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許しと愛慕/Novel by 朱星

許しと愛慕

5,938 character(s)11 mins

前回の続きです。コンセプトは無自覚爆弾魔アーチャーみたいな?(笑)評価、ブクマ、ありがとうございます。嬉しいです。励みになります。

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 久し振りにキッチンに立つ己のサーヴァントの姿を見た。

 その光景に遠坂凛は一瞬で目が覚めた。珍しかったから、帰ってくるとは思わなかったから、というのも理由の一つではあるのだが、それ以上に彼の姿が衝撃的すぎて。いくら自身のことに無頓着とはいえ、をアレ使うのはどうかと思う。


「起きたのか、凛」


 黒いラフな格好とは対照的に、ひらりと揺れる白い、フリルのついたエプロン。フリルの、エプロン。褐色のガチムチ成人男性が。まさかのチョイス。
 普通の感覚なら吐き気を催す姿だろうに、アーチャーには妙に似合っている気がして、とうとう己の審美眼が狂ってしまったのだろうかと額を押さえていたら「凛、」と咎めるように名を呼ばれた。


「早めに食べてくれ。冷めてしまう」


 テーブルに並ぶ朝食は色鮮やかな洋食だった。しかも軽くつまめるものを数種類。


「え、えぇ、そうね、折角アーチャーが作ってくれたんだものね」


 この男の家事スキルはどこまで高いんだと呆れつつ、いただきます、と手を合わせてから箸をつける。口に入れた瞬間、じんわりと広がる食材の味に頬が緩んだ。美味しい。衛宮邸で食べる料理とはまた違う洗練された味である。


「どうやら口に合ったようだな」


 どこまでも穏やかな、ほっとしたような柔らかなその声に、おや、と凛は首を傾げた。


「ねぇ、何かいいことでもあった?」


 いつもならば皮肉めいた笑みとともに「無駄な食材が誕生してしまわなくてよかった」などと余計な一言が飛んできてもおかしくないのに。凛の問いかけにアーチャーはきょとんと目を丸くさせ、思わずといった様子で口許を押さえた。


「…緩んでいたか?」
「いや? いつもと同じようにむっつりした顔だったわ。ただ、声がマシュマロみたいに柔らかかったからなんとなくね」
「君はよくそんなことに気が付くな」


 心底驚いたとでも言いたげな顔にイラッとした。己のサーヴァントのことだ、分からない訳がないだろうに。そもそも、この男のことでどんなに手を焼いていることか。
 幸福と安らぎを与えたくても受け取ってもらえず、せいぜい止まり木を提供するくらいしか出来ないこの歯痒さ。はらわたが煮えくり返るほどの自己評価の低さと自己嫌悪に塗れた考え方。背を預けてほしいのに重荷になるから、と断る見当違いの気遣いなどなど、例を挙げ始めたらキリがない。


「ふん、当然でしょ。“私のアーチャー”のことなんだから」


 この馬鹿サーヴァント。

 そういう意味も含めて睨み付けると、アーチャーはぽかんと面食らったような顔を浮かべ、そしてふ、と笑った。


「全く、君には死んでも敵わない」


 いつもならやれやれ、と言わんばかりに肩を竦めるだろうに、困ったように薄らと笑みを浮かべる彼は、多少変わったと思う。なんだか悔しい。己の手で彼を救う、などと烏滸がましい考えを持っていた訳ではないけれど、それでも、自分が何かをしたかった。

 (獲物を横取りされた気分だわ。)

 腹立たしくもあり、嬉しくもあり、複雑な気分を抱えたまま紅茶を飲む。彼はといえばキッチンに戻り、重箱に料理を詰めていた。どこかに出かけるのだろう。珍しいこともあるものだ。


「いってらっしゃい、アーチャー」
「…いってきます、凛。必ず、帰ってくる」


 衛宮邸にいることが多く、習慣になりつつある言葉を投げかけると意外にも返事が返ってきた。包み終わったらしい重箱を手に、玄関から出ていくアーチャーを、手を振って見送った――瞬間、凛は机に突っ伏す。


