【セタ弓】御子は従者を連れて旅立った
■古事記っぽいパラレルde主従セタ弓です。和風テイスト冒険ファンタジー。唐突に思い付いたら止まらなくなって書いた。なんでさ。
■しょっぱなから死んでるひといますが、のほほんと守護霊ポジで再登場するんじゃないかなと思います。
続きました→novel/8314646
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宴会の席は騒然となりました。
刻限になっても現れない兄御子の屋敷へ遣わされた弟御子が、血塗れの姿で戻ったのですから無理もないことでした。
本来はまだ酒宴には呼ばれない齢の、ひょろりとした少年です。戸口近くの大人たちは慌て、よもや獣や賊に襲われたのであろうかと駆け寄りました。しかし声を掛けることは出来ません。
少年がしっかりとした足取りで歩み進むたび、歓談のさざめきが静まります。
訝った楽士の囃子が止み、優雅に舞っていた女たちは小さく悲鳴を上げてへたり込みました。
少年へ投げ掛けられる視線は心配から驚愕へ、いまや戦慄へと変わっていました。
「……セタンタ」
宴席の最奥に座していた父王がようやく異変に気付き、茫然と御子の名を呼びました。
いっぺんの乱れもない所作でその場に膝を折り、礼を取る少年の、生成りの服や、青く萌える頭髪、子供らしい華奢な腕にべとりと張り付いた大量の赤、赤、赤。
目を留めればわかるのです。赤色に内から染み出たものはなく、それらはすべて返り血でした。
「何があった」
顔を上げたセタンタは、澱みなく口にしました。
「兄御子を討ち取って参りました」
父王の手から杯が転がり落ちます。
愛した息子の首の幻が見えたようでした。どのような凄惨な殺し方をすればそれほどに全身が赤く染まるのでしょう。セタンタのふくらとした白い頬にも、血飛沫が飛んでいます。
「兄は神気を迸らせており、ただならぬ様子でした。悪神を降ろせば郷に被害が及びます。正気のうちにと請われ、やむを得ず我が手にて」
かの若者は優秀な後継でした。
才覚に富み、武芸に秀で、美麗な見目を鼻にかけることもなく礼節を知り、鍛錬も怠らず。ひょいと村娘を口説く女癖が玉に瑕ではありましたが、それも英雄の資質。彼の軽妙な言動は好意をもって民に受け入れられていました。
頭首に相応しき器を持った兄御子を次代の王に。兄とそっくりの麗しい容姿をしていながら村の子のようなやんちゃ振りと勇猛さで、こちらも民に人気の弟御子を一の側近に。次代も磐石であると、誰もが信じて疑っていなかったのです。
「何故、人を呼ばなかった」
「間に合うならばそうしたでしょう」
無為に死体が増えるだけだと言外に語る、利発そうな赤い瞳がひどく恐ろしいものに思えました。
「おまえは……」
少年は眉ひとつ動かさず、手を震わすこともなく、平然と、己もよく懐いていた兄を処断したというのです。今朝までともに笑い合っていた血を分けた家族です。それを、まだ起こってもいない危険のために? 請われたからといって、大人に縋りもせずに?
