていい。
 そう言うと、着飾る気の無さそうな男は何故か安堵したように息を抜き、それならばいい、とオレに向ける気だったのだろう嫌味か小言かの文言を口のなかに引っ込めて、教会のドアに手を掛けた。
 一応、何の用かと問うてやると、凛からカレンマスターに渡して欲しいと頼まれたと言って小さな紙袋を掲げてみせる。
 そうかい、と答えつつ、男にも用事の内容にも特に興味はなかった。
 態度でそうと分かるのか、互いにそれ以上の会話もなくそのまま別れ、歩き出した背中の後ろでドアが閉まる音を耳に入れつつ、スタスタと石畳を歩き進める。
 そうだな、服をみるんだったらヴェルデあたりに行きゃいいか。開店までの時間つぶしも兼ねて、ぶらぶらその辺をうろつきながら向かやあいい。確かに肌寒く感じる冷たい風を剥き出しの腕に直接受けつつ、葉の殆ど落ちた街路樹が立ち並ぶ坂を下っていった。


+++

 嘆くほどには悪くなく、さりとて取り立てて良くもなく。そんな平々凡々な時間をのんびり過ごす。
 散歩がてらブラつきながら街の中心部まで足を伸ばして、開店直後のヴェルデで適当にジャケットを選んで身につけると、ここのところちらちらと向けられていた好奇の目線が目減りした気がした。
 ああ、要するにオレの見た目が珍しいってよりは「あの人寒くないのかなー」とか思われてたってことね。お節介なんだか何なんだか。オレからすりゃ人目を気にし過ぎじゃねえの、と思わずにはいられない。加えて言うならジャケットを手に入れて、人ごみの中で浮くことはなくなったが、残念ながらナンパの成功率に変化はみられなかった。
 副次効果は得られなかったが、ま、ひと冬程度の見た目は繕えるだろう。今朝会った文句の小うるさい弓兵の微妙な面持ちを思い出して無為に苛立ちかけたが、だがこれでもう小言を言っては来ないだろうという点で無理くり溜飲を下げる。
 そんな折、午前中は空いていたが、昼過ぎから商店街でのバイトを入れていたことを思い出し、新都から深山町の方に移動することにする。
 ヒトであれば移動に時間も手間もかかろうが、こちとら英霊なのだ。姿を消してしまえば人間どもにとっちゃ一陣の風と変わらず、バスに揺られて動く距離を人家の屋根伝いに駆け抜ける。姿を消すといっても、せっかくジャケットを買ったばかりだったので霊体化はやめた。人目につかないようチョイチョイとルーンで視線避けを施しただけだ。
 ほどなくして商店街のはずれに辿り着き、パンパンと埃を払って身支度を整えた。この程度の距離、準備運動のうちにも入らない。
 花屋におもちゃ屋、魚屋に新都の喫茶店。現世での日銭を稼ぐために色んなところに勤めたが、つまりは色んなところでクビになってるということでもある。さて今日は、いったいどこで何のバイトを入れていたんだっけ。
 “商店街で昼からバイト”ということは覚えていたのに、シフトも仕事内容も覚えていないことに違和感を覚えつつ、商店街の知り合いに聞いてみりゃ良いかと深く考えるのはやめておく。
 誰か居ないかとキョロキョロと周囲を見回すと、見覚えのあり過ぎる風体の大柄な男が目に入って、思わず「うげえ」と口に出した。

 白い頭髪に黒シャツ黒ズボン。
 手にはスーパーのレジ袋を下げていて、どことなくシュールな生活感を漂わせてはいるが、基本的には朝会ったときと変わらない。そう頻繁に会うこともない相手と一日に二度も遭遇するなんて、互いに何たる幸運なのだろう。勿論、悪い方でという意味だが。両者のパラメータ値が幸運Eであることを知ったうえで、嬉しくない偶然に顔を見合わせて大きく息を吐き出した、ところまでは良かった。

