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【ホロウ後軸槍弓】千の扉を開いて/Novel by えーり

【ホロウ後軸槍弓】千の扉を開いて

6,408 character(s)12 mins

◆ホロウ軸後の槍弓。ホロウ未プレイの人はご注意ください。
繰り返す四日間が明けたあと、あるはずのない記憶に振り回された結果くっつく槍弓の話。
事故を一度の過ちと考える弓兵に対し、槍は事故っていようがなんだろうがそもそも抱くつもりのない奴は抱かないし、惚れたら抱くし、逆説的に惚れない相手は抱かないのであった……。

◆2021.4.18 赤弓受まつりにて配布した無配になります。ダウンロードやネップリなどして戴きました方、ありがとうございました。お手元で楽しんで戴ければ幸いです。

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 その日ランサーの目覚めは最悪だった。日の出からほどなくして、塒にしているテントに招かれざる闖入者が現れたからだ。

「ランサー、居るんだろう! 今すぐここを開けろ!」
「んあ?」

 ぱちりと目を開き、横たわっていたシュラフから半身を起こす。寝起きとはいえサーヴァント、意識は目覚めた瞬間からはっきりとしている。朝日を浴びるテントの向こう側には、影絵のように見知ったシルエットが映り込んでいるのが見えた。
 己とほとんど変わりない体格、短く切り揃え撫でつけた髪、そして何より特徴的な声の色。確信をもってランサーは奴の名を呼んだ。
「アーチャーだな。なんだよ朝っぱらからうるっせえな……。」
 仕方なく、シュラフを這いだして手を伸ばし、テントのファスナーを引き下げてやる――と、奴がつかみかかるような勢いで飛び込んでくるではないか。咄嗟に上半身を引いたので衝突はせずに済んだが、弓兵はテントの床面に片膝をついた状態で硬直している。
「いきなり飛び込んできてなんだよ。オレの顔にゴミでもついているか?」
「貴様、なんで服を着ていない!」
 アーチャーから真っ赤な顔で指摘をされ、己の様子を顧みる。眠るときにあまり着込むのを好まない性質ゆえ、ランサーは全裸でシュラフに潜り込むことにしていた。当然今も裸である。サーヴァントであるから代謝は行われないし、別に問題は無い。
「寝るときにどんな格好しようがオレの勝手だろうが。そんなことよりなんの用だ。折角人が気持ちよく寝ていたのによお。」
「それどころじゃないから来ているんだ!」
 尋常ならざる様子で弓兵が頭を掻きむしる。普段から冷静沈着……とまではいかないにせよ、それなり外面を取り繕うタイプの弓兵がこれほどまでに取り乱すのは珍しいことではあった。……ここで水を向けたことがのちの敗北に繋がるのだが、このときのランサーには知るよしもない。
「念のために聞くが、それはオレにも関係ある話なのか。」
「大変不本意だが関係は大ありだ。」
 真顔で返されて思わず身構える。

 果たして弓兵は言った。

「ランサー、正直に答えてくれ。貴様にはオレと寝た記憶はあるか?」
「は?」
 寝た? 意味を取りかねたこちらを見、弓兵はがくりと項垂れた。
「普通はそういう反応になるな。まあいい、順を追って話す。……だがその前に服を着てくれ。目のやりどころに困る。」
「へいへい。」

 まあここまでくれば二度寝を決め込む気も失せる。ランサーはテントの隅に放り出していたアロハシャツとジーンズを着込みつつ、弓兵の声に耳を傾ける。

 ――極東日本の地方都市、冬木市。ここで人知れず行われる五〇年に一度の儀式がある。
 参加者は七人の魔術師、そして彼らが使役し武器とする七騎の使い魔・サーヴァント。これが冬木市における魔術師どもの戦、聖杯戦争である。
 ここ三〇〇年のあいだに聖杯戦争は五度発生した。先の春先に終結した五回目、勝者となったのはセイバーとそのマスター衛宮士郎だ。つまり残る六陣営は敗者となったわけだが、奇跡的にも死者はたったひとりしか出なかった。ランサーのマスターであった言峰綺礼である。

