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The Works "無花果もしくは林檎の樹の下で (1)" is tagged "腐向け" and "槍弓".
無花果もしくは林檎の樹の下で (1)/Novel by ちょこ

無花果もしくは林檎の樹の下で (1)

11,163 character(s)22 mins

※注意※

弊カルデアの人員配置で物語が構成されています。
エミヤは赤弓さんしかいません。クー・フーリンは3人います。
特異点Fを修復したばかりの頃を想定。
エミヤに,見えたり見えなかったりするケモミミがついています!
微・腐要素(槍弓&キャス弓)あり。R指定は付きませんが,苦手な方はそっ閉じしてください。

クー・フーリンズお誕生日おめでとう!!
クー・フーリンズにケモミミ・エミヤをもふもふしてもらいたいだけのお話です。

1
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―どうしてこうなった…

なぜ私は今,彼の光の御子の膝を枕にさせられた状態で,花冠を被せられた己の頭を撫でられまくっているのだろうか…
地平線より姿を現しつつある太陽が,一筋の光となって辺りを照らし始める。
それらの光を全て集めたかのように,白く輝く美しいその手は優しく私の髪を梳き,太陽の力強さを閉じ込めたようなその真紅の瞳は,慈愛に満ちた光を湛え私を見下ろしている。
その全てが私個人に向けられたものではないとしても,その眼差しに私の心まで暖かなもので満たされていくのを感じていた。

―それはすべて,彼を愛するケモノたちの願望によって引き起こされた。

(1)夢弦

サーヴァントは夢を見ない。見ないはずなのに,この状況は明らかに『夢』の範疇と呼べるものだ。
なぜならば,遮るものの何もない青空の下、緑溢れる丘の上で,犬か狼か判別はつかないが神々しい光をふわふわと漂わせた二匹の真っ白な獣たちが私に話しかけてくるからだ。
否。話しかけてくる,というよりは直接意思を伝えてくる,と言った方が適切だろう。
明確な人間の言葉ではないのだが,なぜか彼らの言いたいことが理解できる。

彼らはこう言っていた。
『クー・フーリンに日頃の感謝の意を伝えたいので貴方に協力して欲しい』と。
私としても,クー・フーリンには少なからぬ縁を感じていたし,特異点Fにおける分霊の私には,キャスターのクー・フーリンに対し,とてもじゃないが返しきれない恩がある。
そして何より,もふもふしたイキモノは大好きなのではあるが。如何せん彼らが提示したその「手段」が問題であった。

『今日という日はクー・フーリンが人の世に生まれ出でた輝かしい日であるので,今日一日だけで構わないから貴方の身体を私たちに使わせて欲しい』
身体を使う,とはまた一体どういうことなのか。
キャスタークラスのクー・フーリンの使い魔である二匹の白い獣たちからの,突拍子もない申し出に目を白黒させながら私は彼らに問うた。
「し,しかし,使う,と言っても,私の身体を使って君たちは一体何をする気なのだね?」
私は,とんでもない用途に使われたら,流石に今後の人理修復にも私の精神衛生にも支障が出かねないと思い,彼らに尋ねた。

『料理,というものを作ってあげたいのだ』
『我らはこのような獣の身。このような手足では彼のためにしてあげられることは限られている。常日頃,貴方の作る料理というものを彼はとても楽しみにしているし,食している時はとても幸せそうなのだ』
『だから,ぜひ,一度で良いから我らもそのようなものを彼のために作ってみたいのだ』

そう伝えて来る彼らからは,邪な思念は一切感じられず,クー・フーリンに対する純粋な愛情や尊敬の念しか読み取れない。
しかも,しゃがんで彼らと目線を合わせている自分の両側を,手触りの良い上質の毛並みのもふもふに挟まれ,ふわふわとした耳の後ろの毛を,左右から両頬に押し付けられているのだ。
このような地獄(天国?)に耐えられる程,私の精神は強くなかったようだ。
「……………わかった。協力しよう。」
それが全ての始まりであった。