 向かい合っていたアーチャーが、突然目を見開いたかと思うと瞬時に駆け出し、戸惑う間も無くオレの横を通り過ぎると、ボールを追いかけて道路に飛び出したらしい子どもを突き飛ばした。多少乱暴でも動線から外すにはそうするしかないと判断したのだろう。子どもが走り込んでいた場所にはスピードを出し過ぎた車が迫っていて、突き飛ばした子どもの代わりにその場所にいるのは、黒シャツ黒ズボンのお人好しバカな訳で。
 当然のようにドンッと鈍い音が聞こえると、跳ね飛ばされるでなくボンネットの上に乗ってしまった男の身体はそのまま暴走する車に連れ去られて、角の店の自販機と轢いた車とに押し潰されてぺっしゃんこになった。
 断末魔、も何もない。一瞬何が起きたのか分からなかった。
 分かるのは男が落としたスーパーのレジ袋から割れた卵が流れ出してることと、男が突き飛ばした子どもが擦りむきながらも事故には巻き込まれず、ギャンギャンと泣いていること。
 野次馬も救助者もやってきて周囲が騒然とし始めていることと、子どもを庇って車に轢かれたサーヴァントであるはずの男が、体液や内臓を撒き散らして、多分事切れていること。

 人間だったら即死だろう。あれだけのスピードで車に轢かれ、更にそのまま押し潰された。
 白い頭髪の殆どが赤黒く染まり、乱れて前髪が額に落ちていることも相まって妙に心がかき乱される。
 ふらふらと男に近寄って、ああ、誰かになんか言われたような気がするけど、オレぁ一応潰れたコイツと無関係じゃねえ、特に関係もねえけど今朝も会ってさっきも視線が合ったんだ。小言がムカつくだけの他愛もないやり取りをして別れて、今日はあの男に二回も会っちまったぜ胸糞悪い、って、そんな風に一日が終わるはずだったんだ。
 手を伸ばして男に触れると、人間みたいな感触がした。
 死体のくせに。サーヴァントのくせに。死んでる身のくせに、何故もう一度こんなことで死んでいる?
 突発的な出来事に対する衝撃がようやく落ち着きをみせると、ショックよりも薄気味悪さと疑問の方が大きくなってきた。
 ぱちぱちと瞬きを繰り返すが、目の前の遺体はただ血を垂れ流すだけ。魔力の粒子に戻る気配はみられない。意識の外に追いやっていた周りの音も、ざわざわとした喧騒に紛れて、遠くからサイレンの音が近付いてくる。車を運転していた運転手が、商店街の客や店員たちの手でひしゃげた運転席から引き出された。
 ああ、オマエの方は生きていたのか。オマエが轢いたこの男は、常は嫌味を吐きちらす薄い唇から、たらたらと赤い液体しか吐き出さないってのに。
 一度空を仰ぎ見て、逆月もどろりと溶けた黒い太陽も浮かんではいないことを確認し、世界を拒絶するようにぎゅうと目を瞑る。

 遠くで救急車や何やらのサイレンが聞こえる。
 ここにある遺体と怪我人を運んで病院に行くんだろう。オレは一部始終をこの目で見ていたのだから、あの嬢ちゃんにはオレの口からこのことを伝えてやらねえと。

 サイレンが
 サイレンの、
 ……サイレンの、音が、



 プアー、と少し間の抜けた大きな音がしたと同時にばちりと目を見開くと、オレは教会の長椅子に横たわって寝ていたらしかった。
 さっき聞こえた聞き覚えがあるような無いような音楽は、どうやらオルガンの演奏であったらしい。礼拝の日でもねえのに珍しい、と考えた瞬間に意識と記憶が覚醒し、即座に霊体化して建物の外に飛び出る。
 果たしてそこには少し驚いた表情の褐色の男が、主人から言付かったのだろう小さな紙袋を手に持って、ドアの前に突っ立っていた。

