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全部奪っちゃっていいよ/Novel by 里雪

全部奪っちゃっていいよ

7,040 character(s)14 mins

#この台詞から妄想するなら
sindanmaker.com/681121
「この人は俺が貰う」 から。

HA時空の槍弓。ランサーからの矢印の方が多いかもしれない。
この結果見たとき、凛様に対して云うランサーが頭に浮かんだんですよ!€€

2019/03/16 加筆修正、タイトル変更
タイトルは
kiss To Cry様から(http://kisstocry.web.fc2.com

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「こいつは俺が貰う」

 ――それは礼儀であり、同時に宣戦布告だった。


 「終わらない四日間」の環が終わって数日が経ったある日、凛は己のサーヴァントに与えていたアパートを訪ねていた。依り代だけの繋がりになったとはいえ、凛にとっては「彼は自分のサーヴァントである」との認識でいる。マスターである自分にすらとんと顔を見せなくなったあのサーヴァントに、凛は一言文句でも云ってやろうかと考えていた。凛よりも彼は一言も二言も多いが、それは彼なりの心配であり称賛であると凜は知っている。
 目的地のアパートの一室、そこから感じられるのは凛のサーヴァント――アーチャーの薄っすらとした魔力と、鮮烈なまでの神性の魔力だ。アーチャーと交友関係にあり、尚且つ神性持ちのサーヴァントときたら一騎しかない。交友関係にあるとはいえ、さほど仲は良くなかったと思い返しながら、凛はドアノブを捻った。
 勝手知ったる何とやらとばかりに室内を進み、彼女は魔力の発生源たるリビングに辿り着く。そこに居たのはアーチャーと、予想通り、ランサーだった。アーチャーはぐったりとソファに沈み込み、ランサーはその前の床に胡坐をかいていた。よく見れば床には魔法陣が描かれており、そこから立ち上る魔力は全てアーチャーに注がれている。凛でもその様なことをしようものならすぐに魔力が尽きるだろうに、ランサーは見た限り顔色を変えていない。
 わざわざ他人から魔力の供給を受けるくらいなら、凛と契約を結び直した方が早い。凛とてアーチャーとの再契約を望んでいる、それが叶わないのは偏(ひとえ)にアーチャーが断っているからだ。「聖杯戦争が終わっているのであれば、私と契約し続ける必要もないだろう。元より私たちサーヴァントというものは聖杯戦争のためだけに召喚される、その目的がなくなったのであれば現界している理由もない。君はそれも判らないような魔術師はあるまい?」などと宣い、それこそ一方的にアーチャーは凛とのパスを断っている。そのまま還ろうとしたアーチャーを「私は冬木の管理者よ、だっていうのにサーヴァントの一騎も従えていないなんて、それこそ管理者の名折れだわ。いいことアーチャー、あんたが私とのパスを断つのはあんたの勝手。でも、それじゃフェアじゃないわ。私を依り代として、あんたは現界し続けなさい。令呪をもって命じられれば一番なんだけど、いいわ。私が冬木を離れている間はあんたが管理者を代行して。これくらいでイーブンじゃないかしら」と言い包め、この地に繋ぎとめている。
 邪魔をするのも良くないだろうと一旦踵を返そうとした凛だったが、「お、嬢ちゃんじゃねえか。どうしたよ、弓兵に用があらんだろ?」そうランサーに呼び止められた。魔術の邪魔になるかと思ってと云う凛に対し、とうに発動させており今は手持ち無沙汰だとランサーが笑う。ソファの前に居たのはアーチャーの顔色の確認のためらしく、状態も落ち着いているのであれば離れても大丈夫だろうと、揃ってテーブルに移動する。
 慣れた様子でランサーが紅茶を淹れ、一つを凛に勧める。凛が「手慣れているのね、意外だわ」と云えば、「バイト先で散々しごかれたからな、それにアイルランドは世界有数の紅茶の消費国、なんだろ?」とランサーが返した。普段はアーチャーが淹れることが多く、その腕はランサーも認めるところだが、ランサーとて淹れるのが下手という訳では決してない。頻度が少ないから、腕前が判らないだけである。
