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はちすはも うゑまくほしや 花の鏡に/Novel by 東貴

はちすはも うゑまくほしや 花の鏡に

4,036 character(s)8 mins

鬼は並べて愛しきもの、竜、雷、炎、泥と穢れ、童にして翁に媼、禿七つまでは山のこと、悪徳悪辣悪行悪心嘲笑い、悲哀悲嘆に泣き濡れて、身八つに裂くを肴に酒を喰らうが鬼のこと。

兄貴もまた鬼であるなあという改めての感嘆と、日本の鬼イイヨネ!!というTwitterでの妄想を加筆したものです。勢いしかないので少々文脈がおかしいところがあります。冒頭だけのぶつ切りです。兄貴もあちゃおさんも名前は出てきません、代名詞のみです。ご承知の上お読みください。酒呑ちゃんははすぱいもぱいぱんもいいけどなによりもおしりがいいよねおしりがハアハア

続きました。【novel/6916050

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 御諸の山間には青鬼がいるというのは、昔からよく知られた噺だ。鬼は豪放磊落で、戦いを好むらしく打ち合えるとみれば襲いかかって殺し、美しい女と見れば声をかけに現れるという。ただし子連れや子持ちの時には決して姿を現さぬといい、この山に踏みいる時には皆子供を従えて行くのであった。

