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アーチャーの朝は早い/Novel by 凍護@コメント嬉しい

アーチャーの朝は早い

5,082 character(s)10 mins

槍弓でお布団でだらだらする話、世界線はホロウ寄りの謎/ブクマや評価、スタンプ本当にありがとうございます!!お陰さまでルーキーランキング10月18日〜24日付の77位に入りました…!!本当に感謝感謝です…!!

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アーチャーの朝は早い。
夜明け前に起床し身支度を整え、ルーティンワークの鍛錬に余念がない。日が登り始めた頃には家事に移り、朝から主菜副菜汁物まで完璧に整った朝食を取り、朝市へ出かける…。

が、その日のアーチャーは違かった。時刻は9時を回り、普段ならとっくに起きている時刻だがアーチャーは布団の中でもぞりと動くと時計を見上げ気だるげなため息をついた。
そこは遠坂邸ではなく、凛から与えられたアーチャーの仮住まいのアパート。価格を抑えるため古びたアパートというイメージにぴったりな外観と、中身もこじんまりとした住まいだったが、男の一人暮らしには十分でアーチャーはこの住まいを密かに気に入っていた。
昨日は街のパトロールに加えて遠坂の使いがあり深夜までひどく忙しかったのだ。サーヴァントに睡眠は本来必要の無いものと知っていても、生前の癖からか体が重いように感じる。そして何より気温がぐんぐん低くなってきたこの季節、最大の強敵布団のぬくぬくとした誘惑がアーチャーの体を捉えて離さない。
ただでさえ冬木は冷え込む土地で、少し布団の外に出を出せば冷たい空気が肌を刺しさらに外に出る気力を奪ってくる。
毎日きっちりとした生活を送っていても実質アーチャーには義務はなく、本来もっと自由に過ごしていても何ら不都合はないことがこの日ばかりは力を発揮して、アーチャーは今日くらいは…という心の中の悪魔を払えずにいた。

うとうととしたまどろみに身をゆだね、いっそもう一眠りしてしまおうか…というさらなる悪魔が耳元で囁き始めた時、不意に家のチャイムが鳴った。
間を空けて再度家に響くぴんぽーんという音、無言の抵抗をしていたアーチャーは続けてなった音にとうとう観念して体を起こした。
この時間に訪ねてくるものなど思い当たらず、宅配便なども届く心当たりはないのだが、少しの間隔をあけてなおもなり続けるチャイムに首をかしげながらアーチャーは布団から出る。温もり残る布団へ名残惜しい気を払って枕元のメガネをかけ、ぶるっとつい体を震わせて玄関に向かう。