 凛はカップを口元に近づけ、まずは紅茶の香りを楽しむ、この香りはアールグレイだろうか。一口飲めば丁寧に淹れられた紅茶とミルクが見事に調和しているのが判る、これは紅茶に一家言ある凛も納得する味だ。満足そうに紅茶を嗜んでいる凛の姿に彼女の満足するものだったことを確信し、ランサーはこそりと息を吐いた。いくらバイト先の喫茶店で厳しく指導をされたとはいえ、このアパートでは淹れる度にアーチャーにダメ出しを食らっていたのだ。やれお湯の温度がやや低いだの、やれ蒸らす時間に過不足があるだの、基本中の基本ではあるのだが。正直な話、バイト先よりもアパートでアーチャーに指導された時間の方が厳しかったりする。
 ミルクティーにした凛の紅茶とは別に、ランサーが自分用にと淹れたのはブラックティーだ。その紅茶で唇を湿らせ、ランサーは矢庭に口を開いた。
「なあ嬢ちゃん。こいつは俺が貰う」
「……何がどうしてそうなったのか、聞いてもいいかしらランサー?」
 口元からカップを遠ざけ、凛は碧い瞳をランサーに向ける。ランサーの云う「こいつ」とは十中八九アーチャーのことだろう。この場に居るのは凛とランサー、それにアーチャーしか居ないのだ。ここで第三者を挙げる必要もない。凛の問いに勿論とばかりに首肯することで応じ、ランサーは滔々と言葉を紡いでいく。
「俺は、守護者として擦り切れるまで『抑止力』に酷使され続けたこいつを見てられなくなった。こいつ本人はそれは自分が望んだことへの対価だと言い張るがな、ぼろきれになるほどのモンかは甚だ疑問な訳よ。それでも、それがこいつの在り方なんだろうってことは俺にも解る。あとはそうさな、誰も傷つけたくないって心から願ってんのに、それとは真逆に数多の民を殺さにゃならず、心が麻痺しちまったこいつを放っておけねえ」
 ランサーの言葉を聞いて凛の中に浮かんだのは、確かな安堵だった。アーチャーの在り方に、凛はいつだって心を痛めていた。それはアーチャーの『元』になった人物が人物だからだが、それだけが理由ではない。アーチャーはいつだって独りで居ようとする、マスターである凛ですら隣に来るのを拒むことだってするのだ。その度に凛は「マスターとサーヴァントが離れてどうするのよ、いいからあんたは私の傍で控えてなさい!」そう云って半ば無理やりにアーチャーを自らの傍に立たせてきた。それがあの「終わらない四日間」では通じず、彼が凛の隣に立ったのは最後のあの大橋での戦いの刻だけだった。あの環が途切れた今となっては碌に姿を見せず、マスターである凛が直々に出向いている。
 独りで居ようとするアーチャーだが、彼は「四日間」の中では割とランサーと行動を共にしていたように凛は思う。馬は合わないのだろうが、気を張らなくて楽だったのかもしれない。アーチャーは凛や桜、セイバーの前では一言多いものの保護者ぶる。対して、ランサーの前ではその必要はなく、ランサーの性格上口論になることはしょっちゅうだった。口論といってもアーチャーが回りくどく正論を述べ、ランサーは「もっと簡潔に云え、どんだけ遠回りすればその結論になるんだよ!」とこれまた正論をぶつけていた。
 正論に正論をぶつけては妥協点も見当たらず、結果として堂々巡りで終着点はどちらかが折れることだった。そして、その大部分で折れるのはランサーだった。「んなに難しく考えるこたぁねえんだろうが、それが性分ってなら仕方のねえこった。ここらで終わりにしとかねえと、お前さんいつまで経っても考えこんじまうだろう? 折角の長期現界だ、楽しまねえと損ってもんさね」、ランサーはあっけらかんと笑ってアーチャーを許した。
 その現場にたまたま居合わせた凛は意外な光景に目を瞠り、ランサーらしいと思うと同時にこれはアーチャーの甘えなのではと考えた。そも、アーチャーは確かにセイバーや凛、それに士郎と意見を戦わせることがあるが、その場合はアーチャーが渋々ながら引き下がっている。士郎との場合は徹底的に叩きのめしているが。だからこそ、ランサーとの口論は凛からしたら意外だったのだ。
 凛は遠ざけていたカップを口元に引き寄せ、残っていたミルクティーを飲み干してしまう。ランサーに新しい紅茶を所望し、また甘いものでは口の中がだれるだろうと今度はレディ・グレイを丁寧に淹れたカップをランサーが渡す。それを受け取って、凛は家訓にあるように優雅に微笑んで見せた。
「――そう、あなたはそんな風に判じたのね。いいのよ、謝らないで。私だって似たように思うの、何だって守護者なんかになっちゃったのよって。アーチャーと士郎は限りなく同一人物に近いけど、違う存在なのは判ってるの。でも、『元』が同じだからかしらね、アーチャーは非情になり切れない面がある。私はそんなアーチャーが愛しいと思うの、マスター失格かしらね」