 祓いを頼んだ異彩の僧は龍洞寺の縁者らしく、その道ではなるほど高名なお人であった。話を聞くや奇襲は面倒と考え、男は女人の姿を模して向かうことにした。値の張る女物の着物を着込み、剣を長い裾や袂に隠し、袿を被って、首に惑わしの守を下げた。やや背高ではあったが美しい立ち姿になり、男は件の山へと分け行った。
 暦は青葉の季節であった。蝉の姦しい求愛も日も暮れ夜になる頃にはふくろうの声が葉擦れに混ざる他は、どんな山からも音が消える時代であった。男は鍛えた足腰と、闇でもよく効く目を頼りに、難なく獣道を辿って昼夜となく山を彷徨った。一晩、二晩、そして三晩になるとふと月に霞がかかり、朧に歪むと梢の合間から酷く気安い声が木霊した。
「夜更けに俺の庭先に入り込んだは何ぞと思ったが、歌物語も知らぬお嬢ちゃんだったかい」
 ついに現れたかと見上げて、男は息を呑んだ。なんと美しい鬼だろう、なんと雅やかな男だろう。人有らざる赤い眼と青い髪が夜闇の中、月光を纏って浮かんでいる。言葉を忘れて男が黙っていると、鬼は人好きのする顔で笑った。
「まあそう怯えなさんな。俺は野党や山賊は別にして女は殺しやしねえよ、青鬼の噺の通りにな」
 男ははっとしてひとつ唾を飲み、声裏を使って言い返した。
「お前様の庭先に入り込んだはご無礼しました。御頼みします、通してくださいませ」
「よいよい通りゃんせ。俺に一晩くれんなら」
 会話ができるとは男が想像していたよりも理性的な鬼ではあるようだが、眼光はやはり人たるものではなく、またこちらを逃す気など更々かった。男はなんとか男を木の上から下ろそうと頭を捻って、小さく言葉を重ねた。
「御許しを。わたくしは伊勢へ参った帰りなのです、このまま帰らせてくださいませ」
「帰りならば尚更障りはあるまい、なあお嬢ちゃん」
「御許しを、わたくしは醜女です故」
「そんなもん、袿を退けねばわからぬだろうが、見せてみろ、俺はあんたは美しいと思うんだがね」
「そう思って頂いているのなら、尚更脱ぎたくはありません、きっと落胆なさるでしょう、お目汚しになるでしょう」
「なんだなんだ、鬼相手に逃げるでもなく羞じらうとは、こりゃ胆の座ったご令嬢だ。俄然顔が拝んでみたくなった」
 鬼は口笛を吹くほど上機嫌になり、軽やかに木から降り男へと歩み寄った。さくりさくり、草葉を踏む足は裸足で、鋭い爪が覗いている。
「さあ、少しは言葉を交わしたのに野天っていうのも情緒がねえ、俺んちへ招かれてくれお嬢ちゃん。ことによっちゃそれで一晩としてもいい、さあ」
 大層嬉しげに鬼は手を伸ばして来たが、握られては女の手ではないことが簡単にわかってしまう。もっと近くへ寄ってもらわねばと、男は袿の裾を引き寄せて身を縮める素振りをしたが、鬼は初めて焦れたような面持ちになった。ここで疑われては苦労が水の泡だ。男は慌てて苦しく言い繕った。
「ご勘弁を、わたくしの手は荒れております、汚れております」
「そんならこうして行こう。落としたくないから暴れんでくれよ」
 瞬く間もなかった。気づかぬ間に抱え込まれ、梢を蹴って男と鬼は空を跳んだ。男の袿がはためき、ここで取れてはと袖できつく押さえ直す。男は暫く俯いたまま内腑が引っ繰り返りそうな乱高下を送り返す跳躍に耐えていたが、鬼の腕は大柄な身を誠実に支えてくれていた。
 そっと袿の裾から伺い見た鬼は、山間の暗がりの下よりもなお輝かしく、青い美しい髪が夜空に泳ぐ。赤い瞳がふと男を見下ろしてきて、裾の暗がりに引っ込んでいた目と合い、弓なりに細められた。
「なんだ、醜女なんて嘘っぱちだな、やっぱり綺麗な目じゃねえか」
 男は息を呑み、殆ど反射で剣を素っ首めがけて振るった。奇襲に驚いた鬼は流石に男を取り落とし、男は背中から木々にぶつかりながら、酷い音を奏でて山へと落ちた。ぎゃあぎゃあと寝床を潰された烏が批難の音を叫んで飛び立ち、蜘蛛の子のような影を落としていった。
 あちこちぶつけて酷い痛みを追った男はよろめきながらもすぐに身を起こし、間髪入れず鬼が追い付いてきたのに向かい合った。
「こりゃ一杯食わされたなあ、鬼退治にでも来たのかい、お嬢ちゃん」
 鬼を騙くらかすとはなあ。親しみのあった笑みは消え、鬼は嘲笑に顔を歪ませた。声音には色濃い落胆と、熾火のような怒りが爆ぜる。
「残念だぜ、本当に残念だ、綺麗なお嬢ちゃん」
「……たわけが、女人ではないわ」
 もはや惑わしはここまで。朱色の袿を滑り落とした男の顔が露になり、月明かりが余さずその異彩を照らした。国ではまず在り得ない、鈍色の虹彩と齢や体つきにはちぐはぐな白髪。フゥン、鬼はふと笑う。
「なんだ、お仲間だったか」
 男は静かに激昂して二刀を抜き構え、鬼に切りかかった。鬼は血色の槍を顕現させて僧を迎え撃つ。三つの金気は付かず離れず切り結び、速さも力強さも鬼は男に勝ったが、男は細やかな判断で受け流し、踏み込んだ。
「やるなあ、あんた、こりゃあ楽しい!」
 鬼は笑い声を挙げたが、男は息を荒くして眉間の皺を深めるばかりだ。これは強い、法力の効きも悪い、朝日はまだ遠く、奇襲も失敗した、目を眩まして逃げるが得策か。
「おっとそうは問屋が卸さねえってやつだ」
 眩ましの助けに投げた朱色の袿を突き破って肩を抉った。やられた。落ちたときに内蔵もやっていたのだろう、痛みと失血に男はどうと倒れる。鬼は暫く久々に楽しませてもらったぜとからから笑っていたが、ようよう男が死にかけているのに気が付くとポツリと呟く。
「なんだ、あんた死んじまうのか?嘘だろ?俺と同輩だろうによ、ホレ起きろって、おい起きろよ」
 ぐいと引き上げようとしたが、男の体はだらんと垂れるばかりでただ死に往っていた。
 普段なら捨て置くところだ。腕の立つ男だっただけだ。だが鬼は月明かりにも潜んでいた鉛色の瞳を思い出した。ぴんと張っていて、哀しげでーーさぞ生きにくかろう、生きにくかったろう、隠れ潜んで目立たぬよう、そんな瞳だった。
 鬼は男を憐れんで、しかしそれ以上に天晴れに思った。そして同輩ならば構わないだろうとさっさと決めて、大きな体躯をひっ抱え、空に跳び上がった。

Comments

  • 1
    July 29, 2016
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