(2)発現

「えっと,エミヤ…?なんか……ついてない?」
食堂に入ってくるなり,プロトのクー・フーリンに頭上を指差された。
「!!!」
私は思わず,朝食の味噌汁に入れる三つ葉を刻んでいた手を止めてキッチンを飛び出し,プロトの首根っこを捕まえて廊下に引きずり出した。

「君,見えるのかね?」
「えっと,頭に犬っぽい耳が生えてるのが見えるけど。あーよく見ると尻尾もあるじゃん。」
「はぁ………」
私は思わず深い溜息をついた。(それと同時に,ピンと立っていた頭上の犬耳がしょぼーんと垂れるのを,プロトが面白そうに眺めていたことにまでは私は気づいていなかったのであるが…)

現在,私の中には「エミヤ」と「クー・フーリンの使い魔たち」双方の意識が混在している。
多重人格の状態とでも言えば良いのだろうか。基本的には彼らの意識を前面に出し好きに身体を使わせるが,非常事態が起こった際にはすぐに交代する,という約束だけはかろうじて取り付けた。

そして,今はその非常事態である。
鏡には写っていないし私本人にも見えないのだが,なぜか現在,私の頭部には犬っぽい耳が生え,さらには犬っぽい尻尾まで生えているようなのだ。
頭に手をやれば,なぜかもふもふとした尖った耳の感触はあるし,後ろにはふさふさとした尻尾のような感触もある。
そして面白いことに,自分の意思で動かすこともできるようだ。もちろん,私には見えないのだけれども。
それがちょっと惜しいな,などと思い始めている自分に,そんなことではいけないとハッと気を取り直すエミヤなのであった。

しかし,どうやら万人にこれらの耳と尻尾が見える訳ではないらしい。
食堂に移動してくるまでの間にすれ違ったカルデアの職員たちやマスター,騎士王たるアルトリアなどからは何の反応もなかったのであるが,たまたま出会ってしまったニトクリス(とメジェドさまたち)に取り囲まれてしまった。
ぐるぐると私の周囲を物珍しげに廻り続けるメジェドさまたちの好奇の目(心なしかいつもよりキラキラと輝いて見えた…主に私にとって悪い方向に)と,頭に生えた耳を掴もうとしてくるニトクリスの攻撃から逃れようと必死になっていたら,急に意識を使い魔たちに取って代わられてしまった。
どうやら使い魔たちはメジェドさまたちと意思の疎通ができるらしく,私には理解できない何らかの手段を用いて交信しているようだった。
使い魔たちとメジェドさまたちの謎の交信により,正しく現状を理解したらしいニトクリスは,優しい顔で微笑み,そっと私の頭を撫でて去っていった。(去り際に尖った犬耳の先をちょいちょいとつまむことも忘れずに。)

そんなことがあった後のプロトの反応である。
(やっぱりか…そうなのか…クー・フーリンにも見えるのか…)
使い魔たちはクー・フーリンに対して感謝の意を表したいと思っているのであるから,彼らからすればクー・フーリンに見えても構わないのであり,むしろ見えていたほうが好ましいのであろうが…
使い魔たちの直接の主であるキャスタークラスではない,プロトのクー・フーリンにも見えるということは,すなわちランサーのクー・フーリンにも当然見えるのであろう。

(ものすごく嫌だ…)
一番に考えたのはそれである。
あの,私のことを敵視し,いつも何かと突っかかってくるランサーのことだ。このような,客観的に見て面白いことが私の身に起こっているのに,それを放置せずにいるはずがない。
いったいどんな嫌がらせをされるのだろうか…
(はぁ…)
深い溜息をつくが,これも一日限りのこととして開き直ることにした。というかそれ以外に方法が思いつかないので黙殺することにした,というのが正解。

