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弓兵のお値段/Novel by 根っこ

弓兵のお値段

3,665 character(s)7 mins

ランサーのバイト先がやたらと多い理由。ホロアタあたりのご都合時空でよろしくお願いします。頭悪い話です。

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「なーアーチャー、殺し合いしねぇ?」
そりゃぁもう、これ以上はないんじゃないか、というレベルで嫌な顔をされた。
苦虫を噛み潰した顔ってーのはこういうのをいうのかね、苦虫を噛み潰した事なんかねぇけど、と青い槍兵は飄々という立ち位置を崩さずに思ったが、その風体もまた目前の苦虫度に拍車を掛けているとは思ってもいない。
まぁ、魚屋の前で黒ビニールのエプロンをした男が「今日はサンマの良いのが入ってんでどうだい?」の流れでする話でもなかったかもしれないが。
隣にいる、鯖を吟味していた客が若干引いている気がするが、まぁ気にしないこととする。
「だって暇じゃねぇ?」
少なくともバイト中の人間が言うセリフではない。後ろで店主が聞いているがいいのか。ここのバイトも長くは続かないであろうことが何となくアーチャーには想像がついた。鯖を吟味していた客がそっと買わずに去って行ったこと辺りが決定打になりそうだと赤い弓兵は他人事のように観察する。否、紛れもない他人事だ。
「暇なら何時ものように釣りでもしていたまえ」
「だって金ぴかが来てうるせぇんだもんよー」
「いい年した男が、だって、とか、もん、とか言うな!」
気色悪い!と吐き捨てても堪えた風はまるで無い。蛙の面に水とはこのことか。犬では無かったのか、蛙だったのか。
「細けぇなぁ、サーヴァントにいい年もへったくれもあるかよ。つーか没年なら結構若いぞ、俺?」
若かろうが何だろうが獣のような雰囲気を漂わす男に可愛い言い回しなど似合うはずも無いのだが。そもそも歳に関係なく一人前の戦士としてみとめさせ、伝説として立った男が少年っぽさなどを主張するのは詐欺の域だと思う。
そんな屁理屈を言ったところで言うことを聞くはずもないのはもはやいつものことだろう。結局のところ、本能で生きているような男なのだ、このランサーというサーヴァントは、と諦めたような溜息を弓兵は吐いた。
「どうしてもというなら、私のマスターに了承を取りたまえ」
「お、嬢ちゃんがいいって言ったらいいんだな?」
無意味な私闘を許可なく行うわけにはいかん。
自らのマスターがそんな無駄を許すわけがないと、そう判断した上での提案だったが、それを聞いた槍兵は意を得たりとばかりに喰いついた。
かすかに不安が過ぎりはしたが、口が達者…もとい、弁舌の立つマスターをそれでもまだ、アーチャーは信用していたのだ。


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「つーことで嬢ちゃん、アーチャーとちょっくら殺し合いしていいか?」
「いくらで?」
ほぼ即答で返された答えに、机に突いていたランサーの腕が滑った。
机は魔術師やサーヴァントといった異例の面々が集う、食卓であり憩いの場であるに相応しい立派な一枚板で作られたものである。そんな、それは丈夫そうな衛宮家の座卓で危うく顔面を打ちそうになったが、そこは最速のサーヴァント、そんな無様な真似はしない。辛うじて顔面手前で再度手を付き、何事も無かったかのように持ち直す。滑った時点で無様だということはこの際、見ないふりで横に置いておく。
「金取んのかよ!?」
「………凛!?」
赤い少女の後ろで腕を組んで控えていた弓兵も思わず、といった態で前のめりだ。
茶を出したきり台所へ引っ込んでいたここの家主は我関せず、を貫くようだが、それでも気になるのか、時折投げてくる視線が微妙に生ぬるい。まぁ今後ずっとこの少女を師匠としていくわけなので…もしかしたら未来の自分を見ているのかもしれない。もはや別存在と割り切った筈のアーチャーを見て未来の自分を予見するとは、もうややこしいことこの上ない。
「あら、あたりまえでしょう?アーチャーの魔力は私が供給してるのよ。それを貴方の趣味で無駄に消費しようっていうのならそれなりの対価は払ってもらわないと」
魔術師は等価交換が原則なのよ。
魔術師の素質も持つ貴方ならもちろんわかるでしょう?
にっこりと、あかいあくまはそれは優雅に微笑んだ。
青い槍兵は「うへぇ…」とゲンナリとした顔をし、赤い弓兵はそれはもう、複雑怪奇な顔をしていた。強いて言うならば『冷静にマスターとしてサーヴァントを扱ったことに対する敬意と冬木管理人として暴挙を止めなかったことに対する苛立ちと最終的に金勘定に走ったことに対する呆れとを足して割ったような顔』だ。分かりやすくいうなら能面のように無表情だった。普段の仏頂面とはまた違う。
ランサーの視線はそんな弓兵とその主人との間を優に5回は往復し、最後に天井を仰いだ。そこには微かに弓兵に対する同情も含まれていたが、そこはとりあえず気づかれないように胸の内にしまっておいた。この扱いに加えて他方からの同情はキツイ。闘いにおいて誇りなど無いと言い切ったこの男でさえ、それはダメな気がした。この能面がその証拠じゃなかろうか。
イカンイカン、と弓兵を見るのはやめて、優雅な笑みを浮かべたままの赤い少女に視点を据える。
ここはこっちに乗っかった方が恐らく無難、と野性の勘が言っている。