「んなこたねえだろ。それでマスター失格だってなら、あの坊主はマスターになれてねえぞ? マスターまで非情に徹することもなかろうさ」
「あなたにそう云ってもらえると、何かほっとするわね。ねえランサー、あなた、アーチャーをどう思う?」
 凛からの問いに、ランサーは神性を宿す紅い瞳を瞬かせた。アーチャーのマスターである凛にどう答えるべきか一瞬悩んで、ありのままを答えることに決める。あれこれごまかそうとしたところで、この聡い少女が見逃す筈もない。女をマスターにするのなら、やはりこれくらい肝は座っている方が良いなと場違いなことを考えた。どこかで赤毛の女魔術師がクシャミをしたのはただの偶然である。
 ランサーも凛と同じように残る紅茶を飲んでしまってから、空になったカップを手慰みに弄ぶ。ランサーにとってのアーチャーとは、どういう者なのか。
「そりゃあ、俺の好かねえ戦い方するし誇りも持っちゃいねえんだろうし、相性は最悪だな。けど、戦い抜きで考えると、小言は多いが面倒見のいいお人好しってところか。からかうと存外に面白い」
「あいつがあんなにバカみたいにはしゃぐのなんて、初めて見るわ。あなたの隣でないと、呼吸が出来ないのね。本当、面倒くさいったらありゃしないわ」
 得られた答えに凛は肩を竦める、前々から思っていたが自分のサーヴァントは本当に面倒である。苦労するな嬢ちゃん、そういうランサーの声は間違いなく笑っている。ガンドでも打ち込もうかとの考えが凛の頭を過るが、室内に被害が出た場合の修繕費は凛持ちだ。ただでさえ凛の行使する魔術は金銭の出費が激しい、無駄な出費は出来る限り抑えるべきだ。こみ上げかけた衝動を深いため息をつくことで昇華し、凛は家訓を思い出す。そう何時いかなる時も「優雅たれ」である。
 凛の様子に、こりゃ相当苦労してるよなとランサーは呟いた。マスターに関して云えば一番苦労しているのはランサーだが、サーヴァントで苦労しているのは間違いなく凛だろう。マスター運についてはとうに諦めたランサーだが、サーヴァントはそうひょいひょい変えられる代物ではない。ランサーがマスターを見限らないのは、ただ単に宗旨替えをランサーが好まないだけだ。マスターがサーヴァントと契約を結ぶには何かと下準備が必要となるうえ、狙ったサーヴァントが喚べるとは限らない。召喚したサーヴァントが御しにくい部類では、マスターの負担は大きくなる。アーチャーはその「御しにくい部類」に当てはまるだろうが、マスターに圧し掛かるのは心的負担である。
「嬢ちゃんでも御すのは骨が折れるだろうよ、傍から見ててもそう思うぞありゃ」
「で、どうせあんたじゃないと、そいつは甘えられないんでしょうし。ええ、持ってって頂戴。その代わり、そいつの手を離さないで」
「お安いご用ってな。こいつが嫌だと云おうと、俺は手を放すつもりは微塵もねえよ」
 ゲッシュとして誓ってもいいとまで云うランサーに、それはあなたの好きにしなさいと凛は答える。アーチャーの隣に誰かが立っていてくれるのであれば、凛はそれだけで十分だ。あの生きるのに不器用で、誰かに寄り掛かることを知らずにいる大馬鹿を誰かが支えてほしかった。凛はアーチャーのマスターではあるが、きっと凛ではそれは叶わない。自分が凛にその様な負担をかけることをアーチャー自身が赦す筈がない、たとえ凛が許したとしてもだ。
 アーチャーが気兼ねせずに接している相手など、凛の知る限りではランサーしか居ない。セイバーは何故か庇護欲の対象となっており、ライダーとキャスターは彼女の力量に任せている。アサシンの佐々木小次郎はそうそう接点がなく、小さな英雄王に関しては我関せずを貫いている。本来の姿のギルガメッシュは言わずもがな、だ。アーチャーは自分なりに距離をとってランサーと接しているらしいが、第三者からしてみれば、他のサーヴァントたちよりも気兼ねをしていないように映る。アーチャーにそう伝えれば、一が十にも百にもなって返ってくるだろうことは想像するにたやすい。
 湯気を立ち昇らせていたレディ・グレイをしっかりと飲み切って、凛はアーチャーの様子を確認することなくアパートを辞していく。その際に、「ちゃんと伝えなさいよ、そうじゃなきゃ何かと理由をつけて逃げるんだから」とランサーに助言ともとれる言葉を残していった。