「セールスならおことわ…」
「おぉ…」
扉を開けた先、見慣れたアロハが目に飛び込んだ瞬間閉めようとしたドアは相手が咄嗟に伸ばした脚が邪魔して閉められなかった。
ガンッと乱暴に足をドアの間に差し入れて止めてみせたランサーは、普段ではありえないほどだるだるに抜けたアーチャーの姿に心から驚いた声を出す。
驚きと一種の絶望が混じって青くなった顔をしているアーチャーは、髪もセットしておらず下ろしたままで、自宅だからか魔力の節約により衰えた視力を補うためかけたメガネ、寝巻きはゆるいスウェットで下のズボンに至っては手先の器用なアーチャーに珍しくゴムが伸びて腰骨や下着までかすかに見えてしまっている。
褐色のどこか艶かしい腰についひゅうと口笛を鳴らしたランサーは容赦なく脚にかかる力に顔を歪め、腕も合わせて閉じられようとする扉に抗う。
「なんっで貴様がここに…!!」
「寝起きか?この時間にお前が?槍でも降ってくるんじゃねぇか」
「槍の代わりに剣を振らせてやる!…っの!」
「邪魔するぜ」
一息に思い切り力を入れ、空いた隙間に体を滑り込ませたランサーは見事家への侵入を果たす。軽い足取りで寝室兼居間へ歩いていく背中にげんなり肩を下ろし、らしくない事をしてしまった罰を十二分に受けているアーチャーが仕方なくついていくと、この時間アーチャーの家では決してお目にかかることの出来ない布団をしゃがんで見ていたランサーがニヤニヤと見上げてくる。
「マジで布団敷きっぱなしじゃねぇか、あのお堅い弓兵さんがねー」
「言われずとも自分のだらしなさはわかっている。畳むからどけ…何故そこで入る!?」
「おぉーあったけー」
目の前でのそのそ布団に入り、まだ残っていた温もりに目を細めている相手にぎょっと飛び上がったアーチャーを見上げたランサーは寝っ転がったまま軽く布団をあげて当たり前のように手招きした。
「ほら」
「なんだ」
「入れよ、冷えるだろ」
「君の言いたいことがまったく理解出来ないのだが」
「だから寝なおそうぜって言ってるんだよ。いいじゃねぇか、この季節に布団から出たくなくなるのも至極当然の欲求だ。責められることじゃねぇさ、それにいつもやりすぎなほど欲に遠いお前なら尚更な」
「君がそう言おうと私は布団でぐうたらすることは許せない、気がすんだら出ていけ」
これで話は終わりだと言わんばかりに背を向けたアーチャーは、背後で不穏な含みを持たせるランサーに気づかなかった。
「そうか、あくまで抵抗するんだなお前は」
「もちろんだ、さぁ朝食にしよう。君も食べるか…ん?」
突如足首にかかる手、主は誰であろうランサーただ1人。訝しげに振り向いた先には布団から腕を伸ばしアーチャーの足首を掴んで、ふぅぅぅ…と深く息を吐くランサーの姿に瞬間アーチャーは嫌な予感が駆け抜けたが、その時にはもう遅かった。
「なら仕方ねぇ、実力行使とさせてもらおう。どっこいせぇ!!」
「うおわぁぁぁ!!」
刹那勢いよく布団へ足首を引き込まれ一気にバランスを崩したアーチャーは、かろうじてメガネをもぎ取ってかばうもそれ以外はまるで受け身が取れずに顔を強かに打ち付けた。体の前面を思い切り打って、さすがのサーヴァントでも痛みに悶絶している間にアーチャーはそのまま布団の中へ回収される。
「バッ馬鹿か!!」
「おっ眼鏡割れなくてよかったな、よし寝るか」
ヒリヒリと痛む鼻を押さえ、ちょっと涙目になってしまったアーチャーがすぐさま至近距離に迫ったランサーに噛みつくも、ランサー自身はアーチャーが握ったメガネを枕元に置いて褐色の体を抱き寄せ完全に寝る体勢である。
「ふざけるな!いい加減にしろランサー!こんなことをされて誰が素直に…ッ」
起き上がろうとしてもランサーの腕はがっちりと体を抱きしめて緩みもせず、さらに無言で優しく背中を撫でられてしまっては、アーチャーは魔法でもかけられたように大人しくなるしかなかった。
人間離れした赤い瞳と日に輝く蒼い髪、ランサーの息を呑むほど美しい相貌がいい子だと褒めるように微笑まれ、アーチャーの顔にかっと熱が集まる。とろけるような微笑が嘘のように消え、いつもの気さくな笑みにニッと変わったランサーはぽんぽんとアーチャーの背中を軽く叩いて宥めながら白い髪へ頬を寄せた。
「はぁー布団ってのはいいねぇ、テント住みにとっては極楽かってところだ。たまに寝に来てもいいか?」
「…私に迷惑をかけない範囲ならな」
よっしゃ!と声を上げるランサーにこもってしまった顔の熱をほ…と息をついて紛らわせたアーチャーは、ランサーのしなやかな肉体に抱かれる心地よさを全身で感じ、新たに布団に加わった他人の体温の温もりに白旗を上げて体を寄せた。