「プロト…一つ頼みがある。」
「んー?なにー?」
「この耳と尻尾のことだが。どうやら全員に見える訳でもないらしい。よって,実際に見える者には私が対処をするが,見えていない者たちには,このことを黙っていてはもらえないだろうか?」
「そっか。それ,キャスターの使い魔たちの仕業だろ?だったら俺も連帯責任ってやつで黙っといてやるよ。」
「そうか。ありがとう。プロト,君は良い奴だな。」
私がそう言って微笑むと,なぜかプロトは少し顔を赤くしながら俯いて何事かぶつぶつと呟いた。
「それ…反則だろ…いぬみみかわいい…」
「ん?何か言ったかね?」
「いや,別に。んじゃ,美味い朝飯待ってるぜ。」
プロトはそう言って食堂に戻って行った。
ひとまずは,見えていない者にまで物珍しげにいじられるのだけは避けたいものだ。
(特にあの腹ぺこ王と、ジャックやナーサリーなどの子どもたちには絶対に隠し通したい!!)

謎の決意をしながら食堂に戻ると,プロトとランサーが並びあった席に座り朝食を食べながら談笑していた。
(うん,いるよな。絶対いると思った。さすが幸運E。こんなところでもきっちり仕事をしてくれる…)
ここで私は,自らの言葉でランサーと向き合うことを放棄し,使い魔たちに身体を明け渡すことにした。後は野となれ山となれ,だ。
しかし私は,その自らの行動を数秒後には後悔することとなるのであるが…

「よう。アーチャー。」
そうランサーに声を掛けられた「エミヤ」は,普段の彼なら絶対にやらないことをした。
そう,おもむろに全速力で走り出したかと思ったら,ランサーの首に背後から抱きついたのだ。それはもう,抱きついたというよりも飛びついたとでも言うべき勢いで。
それはまさに,飼い主を見つけて大喜びする大型犬のする仕草そのままに…
その時食堂に居た全員が,ポカンと口を開けてこっちを見ているのがいたたまれない。
(!!!!こら!!やめんかーーーっ!!!)
慌てて意識を返してもらおうと叫んだが,大喜びする彼らのテンションマックスの意識は聞く耳を持たず為す術はない。
一瞬,真紅の瞳を大きく見開いて驚きを顕にしたランサーであったが,私の背後でぶんぶんと揺れる白くてふさふさした尻尾と,喜びに満ち溢れた私の瞳(中身は私ではないがな!)を見て,ふわりと微笑んだ。
(!?!?)
(こんな顔もできるのか!)
そこには,正しく光の御子と呼ばれるにふさわしい,神々しいとでも言えるような慈愛に満ちた笑顔があった。
(そういえば,これでも半分は神の血が流れているのだったな。)
キャスタークラスならいざ知らず,ランサーのクー・フーリンでも,やはりクー・フーリンはクー・フーリンであったか。などと感慨に耽っている場合ではない。やたら固有名詞が多い。と、そんなことではなく。

基本的に,彼ら使い魔たちの意識が前面に出ている間は,私は人間の言葉を発することはできない。その辺の仕組みはよくわからないが,クー・フーリンたちはちゃんと彼らの言いたいことを理解しているようだった。
ランサーは,自らの首に背後から手を回し,彼の背中に張り付いている私の頭を撫で,その犬耳を掻いてくれながら,何やらくぅくぅと音を発している私(中身は私ではないがな!二度目)に対してうんうんと相槌を打っている。
どうやら私の意識も彼らのそれに引き摺られていたようだ。しばらくそのままの状態でうっとりと撫でられるがままにしていたが,ハッと我に返る。

(いい加減に離れろ!!食事を作るのではなかったのか!!)
このままではいつまで経ってもランサーから離れそうにない,どころかそのうちランサーの頬でも舐め始めそうな様子の使い魔たちから,なんとか強引に意識を取り返し,ランサーの背に懐いている身体を引き剥がした。

