IQ水準が比較的高い知的障害と境界知能の類似
AAIDD第11版には、「IQ水準が比較的高い知的障害の人は、IQ水準が低い人よりも実行能力に対する期待が高い。その期待ゆえに、IQ水準が比較的高い人には、要求度の高い仕事が与えられる」という記載があります。
他方、IQ70〜75をわずかに超えている人は、知的障害の診断こそなされていないものの、軽度知的障害と多くの共通点があるとされています。そして、「境界知能の人たちは、研究文献で言及されることもなく、知的障害や発達障害の支援サービスからも顧みられていない」と踏み込んだ記載があります。
この記載からどういうことが見えてくるのか。
「境界知能の人は、IQ水準の比較的高い知的障害の人との類似がある。軽度知的障害の人は実行能力の期待が高いゆえに生じやすい困難さがある。境界知能の人は、軽度知的障害の人と同等以上に要求水準が高いと推測されるが、知的障害のサービスは受けられない」という現状でしょう。
本人や家族、そして教師などの支援者が、周囲の要求水準に応えられないと気づいた場合であっても、公的な支援につなぐ手立てはありません。
やむを得ず、親や支援者は本人を励ましたり叱咤したりし、本人は自分のせいにしてその特性を隠してその場を切り抜けようとするため、困難さがよりわかりにくくなっていきます。
AAIDDの第11版では同様に、軽度知的障害と診断された人と、IQが70〜84の境界知能の人は、同じような生活の困難さを持つことを指摘しています。
軽度知的障害の当事者や家族は、生活の困難さがみられたら日常生活に差しさわりが出ないように早めに当事者に自覚を促し、家族や周囲の理解と支援を求めています。
しかしながら、医学診断では実際に生活に差しさわりが出ていないと、厳密には診断基準を満たさないというジレンマがあります。
身体疾患では、「早期発見」「早期治療」、さらには「予防」が重視されていますが、精神科ではその指針理念が必ずしも当てはまりません。
かつて過剰に診断を付与してきたことが、差別や偏見を助長したという歴史的な精神科医療の反省もあるでしょう。専門家による診断のばらつきを防ぎ、その正確さにこだわることは、医学として間違ってはいません。
しかし精神疾患は、診断がないと、困っている当事者を具体的な支援にはつなげられないのが現状です。公的な支援につなぐには、「近い将来生じうる困難さ」を見通した診療が求められると感じても、診断基準に依拠すると診断できず公的な支援は受けることができません。
上の表はAAIDDの第11版、比較的IQ水準の高い知的障害の人にみられやすい特徴の記載をまとめたものです(図表6)。IQが70を少し上回る人(すなわち境界知能)にもみられる特徴であると記載されています。
注意が必要なのは、家族の支援があれば、こうした特徴は目立たないということです。
家族は自分たちが支援していることをあまり意識せず、「おそらくできるだろう」と判断して、質問に答える傾向にあり、それを鵜呑みにすると、困難さや特性を見落とすことになります。
私の臨床経験に照らしあわせて、境界知能の人たちの困難さの特徴を追加してみると、このようになります(図表7)
さらに「日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」」では、7人に1人いるとされ、知的障害と平均値のボーダーにある境界知能の実態に迫っていく。
本記事の引用元『境界知能の人たち』では、現状から事例、支援策、海外の動向まで、ゼロからわかりやすく解説している。