赤い鬼の流す涙
FateSNの妄想パラレル。DEEN版とUfotable版との中間位だと考えて頂ければ理解しやすいかも。
パラレル描こうと思うと自分だとこういう方向。こういう話はいかがでしょうか?
色々間違ってる。でも妄想は自分が愉しいのでパラレルは気軽に。タイトル含めて後で直すかも。
続きも描きたい。
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衛宮の家は平屋建てだ。遠くから見付けにくく、逆に遠くへの見通しがききにくい。敵からの攻撃に備えて待ち構えるには色々不利な構造になっている。ランサーはその中で一番高い場所を探す。必然的に屋根の上が彼の持ち場になる。中庭に面した向かい側に土蔵がある。そこが一番気を巡らすに適した場所だ。
「こりゃ格好の攻撃の的だな」
ランサーは軽く周囲をぐるりと見回す。自分が以前ここに侵入した時のことを思い出して苦笑する。
攻めるのは容易だった。
ほんの一週間前のことだ。今度はここを守らなくてはならないとは皮肉な成り行きだ。
ここは戦略拠点と言うよりは魔術師の工房の意味合いが強い。地脈の流れとしては安定した土地である。魔力が外部に漏れる心配も外部からの影響を受ける心配も少ない。大規模な魔術を行っても探知はされにくいだろう。
空気は清浄で、月明かりがまぶしい夜だ。冬と呼ぶには随分穏やかな気候である。サーヴァントにとっては暑さ寒さの情報は雑音に過ぎないが、冬という季節に過酷なイメージを刷り込まれているランサーにとってその違和感に馴染むのは容易ではなさそうだ。
ふと、ランサーは月を仰いだまま一瞥もくれずに誰もいないはずの軒下に向けて声をかけた。
「何用だ?」
強い月明かりの元、姿を隠せる場所はない。そこには人の目に映る影はない。だがランサーの言葉に反応するように空気が揺れる。
一瞬空気が張りつめる。
それから少し間を置いて諦めたように姿を現す。紅い外套を纏う黒衣の男が闇の中に浮かび上がる。
弓兵、アーチャーと呼ばれる存在だ。
聖杯戦争ではサーヴァントとして互いに敵同士の関係にある。少し躊躇が有ったようだが、目的を問われて姿を現すと言うことは実際所用があると言うことだ。
弓兵は害意がないことを示すように視線を落とし両手を軽く挙げてみせる。武器は持っていない。この男が武器を持っていないとしても丸腰を意味するわけではない。ただランサーもその意図を取り違える程愚鈍ではない。
話がある。
戦意はない。
それだけのことだ。用心さえ怠らなければいい。
アーチャーは抑揚のない声で尋ねる。
「君、随分消耗していたようだが、ちゃんと回復は出来ているのか?」
「てめえに何の関わりがある?」
ランサーは反射的に応える。それからああと思い直して見下げるように視線を下ろす。
「てめえはすっかり回復したようだが」
その声は明らかに侮蔑の色を含んでいる。隠すつもりのない軽蔑だ。
「嬢ちゃんとはもう仲直りか? てめえの都合で裏切っておいていささか都合が良すぎるんじゃねえのか?」
アーチャーはそれを気にする様子もなく言葉を続ける。
「凜は優秀な魔術師だからな。君のマスターは違うようだ」
ランサーにはそれが勘に障る。この男はいつも計算高く冷静だ。
「俺のマスターは臆病でな、俺に寝首をかかれるのを恐れて力を惜しみやがるのさ。全く見る目がねえ。奴には俺が主を裏切る人間に見えるらしいぜ」
そう言ってアーチャーの顔を見る。挑発だ。軽いが完全な、そしてあからさまな。
しかしアーチャーは少し笑っただけだった。
「何がおかしい?」
馬鹿にされた気がしてランサーは眉をしかめる。
「うむ、確かに君は私とは違う。馬鹿なマスターだ」
アーチャーはそう言ってランサーの顔を真っ直ぐに見返す。少し困ったような顔をしていた。
その男、遠坂凜のサーヴァントとして召喚されたアーチャーは、マスターを裏切った男だった。
ランサーは自身のマスターの要望に従い、その少女を少し前から陰から見張っていた。だから事の顛末はある程度把握している。
彼女は年若いが魔術師として優秀で、戦いの方も経験は浅いが勘の良さは抜きん出ている。だから戦い方によっては聖杯戦争の勝者にもなり得る実力がある。
ただ、その時の戦いについてはなぜかとても拙速だった。キャスターの陣営に殆ど対策もなく真正面からぶつかろうとしたのだ。戦力差、実力差ともに明らかだった。本来なら緻密に対策を練って冷静に攻略しなければならない相手だ。無謀と言える。計算高い弓兵が付いていれば間違いなく止めていたはずだ。
恐らく彼女は聞かなかったのだ。彼女と共闘関係にある少年が自身のサーヴァント、セイバーをキャスターに奪われてしまったことが関係していた。現代の魔術師とは次元の異なる実力を持つキャスターの陣営に物理攻撃で最強クラスのセイバーが加われば、パワーバランスは完全に壊れる。彼女は冷静ではなかったのだろう。