「なに、今の」


 破壊力抜群。殺傷能力全開。言葉の核爆弾を落とされた。

 いってきます、と。戻る、ではなく、帰る、と。

 なんだそれ、なんだそれなんだそれ!!
 不意打ちだ、反則だ、そんなのずるい。


「~~全くっ、本当にッ、もう!!」


 どうしようもなく悔しい。してやられた。ギリギリと歯を噛んで怒りを抑えることしか出来ない。


 ――体は剣で出来ている。


 そんな詠唱を使う男に、何処の誰かは知らないが、随分と穏やかな熱を打ち込んでくれたものだ。

 ***

 声は震えていなかっただろうか。
 彼女の耳には届いただろうか。

 どくどくと早まる鼓動を押さえつけるように服をぎゅっと握る。もしも、もしもあの男が言うように、彼女に迷惑ではなく、苦労だけをかけているというのならと思って使ってみたのだが、いかんせん、久し振り過ぎて緊張した。

 落ち着くために吐息を零し、ゆっくりと街中を歩く。あの男は至る所でバイトをしているが、特定の場所にいないために捕まえにくい。いっそ住処を探し出そうかと思案していたその時、ずしっと肩に腕が回された。こんな触れ方をするのは一人だけだ。


「よぉアーチャー、奇遇だな」
「相変わらず馴れ馴れしいな、ランサー。とりあえず離れろ」
「へいへい。分かりましたーっと」


 素直に離れたランサーは頭の後ろで腕を組み、アーチャーの隣に移動した。その際、重箱に気付いたのか首を傾げる。


「坊主んとこに持ってくのか?」
「なぜ私がアレに差し入れを作らねばならん」
「いや、セイバーになら作っててもおかしくねぇだろ?」
「彼女と昼に会うつもりはない。というか、これは君に渡そうと思ってだな」
「…は? オレに?」


 ぽかんと面食らった顔をしたランサーへ、照れくさいのか明後日の方向へ視線を彷徨わせながら重箱を突き出す。


「前回、世話になったのでね。君の好きな物が分からなかったから、万人受けのいいものしか入れていないのだが、その…迷惑でないなら、受け取ってもらえないだろうか」


 やっぱコイツの馬鹿さ加減はそう簡単に直らないか、とランサーは頭をがしがしと掻く。
 世話を焼いたつもりなど毛頭ない。この男の考えが気に入らなかったからキレただけだ。自身のあり方を肯定出来ない、捻子くれている弓兵が見てられなかっただけだ。
 何より、好意で作ってきてくれたものを迷惑などと思う奴がいるはずがないだろうに。槍兵は重箱をそっと受け取った。


「迷惑なモンかよ。もらう」
「…そうか。よかった」


 その言葉にふ、とアーチャーの表情が緩む。随分と無防備になったものだ。いや、元はこちらか。何にせよ、あまり他に見せたくない顔だなと思いつつ、弓兵の腕を掴んで歩き出す。


「おい、ランサー?」
「ここじゃ食えねぇだろ。どこがいい? 港か、公園か、前回の森か、それとも見張り台のあのビルか」
「い、いや、そうではなく、その、なんで、私まで?」
「はぁ? 当たり前だろ?」


 料理は皆で食べるものだ。それが作った奴なら尚更だ。そんなことも分からないのだろうか、いや、知らないのだろうか。いいから行くぞ、と腕を引くと存外素直に付いてきた。その顔には困惑がありありと浮かんでいたが。


「…ビルがいい」
「ん。了解」


 ぼそりと言われた希望に頷き、そこまで移動する。屋上は風も弱く、誰もいない。万が一にも誰も来ないように人避けのルーンを刻み、日当たりのいい場所で包みを広げた。
 色鮮やかな料理の数々が所狭しと敷き詰められている。以前セイバーが言っていた和食、という物だと思う。多分。しかし、故郷の物とは大違いだ。あれらもあれらでいいところがあるのだが、見目は弓兵の物の方が断然いい。一口食べれば食材の味が一瞬で広がった。


「んー! うめぇ!」
「それはなにより。ほら、味噌汁もあるぞ」
「みそしる?」
「日本式のスープだ」
「へー。お前にこんな特技があったとはな。また持って来いよ」
「気に入ったのか?」