おそらくアーチャーのことだから毎日干されてるだろう清潔かつ柔らかな寝具にしっかり陥落してしまっていたランサーは、ふと鳴った家のチャイムに瞳を開けて唸る。
抱きしめて眠りに落ちたためアーチャーが枕にしていた腕が痺れるのはご愛嬌、チャイムとランサーが身をよじったせいでつられてしょぼついた目をこすって起きたアーチャーは、まだ覚醒していない頭でもぞっとランサーの腕へ額を当てる。
「…んだよ、アーチャーが起きちまうだろ、クソッ」
「ん、ぅ…いま、なんじ…なっ!!??」
ぼんやりとした目で時計を見て、さらに部屋に差し込む日がとっくに消えているのに気づいたアーチャーは弾かれたように体を起こし蒼白になった顔を覆う。
感覚の鈍い腕をプラプラと振っていたランサーも時計を見ればとっくに針は16時を回り、現界してから初めてなほどの寝曜日にははっと力なく笑った。
「夕方だな、寝すぎたわ」
「こ、こんな時間じゃないか…!掃除も洗濯も買い物も何もできなかっ…!」
あまりの自堕落さに生前でも覚えがないアーチャーは、すっかりショックを受けて絶望に染まった声で震えている。
あの生真面目者が受けるショックを思うと同意の上でも若干の申し訳なさがもたげたランサーが、慰めようと肩に手を置こうとした時、瞬間顔を上げたアーチャーが頭の中の予定表に本日の項目で光るある事を思い出した。
そしてついさっきまでチャイムを鳴らし、今まさにガチャガチャとドアノブを回しているドアの向こう側の存在にゾッと表情をこわばらせた。
「夕方…?マズイ…!!」
布団を蹴って玄関に飛びつこうとした時には既に遅く、合鍵で解錠を果たした凛が何気なく玄関続きにある今へ顔を出した。
「アーチャー?こんな時間に鍵かけてどうした…の…」
「凛…!」
「じゃ、邪魔してるぜ嬢ちゃん…」
暗い室内に首をかしげ何気なく電気をつけてみると対面したのは、体半分出かかっているが明らかに同じ布団で寝ていたと思しきアーチャー、そして少し青くなった顔で手を上げているランサー。
昨夜の使いのことを聞こうと学校帰りに訪れた凛は学生カバンをボトリと落とし、電気を付けた体勢のまま固まった。
重苦しい沈黙がしばらく流れた末、瞬間凛の腕に刻まれた魔術刻印が紅く煌めきランサーが咄嗟に飛び退くと、ついさっきまでいた場所の布団がガントによって焦げる。
「なに、これ。なんで一緒の布団にランサーがいるのよ、電気もつけないで鍵もかけて…!あんた、私のアーチャーに何してくれたのよ!」
「あっぶねぇ!ちょ嬢ちゃんそれは勘違…!」
「問答無用!」
続けてガントを連発する凛にアーチャーは慌てて駆け寄った。
「凛!誤解だ!ランサーとは本当にただ一緒に寝ていただけなんだ!」
「はぁ?」
心底意味がわからないという凛の声に、まったくだと内心でどこか納得しながら成人男性2人が仲良く1つの布団にいた理由にアーチャーは頭を乱暴にかく。
狭い家で容赦ないガントへ必死に健闘するランサーに申し訳ない視線を送り、自らの恥にぐっとつまりかけながらアーチャーにとっては憤死ものの事を告げる。
「ランサーとは何もなくて…っす、すべての非は私にある。けじめをつけずつい誘惑に負けてこんな時間まで惰眠を貪ってしまった。英霊として、いや人として失格だ…」
だんだんと消え入りそうな声になって告白したアーチャーを限界まで丸くした瞳で見上げた凛は、口もぽかんと開く。それだけあのアーチャーがこの時間まで布団でごろごろしていたという事は、彼を知っているものからすると衝撃なのだ。
止んだガントに息をついてこちらに来たランサーの方を無意識に見ると、ランサーも深くうんうんと頷いてアーチャーの言ったことが真実だと裏付ける。
「あんたが…?この時間まで布団でごろごろしていたの?」
「…ああ」
「あのアーチャーが驚きだよな、気持ちわかるぜ」
あっけに取られる凛の顔にぐっと唇をかんで俯くアーチャー、先程までのどったんばったんといった騒ぎが嘘のように静まり返ったアパートが刃のようにアーチャーの心を刺す。

いっそ殺してくれ…とアーチャーが頭を抱えて請いたくなってきた頃、おもむろに学生カバンを拾った凛はこともなげに口を開いた。
「…今度、士郎くんの家でみんなでお泊まり会しましょうか」
「凛…?」
「いいじゃないのごろごろしても、私も嫌いじゃないわ。それだけあんたが気を抜けるようになったっていうことでしょ?それがランサーと一緒だった時ってのがちょっと気に入らないけど、罰として私にも寝顔見せなさい」
びしっと人差し指を突きつけられ怯んだアーチャーの幼く見える顔に凛は微笑んだ。その笑顔に吹き出したランサーは虚を取られているアーチャーの肩を抱くと、無造作に白髪をぐしゃぐしゃとかき乱した。
「そりゃよかったな!お前実はぐうたら寝るの好きだろ?ヨダレ垂らして寝てたからな」
「ヨダッ!?くだらない嘘をつくんじゃないランサー!」
「いや、本当だって。そりゃ気持ちよさそうに寝てたぜ?探せばシミあるんじゃねぇか?」
「やめろ!」
自身のアロハシャツの腕を上げてみせるランサーを赤面したアーチャーが慌てて止める。目の前でバタバタと騒ぐ2人を前に、凛のガントが飛ぶのもそう間もないことだ。

Comments

  • こらころ
    Jan 12th
  • May 1, 2022
  • ろじ
    November 4, 2016
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