海の藻屑
学パロ槍弓
高校三年の二人の話です。士郎君が弓の弟になってます。ちょっと暗い。皆どこかおかしいのでそれでも良い方だけお願いします。
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それは気まぐれの様な、見せられた数式を思わず解いてしまう様なささいな好奇心だった。
「なぁ、クー、お前どこ受験すんの?」
「あー、どうすっかなぁ…」
俺はペンをくるくると回しながら前の席に座っていた同級生の質問に頭を捻る。うーん、と暫く考えて、結局答えはでない。やっべぇ、もうこの時期なのに何にも思い付かねぇ。
俺はある高校に通う平凡な高校三年生だった。まあ、青い髪だったり名前がクーフーリンだったりと目立ちはするがいたって平凡だぞ平凡。それに、いわゆる受験期まっさかりってやつだった。はーやだやだ。そうして周りの奴等が受験勉強に勤しむ中、俺はイマイチやる気になれないでいた。それどころか引退した陸上部の部活に頻繁に顔を出す始末だ。まあ、引退はしたが相変わらず俺が一番足速ぇんだけどよ。
俺には正直なところ、夢なんてものは無かった。別に行きたい大学とか、憧れる教授だとか、とりわけこの教科を専攻したい!だなんて殊勝な考えはさっぱりだった。俺にとってはそれより外で走り回ってる方が幾分もましだったわけだ。
ため息をつきながらペンを置いて左手に見える教室の窓の外を見る。嫌になるくらいの雲一つ無い相変わらずの晴天だった。放課後だからか、俺の後輩どもがグラウンドで走り回っては楽しそうな笑い声を響かせている。ハードルを並べ、白線を引いて、部活の準備をしていた。へーへー、羨ましいこって。俺の心情とは正反対かってね。
そうしてその拍子に、窓辺の席に座る白い頭が目に入る。その顔は俺と同じように窓の外を眺めていて見えなかった。アイツは何時も窓辺の席に座って頬杖をついては、こうして外を眺めていた。その少し開いた窓から漏れ出る風によって、ふわふわと空に流れる雲のようにアイツの白い髪が揺れる。
「お前またエミヤ見てんのかよ」
「見てねぇ」
「お前もこりないなぁ。誰もエミヤに関われる奴なんていねぇよ」
「だから見てねぇっつうの!」
断じてアイツを見てたわけじゃない、外を見てたら偶々視界に入っただけだ。あんな奴喜んで見るわけがない。まあ、同級生のいう通り、たまーに見てたりするかもしれない。たまにだたまに。
窓辺に座るアイツ、エミヤは、俺のクラスメイトだったが、謎の多い奴だった。何時も教室で一人ああして過ごしては、事務的なものを除けば誰とも会話しているところを見たことがない。いや、寧ろ、避けていると言った方が近いか。
成績はいたって優秀、部活動だって弓道部でエースらしかった。らしかった、と言うのは、高校に入って暫くしてから急に辞めたからだ。
エミヤは中学の時から弓道部のエースで、常に賞を総なめにしていたらしい。それゆえ高校でも引っ張りだこだったが、結局直ぐに部活も辞め、今では弓道部の団体戦で人が足りないと頼み込まれたときだけ、顔を出すようにしていみたいだった。
まあそんな所謂なんでも出来る奴、なので、大多数の女子や少数の男子からも興味をかっているのだが、本人はそれを知ってか知らずか近付く者はやんわりと皆避けるような態度だった。そのため誰もエミヤのホントのところをわかってる奴はいない。唯一、奴の弟を除いては。
「なぁ、クー。エミヤのやつまた弟待ってんのかな」
「知らねぇよ、俺に聞くな」
エミヤの弟は俺たちと同じ高校に通う一年生で、何時も眉間にシワを寄せているエミヤと違い、親しみやすそうな顔をしていた。そいつは剣道部で中々の成果を出しているようだったが、別な面で物凄く有名だった。何が、かというと、俺たちの間ではアイツの弟はブラコンを拗らせている、ということになっているからだ。何故かというと、アイツらは登下校を何時も共にしているからだ。
その位では別にブラコン何ぞではないと思われそうだが、それはアイツの弟が中学生の頃からだった。つまり、アイツの弟は場所の違う中学校からわざわざこちらまで来て、エミヤと一緒に帰ってたって訳だ。それも毎日。正直誰でも引いちまう。俺もちょっと引いた。