 男は目を丸くしたまま、それでも何のプライドか慌てて不敵そうな顔を作り直して、「……これはこれは、」とオレに話しかけようと、した。

「ラン、
「おい」

 言い切る前に、男の言葉に被せるように問いかける。有無を言わせないくらいの語気と迫力で。

「おいアーチャー、今日は何曜日だ?」

 オレの問いかけに対し、男はぱちぱちと数度瞬きをして。さも当然のように、オレに教え諭すようにゆっくりと、おぞましいことを口にした。

「今日は火曜日だぞ、ランサー。ちゃんとカレンダーで確認したかね?」

 そんな幽霊にでも会ったような顔で、何を当たり前のことを、と。オレを小馬鹿にしてきつつも、存外硝子色の目の奥はオレの様子のおかしさを憂慮しているらしいのが透けて見える。
 思っていたほど悪いやつじゃあない。が、積極的に貧乏くじは引くタイプだろう。それこそ、轢かれそうな子どもを庇って代わりに車に押し潰されたりするような。
 そしてそれよりも、確実なことがもう一つ。

「……オマエ、カレンに用事だろ。その用事が終わったら街ウロついてねーでさっさと帰れよ。……特に、商店街の方には近付くな」

 何を言ってるんだ、とか、特売が、とか何とか言ってる声を無視して、苛立ち気味にその場を後にする。オレには確かめねばならぬことがあって忙しい。男の一日の予定なんぞ知ったことか。
 坂の上にある教会から、住宅地の方へ向かって坂を下っていく。
 民家の塀の上で眠っていた黒い猫。学校に行く途中と思しき自転車の学生。小学生の交通安全ボランティアで、旗を持って横断歩道に立つ元気そうな爺さん。
 そういうのが、寸分違わずと言っていいレベルで“昨日見たのと全く同じ”だった。否、正しくは“昨日”ではないんだろう。オレの体感ではほんの半日ほど前。
 その、一日の始まりに巻き戻された。

 何故、とも思うがつい最近まで似たようなことをやってた身としちゃあ、またかよ、という思いの方が強い。そして教会を訪れたアーチャーの態度を見るに、あの男はループを認識してはいないようだ。あの男があっけなくおっ死んで、一日が巻き戻ったっていうのに、本人にはその辺りの意識がまるでない。
 つまりあの男は自分が人間みたいに死ぬってことを知らずにいつも通り行動して、あっさり死んじまう率が物凄く高いってコトだ。なんつう迷惑な。死ぬなら勝手に死ねばいいが、ループの時間が短すぎる。
 ……いや、勝手に死ねばいいと言いつつ、それも何だか無性に腹立たしい。オレの全力を受け止めきるほどの実力を持っているはずの戦士サーヴァントが、オレの預かり知らぬところで、それこそただの人間みたいに死ぬ、というのは何となく腹が立つ。それこそ、そんなのは鬱憤の対象である男からしちゃ筋違いの不満だってのは、キチンと理解しているけれど。

 ピチチ、と呑気な声で鳴きながら雀が飛んで行って、朝方の静かでかつ忙しない雰囲気にそぐわない、半袖姿の外国人に注目が集まってきたのを自覚する。
 確かに見るからに異質な人物が、こんなところで突っ立ってたら警戒もしよう。己が“日常”に完全に溶け込むことのできる存在であるとはハナから思っていない。一般人彼らの日常を侵す気はないのだ。
 少なくとも、今の宙ぶらりんでゆったりした現状では。

 前回、はそのままブラついて、新都の中心へと向けた足を、今回は深山町の方向に向ける。情報が少ないからできることは少ないが、こういう場合に話を聞いておくべき手合いってのはおおよそ面子が決まっている。
 あの女なら、そうそう山から移動しねえだろうし。
 そうと決まればチンタラしてるのが時間の無駄だ。グッと後脚に力を入れて飛び上がると、川向こうの霊山に向けて、全速力で駆け出した。


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