 凛が帰ってしまうと、残ったのはランサーとソファに沈み込んだままのアーチャーだけだ。ランサーは凛が来る前と同じくソファの前に陣取り、アーチャーの顔を覗き込んだ。床に描いた魔法陣からは未だに魔力が放出されているが、その量は微量だ。ランサーは愛槍を現界させ、その穂先で手首に傷をつける。傷口から滴り落ちた血が魔法陣に触れ、そこから放出される魔力の量が増した。それでもアーチャーの魔力が満ちるにはまだ足りない。
 ランサーがこの陣を敷いたのはアーチャーの魔力が底を尽きかけていたからだ、アーチャーはマスターからの魔力供給を受けていないだけに魔力が尽きてしまえば座に還ってしまう。凛から渡された彼女の魔力が込められた宝石は手を付けられずに部屋の隅に置かれている、それに凛は気づいただろうか。ランサーとてマスターが魔術師でないから魔力供給は十分とは云えないが、食べ物を摂取することで僅かながらも魔力を取り込んでいる。いくら『戦闘続行』のスキルがあろうと、アーチャーの『単独行動』のスキルとは違い、魔力供給なしで何日も活動することは不可能だ。現段階では他人に回せるだけの魔力は残っている、流石に空っぽの魔力を充填してやることは不可能だが。
 ソファの座面にランサーが顔を埋めると、アーチャーの指が小さく動くのが視界の端に留まった。気が付いたのかと思ったが、彼の目は閉じられたままで、座面の動きに反応しただけと思われる。この分じゃ明日までかかるかなと洩らし、ランサーは床から立ち上がる。反応がない相手をずっと見ていても暇なだけだ。本来なら工房で休ませるのが一番効率が良いと知っているが、その工房に行くことをアーチャーが渋ったのだ。ランサーにキャスター適性があるとはいえ、今はランサークラスでの現界だ。キャスタークラスほどの器用さはない。ルーンストーンだって持たされた分は使い切ってしまいそうだ、どこかで補充する必要もある。簡易的な結界を張っておけば、そう襲撃されることもないだろう。神代の魔術を現代の魔術師が簡単に破れるとは思ってもいないが。
 ランサーはアーチャーに手を伸ばし、その独特な色彩をした髪を一撫でしてやった。眉間に寄ったし皺を指の背でならし、少しばかり薄くなったそれに小さく笑う。四六時中しかめっ面してると直らなくなるぜと云ってみるが、おそらくは届いていない。寝室から持ってきた薄手の布団をアーチャーに掛け、リビングにある窓に目くらましの結界を張る。財布と部屋の鍵だけを持ってランサーは玄関を潜り抜け、ついでにドアにも同じく結界を張っておいた。
 アインツベルンの森になら純度の高い宝石の欠片くらい落ちていそうな気もするが、変にバーサーカーのマスターと事を構えたくはない。何の変哲もない石でもルーンを刻めばルーンストーンの代用品にはなりそうだと、足を塒のテントを張っている森に向ける。基本、ランサーはテント暮らしなのである。
「さあて、嬢ちゃんには礼儀として伝えたが。次は『抑止力』だな、どう出るか……。これはあれか、嫁取りの再現ってやつかねえ?」
 茶化したように云うが、「クー・フーリンの結婚」といえばそれはもう血腥いものだ。一人の姫を娶るために一族郎党を殺し、父親の姉が挙げた兵をすら屠ったのだ。今でも例えとして残っているほどだ。しかし、『抑止力』がアーチャーを簡単に手放すとはランサーは微塵も思っていない。冬木に現界しているのは分霊だが、座に居る本体はこうしている間も摩耗が進んでいると考えるべきだ。何としてでも、本体全てとは云わず、魂の一欠けらだけでも救えないものか。ランサーとアーチャーでは所属する領域が異なる、これが同じであったならもう少し話は簡単になっただろうに。今更の話を嘆いたところで何も変わらない。
「全く、俺も焼きが回ったもんだな。ま、障害は多い方が燃えるってな。姫さん娶った時も似たようなもんだったもんなー」
 呑気に伸びをして、ランサーはズボンから取り出した煙草を咥えて火をつける。紫煙を燻らせ、とりあえずルーンストーンを補充すべく歩みを再開させた。



 一方、残されたアーチャーはというと。

「あのたわけ……! 私が起きていたことに気づいていただろう、あれは……!」
 怠そうに目を開けて額に手を当てたが、その顔は褐色の肌でも判るほどに朱に染まっていた。

Comments

  • そー
    February 17, 2018
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