そういう回りが見えなくなっている時と言うのは人間誰しも一番助けを必要とする状況である。
そのタイミングで男は彼女を見捨てた。
いや、ランサーにも本質は解ってはいる。あれは彼女を逃がすための猿芝居だった。分かりやすすぎて一番欺かなければならないキャスターからすら同情される始末だ。
ランサーが許せないのは一番必要なときに一番大切にしなければならない信頼を踏みにじったことだ。どういう意図が有るにしろ、それは許されるべき事ではない。
そして今はこうして平気な顔をして戻ってきて、自ら踏みにじった少女と再度契約を結んだと言う。魔力の供給を受けて身体の傷を癒やし、態々ランサーが回復できてない事を確認してそれを見せつけに来てくれる。肉たたきで叩きたくなる面の皮の厚さだ。
だがなぜかランサーの目にはその男がとても困っている様に見えた。
「少しこちらへ下りてきてくれないか?」
心なしか声も幾分遠慮がちに響く。ランサーは調子が狂わされた気がして視線を外す。
「俺は見張りだ。用があるならてめえが来い」
「分かった」
アーチャーはそう低く呟く。そして静かに屋根の上に跳躍すると、ランサーの間合いの少し手前で立ち止まる。
次にアーチャーの取った行動はランサーの想定の範囲外だった。手を差し出したのだ。右手を、握手でも求めるように。
「手短に済ませよう。害意はない。手を出せ」
その意図を掴みかねたランサーが戸惑うのも当然の成り行きだ。
「何のつもりだ?」
アーチャーはばつが悪そうに一瞬視線を背けたが、大きくため息をつくと覚悟を決めたように真っ直ぐにランサーの顔を見て言った。
「魔力を提供したい。消耗しているのだろう?」
弓兵が指摘した通り、ランサーは消耗していた。普通に応戦する程度は造作ない。しかし聖杯戦争が始まってもう1週間が経とうとしている。前の言葉通りランサーにはマスターの資質の問題もある。無傷という方が無理な要求だ。それに涼しい顔をしているこの男にも原因の一端はある。ランサーは先程まで宝具を持ち出すほどの激しい戦闘を繰り広げていたのだ。この得体の知れない弓兵を相手に。
「ああ、ムカつくがてめえには随分手こずらされたからな。だがお前に何の関わりがある?」
ランサーは一撃必殺の宝具を持ち出して、その命までは狩れなかった。相手を認められまいが気に入るまいが関係ない。その事実が全てだ。
しかしアーチャーはランサーの戦士としてのプライドを無視して極めて事務的に事実だけを述べる。
「君は重要な戦力だ」
「共闘関係になったところで施しを受ける謂われはない」
ランサーはアーチャーの申し出を即座に突き返す。遠くに居るいまだに姿を見せないマスターの方はアーチャーの提案に興味を引かれたようだが、口出す隙を与えない。
それでもアーチャーは引かない。
「事情が変わった。優先順位の問題だ。侮れば人類が滅びる。」
その言葉の唐突さにランサーは噴き出した。
「人類の存亡とはまた随分大きく出たものだ。この状況、貴様には覚えが有ると見える。」
状況に重大な変化があったことはランサーも認める。それは聖杯戦争の継続が難しくするかも知れない。前の聖杯戦争での惨劇も聞き及んでいる。聖杯そのものが人知を越えた奇跡の結晶だ。決してその力を侮っているわけではない。
人は死ぬ。
国は滅ぼせる。
ただ人類を滅ぼすとなると、規模が大きすぎる。ただの人間が呼び出すことの出来る奇跡の規模を超えている。
「残念ながら、職業柄こういう状況には鼻がきくものでね」
だがアーチャーには確信があるようだ。肩を竦めて残念そうに笑う。穏やかな抑制の効いた口調がそれが事実であることを示している。
キャスターは聖杯の秘密に辿り着いた。聖杯を呼び出すにはこの世の触媒が必要だ。その触媒は人の子だった。聖杯と呼ばれる奇跡の願望器のもたらす圧倒的な魔力を許容するだけの器を持つ人間だ。その器としてキャスターが選んだのは、魔術師の家系に生まれついた少女だった。未だあどけなさの残る、髪の長いどこか寂しげなただの高校生だった。名を間桐桜と言った。
そして彼女は暴走した。
闇は光の作り出す影ではない。生まれ出でて光を蝕す存在だ。それはその小さな少女の内側から姿を現し彼女を取り込んで一体となり、彼女を取り囲む世界の一切を飲み込み始めた。遠坂凛と衛宮士郎は何とか逃げ果せたが、一緒にその場に居合わせたキャスターとそのマスター、セイバーまでもがその犠牲になった。そして今も貪欲に、世界を浸食し続けている。
「職業柄」
アーチャーのその言葉にランサーはこの男の正体を思い出した。正規の英霊ではない。霊長の守護者である。
