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【Web再録】サムシングブルーの涙【槍弓結婚式オフ記念アンソロ寄稿】/Novel by 犬助

【Web再録】サムシングブルーの涙【槍弓結婚式オフ記念アンソロ寄稿】

6,006 character(s)12 mins

2019年12月に開催された「槍弓の結婚式の二次会」をコンセプトにしたオフ会の記念アンソロ「槍弓結婚式オフ記念アンソロジー【寿】」に寄稿させていただいたものの再録です。

こちらは、おおまかな共通設定をベースに、結婚前の準備期間・式前日・当日(式前・最中)のいずれかの期間をくじ引きで決めて執筆するというもので、「式当日(最中)」を担当させていただきました。

●共通設定
・港区の東京タワーが見える高級タワマンに住んでいる(これから住む)二十代中後半のおさななじみの男二人が結婚式を挙げる。
・式後は二次会として自宅でホームパーティを開く予定

「港区の東京タワーが見える高級タワマン」に足を踏み入れたことないよ!!!

アンソロ(水引ついてて凄いんですよ!!)も、当日も大変幸せな心地を味わわせていただきました。
この場をお借りして主催の皆様、執筆者・参加者の皆様にお礼申し上げます。

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 なあ、アーチャー。お前、何喋ったか覚えてるか?
 ……いいや、まったく。
 だよなぁ……

 ぱたり、と控えめな音を立ててチャペルの扉が閉じてからしばらくの間、私達は揃って扉に向かって頭を下げたまま、茫然自失の状態でその場に立ち尽くしていた。
 たかだか三十分もかからない、形式通りのセレモニーだったというのに、予想以上に緊張していたらしい私達は、最後にお辞儀をした格好のまま、頭上から重くのしかかる疲労感に頭を上げられずにいた。
 本当に、何も変わったところのない人前式だった筈だ。
 まずは二人並んで入場――その形に決まるまでの紆余曲折阿鼻叫喚は今は脇に置いておく――して、式の開始を宣言して、その時に見渡したゲストの面々の視線に柄にもなく感極まってしまったまま誓いの言葉を読み上げ――これが一番記憶に無い。『誓いの言葉』だというのにだ――、指輪を交換した。
 それから、震える手でまさに蚯蚓が這い回ったような字で誓約書にサインをして――正式に役所に出す届けは事前に書いておいて良かったと、妙に冷静に考えた――それを列席者に見せて、並んで一礼。
 ようやく退場となるも出口のドアが酷く遠く感じられ、さりとて走るわけにもいかず、ほんの数メートルを歩く間の私の頭の中は「終わった」とそればかりを繰り返していた。
 そうして這々の体で歩き終え、締まりゆくドアに向かって頭を下げて以来、何ともいえない脱力感に襲われて私は頭を上げられずにいるが、隣のパートナーもまた同じように項垂れて、青い髪をだらりと垂らしていた。
 一度向けた視線を再び動かすのも億劫で、そのまましばし、隣で間抜けな顔を晒しているパートナーを観察した。
 青みがかった淡いグレーのモーニングコートを着た姿はしゃんとしていればそこらのモデルが謹んで道を開けるほどだというのに、今はその表情のせいで台無しだ。
 何せ眉間には深い深い皺が刻まれ、折角の美しい紅玉は半目に眇められているせいでろくに見えやしない。挙げ句、唸り声のような声を絞り出している口は間抜けな半開きだ。
 それでも――それでも、この男が愛しい。
 ゆっくりと視線を動かした先、白磁のように白い肌に銀色の指輪が光っているのを見て、自分の口角が持ち上がるのを自覚した。
 ああ、そうだ。私の指にも嵌っている同じ銀色。
 この指輪は証明なのだ。私はこの先の残りの人生を、この男と歩いていくと宣言したのだ――まあ、背丈が今の半分も無い頃に出会ってからここまでも、概ね一緒ではあったのだけれど。