「…相場は?」
「おい!?」
声を荒げた男はとりあえず無視しておく。
話に乗ったランサーに、冬木管理人はニヤリ、と笑みを深めた。ちょっと優雅さが欠けた笑みであったが、突っ込んではいけないと判断する。もちろん野性の勘である。生き残ることにかけては他の追随を許さないランサーならではの術である。
「そうねぇ、やるなら本気でやりたいわけでしょう?」
「そりゃもちろん。ンなもん手ェ抜いてやったってしょうがねぇだろ」
「どこで?」
「ん?」
「どこでやる気なの?そんな本気のサーヴァント戦。言っとくけど冬木の土地に損害を与えるような真似は管理者として許可しないわよ?」
「…む…」
まったく考えてませんでした、とも言えずランサーは口ごもる。
「アインツベルンの森なら私的には問題無いけど、その場合バーサーカーとセラリズも相手にすることを想定するべきでしょうね」
それは死ぬ。絶対に死ぬ。間違いなく死ぬ。
「大空洞は…」
「死にたいのかしら?」
目の前の少女の笑顔に凄みが増したので、そこは不許可と諦める。
まぁ下手にあの泥に関するものを刺激したくないのはこちらも同じだ。
「…じゃあどっこもねぇじゃねぇか…」
期待だけ持たせて結局のところ駄目だということか。回りくどく断られているという事なのか。ガックリと項垂れたランサーに、少女はあっけらかんと「あら、あるわよ?」と言い放った。
顔を上げてみれば、少女の指先は背後の弓兵を指している。
「凛、まさか…」
「そ、アーチャーの固有結界なら宝具ぶっぱなそうが魔術ぶっぱなそうが現実には影響は出ないわ」
「ぶっぱなすとか女性が使うんじゃない…というか、人の結界を便利空間のように言うのはやめてくれ…」
なによ、実際便利空間じゃないの、とは少女の弁。禁呪もこの少女に掛かればアレか、最近見たテレビでやってた青い何かのポケットなのか、とやはり同情を禁じ得ないランサーだった。
ふと台所を見れば遠い目になっている少年がいたが…とりあえずそっとしておくことにした。
「で、そのアーチャーの固有結界でならやっていいってことだな?」
「ええ、多少アーチャーに有利にはなるけど、本気でやりたいなら貴方ならそれぐらいでもいいんじゃない?」
「おお、問題ねぇ。むしろ望むとこだね」
不敵に笑い、奥の手である固有結界を展開されて尚、負けはしないと暗に示せば、弓兵も眼を細め好戦的な視線を返してくる。基本的に平和主義な男であるが、闘うということ自体はむしろ好んでいるとランサーは踏んでいる。
「じゃあ、こんなところかしら?」
コトリ、とランサーの前に置かれたのは電卓。
そういえば相場云々の話をしていたのだった、とそこに打ち込まれた数字を見てランサーはピシリと動きを止めた。むしろ凍ったと言った方が正しかったかもしれない。
「固有結界まで展開するなら消費魔力は相当よ。その上で貴方と本気でやるならほぼスッカラカンになるんじゃないかしら?それを補充する分を手持ちの宝石に換算しただけよ?」
ニコニコとランサーに向ける顔には『ビタ一文まかりません』と書いてある。
主人の後ろから覗き込んだアーチャーも、数字を目にした途端固まっている。
微妙に決して払えなくはない額にしてあるのは計算の上なのか。少なくとも適当なバイトの日銭で払える額ではないが。

その日以来、冬木市のいたるところに青い髪の勤労青年が出没することになる。
いくつ掛け持ちしているかは本人と、赤い魔女だけが知っている。


アーチャーを買うために働くランサーって書くとイヤラシイですね。

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