サポートミュージシャンのエミヤとオルタとクー・フーリンの話。
フォロワーさんに同じシュチュで書いて欲しいとお願いして、書いたもの。エミヤオルタとエミヤがサポートミュージシャンしててな槍弓だったはずなのにそこにやっぱりいきついていない。黒弓赤弓兄弟が仲良くて、黒弓さんがセイバーオルタとジャンヌオルタと一緒にいると嬉しくなります。好きです新宿組。こんな話になってしまったけどお納めください。
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サポートミュージシャン、という職業は、演奏家としてはプロの技術を持っていても、それで自分が表立ってバンドメンバーの一員になったりということではなく、花形であるプロの歌手やグループのその歌を文字通りサポートするために演奏をしている。つまり影のミュージシャンというものだ。拍手喝さいを受ける場では目立たない、時折カメラの端っこに映ったり、コアなファンが「またあの人を連れている」って言うのでちょっと顔と名前を覚えていく程度の存在だ。
だから、気に入られて専属のように連れ歩かれる場合と、逆に一度きりで二度と呼ばれることもないという場合とも存在する。
そんなサポートミュージシャンの中で、どこかのバンドのメンバーだったら本当に人気が出たんじゃないかと評判の高いドラマーがいた。褐色の肌に短い白い髪。いかつい体つきで目つきも良くないのだが演奏の腕は一級品と、いう評判の男は、エミヤ・オルタと名乗っていた。
主に日本では地下ロックアイドルという微妙な立ち位置の女性二人組のロックシンガーグループ『オルタナティブツヴァイ』の隠れた三人目と言われているこのエミヤ・オルタ。今度のツアーではその三人目を使いたいと言ってきたキャスターに貰った参考資料をランサーが見るが、人を二、三人殺していそうな顔立ちの男が、ダンスユニットとして売っている自分達に合うとは到底思えないと理解不能とばかりに首を振る。
「ふーん、てかよ、お前が使いたいなら全権はお前にあるんだし別に関係ないんじゃないか。俺らには」
なぁ、と視線を後ろに向ければ、資料を読む間に居眠りをしていたらしいうちの「怪獣」ことオルタを見やる。それとも、コイツを使ってオルタコンビでも作りたいと言うのだろうか。何にしても、どちらかというと生演奏よりも電子音や合成した機械的な音の中で踊り歌っている『クランウルフ』に生の音は特に必要はない。
「いやぁ、こっちというか、あっちが本命と言うか……」
照れくさそうに笑う身内にしたらそのわざとらしい照れ顏は気持ち悪いと素直に思ったランサーのうぇっという顏に、失礼な奴めという素に戻った妖しい企み顔をキャスターが向ける。
「ちらっと見たんだが、このオルタの弟が本命ってやつだ」
ほぼ名前の出てこない、無名の男だという前置きをしてとあるインディースバンドの混合ライヴに行った時の話だとキャスターが思い出すように視線を遠くに向けながら煙草の代わりにとファンに挿し入れされたというココアシガレットを出してかじっている。
「本業はピアノらしいが鍵盤楽器全般、それにシンセサイザーの打ち込みの速さがすごい奴だったんだよ」
一組がバンドのドラマーの腱鞘炎が悪化したと急に曲変更をしたせいで必要になったシンセサイザーの打ち込みを残り時間も短い中で行っている姿を見た。試しの音を出してその後に合わせるようにミックスを加えていくのに加え、タイミングを外す事なく操作していく様を見てこれは欲しいと純粋に思った。
「そのすごい奴ってのに直接頼めば良いんじゃないか?」
「それがな、そのバンドの先輩にあたるって言う地下ドルだか何だかの紹介で来たってんで、名前すら詳しく知らないってんだよ。しかも、仕事終わったらさっさと帰るしな」
「なんだよ逃げられたのか、だっせぇ」
キャスターがこれはと思った人材に逃げられるとは珍しいとランサー笑えば、確認するようにその音を聞いていたせいでまさか打ち上げすら出ないで帰るとは思わなかったんだと拗ねたように答える。が、やはりそれはファンにだけしとけ気持ち悪いと本性を知る家族のあっさりとした言葉にチッと舌打ちを漏らす。
「それで、だ。なんとか色々聞きこんだらあの『エミヤ・オルタ』というドラマーに行き当たってな。まずはソイツの腕前と弟の事引き出してウチに取り込みたい」
そんなに良いのかと首を傾げると、見てないお前には解らないだろうな、と意味ありげに一人で完結している姿に、なんだかムカつくなとランサーが缶コーヒーの缶の淵を噛む。
「それで、そのドラマーって奴に依頼はどうなっているんだ?」
オルタナティブツヴァイの公式認定のファンサイトの中に、サポートミュージシャンの紹介が載っていてサイト運営者に連絡を取ってとい回りくどいやり方をしたらしい。
「今度のコンサートはリズムのみで一曲やるからな。そのメインに据えたいって言ったら二つ返事で『マネージャー』ってのが了承したから大丈夫だ」
「いやいや、俺達のが大丈夫じゃねぇよ。なんてことしやがるんだよ。ドラムと歌だけってどんだけ声ださせる気だよ」
歌いながら踊るってのはなかなか大変だと言うのにしれっと言うあたりメインボーカルを自分がしてない曲でやる気だろうと睨みつければ、頑張れよと嫌になるくらいの笑顔が返る。