「と,とつぜん,すまなかったな,ランサー。」
こほん,と咳払いをしつつそう言うと,ランサーはまた軽く目を見開いたが,今度は呆れたような表情を浮かべて言った。
「お前なぁ,お人好しもそこまで来ると笑えないぞ?まぁ,俺は,『お前さん』から,やけに愛の籠もった抱擁をしてもらったから文句なんぞないけどなぁ?アーチャー?」
最後の方はニヤニヤと誂うような言い方をされ,思わずカッとなったが,こいつも一応クー・フーリンであるからには本日の主役であったと思い直し、拳を握りしめてグッと堪えた。
「『私』の愛など籠めた覚えはこれっぽっちもないがな。と,とりあえずすまなかった。食事の支度があるので,私はこれで失礼する。」
そそくさとテーブルを離れる己の頬が熱くなるのを感じ,理由もわからず少し腹が立った。
(なぜだ!なぜ私が赤面せねばならないのだ!!)
私は早くも彼らの申し出を受けてしまったことを後悔し始めていた。
そして彼らにとっての本命,キャスタークラスのクー・フーリンに出会ってしまったら,一体自分は何をしでかしてしまうのか。正直かなり恐ろしくなっていた…
密かに戦々恐々としていた私を他所に,朝食の席にキャスターのクー・フーリンが姿を現すことはなかった。


(3)作る人たち

兎にも角にも,使い魔たちの望みは「クー・フーリンに料理を作って食べてもらう」ことなのであるから,それに集中していれば先程のような失態を犯すこともなかろう,と判断したのであるが…これはある意味間違いであったようだ。

ここでいつものように私が私の意識のまま料理してしまったのでは,せっかく彼らが私の中にいる意味がない。
そこで,あれこれと裏からレクチャーしつつ,彼ら自身に全てをやらせてみることにした。
しかし,まぁ,元が元であるから,そうそう上手く行くはずもなく…

「あーっ!!エミヤーっ!!どうしちゃったの!?包丁はそんなふうに叩きつけて使うものじゃないでしょー!!危ないから!!あっっぶないっ!!!」
キッチンに響き渡る絶叫は,一緒に今日の料理当番をしているブーディカのものだ。
(すまない…本当にすまない…)
なんだか別人の口癖を盗ってしまって申し訳ないが,それ以外に言うべき言葉も見つからない。
ここはやはり,彼女に事の真相を話して協力してもらうのが一番であろう。
ということで意識交代。

「……という訳なのだ。彼らの,主のために尽くしたいという想いをどうか汲んでやってはくれないだろうか。」
「そっか。そういうことだったんだね。いやーびっくりしたよ。いつものエミヤじゃないのは,ランサーに飛びついた辺りからなんとなくわかってたけど。そっかー。クー・フーリンも良い使い魔と優しい友達を持って幸せだね。」
「ともだち…?」
「あれ?エミヤとクー・フーリンズって友達でしょ?まぁ,ちょっとエミヤは誰にでも優しくしすぎるところがあるけど,やっぱり彼らは特別っていうか。彼らにとってもエミヤは特別なんじゃないかな?」
(特別…なのか?)
私が考え込んでいると,意識の裏側から使い魔たちがキャンキャン吠えて催促してくるので,考えるのを中断して意識を交代することにする。
と,その前に,今日のメニューをブーディカに伝えておくのが先決だ。

「今日のメニューなのだが,一応,彼らはアイルランドの英雄だから,アイルランドの郷土料理にしてみようかと思う。神代のメニューなど残っているはずもないので,私が知っているのは現代まで伝わっているメニューになってしまうのだが…」
そう言ってエプロンのポケットから今日のメニューと簡単なレシピを書いたメモを取り出す。
「ふむふむ。アイリッシュシチューにシェパーズパイ,コルカノンにラム肉のグリル,デザートはアイリッシュクリームチーズケーキか。有名どころがいっぱいだね。」
「少しベタすぎただろうか…?」
私が少々心配になって眉を顰めると,ブーディカは言った。
「いや,そんなことはないと思うよ。私も少なからずあの辺りには縁があるけど,どれも懐かしい土地を思い出すような料理だと思う。『エミヤ』が彼らのことを思って考えたメニューだと,彼らならすぐにわかるんじゃないかな?」
そう言って彼女は母のような優しい笑顔で微笑んでくれた。
使い魔たちではなく『私』が考えたとわかってくれると彼女は言ってくれた。それがなんとなく嬉しかった。
「そ,そうかな。ありがとう。ブーディカ。」
ちょっと照れくさくなって顔を背けながら小さく礼を言うと,ブーディカに頭を撫でられた。
ハッとして思わず犬耳を両手で押さえるが,ブーディカはそんな私の仕草にきょとんと目を丸くしている。どうやら彼女にはこの耳と尻尾は見えていないようで,なぜか少しホッとした。