太刀も佩いていない子供のすることでしょうか。
ふつうの子供に、出来ることでしょうか。
自慢であった御子のすべてが、畏怖へと変じていきます。
「王……!」
一報を聞いて駆け出した家臣がまろびながら戻り、青い顔で事実に間違いなしを告げました。現場である兄御子の寝所は床一面に染料をぶちまけたような有様で、しかし綺麗な顔をした遺骸は真白な敷布に横たわっていたということです。
父王は少しだけ、ほんの少しだけ安堵しました。無慈悲を行ったセタンタにも、兄御子の死を悼み、丁重に礼を尽くす情はあったのです。
しかし次の瞬間には、情がありながら――と更なる怯懦に見舞われました。
「そう、か。つらい役目を負わせてしまったな、セタンタ。大儀であった」
「は」
湯浴みと休息を勧められたセタンタは深く一礼をし、注視しては逸らされるいくつもの視線の中を堂々と退室したのでした。
この時、少年が少しでも歩みをふらつかせていれば、駆け寄った剣の師匠でもある叔父の腕に倒れ込んでいれば、もしかしたら物語は違った結末を迎えていたかもしれません。
セタンタの初陣が決まったのは、それからわずか三日後のことでした。
初陣は戦士となる男子にとって成人の儀です。
喜ばしいことですから、王の名指しを誉れに思いこそすれ断る者などおりません。元より王命は断れるものでもないのですが。
旅装で門前に現れたセタンタは、込み上げる笑いに顔を歪めました。
「これは参った。王よ、なんともわかりやすい“褒美”だな」
ふつう、初陣の少年などおまけの小僧っこ扱いです。兄に聞いたところによると、本隊がいて、歴戦の指導役がいて、襟首掴まれながら勝ち戦を見学するだけのつまらない行事だそうです。何事もなければセタンタは翌年にでも叔父のフェルグス率いる一軍の末端で、ぴかぴかの鎧に身を包み口を尖らせていたことでしょう。
ですがセタンタに授けられたのは、罅の入った剣、錆びた槍、痩せた馬でした。城門に居並ぶはずの兵の姿はどこにもありません。
いただいた征西大将の位は名ばかりの、少年を放逐するための口実でした。
表向きは身を挺して郷を護ったことへの褒美です。傷ひとつ負わずに兄を討った武芸の腕は素晴らしい、なればその英雄に相応しき任を与えよう、西方で暴れる蛮族を見事討ち果たしてみせよというのです。
幾度となく小競り合いを繰り返し、郷の猛者たちが撤退を余儀なくされている土地です。
それを初陣の少年、ただの一騎で。
「いや、端から数に入れぬのはあまりに礼を欠くというものか」
罅の入った剣、錆びた槍、痩せた馬。加えてその手綱を持ち、荷を背負って佇む従者がひとり。それがセタンタに与えられた戦支度のすべてでした。
男は一回りほど年嵩に見えますから、旅や戦の経験は間違いなくセタンタより豊富なはずです。逞しい体付きをして、些か短めの剣を腰に二挺佩いています。
「よりにもよって“兄殺し”に付けられるとは運のない」
セタンタが近付くと男は黙って片膝を突き、少年が馬に乗るための台となりました。
こちらへ旋毛を向けた髪は色の抜けて白く、肌は反対に灼けていました。馬の毛色ほどではありませんが、焼き菓子のように美味そうな褐色です。セタンタが他意なく珍しいと感じたそれこそが、男に白羽の矢が立った理由の一端なのでしょう。
運がないというよりは皮肉、必然と言うべきでした。彼は異民族です。冷遇される異民族の地位向上を謳った政策を立てていたのは兄御子です。
装備のどれもに瑕疵があるなら、従者も同じように仕組まれているに違いありません。
「私怨か、それとも義憤か。オレは回りくどいのは好かん。今ここで剣を抜け」
「何を」
存外に低い声が耳を打ちました。
「何を仰っているのかわかりません。剣の腕を見せよということでしたら、ご覧に入れますが」
主人を直視するのは不敬と伏せ気味にされている睫毛も真っ白でした。
「立て」
短く命じれば、スッと立ち上がります。
日頃は上役の胸元あたりに据えているのでしょう、男の伏せた視線はちょうどセタンタの顔の位置でした。主人の発展途上の背丈を考慮していなかったのです。男はぱちりと目を瞬いて戸惑い、改めて斜め下に視線を落としました。