 結婚式、なんて。そもそも自分に縁があろうとは想像したこともなかったし、この男と寄り添うことを決めてからも自分達には縁がないものと思っていた。何せ、お互いそう形式に拘る気質でもなかったから、指輪を贈り合って、紙切れ一枚を役所に出すだけでも良かったのだ。本当に。
 そうしなかったのはひとえに、今日に至るまでを見守ってくれた周囲がそれを許してくれなかったのだ。ここまで気を揉ませてくれたからには神ではなく自分達に誓え、と。
 主に女性陣の剣幕に呑まれてつい是と返してしまった私達が人前式という形式もあるのだと知ったのは、鈍器のような専門雑誌を押し付けられてしばらくした頃のことであった。
 まあ……その後の当人達を置いてけぼりにした周囲の盛り上がりようは、有り難くもあまり思い出したくはない。
 パートナーとなった男と同じぐらい長い付き合いの女性陣――彼女達のお陰でくっついたところもあるのでそう無碍にも出来ない――が盛り上がるのはともかく、お互いの身内までが、やれ海外挙式にしようだの、やれ新都で一番豪勢なホテルで親戚取引先全員集合の盛大な披露宴をしようだのと言い出したのは心底参らされた。
 ランサーも私もそれなりに蓄えたものがあったから金銭的なことはともかくとして、体格の良い男二人が互いをパートナーであると宣言するだけのことをそんなに大仰にされるのは私の神経が持たない。
 それをどうにか宥めて、宥めて――宥め賺して!――親兄弟と本当に親しい人達だけでの人前式と、新居での簡単なパーティで収めるまでにはランサーも私も一生分の交渉を繰り返した。
 その時は、これ以上に心身ともに疲れてるようなことはないだろうと高を括っていたのだけれど――現状、見通しが甘かったと言わざるを得ない。却下したブロッコリー・トスとやらを採用していたなら、今頃、この何とも言えぬ気持ちをぶつけられたブロッコリーが地の果てまで飛んでいたことだろう。
 幸いにも、不幸なブロッコリーは生まれずに済んだ。代わりに落ち着くまでに少々の時間が必要になったが、この後は参列してくれたゲストを見送るだけだし、その前に一息ついてもらおうと設けておいた時間がある。
 そこで私はようやく肩の力を抜いてゆっくりと顔を上げたが、隣の男はまだ俯いていて、膝に両腕を突っ張らせて身体を支えているようだった。
「お疲れだな」
「そりゃあ……式なんぞカタチだけって分かっちゃいるが……そんでもアイツらの前でテメェと生きてくって宣言すんだから、万が一にもトチるわけにゃいかねぇだろ……?」
 予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。見れば、項垂れたままの頭の脇でランサーの耳はほんのりと朱に染まっていて、それを見た私の頬も熱を持つ。てっきり式の堅苦しさやゲストからのプレッシャーにやられているのだと、そう思っていた自分を恥じた――ランサーの緊張が私のためだっただなんて、思ってもみなかった。
 熱を持った頬に思わずあてた左手に、ひやりと冷たい感触があって、私の頬は更に熱を上げる。
 細いプラチナのリングの裏側には、小さな一粒の碧玉を埋めてある――それは、彼の髪の色だ。瞳の色の紅玉が良いと言ったら、それはお前の色だからオレが貰うと言われた。だから、ランサーの指輪の内側には一粒の紅玉が嵌められている。
 ランサーの言った『宣言』は、この指輪の形をしているのだと思えば込み上げて来て堪らず、私は自分の指に嵌っているそれに唇を寄せていた。ランサーが見ていたことも知らずに。
 目を閉じて指輪に口づけている間、私は酷く幸せだった。
 私にとってこれ以上無い男に望まれて、望んで、大切な人達の前でこの先を誓って貰える。その形が指に嵌っている。
 これ以上のことがあろうかと思うと同時に、この先をこの男とともに歩けるということが、閉じた瞼の裏に、酷く、眩しい。
「アーチャー……」
 身の内から溢れ出る喜びに溺れそうになっていた私を引き戻したランサーの声は、随分と低いところから聞こえてきた。
 え、と思って見遣れば、そこには信じられない光景があった。
「ランサー!?」
