「貴方にあいつの魅力なんて言えるわけないじゃない」
堂々と言い張る彼女の言葉がやけに頭に残った。
「どう言うこった、嬢ちゃん」
「貴方に知られたくないもの」
「俺が聞いてんのはあの弓兵のどこが良いかって聞いてんだけど」
「教えたらきっと…あなた、あいつの事好きなっちゃうわよ?」
「は…?」
彼女の言っている意味なんかこの時はさっぱり分からなかった。つか、正直分かりたくなかった。俺があいつを好きになる事なんかありえなかったからだ。俺は女が好きで恋人にするなら断然女の方が良いに決まっている。
だが、あそこまで断言されちまうとその生態が気になってしょうがない。
「…なぜ貴様が付いてくる」
「いんや、バイト休みだし。お前の弱みでも握ってやろうかと」
「くだらん」
皮肉を言いつつも俺が付いていく事に関しては何も言わなかった。一瞬後ろを歩くこちらを見ながら鼻を鳴らし電車に乗り込んで行った。サーヴァントなら空でも飛んで行けばいいのにと、と思ってしまったがこんな天気の良い日曜の昼間に皮肉を聞くのは御免だ。
電車内は混みに混んでおり人々が押し合っている状態だ。しかし、この電車内でこんな大男二人組みは結構、いや、かなり目立つ。
学生らしき女の子達が頬染めこちらを見つめていたもんだから投げキッスを送る。忽ち赤くなり顔を逸らす女は本当に可愛らしい。
それを怪訝そうに見つめてくる弓兵。
しかし、その顔は次の声で意図も簡単に崩壊する。
「ん…」
「…?」
目の前の弓兵からは俺にしか聞こえないぐらいの鼻に掛かるような声が漏れた。電車内でもわかる程こいつの魔力が揺れ動いているのがわかる。断続的に揺れる肩がやけに色っぽく、それでいて伝わる魔力は酷く…濃厚。
「へえ、おっさん妻いんのに男の尻触る趣味があんのか」
「ぎ、ぃっあぁぁぁっ!」
「俺の連れが嫌がってんだわ。それは男として、人として許せねえよな?」
「あ…」
弓兵の尻を揉みながら腰を擦りつけていた男の腕を高らかに掴み上げ目に入った薬指の銀色の輪を見ながら言い放つ。しかし、俺の身長的に男の腕を掴み上げると宙吊り状態になり足が浮く。腕からは鈍い音が響きこんな男の折れた腕を労る程俺は優しくはない。電車内には男の悲鳴が反響する。その声に気付いた車掌に男を引渡し止まった駅で降りた。
「…あの…ランサー…」
「お前、嫌なら嫌って言えやいいだ」
「…ありがとう」
「…っ…」
後ろを歩く弓兵から、か細い声が聞こえため息混じりに少し怒りを含ませ言おうと振り向いた直後に聞こえた声に目を見開く。だってあまりにもいつものこいつとは比べ物にならない程の微笑みを向ける天使がいるのだから。
それから店に行くまでがそれはもう大変だった。俺が目を離してすぐ、色々な男に連れて行かれそうになるわ、路地裏に連れて行かれ襲われそうになるわ。
「…」
「…すまない」
「…お前は人の忠告を全く聞かねえのな」
そう、家から出る時とは明らかなに立場が逆転し今俺は頭に血が昇りそうな程怒っていた。何度も俺が目を離した隙にほいほい付いて行くもんだから連れがいる、と断っても押しに負けついて行ってしまうこいつ。
ついて来たのが俺じゃなかったらどうなっていた事だろう。
「…買い物はこれで終わりか」
「え、あ…」
「何だ、どこか寄るのか?」
「…あそこに…」
「ん?」
買い物袋を片手で持ち帰ろうとした時、弓兵
はまだ買う物があるのか立ち止まった。
問い掛けにも少々視線を逸らしながら応えを待っているとゆっくり指を差しその先を目で追うと見えたのは。
「ペットショップ?」
「…こ、ここまで、買い物に付き合ってくれた事に感謝する…だから、私は」
「帰りにまた痴漢に合うのが嫌だったら俺の腕を引け」
「…っ」
「なんだ、男に尻触られるのは嫌なのに俺の腕を引くのは恥ずかしいのか?」
「〜っ」
本当に自傷するようなこいつの言動は腹が立つ。嫌な事も俺達の前以外では言えないこいつに呆れる。痴漢をされた男に何も言えないのに俺の腕を引くのを躊躇う弓兵。唇を噛み締めながらやっと俺の腕を掴み店内に入ると聞こえてくる可愛らしい動物達の声。
すると、忽ち目を光らせる姿は明らかに子供だ。
「お客様、お抱きになりますか?」
「え…わっ」
「あら、珍しいですね。この子人見知りする子なんですよー?」
「…可愛い…」
「〜っ」
子猫を見つめながら目を輝かせる姿は本当に大きな子供。すると、じっと見つめていたウインドウから店員さんが子猫を出し弓兵に抱かせようとした、が子猫の方が弓兵に飛び乗り甘えるように擦り寄っていた。
頭を撫で顎を撫でるとゴロゴロと音を鳴らす子猫。可愛いだろ?とでも言うように俺にわざわざ見せながら頬を緩ませる表情は流石に俺の何かが切れる音が聞こえた。
その後の帰り道もやはり痴漢に合い結局助けたものの記憶が曖昧だ。
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「嬢ちゃんの言ってた意味がわかったわ」
「だから言ったでしょ?」
「ノックアウトでした」
その言葉通り、その後。
俺はあの可愛い可愛い赤い弓兵を落とすべく攻めに攻めたのだった。