第3話 少女捜索隊

「おーい千春ちゃーん!!」

「千春ちゃーん!返事をしてー!」


見知らぬ森からようやく脱出したと思ったら今度は迷子の少女の捜索かー・・・。

今日はとことんトラブルに巻き込まれる日のようだ。


「す、すみません男の人にこんなこと手伝ってもらっちゃって・・・」


先ほど出会った女の子が申し訳なさそうに言う。


「何言ってるんですか!男だから手伝うんでしょうが!」


迷子の女の子。

放ってはおけない。しかもこんな土砂降りだ。何があるか分かったものではない。

それに先ほどまで自分が迷子だったこともあり迷子の辛さは身に染みて分かる。

子供があんな辛い目に遭ってるかもしれないと思えば黙っていることなんてできるはずもない。


「ところで女の子が外にいるのは間違いないんですか?友達の家とか・・・」

「う、うん 千春ちゃんのお母さんが言うには友達の家には全部連絡したけど今日は来てないって・・・。それにもう夜7時なのにこんな時間まで出歩くことなんてないから・・・」

「え・・・」


夜の7時?

先ほどまで夜の10時を回っていたはずだ。

あの試合から21時間も経っている?


「・・・・・・・!!!」


今日はデイゲームだったはずだ!!

しまった試合を見逃した!!

せっかくのチケットを無駄にしてしまった!

というかもう日曜日の夜だったのか!

やばい明日は普通に仕事だ。

ここがどこだから分からないのに明日ちゃんと仕事に行けるだろうか?

知らない森に拉致されてました、って言ったら許してもらえるだろうか?


「・・・・・・・・」


許してもらえない気がする。

やばいやばいどうしよう。

まあまだ有給あるしなんとかなるか。


「・・・・・・・あの」


サイドテールの女の子が心配そうに俺を見つめる。


「あ、いやなんでもない。気にしないでください」


いかんいかん野球の試合とか仕事とか言っている場合ではない。

小さな子供が行方不明なのだ。

そちらをまずなんとかしないと。


「圭ー!」


と、そんな時向こうの方から1人の女の子が走ってくるのが見て取れた。

彼女も捜索隊の1人だろうか?


「おおう・・・」


走ってくるのはなんというか・・・でかい。何もかもがでかい女の子だった。

身長は190cmを越えているだろうか?

俺の身長が170cmくらいだから頭1個分向こうが大きい気がする。

胸部の装甲も大変見事なものだった。

目算では下手すると100cmを越えている。

そして身長差があるため俺の顔面の高さに胸が来ている。

大変な圧迫感を感じるが黒髪をポニーテールにまとめた綺麗な子だ。

目付きは鋭いが瞳の中に強い意志と優しさを携えた、そんな少女だった。


「あ、美月!そっちの方は!?」

「ううんこっちにはいない。圭の方は!?」

「こっちもダメ。ああもう・・・千春ちゃんどこ行っちゃったの・・・」


2人で意気消沈する。

よほど千春ちゃんという女の子のことが心配なようだ。

それはそうだろう。

5歳の女の子が土砂降りの雨の中行方不明なのだ。

最悪の事態だって十分ありうる。

時間的猶予はない。


「こうなったら手分けして探しましょうか?俺はこっちの川の方を見てくるんで!」

「えぇ!?あ、男の・・・人・・だったんですか・・・?」

「え、あ、はい・・・」

「男の人・・・」


美月と呼ばれた少女が固まってしまった。


「ふ、服・・・ 透けて・・・」

「え?あ、ああ・・・」


今日の俺の恰好はユニフォームに薄い白シャツ1枚だ。

びしょ濡れなので多少透けてしまってはいると思うがそんなに気になるのだろうか?


「お見苦しいところを見せて申し訳ありません!とにかく急ぎましょう!」

「うぇえ!?あ、はい・・・」


変なリアクションをするでかい女の子。

そんな彼女に首を傾げつつ俺は川の方に駆けて行った。


―――――――――――――――――


「千春ちゃーん!いるなら返事をしてくれー!」


力の限り叫びまくる。

雨はようやく小降りになってきていた。

といってもすでに全身ずぶ濡れ。

雨なんて降ってても降ってなくてももはや大して変わらない。

しかも空腹は限界を超えててもはや腹が減ってるのかすらよく分からなくなってる。


「千春ちゃーん!」


身体は限界を超えているが叫ぶ。

しかし何も聞こえ・・・


「いや」


何か聞こえた!

川の流れる音に混ざって女の子の声!

慌てて声のする方に駆ける。

足も疲労困憊だがそんなことは知らない。


「千春ちゃーん!」

「・・・・・・・・・・・!!」


やっぱり聞こえる!

声を頼りに川沿いを全力疾走する。


「千春ちゃん!」

「うぇえええ!!助けてー!!」


俺が川岸で見たもの・・・

それは中州に残され今にも流されそうな女の子の姿だった。


恐らく川上で土砂降りの雨が降り突然川が増水して逃げられなくなってしまったのだろう。

すでに女の子は膝の高さまで水に浸かっている。

こうなってしまってはもう動くことはできない。

最悪の事態だった。


「なんてこった・・」

「助けてえ・・助けてよお・・・」


震える少女。

当然見捨てることなんてできるわけがないし、助けを待つ余裕もない。


「・・・・・・・・・・」


覚悟を決めろ。

俺の守備位置はショート。

下半身の筋トレは誰よりもやってきたんだ。

いま活かさないでいつ活かす。


「よし・・・」


覚悟は決まった。

しかしまずやらなくてはならないことがある。

俺は思い切り空気を吸うと喉の限り叫んだ。


「千春ちゃんを見つけたぞー!!誰か来てくれー!!」


驚いたカラスが一斉に飛び立った。

さあ助けに行こう。

震える少女は目の前だ。

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