(4)予感

ブーディカには本当に迷惑を掛けてしまったが,彼女が母性本能を最大限に発揮し,辛抱強く彼らに付き合ってくれたおかげで,どうにか食べられる料理を作ることができた。
夕食時にはマスターがクー・フーリンたちの誕生日をみんなで祝いたいと言っていたし、夜はきっとケルトの仲間たちで酒盛りでもするのだろう,と考えた私は,昼食の席で彼らにこれらの料理を振る舞うことにする。
ここはやはり,使い魔の彼らが直接呼びに行きたいのではないかと考えた私は,彼らに意識を明け渡し,しばらくの間好きにさせていた。

カルデアの無機質な廊下を,キャスターのクー・フーリンの個室に向かって,やや飛び跳ね気味に歩いていると,向こうから子ギルが歩いてくるのが見えた。
正直なところ,金ピカ(大)に比べたら,比較にもならない程付き合いやすい彼ではあるが,本質は英雄王ギルガメッシュその人であるのだから,あまり油断はしない方が良さそうだ。そう判断した私は,とりあえず子ギルをやり過ごすまでは意識を返してもらうことにする。

ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべながら近づいてきた彼は,私の(悪い)予想どおり,そのまま見逃してくれるはずもなく…すれ違いざまに私の尻尾を徐ろに掴んだ挙げ句,くいっと引っ張って言った。
「へー。面白いですねぇ~。エミヤさんに真っ白な尻尾が生えてますねぇ~」
「……やはり君にも見えるのか…」
「そりゃもう,バッチリ。」
軽くウィンクをしながら楽しげにそう言われても,過去の経験上トラブルの予感しかしない。まぁ,金ピカ(大)ではないだけ数万倍,いや数百万倍,下手したら数億倍もマシなのではあるが……どれだけ迷惑な奴なんだ,英雄王。

こうなったら,毒を食らわば皿まで,の精神で行くしかないか,と開き直って子ギルに尋ねてみることにした。一応賢者の側面もあるギルガメッシュの分霊であるならば,何か知っているかもしれない。
「この耳と尻尾は,見える者とそうでない者がいるようなのだが,その基準が君にはわかるか?」
「そうですねぇ。神性持ちかそうでないか,が基準なのではないでしょうか。一応,彼らは半神の光の御子の使い魔ですからね。」
そう答えながらも,ブンブンと振られる白い尻尾を捕まえようとぴょこぴょこ跳ねている子ギルは,その仕草を見ている限りは可愛らしい少年なのであるが。
「ひと目見ただけで君にはそこまでわかるのか?それとももう誰かから聞いたのか?」
もし誰かが話したのだとすれば,ブーディカかプロトかランサーか,もしくはニトクリス(とメジェドさまたち)ぐらいしか考えられないのだが,その誰もが吹聴して回るような者には思えない。
「見ればわかりますよぉ。ボクには。あの金ピカのダメな大人ほどではありませんが,ボクも一応ギルガメッシュではあるので。」
うふふといたずらっ子のような笑みを浮かべる子ギルの目が笑っていないように見えるのは気のせいだ。そうだきっとそうだ。うん,幸運Eの自分と幸運Dの使い魔は早々に退散した方が良い。

「では,これから用事があるので私はこれで失礼する。」
足早に先を急ごうとする私に,背後から子ギルが声を掛ける。
「閉じ込められないように気をつけたほうが良いですよ,エ・ミ・ヤさん♡」
思わず振り返る私にはもう興味がなくなったとばかりに,スキップしながら去っていく黄金の少年。私は嫌な予感に寒気を感じたが,どうせあの辺関連のトラブルは,事前に何か対処しようとしても無駄なのだ,と半ば諦めた面持ちで早々に退散することにした。