「ここまではお前の認識と相違はないか。」
「まあ、なさそうだな。……で、何がどうやってオレとお前が寝たって話になるんだ。」
「言峰綺礼が死んだのち、貴様には現界の楔となるマスターはあれど魔力の供給元がない。それ故に私が融通した――ということになっているようだ。」
「なーんか歯切れが悪いな。その言い方だとお前自身にはオレとヤった覚えがねえんだろ?」
「覚えはないが、そういう事実があった、という記憶が生じている。何かの間違いだと思いたいんだが、凛から指摘された以上、事実確認はしなければと思ってだな……。」

 ふいにランサーの脳裏で何かが瞬いた。目眩かと思ったが、違う。一瞬のうちに目の前の景色が渦を巻きはじめ、目の前に居るはずの弓兵の姿が融けていく錯覚を覚える。
 平衡感覚は砕け、意識がグチャグチャにかき混ぜられる。慌てたように伸ばされる奴の掌。
「なん、」
 だ、と言い切るよりも先に景色が反転した。

 ◆ ◇ ◆
 
 ……きっかけはやむを得ない事情からだった、とありえない『記憶』は語る。

 春先の話だ。聖杯戦争が終結し、残されたサーヴァントは皆マスターのもとに留め置かれることに決まった。マスターの一人にしてアインツベルンの聖杯・イリヤスフィールによって、聖杯自体に問題があると明かされたためだ。
「……受肉しているギルガメッシュは最悪、現界の楔になる形だけのマスターがいればなんとでもなるんでしょうけど、ランサーはどうあっても魔力が必要になる。わたしの宝石を出し続けるにも限界があるし、早々に対応を決めないと。」
 衛宮邸に集まった面々のうちで最初に懸念を口にしたのは遠坂凛だった。アーチャーのマスターにして、この土地のセカンドオーナーを務める才媛である。
 そこに口を差し挟んだのはイリヤスフィールだ。
「ランサーひとりならわたしが面倒みてあげてもいいけど、間違ってバーサーカーが殺しちゃうかもね。リン、一体くらいなら還しちゃっても問題ないでしょう?」
「馬鹿なこと言わないで。駄目に決まっているでしょう。万が一それで問題が出たらどうするの。アンタもそうだし、こっちには桜だっているのよ。」
「姉さん……!」
「待てよ嬢ちゃん。オレの命は!?」
「ねえランサー、貴方の戦闘続行スキルでもうちょいなんとかなったりはしない? こんなこと言いたくないけど、ウチも結構カツカツなのよ。」
「無茶言うな、気合いでなんとかなるもんならとっくにしてるわ! こうなりゃ坊主、お前だけが頼りだ!」
「ええ? いや……俺みたいなへっぽこじゃあ、追加でアンタの面倒を見るのは無理だよ。うちに住まわせるくらいなら構わないけど。」
「まってくださいシロウ、いけません。貴方はいつもそうやって自ら危険を呼び込む。……ランサー、シロウの善意につけ込むのは許さない。シロウの作る料理はすべて私のものですから!」
「えええ、そっちか!?」