そんな企みの中で会った「エミヤ・オルタ」と名乗っている男は確かにすごい男であった。他の音等しないドラムとダンスと歌。それだけの中で歌い踊るランサー達のが確かに比重としてはプレッシャーも何もかもが重いが、しっかりと安定したリズムと何よりも他の音の余地などないようなバックミュージックがない事に違和感を抱かせないそんな音。
「あいつ、やるじゃねぇか」
何とか休憩の前にそれを入れるように(本来は休憩開けの一発目にやって行くのが盛り上がり的に良いと言われていたがそんな事してそのあと死んでも良いのかと脅した結果)、休憩とまではいかないが終わってすぐに入れたMCで、もちろん盛り上がる話はあのドラマーの事になった。本来演奏以外はしないという男を無理やり壇上に立たせ、ファンの後押しもあり質問を繰り返し、キャスターも必要な情報を少しでも引き出していたのだから、ほとほと狡猾な奴だとランサーも思っていた。
しかし、そのせいですっかり嫌われてしまうとは思っていなかったが。
サポートミュージシャンとしてあの時嫌なことをさせられたと警戒したのだろう、すっかり『オルタナティブツヴァイ』のサブメンバーと確定したと仕事を断るようになったエミヤ・オルタに舌打ちしながら、キャスターがマネージャーが組んだ仕事から歌うメドレーの選曲をしている。
「そういや、次出るのって10時間の奴だろ? 俺達何時だ? ギリギリで入りで良んだよな?」
「あぁ? ざけたこと言ってんじゃねえよ。リハが…あるから、中抜け程度は許してやるが来いよてめぇら」
Bスタジオの方で準備しているからそれまで自由にしていろとかならずいるように言われた時間をちゃんと設定しておけとなんとも信用がない事を言われながらも、忙しさのせいか目が座っている兄のいう事に従うランサーに、ファンからも兄弟からも「うちの怪獣様」で通じるようになっているクー・フーリン・オルタがぬっとスマホを出す。
「こいつ、キャスターの言ってた奴だろ。もしかしたら居るかもしれねえぞ」
そこには自分たちのツアーで呼んだことも有るギタリストのSNSの画面が映っていた。『MS10時間フェスの準備!今回は5曲に参加だ!』というメッセージと共に撮られた自撮りの隅に、褐色に白髪という珍しい色合いの男が映りこんでいた。背を向けて設置するシンセサイザーの配線をしているらしいその男は、キャスターが欲しいと思っていた本命の男のようで、オルタにでかしたと頭を撫でて「うざい、触るな」と振り払われているが機嫌よくどこのスタジオかと確認をしている。
「あー、でも俺達の時間とかなり離れてねえか? 第5スタだろ? 俺達確か1スタで暫くひな壇いるんだよな?」
おいそれとスタジオ間の移動もできないだろうと指摘すれば、キャスターが肩を竦めて見せるのにイラっとしてランサーが睨みつけるが機嫌の良いキャスターは一切スルーしていく。
「まぁ、とにかく本人見つけて口説き落すのが一番早いだろうな。交渉は俺がやるからお前らはもし俺がいない時に見かけたら足止めしてオレを呼んでくれや」
プレゼン用の資料でも作ってやろうか、などと嬉々としているキャスターに一体何がそんなに嬉しいんだか、と呆れたように息を吐き出す。
「確かに、アニキの方はすごかったけど、こいつもそんなにかねぇ…? つーか、男に惚れた見てぇで気色悪いくらい入れ込んでねぇか?」
「まぁ、ある意味惚れたのかもしんねぇな。あれは俺のだから、お前らは手ぇ出すなよ?」
本気か冗談か解らない温度の戯言を漏らすキャスターに、興味なさげにフンっと言って寝る体勢にはいる怪獣様に自分だけがつんけんといつまでも気にししているようで馬鹿らしいと、ランサーも「勝手にほざいてろ」と言って会話をそこで打ち切ったはずだった。
それでも、ちょっとの好奇心と気に入った缶コーヒーのあるのが少し離れた場所にある自販機だったから、そのついでにリハ準備のスタジオを覗いただけ、それだけだった。馴染みのギタリストといるのを見て声を掛けようとして、真剣に奥にいた人間と話しているのを見て控えて様子を伺えば、そこには先程見せられたばかりの男がいた。アキレウスが引きずって来たまだ若い少年に説明し音を出したその様子にぞくりと体が粟立った。
聞いたのは他人の曲だ。イントロも全く自分の歌い踊るそれではない。ああそれでも、キャスターが気にするし、人に牽制するように言ってくるわけだと思った。今の状態が何が不足しているというわけではない。でも、コイツが演奏の中でいたならば、もっとこの音に競いあうように歌って踊って、圧倒して自分の一部にしたいようなそんな気がする。兄だと言うドラムのあの男も浮き立ったし際立たせる音をだして気持ちが良かったが、もっと密接になるこの音を出す奴の目に己を映したいという欲求。ランサー自身もそして思い出した。気持ち悪いくらいに、己とキャスターの好みが一致していたんだったという事を。これは、引き込むまでは共同戦線張るしかない。今ここで声を掛けて、と思ったが時計を見れば自分達の衣装合わせの時間も近い。これをさぼって迷惑をかけるわけにはいかない。買うはずだった缶コーヒーすら諦め、代わりに居る場所と今聞いた歌の順番はいつで会えるタイミングは作れるか試算する。キャスターには悪いが、一人で勧誘にはいかせられないな、と思う。よく知るあの兄弟はきっと引き込みがてら口説いてくるだろう。俺だったらそうするからだ。
共同戦線まで持ち込むために、出し抜かれないように。久しぶりに狩りをするような浮き立つ気持ちで足早に楽屋へと戻って行った。