「じゃあ問題ないな。てめえはこういう時の対策も心得てるのだろうからな」
守護者とは、人類の危機が発生したときにその滅亡を回避し原因を排除する為に存在する機能の一つだと言う。要するに掃除屋だ。この手の状況こそが彼の本来のあるべき世界と言える。
「元凶が分かっている。それを倒しさえすれば良い」
アーチャーの答えは明快で状況は極めてシンプルだ。単純な目標だけに簡単そうにすら聞こえるが、相手は魔力を充分蓄えたキャスターですら太刀打ちできなかった怪物だ。言葉で表すほどには簡単ではないだろう。
強い相手と戦うのはランサーも望むところだ。ただこの場合の問題はそこではない。
ランサーはぼそりと呟いた。
「女を殺すのは信条に反するのだがな」
この世ならざるモノを召喚した場合、召喚者が制御権を握る。存在をあの世に還すのは召喚者の役割だ。召喚者たるキャスターが消滅した今、聖杯を霊媒から切り離して元の世界に還すのは容易なことではない。
アーチャーは倒すと言ったが、それは依り代を殺すことを意味するのではないか。
言ってどうなるモノでもない。だが殺す以外の解が有ればそれを選択したい。そう願っての言葉だ。相手は戦士ですらない。ただ巻き込まれただけの少女だ。
「安心しろ。彼女を殺すのは私の役割だ」
守護者だからな。そうアーチャーは諭すよう表情も変えずに言う。彼にとっては日常の数多の業務の一つに過ぎない。人類の命運と一つの命では天秤にかけるまでもない。それが彼の行動規範だ。慣れきったただの作業だ。
分かりきった回答に、ランサーは残念そうに肩を落とす。
と、アーチャーの目から涙がこぼれ落ちた。
表情も変えず、ただ眼からあふれた一筋の痕跡に、ランサーは目を奪われる。
「……お前……」
ランサーの様子にアーチャーは漸く自分の頬に残る違和感に気が付く。それを無造作に拭い、何事もなかった様な顔をする。
ランサーは言葉に詰まる。だが何か今とても大事なことをなかったことにされそうになっている。何か言わなくてはならない。
「……良いのかよ?」
とっさに出てきた目的語のない問いかけに、アーチャーは首をかしげる。
「何がだ?」
もうすっかりいつもの冷静で狡猾なアーチャーだ。少なくともアーチャーはそう言うことにしたがっている。
決まりが悪そうに頭を搔くとランサーは言葉を選び直す。
「あ、……いや、あの娘、嬢ちゃんの知り合いなんだろ」
聖杯の入れ物になった間桐桜という少女はアーチャーのマスターの遠坂凛とは浅からぬ縁で繋がっている。遠坂凛は彼女のことを常に気遣っていたし、実際彼女が聖杯に呑み込まれた時の動揺はただ事ではなかった。アーチャーが駆け付けるのが後少しでも遅れていたら、彼女も無事では済まなかっただろう。
アーチャーは階下で身体を休めているマスターを想って表情を曇らせる。
「ああ、凜は一番辛いだろう。だが彼女も分かっている。彼女は魔術師だ」
それでも彼女はアーチャーの問いかけに気丈さを取り戻し、最悪の状況の中でも魔術師として最善の対応をした。彼女は歴とした遠坂家の当主であり、連綿と続く魔術師の末裔なのだ。
「だがまだガキだ」
ランサーの指摘にアーチャーは唇を噛み締める。それもまた忘れてはならない現実だ。重責を担う覚悟と矜持なら充分にある。彼女は全てを引き受けようとするのだろう。だが彼女もまた、まだこの平和な箱庭のような世界から出たことのないほんの小さな少女に過ぎない。
「……ああ、彼女にはまた恨まれることになる」
アーチャーはそう小さくため息をつく。
ランサーはその言葉に、この男が案外間が抜けていることに気が付く。
何故恨まれることになるのか、肝心な部分を全く理解していない。どうして自分一人で勝手に決めて全てを背負い込もうとするのか。弓兵という勝手な男はもう少し人の心というモノを理解した方が良い。
こういう所はこの家の主の少年と良い勝負だ。熟々面倒な人間に縁のある運命にあると見える。ランサーは階下で休む遠坂嬢に軽く同情の念を送る。それからランサーは大きくため息をついて覚悟を決めたように手を伸ばす。
「てめえに借りを作るのは癪触るが」
魔力を譲り受けよう。
人類の危機だという。この男はまた目的達成のため鬼にも悪魔にもなろうというのだろう。人の心の解らないろくでなしの機能には安全弁が必要だ。
その手を取り、アーチャーはニコリと笑ってみせる。
「これは凜の魔力だ。君は凜を助けてくれた。受け取る権利はあるだろう?」
彼なりの気遣いなのだろう。しかし矢張り色々また随分ズレている。ランサーは頭を抱える。
「この間抜け」
それから吹き出してクツクツと笑うと、ランサーは少し気分が晴れたのを自覚した。
Comments
- そーOctober 10, 2017