その後もあれやこれやと意見は出されたが、根本的な解決に至る結論は出なかった。

 ◆ ◇ ◆
 
「それで? まさかとは思うが……凛。君はそこいらで犬を拾うのと同じ感覚でランサーを引き取ってきたというんじゃないだろうな。」
「煩いわね、しょうがないでしょ! 放っておいたらサーヴァントは勝手に聖杯に還ってしまうんだから! だいたい文句があるのならその場でいいなさいよね。どうせアンタのことだから衛宮君ちの屋根の上にでもいたんでしょうに。」
「ぐっ……文句ではない。正当な指摘だ。契約を交わすわけでもない余所のサーヴァントを工房の中に入れるなど狂気の沙汰だ。何故分からない。」
「そのくらい分かっているわよ。」
「いいや凛、君は甘い。……聖杯戦争は終わったんだ。それなのにサーヴァントを維持しようとすること自体が馬鹿げている。コストに見合わないことは君自身よく分かっているはずだ。
 イリヤスフィールも言っていただろう、一体くらいは問題ないのでは、と。決断すべきだ、君にサーヴァント二騎は重すぎる。私を切ってランサーと再契約をするのでも構わないんだ。主の負担が更に増えると分かっていて見過ごせない。」
「アンタまさかこの間の話をまた蒸し返そうとしているの? 消えるですって? ふざけないで。わたしはやれるといったことはやるわ。アンタのことも、ランサーのことも。それともアンタのマスターにはその力がないとでも言うわけ?」
 互いに一歩も引かずに睨み合う主従を前に、ランサーはボリボリと後ろ髪を掻いた。
 話に置いていかれている感が拭えないが、はっきりしているのは主従が互いを思いやった結果、ランサーの処遇について揉めているという一点だ。そうならそうと口にすればいいものを言えない辺りがよく似ている。
 このままでは話は平行線だ。仕方なしにランサーは話に割って入ることにした。
「あー、仲良く喧嘩しているところ悪いんだが。」
「「は!?」」
「……あのな。とりあえず落ち着け。言い分は分かった。つまりオレが消えず、嬢ちゃんの負担にもならないんだったらお前さんたちは納得するってことなんだろ?」
「ええっと……そういうことになるのかしら?」
 弓兵が怪訝そうにこちらを見ている。うーん、とその様子を上から下まで眺め、ランサーは顎をしゃくった。
「よし、弓兵。ちょっとツラを貸せ。嬢ちゃんはちっとだけ外してくれるか。……ああ、心配すんな。別に何かしようってんじゃない。こいつに協力してもらえるかどうかの交渉をするだけだ。ゲッシュで誓ってもいいが?」
 何が何だか分からない、という顔をしている凛に、弓兵が小さく頷く。任せろ、ということだろう。
「……ランサー。貴方が筋を通す人だってことはわたしなりに分かっているつもり。その上で言っておくけど、わたしのアーチャーに許可無く余計なことをしたら容赦無く叩き潰すから、そのつもりで。」
 静かに言い置いて、凛が隣の部屋へと去っていく。
「いい女だな。仕える主が選べるのなら、ああいうのがいい。羨ましいこって。」
 主に守られた格好の弓兵は少々複雑なようで、眉間の皺をぐいぐいと揉んでいる。照れ隠しなのかもしれないが弓兵のポーカーフェイスを見慣れない槍兵には判断がつかなかった。
「それよりなんだ。方法がある、ということなんだろう? 凛には聞かせたくないようだが。」
「まああとで説明はしないとならんだろうが、先に本人の意向を確認せんことにはな。……お前さん、オレに抱かれる気はあるか。」
「貴様、ふざけるのも大概に……。」
「待てって。聞けよ。オレらは霊体だ。で、お前さんには嬢ちゃんの魔力が流れている。そこにオレの方から一時的にパスを繋いで魔力を――。」
 説明を聞いているぽかん、と目も口も開いた弓兵の顔が、妙に幼く見えた。まあこれなら食指が動かないとしても行けそうな気がするな、などと思ったか思わなかったか。

 その夜、主の了解を得た二人は、遠坂家の一室で夜を迎えた。触れてみれば想定外のよさだった。神経の一つ一つが震えてたちまち目が眩むほど。霊体同士の接触はそれ自体が腹を満たすのに等しい根源的な快感を伴うのだと知った。
「ランサー……。」
 呼ばわる声に誘われて、視線がぶつかる。アーチャーの鋼色のうちで己の赤が揺れているのが見えた。
 
 ◆ ◇ ◆
 
「ンサー……ランサー、しっかりしろ!」
 うろたえる弓兵の声が聞こえる。うるせえ、きこえている、と返そうとして目を開いた。
「ランサー!」
 鋼の色が緩むのを間近で見た。
 どこかで見たものとよく似た光景が何かのスイッチを押したように思えた。かちりとピースが噛み合う。幾つもの景色が、記憶が、脳裏でひしめく。先程までは無かったはずのものが。てんでバラバラだった可能性が今、ひとつの『記憶』を捏造する。