(5)混沌

キャスターの部屋の前に立ち,扉を開ける直前に彼らと意識を交代するが,正直この扉を開けた後に起こるであろう何かを,私は期待しているのか恐れているのかよくわからなかった。
しかし,軽くノックをすれば,扉は勝手にするりと開き,床に座り込んで何か作業をしているキャスターのクー・フーリンにちょいちょいと手招きされる。
今朝のランサーに対する行動と同じように,また飛びかかったらどうしようかと私は内心ビクビクしていたが,予想に反し彼らは静かにキャスターの横に手をついて座った。

「おぅ。おまえらどこ行ったのかと思ったらそんなとこに入ってやがったか。エミヤも悪いな,こいつらが迷惑掛けたな。」
視線を上げることもなくそう言った彼は,ルーンストーンに何かを刻む作業を続けていた。
「くぅん。」
一声鳴くと,私の両手がそっと胡座をかいたキャスターの膝の辺りに添えられた。
きっと彼らは,キャスターが何か作業をしている時には,ふわふわした白い前足でいつもそんな風にしているのだろう。

その仕草に気づいたキャスターが目線を上げると,頭上の犬耳がピンと立つのがわかる。まるで,主の言葉を一言も聞き漏らすまいとしているかのようだ。
「やべえな。お前さん,それ可愛すぎだわ。」
くっくっと笑うと徐ろに頭をわしわしと撫でられる。その仕草と優しさを湛えた真紅の瞳に正面から見つめられると,なぜだか少し私の胸の奥がざわついた。
「そうか,お前らが料理を作ってくれたのか。そりゃあ楽しみだ。」
そう言うと,床に散らばっていたルーンストーンを集めて小さめの絹の袋に入れ立ち上がった。

「んじゃあ,ご相伴に預かるとしますか。プロトとランサーにも声掛けながら行くかね。」
キャスターは私を見下ろしながらそう言うと,未だ床に手をついて座ったまま彼を見上げている私の両脇に手を入れ,半ば抱きしめるような形でひょいっと身体を持ち上げるとそっと立たせてくれた。
「うーん,手触りはエミヤなんだな。ふわふわしてんのは耳と尻尾だけかー。」
私を抱きしめた形になっている両手で,ぺたぺたと肩や背中を触りながらそんな感想を漏らすキャスターに,尻尾の付け根を撫でるように触られ思わずびくりと飛び上がる。
(な,なんだ今のは!)
「お。そういうとこは犬っぽいんだな。へぇ。ふぅん。」
何やら企んでいるような真紅の瞳に自分の姿が映っているのを見てしまい,私はどうしたら良いのかわからなくなる。
そして,ようやく自分の今の体勢に気づいたその時…

「おい!何やってんだよ!」
ずかずかと部屋に入り込んできたランサーにより,強引にキャスターから引き剥がされる。
「ったく,油断も隙もねーな,お前。」
私のことを睨みつけるランサーの瞳がギラギラと光っているのを確認し,そういえばそんな眼をするランサーは,ここでは今まで見たことがなかったな,などとぼんやり考えていると,ぺちぺちと頬を叩かれた。
「おい,アーチャー。戻ってこい。」
ランサーにそう言われて,まだなんとなくぼんやりとしている眼で彼を見る。そんな私の様子を見たランサーはふと表情を曇らせ,じんわりと殺気のようなものを滲ませながらキャスターに向かって言った。
「てめぇ,なんかやったか?」
「いんや?まだ何も。」
「まだ,だと?こいつに何かしやがったら絶対許さねーからな!覚えとけよ。」
「はいはい。りょーかい。槍のオレは気が短くていけねーや。」
などと言いながら,軽薄な様子でひらひらと手を振り,キャスターが部屋を出ていく。
私はその様子をぼんやりと眺めながら,クー・フーリン同士で喧嘩したら誰が一番強いのかな?槍ならランサーが絶対誰にも負けないだろうけどキャスターはなんか地味に面倒な攻撃とかして来そうだなープロトはそういうのには関わってこなそうだなーとかつらつらと考えていた。
そんな私の様子をランサーが眉をひそめて見ていることなど,その時の私は気づいてもいなかった。


