狂気の沙汰
タイトルの通りでございます。
残念なランサーと壊れたアーチャーでぬるい腐向け表現をしています。安心の全年齢対象でございます。
ランサーがヤンデレ気味なので、苦手な方はご注意ください。
ご都合設定で書きたい所だけ書いたのでいろんなところが支離滅裂になっています。
それでもいいとおっしゃる方のみご覧ください。
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ーーーなんだ、これは。
ぼんやりと見た手には血に染まった赤い槍。足元には、赤を纏った血塗れの男。地面は真っ赤な血溜まりが出来ている。
緩慢な仕草で見渡せば、そこは無数の剣が刺さった砂の荒野。赤く染まった空には、どういう構造になっているのか、いくつもの歯車が浮いている。
話に聞いた事のある、アーチャーの『座』のような場所。
ーーーそれも、本人に聞いたんじゃないがな。
冬木の聖杯戦争の際、アーチャーのマスターだった少女から聞いたのだ。一度、固有結界を通して見た事があるらしい。
ランサーは面白くなかった。自分以外に色々と曝け出すアイツが。
足元に目をやれば、ピクリとも動かない、赤い男。白い髪は血と砂に塗れ、薄汚れている。纏っている武装も同じ状態で、所々破れて血が滲んでいる。
可哀想に。肌に血の気はなく、瞼は緩く閉じられたままだ。すぐ近くにランサーが立っているのに、警戒すらしてこない。その余力がないのだろう。
蹲み込んで様子を窺っても、反応はない。血の気がないが、それ以上に魔力の貯蔵もない。ほとんど空の状態だ。
このままでは、アーチャーが消える。
ランサーは、自分に問いかけた。どうしたいか、どうするべきか、何を望むかと。
どうするべきかーーー助ける。
どうしたいかーーーアーチャーが欲しい。
何を望むーーーもう誰の目にも触れさせたくない。
自分の内なる声に耳を傾けると、今の状況が理解できた。この男は、ランサーの望みに応えてくれたのだろう。
何よりも他者の望みを優先する男は、自分の命すら投げ棄てる。価値のないものと、切り捨てる。
ーーー馬鹿野郎。
血溜まりの中から掬い上げ、抱き上げる。地面に腰を下ろし、体勢を安定させると、ランサーは自分の指に歯を立てた。
溢れた血を薄く開いたアーチャーの口元に垂らし、魔力を譲渡する。少しずつ流し込んだそれが、ゆっくりとアーチャーの身体に行き渡るのを、ジッと見つめていた。
愉快な気分だ。
自分の魔力が、アーチャーの身体を満たしている。その事実は、思いの外ランサーを喜ばせた。
意識を取り戻すのに充分な量を受け取ったのか、腕の中のアーチャーが薄く瞼を開いた。不思議そうにランサーを見上げ、緩慢な動作で腕を上げる。
「らん、さー」
「ん?」
「よごれてる…」
アーチャーの指が、弱い力でランサーの頰を撫でる。力を失って落ちた指を見れば、少し黒ずんだ血が付いていた。
おそらく、アーチャーとの戦闘の際に付いたのだろう。今まで、気付きもしなかった。
「きれい、だな」
「ありがとよ。全然気付かなかったぜ」
「君には、赤が、良く似合う」
髪の青と、白い肌に、瞳の赤が良く映える。ようやく力が戻ってきたアーチャーは言った。
「バカ言え。赤はお前の色だろうが」
赤い聖骸布に包まれたその肢体は、いつも毅然として凛々しい。いったいどれだけの人数が、その身体に憧れを抱いているのか、この男が知っているのかどうか。
あわよくばモノにしようという輩も、居ないワケじゃない。何度撃退しても、性懲りもなくわいてくるあたり、害虫と変わらない。……腹立たしい。
「君の赤は、生命の、色だ。私とは、違う」
生命力に満ちた、力強い光を宿した瞳を、アーチャーはうっとりと見上げる。その瞳美しさを讃えるのに、宝石では力不足だ。そんなに大人しい物じゃない。
「そうか?お前に合うのも、命の色だぞ」
ランサーの指がそっと拭うのは、魔力譲渡の為に垂らしていた血液。それが、アーチャーの唇に付いていたらしい。
「鮮血に染まったお前は、どうしようもなく、俺を誘うのが上手い」
指に付いた血を舌で舐めとり、うっそりと笑う。
その眼に浮かんでいるのは、底知れない執着。それが自分に向けられているのが分かっているアーチャーは、微笑んだ。
心を寄せている相手からの執着は、例え狂気染みていても心地好い。心底愛されていると、勘違いしていられる。
「私の血に塗れた、君は美しいだろうな」
アーチャーが呟けば、
「やってみるか?ここなら、邪魔は入らねぇだろ」
自分の返り血に染まったランサーを想像して、アーチャーは笑った。その笑みの艶絶さに、ランサーは息を飲む。
ーーーまったく、こいつはよ。
無防備に相手を誘う。それに煽られてる、自分も自分だと、ランサーは自嘲した。
「ここなら、邪魔は入らない。だから、今はまだ、こうしていよう」
ランサーの腕に抱かれたままのアーチャーは、その頰を鍛えられたランサーの胸に擦り寄せる。信頼している相手だからこそ、出来る仕草だ。
「本当に、お前は俺を誘うのが上手いな。いいぜ。好きなだけ、付き合ってやるよ」
時間はたっぷりある。離れる気はないし、離してやる気もカケラもない。
「煽った責任は、キッチリとってもらうぜ」
「君が望んでいてくれる限り、私は離れはしないさ」
瞼を閉じて、安心したように身体の力を抜くアーチャーは、そのまま深い眠りに落ちていく。
抱き寄せれば、力を抜いて身を預ける。髪を撫でて、唇を寄せても、抗わずに微笑む。だが、ひとたび戦闘が始まれば、その全ては武器になり、容赦無く追い詰めてくる。
本当に面白い男だと、ランサーは笑った。こいつといると、退屈はしない。
「ゆっくり休めよ。起きたら、また殺し合おうな」
激しい殺し合いと、穏やかな睦み合い。矛盾するふたつは、それでも愛を伝える行為として、ランサーの中に違和感なく存在している。
安らかに眠るアーチャーを愛しいと思う。それと同時に、その顔を苦痛で歪ませたいとも思うのだ。
慈しむだけが愛じゃない。ランサーはそれを、アーチャーと会って初めて体験した。
壊して、壊して、壊し尽くした後に、優しく慈しみたい。
まさしく、これは。
ーーー狂気の沙汰だ。
〜fin〜