騎乗用の台が必要と判断する一方でこれです。卒のなさそうな男のちいさな失敗が、セタンタには何やら微笑ましく映りました。
「おまえ、名は」
セタンタはひらりと鞍に飛び乗り、軽い身のこなしに驚く従者に訊ねました。
男が手綱を引くと、馬はゆっくりと歩き出します。
「私に名はありません。不便であればアーチャーと」
「弓遣いか」
「はい。これといった特技もないので、名付けに困るのでしょう。行く先々でただ弓兵と呼ばれます」
先導する男の肩には黒光りする弓が掛けられていました。黒い木を削ったのではありません。手のひらから滲む油が、年月かけて深みのある色艶を出したのです。
特技がないとは謙遜でしょうか、それとも本当に理解していないのでしょうか。それは並み居る兵の中でもこの得物ならばこの男という、皆の認める一握りの戦士にしか与えられない称号なのです。
「オレの名は知っているか」
「無論、存じております」
真っ直ぐ歩いていた男の髪がふらりと揺れました。
そうです。彼が跪いたのはあくまでも騎乗の補佐のため、真名を捧げないばかりか、忠誠を誓う口上を述べてもいないのです。
「……セタンタ様」
呼べ呼べという圧力を後頭部に感じたのでしょう、罰の悪そうに主の名を口にします。
「おう」
「伏せてください」
「おう?」
疑問符を浮かべてはいても体は反応し、セタンタが馬の首に抱き付くが早いかアーチャーは矢を放ちました。見事な早射ちです。弓を取り、矢を番え、引き絞って放つ。それらが一の動作に見えたほどでした。
過たず何かを射抜いたようで、いくつかの悲鳴と重たい物の落ちる音が聞こえました。
「御免」
アーチャーはいなないて駆け出す馬の鞍を掴んで飛び乗ると、後ろ向きに膝を突いて構えました。
「手綱は任せます」
男の体と背負子にセタンタはむぎゅうと押し遣られましたが、文句を言っている場合ではありません。
「森へ…」
「森まで突っ切る。落ちるなよ」
「あなたが馬を潰さない限りは」
「………」
どうもこの男の言動は無礼者の香りがします。遠乗りのたびに馬を疲弊させては小言を食らうやんちゃ御子の話は巷でも有名、とはいえ。
この野郎と背後を睨んだセタンタは、右手に持った短剣で飛来する矢を打ち落としながら左手で照準を合わせた弓の弦を、くるりと短剣を逆手に持ち替えた右の三指で弾くアーチャーの姿を見ました。
弓兵は盾を持てぬものという戦場の常識はどうなったのでしょうか。
くるりくるりと幅が広めの短剣を回すので、大きく胸を空けずに済むようです。素早く流れるように、防御と攻撃を切り替えます。
しかも彼はそれを事も無げに不安定な馬上で行っているのですから。なるほど、彼は“アーチャー”でした。
あちらの矢は逸れたり、遮蔽物に阻まれたりしますが、こちらの矢は正確に追手を減らしていきました。
残った一人が馬を回頭させるのを見止め、アーチャーは前を向いてすとんと鞍に座り直しました。セタンタの腰に腕が回されます。
「余所見をする余裕があったようで何よりです。お怪我は」
「ない。諦めたか」
「そのようです」
気安いと怒るほど狭量ではありませんが、己の胴回りは男の片腕で足りてしまうのかと少年らしく憮然となりました。後ろから抱えられる格好も、大人に乗馬を教わる子供みたいです。
「彼らは出立の見届け役だったはずですが、セタンタ様に矢を向けたため迎撃しました。おかしな話ですね。門から出たばかりのところで射掛けるなど、城内と変わりないでしょうに」
ああ、やはりこいつは慇懃無礼というやつだ。彼が行ったのは迎撃でなく先制でしたし、本人に向かって道中での暗殺を仄めかす神経を疑います。
セタンタは手綱をぶん投げ、どかりとアーチャーの胸に寄り掛かりました。
「オレが生死不明では困る輩がいるんだろう」
「と言うと…」
例えば、これまで目立たなかったが今後は愛情を一身に受けるであろう父似の弟とか。