 いつの間にかしゃがみこんでいたランサーは、そのお行儀が良いとは言えない格好のまま呆然と私を見上げていた。幼子のような無垢な表情の上に、はらはらと音もなく涙が伝っている。
「ヤベ……止まんね……」
 慌てる私の裾を掴んで苦く笑うも、後から後から溢れてくる涙はぽろぽろと溢れてその頬を濡らし続ける。廊下の明かり取りの窓から差し込む光に照らされて、透明な雫が宝石のようにきらきらと輝いている。
 視線を合わせるように自分もしゃがみこみ、拭うものもなくランサーの頬を両手で包むと、ランサーは未だぽろぽろと涙を落としながらゆっくりと首を回して私の左手に口づけた――正確には、先程まで私が口づけていた指輪に。
「……どう、したんだ?」
「いや、感極まっちまってな」
 式の間はいっぱいいっぱいであったから今頃だ、と、私の指輪に唇を寄せながらランサーは笑う。
 涙に濡れるその笑みが幸せそうで、私の胸もきゅうと締め付けられる。私の左手がランサーの右手に捕まっているように、私も右手でランサーの左手を捕まえ、手の甲の側から唇を寄せる。すると、私の掌の中でランサーが笑って、その呼気に肌を擽られた。
「君が泣いているのを見るなんて何年ぶりだろうな」
 一瞬、借り物のモーニングコートのことが頭を過ぎったが、構わずにその場に膝をついた。ちゅ、と小さな音を立ててランサーの手を離し、空いた右手で濡れた頬を拭う。
「……テメーの前でだけは泣かねぇって決めてたからな」
 触れた頬は熱く、薄い唇は不貞腐れたように僅かに突き出されている。バツが悪い時に見せるその表情は幼い頃と変わらず、それを見た私の頬は緩む。
 最後にこの男が泣いているところを見たのはいつだったか。記憶を辿ってみれば、それは出会いの時まで遡ることになった。かれこれ二十年以上前のことだ。
 就学前だった私達は、互いに親に連れられて行った公園で出会った。その時点で親同士に面識は無く、最初は一人で遊んでいたところに人見知りをしないランサーに声をかけられて一緒に遊んだのが始まりだ。
 まあ、そのこと自体は幼少期に良くある出会いの一つでしかなかっただろう。それがどうして今日この日まで続く縁となり、そして私の記憶にこうも鮮明に焼き付いているかといえば、日が傾いてそろそろ、となったところでランサーが帰りたくないと大泣きをしたからだ。後に火がついたように泣く、という言葉を知った時、ああいうものを呼ぶのだろうと思ったぐらいだ。
 しかも、私はその時、盛大な勘違いをしていた。ランサーは当時から髪を伸ばしていたし、可愛らしい顔立ちをしていた――いや、今だって黙って澄ましていれば目も眩むばかりに美しい造形をしているのだが――から、私はてっきり、女の子を泣かせてしまったと思ったのだ。
 私の手を強く握ったまままだ帰りたくないと泣き喚くランサーをどうにか宥めようとしたが、そこは所詮幼い子どものこと。有効な言葉を捻り出せる筈もなく、そのうちに罪悪感とか無力感とか何か色々なものが込み上げてきて、遂には私もしゃくりあげるほど泣きじゃくっていた。
 父に、曰く。基本的に手のかからない子供であった私がそうも泣きじゃくるなど初めてのことで、それはそれは慌てたのだそうだ。ついでに言えば、ランサーの側もそこまで手がつけられないことになったのは初めてのことで、やはり途方に暮れていたのだとか。
 暮れなずむ住宅地の公園で、泣きじゃくる子供が二人とスミマセンスミマセンと互いに頭を下げ合う親達。思い返す度に申し訳無さで埋まりたくなる思い出だ。
 結局、どうしてランサーがそんなに泣き喚いたかと言えば、後の本人の申告によれば私と離れ難かったのだという。確かに、私の父が『明日もまた一緒に遊ぼう』と声をかけるとピタリと泣き止んだ。
 初対面の、小一時間遊んだだけの相手に? と聞き返せば、それには『本能だ』という返事があった。運命だったってことだよ、と言われたのは確か、ランサーと初めてキスをした時だ――キスはおろかその直前の告白すら一方的ではあったが。
「あん時、オレが泣き止まなかったからテメーも泣いちまったんだろ? そん時思ったんだよ。コイツは泣かせたくねぇなって。だったらオレはお前の前で泣くわけにゃいかねぇなって」