 ――いまは十月。無限にひとしい可能性を紐解き繰り返された四日間は終わった。
 聖杯を動かしていたアンリマユが消え、彼を導いていたシスター・カレンも消えた。未練にしがみついていたバゼットは正しく目覚め、夢は終わった。
 だが聖杯の内側にはサーヴァントが溜め込まれたままだ。魔力が使い切られるまで夢の名残は続く。
 四日間の制限のなかで箱庭を繰り返していたアンリマユがいなくなったことで、箱庭の中には正方向の時間軸が生まれた。存在しないはずの春も・・・・・・・・・・夏も・・、すべてはあったことにされた。
 聖杯戦争はセイバー陣営の勝利で終わり、ランサーは言峰を失い、魔力不足を解消するためにアーチャーを抱いた……という『どこかの可能性』における選択肢の結果とともに。

「そういうことか!」
 今更気がついたところで後戻りはできない。己の記憶はもう上書きされてしまっている。思わず頭を抱えたランサーである。
「な、なにがだ!?」
「あああ~……おまえ、なんつうことを……。」
「私が何をしたと?」
「説明してやるよ。耳かっぽじってよく聞け。
 四日間のあいだにもあっただろう。自分がやった覚えがねえのに、なんでかそういうことになっちまっていることってよ。約束した覚えも、行った覚えもないデートになぜか行ったことになっているとか。……嬢ちゃんに問われた結果、お前さんのなかに知りもしない記憶が埋め込まれたとか。」
「ま、まさか。」
「今オレに起きたのも同じことだ。事実確認を行えば行っただけ、聖杯の方が事実を後付けで証明しちまうって寸法のようだな。まあ完全に捏造とも言いきれんか。可能性がゼロであればお互いこんな記憶を突っ込まれることはなかったんだろうし。
 ……つうわけで今のオレの中にはあるぜ、しっかりばっちりテメエを抱いた覚えとやらがな。」
 やけっぱちついでに「見た」記憶の一部始終を語って聞かせれば、弓兵はたまらずといった様子で頭を抱えた。どうやらそこまで鮮明な記憶を埋め込まれていたわけでは無かったらしい。先のランサー同様、後付けの記憶をぶち込まれて悶絶している。
「そんな馬鹿な……。でも……ああ、確かに……オレのことだ、彼女に面倒を掛けるくらいならばいっそ……と、そういう選択をする可能性もあった……のか?」
 ことこの状況に至っても信じがたい、という顔で弓兵がこちらを見る。無防備もいいところだ。ふと悪戯心が芽生えた。
「まあ、オレのほうにもそういう記憶が生まれるってことは、どこかの可能性にはあったんだろうさ。そうだろ?」
「……ッ、貴様!」
 呆けたままだった弓兵をシュラフの上に転がすのは容易いことだった。慌てた様子でこちらを見上げた弓兵を抱き込みつつ、ランサーは記憶をたぐる。
 この男との最初の出会いは、夜の学校だった。青い夜空には月が輝いていた。こちらを見上げた鋼の色に月光が映えて、まるで刃のようだと思った。
 互いの目に、互いだけを映し、死力を尽くして戦いたい。魔術師の駒として現れたサーヴァントであるにもかかわらず、そんなことを考えた。
 心躍るような強者との戦い。それこそが聖杯のよるべに従い召喚に応じた、ランサー・クー・フーリンの望み。最初からアーチャーはランサーの願いに敵っていた。
「ひとつ提案だ。どっかの可能性のオレがお前を抱いたっつうんならオレが抱いてもいいだろう?」
「ふざけるな、問題大ありだ!」
「まあそう言わずに一回試してみようぜ。どうせ嬢ちゃんにはデキていると思われているんだろう。それにな? お前はどうだかしらんが、少なくともオレは『惚れる』と思う相手でなけりゃ手は出さねえ主義なんだ。今更抱かない選択肢があるか。」
「まて、落ちつくんだランサー。朝からこんな――いや、そうじゃない! やけになって私を抱くなどと馬鹿なことをするのは……むぐっ。」
 抵抗の糸口がありすぎるのだろう。いまだ混乱の渦中にある弓兵には構わず、ランサーは纏ったアロハシャツのボタンを外す。

 さて先程の発言の真意に弓兵が気づくのはいつになることか。まあオレとてこの状況にならなけりゃ気付きもしないんだからおあいこだな――などと考えつつ、ランサーは弓兵の喉笛に噛みついた。

 あたらしい扉を開くために。

 〈千の扉を開いて 了〉

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