セタンタの数ヶ月違いの異母弟自身は実直な少年です。彼とはセタンタも一緒に狩りに行く仲ですが、何せ後見が神託のために斎宮で子を産むことになった正室の不在時に王へ娘を売り込んだ一派ですから、あまり良い噂は聞きません。
憚って口に出さなかっただけで、アーチャーも見当は付いているはずです。
「討たれるならともかく野垂れ死にされちゃあ、確認するのも一苦労だからな。いつまでも亡霊に怯えることになる」
常識的に考えて、蟻が巨象に挑むわけがないのです。セタンタが継承権を持ったままいずこかへ落ち延び、充分に力を付けて戻ったり、敵国と結んだりしては大変です。
「オレはまだ廃嫡されたわけじゃない。謀叛と取られるリスクのほうが高いはずだが、手柄に逸るヤツはどこにだっているもんさ。しかしオレの首の報酬をオレがもらえねえってのは納得いかねえなあ。くれてやるから豪遊させろってのはナシかね、やっぱ」
セタンタは足を引き上げ胡坐まで掻いて、すっかり従者を座椅子としていました。
咎めもせずに手綱を捌くアーチャーは、セタンタが背に巻き込んでしまった一つ結いの後ろ髪が気になっていました。このまま揺られていてはせっかくの綺麗な髪がこごってしまいます。
「おぅい、聞いてんのか、アーチャー」
セタンタは後頭部をごすんと、無言の従者の胸にぶつけました。
「聞いています。ですが、彼らは犯人の容易にわかる方法をとって、セタンタ様凱旋の折にはどのように言い逃れるつもりなのでしょう」
アーチャーは射掛けられた矢の一部を周到に保管していました。誰が何を射止めたか、それは狩りにおいても戦においても論功行賞を決める際の重要要素です。しかしこんな時にまで紋章入りの矢を使うなど、ただの馬鹿でした。
「まあ、今から取って返したところで盗難品だととぼけられるのがオチですし、いずれにしろ戻ってからのことに……」
セタンタが背を起こしたので、アーチャーは是幸いと髪を救い上げました。やはり悲しいほどにぐちゃぐちゃになっています。少年は無頓着でいけません。
アーチャー自身、髪など伸びたら小刀で削ぐだけのひどい扱いですが、自分はいいのです。うつくしい碧玉は一点の曇りなく磨き上げたくなるものですが、道端の小石が泥に塗れていようと誰も気にしません。
「あ」
セタンタがふいに振り向いて、青い絹の束はつるりとアーチャーの手をすり抜けていきました。
「あ? なんだ、髪?」
「……失礼しました。そろそろ足を緩めてもいいでしょう。降ります」
「別に乗ったままで構わんぞ」
おまえに寄り掛かるの心地良いし。引き止めるセタンタは、これでは大人と子供みたいだと不満に思ったことはもう忘れていました。
「この子を疲れさせてしまいます。私は重いので」
セタンタが軽くても、大柄のアーチャーと荷物で結局大人二人分です。鞍から飛び下りたアーチャーは馬の顔を撫でました。それだけの荷重を乗せて道なき森の中を駆けた馬はだいぶへばっているようでした。
「あなたがふつうだと思っている神馬が規格外なのだと知ってください。どうしてか馬のほうも応えたがって無茶をするので、困ったものです」
他に追手がいないとも限らず、足取りを掴ませないために街道へ出たり集落へ寄るのは最低限にすべきでしょう。おおよその地形を把握しているアーチャーは水場の位置を脳裏に描き、進む方向を調整しました。
どの行路を行こうと、さして変わりはないのかもしれません。けれど頭を使って危険を回避できるのであれば、それに越したことはないのです。
セタンタが「それだ」と手を打ちました。
「それだよ」
「どれです」
「マハ」
「……はい?」
アーチャーが横を向くと、小さな主人はぺたりと馬の首に腹這いになって、内緒話をするように徒歩の従者へ顔を近付けました。
「オレの馬の名だ。不足があるなら用立てればいい、そうだろう?」
赤い瞳がキラリと光ります。
そうなのです、与えられた装備しか使ってはならぬと命じられた覚えはありません。剣が要るなら剣を、槍が要るなら槍を、兵だとて道中で揃えることが可能です。まあ、資金ゼロという越えられない壁はあるのですが。