まあでもアイツの弟はアイツと比べ物にならないくらい話しやすく友人も多く、親切を絵にかいたような奴だったから、別にそれで何かマイナスになるわけでもなく、一年どもで仲良く宜しくやっているらしかった。俺たちも次第に見慣れた光景として格段気にならなくなったわけだ。
暫くそうしてとりとめの無いことを考えながらエミヤのふわふわと揺れる髪を見つめていると、俺の視線に気が付いたのかエミヤが此方を振り替える。
視線がぶつかって、俺は少し動揺した。何を考えているのかまるでわからないその目に飲み込まれる。そのとき、アイツの目の奥に、何かがある気がした。だが、エミヤは直ぐに俺から視線を逸らすと、冷めた顔のまま鞄を手にとって立ち上がった。そしてそのまま歩き出し、教室を出ていってしまった。
「あ、エミヤ帰っちゃったな…っておい、何処行くんだよクー」
「あー、俺は今日は飽きたからもう帰る」
「はぁ、お前明日この間の試験の赤点再試だろうが。勉強しないで帰んのかよ」
「お前こそ俺と同じで再試なんだから、しゃべってる暇あったらやりゃ良いだろうが」
「はいはい、どうなっても知らないからな」
俺は引き留める同級生の話も聞かずに鞄を片手で持ち上げると立ち上がった。俺も教室を出て、エミヤの後をつけることにしたからだ。勉強にも集中できなかったし、何となく、ただのちょっとした好奇心からだ。こうでもしないとアイツは人を避けるため、俺はさっぱりアイツのことがわからなかったからだ。
そうして廊下に出て階段に向かうと、アイツは何故か階段を上っていった様だった。下校するなら下に降りて下足置き場に向かうはずだし、上は屋上しかなかった筈だった。おかしいな、と首をかしげながら、やはり俺はエミヤの後をつけ続けた。それもまた、ふとした好奇心から。
カツ……カツ……カツ…………ギィ…バタン……
足音に気を付けながら、ゆっくり階段を上ると、上の方で扉の閉まる音がした。エミヤが扉を開けて屋上に出たのだろう。俺もそれに続いて階段を上りきり、扉の前に立つ。俺はペンキの剥がれた物騒なこの扉も、その向こうに広がる所々フェンスの壊れた屋上も何となく気味が悪くて好きではなかった。
そうして小さなため息をついたあと、少し扉を開いて覗く。やはりエミヤは屋上にいて、ゆっくりと歩いていた。またアイツの白い髪がふわふわと風に揺れ、シャツの上に羽織っている赤いカーディガンもなびいていた。アイツ自身もふわふわと消えてしまいそうで、何だか嫌な予感がした。エミヤはそうしてそのまま歩き続け、錆びれ倒れた意味のなさないフェンスの前まで来ると、何の躊躇いもなくそれを乗り越える。
俺は動揺した。そんな危険なことをする理由がわからなかったからだ。俺にはエミヤはそんなことをして見せびらかして遊んだり誇示するようなタイプには見えなかった。
おいおい、アイツ、落ちたらどうするつもりだ。
思わず扉をつかむ手に力が入る。隙間から見えるエミヤは暫く透き通るような青い空を見つめたかと思うと、に遂に屋上の縁に登る。あ、と声が漏れる。そこで俺は確信した。
間違いない、あいつは飛び降りようとしてる。
その瞬間、俺は我慢できずに扉を開けて勢いよく飛び出した。
「おいバカ!!やめろ!!何やってんだ危ねぇだろうが!!」
屋上の縁に立つエミヤが驚いた顔をして此方を振り向く。俺は全力でエミヤのところまで駆け抜け、フェンスを飛び越えると直ぐ様エミヤの腕を引っ張り、屋上の縁からこちら側へ張り倒す。うっ、と床に引き倒された勢いでエミヤが痛そうに呻いたが知ったこっちゃ無かった。
はん、どうだ驚いたか、速いだろうが!これが陸上部元エースの実力だってんだよ!
俺は意図せずにエミヤの上に覆い被さってしまったわけだが丁度いい。なんせもう一度こいつに飛び降りようなんてされちゃあたまらんからな。エミヤが此方を見上げ目を見開く。そうしてエミヤを捕まえた俺は、真相を問いただす。
「おい!なんでお前っ……!そんなことしようと…!」
すると俺の下敷きになっているエミヤは、次第に顔を驚きから怒りとも諦めともつかぬ顔に歪め、今までで最大限のシワを眉間に集めた後、吐き捨てる様にこう言った。
「…………チッ、くそ、また邪魔が入ったか」