(6)食べる人たち

私がクー・フーリンたちを呼びに行っている間に,ブーディカがテーブルのセッティングをしていてくれたようで,食堂に戻った時にはすでに食事の準備は整っていた。
どこからか噂を聞きつけたケルト勢やアルトリア,さらにはマスターまでもが,テーブルに所狭しと並べられたアイルランド料理を興味深げに眺めており,事の真相を話すべきか否か,私は悩んでしまった。
そんな私の様子を横目で見たキャスターのクー・フーリンが,群がる彼らに向き合って言った。
「エミヤが料理のレパートリーを増やしたいって言うから,俺らが故郷の味を教えてやったんだ。初めて作る料理だからいろいろやらかしてるかもしれんが,一緒に食べて感想を聞かせてやってくれ。」

それを聞いたフェルグスや,当然現れるであろうと覚悟していた騎士王改め腹ぺこ王のアルトリアが口々に話し始める。
「おぉ。そうだったのか。それは楽しみだな。」
「アーチャーの作る料理であれば何でも美味しいとは思いますが,新しい味が食べられるのは楽しみです!今度はぜひ,我が故郷の味にも挑戦していただきたいものです。」
するとアルトリアの発言を聞いたマスターが思いついたように言う。
「じゃあさ,月に一度ぐらいはみんなの故郷の味を再現する日を作るっていうのはどう?」
その提案に真っ先に手を挙げたのは,もちろん腹ぺこ王だ。
「賛成です!一緒に闘う皆のことをもっと良く知るためにも,新しい美味しさに出会うためにも!!」
その場にいる全員が,(絶対それ後者の方が比重高いよな)と思ったことは当の本人には内緒である。

「これからまだまだ仲間も増えるだろうし。楽しみだね,エミヤ!頼りにしてるよ。」
マスターからそんな風に言われてしまうと,なんだか照れくさい。照れ隠しもあり,ついいつもの小言が口から滑り落ちる。
「今日の料理はブーディカも手伝ってくれたものであるから彼女にも感謝せねばなるまい。それよりまだまだ人理修復も始まったばかりなのだから,そんな浮ついた気持ちでは怪我をしかねないぞ。マスター」
「あー,はいはい。大丈夫大丈夫!あ,ブーディカもありがとう~!」
「こら,マスター!ちゃんと人の話をだな…」
ブーディカの元に駆け寄るマスターに小言を続けようとした私の顔をひょいっと横から覗き込み,なぜか安心したような顔でランサーが言う。
「よし,いつも通りだな。」
「な,なんだね君は。私はいつも小言が多いと言いたいのかね?」
思わずムッとして言い返すと,
「そうじゃねーよ。ん?まぁ,そうかもしれねぇが。いや,今はそういうコトじゃねぇ。」
不可解なランサーの態度に反発を削がれる形になった私は,その時一体どんな顔をしていたのだろう。
「お前なぁ,そういう顔すんじゃねーよ。とにかく食べようぜ!」
なぜか顔を背けてそう言ったランサーにかなりの力でドンと背中を押されて前のめりになる。その隙にランサーはテーブルに向かって歩いて行ってしまった。
(一体なんなんだアレは。)

そんな二人の様子を遠くから見つめるナニカの視線があったが,ふいにバチッという微かな音と共にソレは掻き消された。

(フン。お前らにコレに近づく価値はねえ。)
賑やかに食事を始めた面々の中で,こっそりテーブルの下で指先を動かしてルーンを刻み,一人虚空を睨むキャスターは心の中で呟いた。



Comments

  • raku
    July 15, 2018
  • そー
    July 1, 2018
  • カナヨ

    続くんですか?ヤッター!!待ってますね!!れ«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク

    June 21, 2018
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