その点、アーチャーが例えに出した神馬、マハは他所に預けているだけの、セタンタの愛馬です。少し寄り道するだけでいいのです。
「あちらはセタンタ様の馬というわけではないのでは……」
「オレのだよ」
セタンタは断言しました。ひとの事情は知りません。眼を覗いて応えたなら、それはセタンタの馬なのです。
もっとずっと幼い頃、初めて会った時から。少なくともセタンタとマハはお互いをそう認識しています。
「おまえが言っているのは所有権の話だろう。“本人”が肯けば、あそこの斎姫は快く送り出すさ。そういうひとだ」
ついでに他の装備や、その頃には心許なくなる備蓄も賄うことが出来るでしょう。
セタンタとは深い縁があり、好意的。政治的にも中立で、考えてみればそこ以上に安全な補給地はありませんでした。温泉に浸かって旅の疲れを癒し、残りの道程を駆け抜ければ勝率もぐんと上がるはずです。
「では、斎宮へ立ち寄られるのですね」
大きく方向を変える必要はないようで、アーチャーはそのまま馬を引きます。
「おう。マハならおまえも乗れるだろ。五人や十人、軽い軽い」
「十人はさすがに大言……、? いえ、乗りませんよ、私は」
「はー? じゃあ何のために寄り道すんだよ」
「意味がわからないのですが。何故、目的が二人乗りすることになっているのです? あなたは補助の必要な子供ですか」
「大人だって二人乗りしたい時もあるだろうが」
「はあ。まあ、先程のように緊急時などは同乗をお許し願いますが…」
一向に弛まないアーチャーの眉間の皺を眺め、セタンタが薄ら笑いを浮かべました。
「おまえ、遊びのないヤツって言われるだろ」
「遊びのある弦で弓が引けますか」
セタンタが揶揄い、アーチャーが澄まし顔で答え、時に窘めては叱られた少年が舌を出す。そのような遣り取りを続けるうち水場へと到着し、しばしの休息となりました。
喉を潤して、馬の疲れが取れたところでまた出発します。
初日はなるべく距離を稼いでおかねばなりません。遠ざかればその分だけ捜索範囲が広がり、二人の現在地が特定しづらくなるからです。
どこで狙われるかもわからぬ領地を足早に抜けたら抜けたで、それは逸早く他豪族の支配圏に踏み込むことを意味するのですが。
「お。猪いた。あれ晩飯にしようぜ」
「セタンタ様! お待ちくださ…っ」
ぽんっと馬から飛び下りたセタンタをアーチャーが咎めますが、体力の有り余っている少年は嬉々として茂みに突っ込んで行きました。ややあって、ぶきぃ!ぶきぃ!と哀れな鳴き声が聞こえてきます。
「……私の主はたわけか?」
アーチャーは額を押さえ、呻きました。弾丸のごとく獲物に向かって走るなど、まるで猟犬のようです。いえ、待てを聞くだけ猟犬のほうがましかもしれません。
これでは先が思い遣られます。
「アーチャー、そっちいったー」
「はァ!? 仕留めるならきっちり仕留めんか! 馬鹿者!」
「馬鹿って言った? おい、今、馬鹿って言ったよな?」
気のせいですとさらりと宣い、アーチャーは弓を番えました。木々の間に見え隠れする青い髪は探すまでもなく、視界の中央に収まっています。
アーチャーの指先から放たれた矢は、茂みから飛び出した猪の眉間を打ち抜きました。
「お見事!」
がさごそと出て来たセタンタがにかりと笑って手を叩きます。
こちらを見る赤色が煌めいた気がしました。
(―――いや、まさか)
試されたのかもしれない、なんて。
「ところで、これ二人じゃとても食い切れねえよなあ。足の早い食材から食っちまわなきゃならねえし。おまえ、干し肉とか作れる…?」
「……そういうことは先に気付いてください」
やはりただのたわけかもしれぬ。アーチャーは猪を捌くべく短剣を取り出しながら、なんとも曰く言い難い溜め息を吐きました。
主従二人きりの征西の旅は、まだはじまったばかりでした。
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続いたらいいな
何回読んでも良い 馬鹿って言った?のところ好きです