アンジェス創業者/阪大教授「森下竜一」不穏な動きと怪人脈

不正行為云々の真偽は不明だが、よからぬ筋の操り人形と化している恐れは拭えない。

2026年3月号 DEEP

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大阪大学大学院の森下竜一教授

Photo:Jiji

ここに「ご連絡」と題した書面がある。昨年11月14日付で趙鳳祥氏なる人物が252万株を保有する株主として創薬ベンチャーのアンジェス(東証グロース上場)に送りつけたものだ。

「今回の第46回新株予約権……発行決議につき、強い失望と深い懸念を抱いております」

何者かに弱みを握られた?

アンジェスのHP

この1週間前、アンジェスは米系証券会社キャンター・フィッツジェラルドを割当先に最大70億円の資金調達となる行使価額修正条項付き新株予約権(MSワラント)の発行を決議していた。それに反対の立場を表明する件の書面は続けて、趙氏の知人らによる好条件の資金調達案が会社側に対し提示されたものの無視されたと主張するとともに、社外取締役3人の解任などを議案とする臨時株主総会の開催請求にも言及していた。

末尾に添付されていたのは「意向表明書」など3件の資料だ。先になされたという資金調達案の動かぬ証拠というわけで、提案者はピクセルカンパニーズ(1月16日付で上場廃止)などに登場したハワイ関係者の会社やシンガポールの法人、それに上場会社の創業者がドバイに設立した投資会社となっている。投資額は80億~100億円。が、それら提案が会社側になされた事実はないらしい。

2002年の上場以来、赤字続きのアンジェスが大規模な増資策を実行することは年中行事の感さえあるが、今回のような事態は初めてだ。しかも、同社を巡っては相互に連携していると思しき不穏な動きが相次いでいるのである。

関係者によれば、最初の動きは昨年9月頃。香月信二(通名・信滋)氏という人物による強い働き掛けが会社側にあったという。

現在48歳の同氏は3年前まで福岡市内の「ASメディカルサポート」(以下、AS社)という再生医療関連会社で代表取締役だった。辞任後は「再生医療安全推進機構」なる一般社団法人の代表理事となったが、今もAS社には影響力を有するとの見方が多い。同社は6年前、経営不振のアパレル企業ANAPとの提携を発表、有名歌手GACKTとの関係をこれ見よがしに喧伝していた時期もある。

働き掛けが始まった頃、すでにアンジェスはキャンターと条件でほぼ合意していたが、香月氏はそれを取り止めて自身の関連資金を導入するよう求めたようだ。

11月7日にMSワラントの発行計画が発表されると、同氏はアンジェスの山田英社長に対しメッセージアプリを通じ強い調子で中止を迫った。発行差し止めの仮処分申し立てや報道機関とSNSを通じた責任追及などをちらつかせ、しまいには「この詐欺師が」と悪罵を投げつける有り様だったらしい。

じつは、香月氏と冒頭の趙氏との間には複数の接点がある。趙氏の代理人弁護士は23年2月以来、AS社の取締役。また、東京・銀座で再生医療クリニックを運営する一般社団法人「志鴻会」で昨年9月まで理事だった趙氏は一方で「NOVAS」なる会社の取締役でもあるが、同社で代表取締役の胡燕氏は現在、AS社の関連施設「九州再生医療センター」で「副社長」の肩書を名乗っている。これらの関係性から香月氏と趙氏は裏で手を結んでいる可能性が高い。

さて、香月氏の動きに関し最も注目すべきなのは、こともあろうに、それがアンジェス創業者の森下竜一氏の仲介によるものだった点だ。どうやら両者は親密な間柄にある。香月氏のAS社は22年8月、森下氏を「細胞培養技術顧問」に招聘、同氏が教授を務める大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学寄附講座と共同研究を進めると発表している。また、森下氏が主宰する一般社団法人「再生医療抗加齢学会」と同じく「アカデミア発バイオ・ヘルスケアベンチャー協会」において香月氏は理事を務める。加えて、AS社は森下氏がアンジェスの傍らで創業した上場会社ファンペップと共同開発で提携していた事実もある。

じつは、趙氏や香月氏の横やりにも関わらず焦点のMSワラントが予定通り発行された後、森下氏はアンジェスに対し突然不可解な行動をとるようになった。

昨年12月下旬、山田社長と面談した際、森下氏は唐突にこう話したという。「インサイダー情報を不適切に扱ったとしてドバイ関係者から脅されている」――。それは衝撃的な告白だった。真相は詳らかでないが、森下氏が何者かに弱みを握られている恐れは否定できず、同氏は件の告白に続けて自身の取締役選任を求めたという。それが事態を収拾する方策らしい。

森下氏は創業者であるものの、安倍晋三政権肝煎りの規制改革推進会議で委員に就任したことなどを理由として13年3月に取締役を退任、その後は研究開発に一定の発言権を有する「メディカルアドバイザー」との肩書で顧問契約を結ぶ身だ。

かつて上場時には共同保有分も含め2割超の議決権を握る筆頭株主だったが、リーマン危機が起きた08年以降、UBS銀行や大和証券に担保として差し入れていた保有株が強制処分されるなどして持ち株比率は低下、今や株主としての権限は皆無だ。株式から通貨オプション取引まで数十億円規模の資産運用が失敗した挙げ句のことである。そんな中、今になって訳ありの取締役選任要求がなされたのはよほどのことだ。

よからぬ筋の操り人形か

気になるのは時を同じくして先述したファンペップで不可解な増資話があった点である。ドバイの投資会社に新株を割り当て、調達した10億円のうち8億円でアンジェス株を取得するとの計画だったという。もっとも、これは取締役会で否決され潰えている。

どうやら一連の不穏な動きでカギとなるのはドバイのようだが、それを決定的に裏打ちする動きがあったのは1月下旬のことだ。3月下旬開催の定時株主総会に向け都内在住の女性から株主提案があり、そこには一種異様な下りがあった。ドバイ在住の「国籍氏名不詳者」と森下氏が結託し不正行為を繰り返している疑いが指摘され、さらに同氏と「ルイス・シブヤこと秋田新太郎」なる人物との関係性を調査する特別委員会の設置が求められていたのである。

ここで名前が出た秋田氏はかつて不正融資事件で有罪判決を受け、18年に破産した「福島電力」を巡る業務上横領事件でも取り沙汰された人物で、現在は木下博唱と改名。日本から出国後の19年10月に旅券法違反で逮捕状が発付されており、ドバイに逃れているとされる。

そもそも株主提案した女性の周辺もきな臭い。息子の山中裕氏はHOYAの創業一族に生まれながら過去に警察沙汰を起こすなど醜聞が絶えない。昨年5月には実父が仕手銘柄であるGFA(現abc)の会長に就任するとの適時開示がなされたが、直後にこれは本人の同意がない真っ赤な嘘と判明しており、山中氏が一枚噛んでいた。同氏も現在、ドバイ在住とされる。

注目を集めたコロナワクチンが多額の国庫助成金を得ながら不発に終わるなど成果に乏しいアンジェスだが、現在、米国で承認申請準備中の遺伝子治療薬「コラテジェン」は有望ともされ、不穏な動きはそれを狙ったものの可能性がある。不正行為云々の真偽は不明だが、森下氏がよからぬ筋の操り人形と化している恐れは拭えない。同氏の研究室宛てにメールで質問を送ったが、期限までに回答はなかった。会社側はもはや森下氏にまつわるリスクを看過できなくなったようで、近く顧問契約を打ち切る方針とも伝わる。

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