「そ……んな前から……」
「オレの『運命』だからな」
 まあ、これは嬉し涙だから許してくれ――そう言って、あの頃よりずっと精悍になった顔でランサーは笑う。涙に濡れていても、目の前に青空を広げるようなその笑顔は子供の頃から変わらず、それを一番近くで見られる喜びに、目頭が熱くなる。
「ああほら、やっぱりオレが泣くとお前も泣くんだよ……」
「……これは嬉し涙だ。たわけ」
 感極まった私の目尻からぽろりと溢れた雫を、ランサーの手が拭ってくれる。それから、どちらともなく額を合わせて、互いの濡れた目を覗き込んで笑い合った。
「次に泣く時はテメーがオレより先に死ぬか、テメェを置いてオレが死ななきゃならねぇ時の悔し涙だ」
 間近で視線を交えながらそう宣われて、私はいよいよ涙が止められなくなる。これでも勤め先では鉄面皮だの鉄仮面だのという渾名を頂戴している身なのだが、そんな分厚い分厚い面の皮も、この男の前ではいともたやすく剥がされてしまう。
「先程よりこちらほうが誓いの言葉らしいな」
 そのわりに、口から出る言葉が捻くれている自覚はあるが、私がそういう性分だと理解してくれている男は、構わずに笑い返してくれる。
「お気に召してくれたかダーリン?」
「ああハニー、最高にな」
 誓いの言葉の後はさて、指輪はもう交換しているから、誓いの口づけか。
 立派なチャペルはドアの向こう側。一人のゲストも居ない薄暗い廊下で、不格好に床にしゃがみこんだまま、顔を寄せて静かに唇を重ねる。一度で良いというのに、離れ難くて二度三度と合わせてしまうあたり、お互いあの頃から大して成長していないのかもしれない。
 ――ああ、そうだ。あの時、私が泣き止めなかったのは、ランサーを泣かせてしまったという理由以外に、私も離れ難かったからだと、ランサーに教えたことがあっただろうか。勘の良い男だから、父の言葉で私も同時に泣き止んだことでバレてしまっているかもしれないが。まったく、三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。
「なあ、ランサー?」
「ん?」
「私も、この先君の涙は私の独り占めだと誓わせてもらおう」
 そんな誓いがあるかとランサーは笑い、それでも違えること無く私の真意を汲み取って、私が贈る誓いのキスを受け止めてくれる。その目尻に残る涙を拭うのは私の特権とばかりに唇を寄せ、吸い上げると、ランサーは擽ったそうに肩を竦めた。
「さて……いい加減そろそろ行かねばな」
 そんな触れ合いを最後に、ランサーの背をぽんぽんと撫でて離れるように促す。互いに赤らんだ目元は誤魔化せなかろうが、心優しいゲストは目を瞑ってくれるだろう。
 先に立ち上がった私が差し出した手を掴んでランサーが立ち上がる。
 幸い目に留まる汚れは無かったが、いくらか乱れてしまったランサーのジャケットと襟元を整えてやって、涙の跡の残る頬に軽いキスを一つ。流石にそのまま見送りに出るわけにもいかず、私達は揃って控室へと足を向ける。
「さあ、最後のひと仕事だ。しゃんとしてくれ」
「まだパーティが残ってるけどな」
「どうせいくらも経たんうちにいつもの宴会だ」
「違いねぇ」

 そんな軽口を叩きながら歩き出した靴の中で、小さな硬貨が踵に当たる。

 何かひとつ、古いもの――蔵の隅で見つけたタイピンを。
 何かひとつ、新しいもの――誂えたばかりの白いグローブを。
 何かひとつ、借りたもの――父から借りたポケットチーフを。

 何かひとつ青いものは、隣の男がいれば十分。

 そして靴の中には、6ペンス銀貨を。

Comments

  • わんわんお
    June 26, 2025
  • あおか
    January 9, 2020
  • セミウ

    ああ~幸せです・・・ありがとうございます・・・おめでとうございます・・・

    January 9, 2020
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