第2話 見知らぬ森 見知らぬ世界

先程まで甲子園球場で野球観戦にしていたはずだったのに

気が付いたら1人で森に座り込む俺。


雨が降っている。

服もズボンも雨に濡れて大層気持ちが悪い。


「え・・あれ・・・」


自分は先程まで甲子園球場にいたはずだ。

しかし目の前に広がるのは鬱蒼とした森、森、森。

辺りに人影はなく、雨も相まって視界が酷く悪い。


「・・・・・って試合はどうなったんだ!?」


先程の打球。

最高の当たりだった。

恐らくスタンドに入ったと思うのだが、なんとも記憶が曖昧だ。

何故自分がこんなところにいるのかサッパリ分からない。


打球が頭にでも当たったのだろうか?

それで記憶が・・・・


「ってんなわけあるか」


打球が頭に当たって怪我をした人間を森に放置する人間がどこにいる。

それはもうただの事件だ。


考えられるとしたら・・・

考えられるとしたら・・・・なんだろう?


全く意味が分からない状況だ。

唯一考えられるのが試合に負けてショックのあまり記憶を失い放浪した可能性。

それにしたってこんな森に見覚えは無い。

というか西宮市に森なんてあるのだろうか?

あの辺りは住宅が広がっていたと思うのだが。


「・・・・・・・・・」


意味が分からない。

意味が分からないがこんなところで座っているワケにもいかない。

試合が長かったせいで酷く腹が減っている。

幸いビールでカロリーを補給していたが、空腹はすでに限界を迎えつつあった。


「とりあえず歩いて街まで戻るか・・・」


自分の位置を確認するためにスマホを見た。

圏外だった。



―――――――――――――――――――――



「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」


なにこの森凄く広い。

民家はおろか道路すら見つからない。


自分はなんでこんな森の中にいるのだろうか?

負けたショックのあまり森に入ったにしても森が深すぎる。

というか茫然自失の状態で歩けるような森ではない。

本当に誘拐でもされたんだろうか?

しかし腹は酷く減っているが特に身体に痛い場所などはない。

いや正確には歩き疲れて足の裏とか超痛いがこれは人為的なものではないだろう。


雨は先ほどからどんどん強くなる一方だ。

自分は見事な濡れネズミ。

お気に入りの背番号6のユニフォームは雨と土汚れで無惨な状態だ。

これ洗濯したら汚れは落ちるんだろうか・・?

落ちなかったら相当凹む。



「んぅ!?」


思わず変な声が出た。

かすかに車の音が聞こえた気がした。

辺りをグルッと見渡す。

車のライトがチラっと見えた。


「あっちが道路か・・・」


なんとか遭難せずに済みそうだ。

というか道路があるなんて全然気が付かんかった。

危ない危ない。

あそこで車が通らなかったら見逃すところだった。

訳の分からない状況だがまだ天には見放されていないらしい。


―――――――――――――――


しばらく歩いてようやく道路に辿り着いた。

見た目すぐだと思ったのだが森の中の道なき道だ。

意外と時間がかかった。

全身ずぶ濡れ。

上半身は森の枝やら葉っぱやらで切り傷多数。

下半身が長ズボンでまだ助かった。

夏だからと調子に乗って半ズボンなんて履いていたらもう歩けなくなっていたかもしれない。


「んはあ・・・はあ・・・ や、やっと道に出たぞこの野郎・・・」


ああ舗装された道路というのはなんと素晴らしいものなのか。

思わず感動してしまう。

道を作ってくれた工事の人に感謝だ。


「あ・・・」


そして道路に足が付くと同時に懐中電灯代わりに使っていたスマホの電池が切れたようだ。

ありがとうスマホ。

お前がいなかったら森の中を抜けられなかったかもしれない。

思わず拝んでしまう。


さてそれよりも早く街に出なければならない。

状況は未だに意味不明もいいところだ。


「まずは警察だな・・・」


雨は更に酷くなり、全身くまなく濡れている。

気温は高くないが風邪でも引いたら目も当てられない。

明日も現地観戦の予定だ。

というか今日の試合はどうなったのだろうか?

非常に気になる。


舗装された道を歩く。

辺りに民家は見えない。

道路も一応舗装されてはいるものの、至る所に割れ・凹凸があり、随分荒れているように思えた。


本当に自分は一体どうしてこんなところにいるのだろうか?

そしてここはどこなのだろうか?

考えても考えても何も思い出せない。

白球を見上げたあの瞬間から記憶がすっぽり抜け落ちている。


「お!」


道路を歩き始めてから20分ほど経った頃だろうか。

前方に人影が見え始めた。


「・・・・! ・・・・!!」


何かを叫んでいる。

え、俺を探している・・・わけじゃないよな?

5人ほどの女性が辺りをライトで照らしながら何かを叫んでいる。


こんな雨の中何をしているんだろうか?

早く自分を保護して欲しいのだが、女性しかいないためやや気まずい。

男性はいないだろうか?

一刻も早く着替えて服を乾かしたいところだ。


「あの~・・・・」

「え・・・おひゃぁあ!」


目の前の女の子が飛び跳ねる。

ビックリさせてしまったようだ。

申し訳ない。


「ああ!すみませんすみません!怪しいものではありません!ただ道に迷ってしまいまして申し訳ありません!」


必死に頭を下げる。

というか森を彷徨う野球のユニフォームを着たびしょ濡れの成人男性(36歳)

うん怪しい。

我ながら純度100%の怪しさだ。

女の子は見たところ高校生くらいだろうか?

綺麗なストレートの髪をサイドに結んだ可愛らしい子だ。


「・・・・・・・・ふぉわぁぁ」


女の子が変な声を上げている。

焦点が定まっておらず、だけどこちらをガン見する視線はやや不気味な輝きを放っていた。


「え、えっとあの・・・すみません急に声をかけてしまって」


躊躇してしまったが勇気を出して声をかけた。


「え、あ、ああ!すみませんこちらこそ!男の人を見るのなんて久しぶりだったから!」

「ん?あ、そうなんですね。こちらこそ声をかけてしまってすみません」

「いえいえいえいえいえ!こちらこそ!」


2人してペコペコ頭を下げてしまった。

しかし男の人を見るのが久し振りって凄いな。

どんなお嬢様だそれは。


「それであの・・・ 君はこんなところで何をしてるんだい?」

「え・・・ ああそうでした!」


女の子がこちらを見つめて言った。


「すみません!5歳くらいの小さな女の子見ませんでした!?もう外も暗いのに家に帰ってないらしくて!」


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