 食べながら頷く。すると弓兵はふむ、と顎に手を当てて考え込み、時折ちらっとこちらの顔を見ては口を開こうとして、耐えるように閉じる、ということを繰り返していた。箸を進めながら不審な弓兵の様子を伺っていると「ならば、条件がある」と言った。


「いいぜ。なんだ?」


 珍しい弓兵の望みだ。出来る範囲で叶えてやろうと色よい返事をしたら。


「…き、君と、やりたい」


 ごふっと噴いた。


「その、だな、前回君とやったのが楽しくて、忘れられなくてだな、えっと、なんというか、どうも気持ちが昂っているというか、興奮が冷めないというか、体が疼いてしまって、だな! だからっ、責任を取れ!!」
「げほっ、げほっ、お前さあ…っ」


 頭を抱えたくなる。

 なんだその恥じらう生娘のような反応は。なんだその首まで真っ赤にしながらのお誘いは。そのくせ誤解されてもおかしくないような言葉をチョイスしやがって。あぁちくしょう可愛いなぁコイツ。分かってないところがまた可愛いなぁコイツ。


「嫌ならいいのだが…その、だめ、かね?」
「んな訳ねぇだろおー…」


 強気な態度で持ちかけたくせに、不安げにこちらを伺う弓兵の頭を両手でわしゃわしゃと撫でながらがっくりと肩を落とす。あぁ、これが惚れた弱みというやつか、と大きな溜め息を吐いた。

 ***

 おや、と槍兵はあることに気が付いた。
 前回は日付変更までに叩きのめすことが出来なかった。その続きだと人避けのルーンを四方に刻んだ夜の森の中で、同じように弓兵と戦っているのだがしかし、攻めの姿勢が明らかに窺える。守るばかりだった彼がやる気を出しているのは喜ばしい。


「おっと!」


 降り注ぐ矢の雨の隙間を縫うようにして垂直に飛ぶと、大木の上で双剣を投影したばかりであろう彼と目が合った。無意識に吊り上がった口角と荒い呼吸。どうやら、かなり高揚しているらしい。


「今日は随分と積極的じゃねぇか」
「何、楽しんでいるだけだ」


 弓兵が飛びかかる。槍兵は胸の前で魔槍を水平に持ち、空中で双剣を受け止めるも振り抜かれ、地面に叩き付けられる。幸いにも着地に問題はなかったため、背中から地面に落ちるなどという無様な姿が晒さずに済んだが、即座に攻撃には出られない。そこに弓兵が畳み掛けてくる。頭上から双剣が投擲される。首を傾げて避けるも頬に赤い一閃が刻まれた。


「んっの野郎、」


 弓兵が地に降り立った。ニィッと槍兵の犬歯が覗く。

 これだ、こういう戦いがしたかった。待ち望んでいた。防御一辺倒の弓兵ではなく、己を殺す気のある弓兵とやり合うことを。互いに枷を外した状態で刃を交えることを。


「は、盛るなランサー。獣め」
「おーおー、言ってくれるなアーチャーよ。誘ったのはテメェからだろうが」
「ノったのは君だろう?」
「可愛げのねぇ野郎だ」
「なくて結構。…戦士にそんなもの不要だ」


 その言葉にカッと目を見開く。

 戦士と。この男が、己自身のことを、戦士と、形容したのか。自身の技量を罪の証だと言っていた彼が、今。槍兵の頬が緩む。そして問いかける。


「――誇れるか?」


 その技量を。貫いた精神を。
 弓兵は首を横に振った。


「誇ることなど出来ない。けれど、ほんの少しばかり――受け入れることは出来た」


 どこまでも穏やかに、心底嬉しそうに。


「ありがとう、クー・フーリン。やっぱり君はすごい英雄だ」


 そう言って小さな子供のように笑う彼が眩しくて――槍兵は思わず弓兵を抱き締めた。


「ランサー?」
「あー、もう、本ッ当にテメェはよお」
「おい、いきなりなんだ」
「なんでこうも、でろっでろに甘やかしたくなんのかねぇ」


 抵抗もなく、ただただ戸惑うばかりの弓兵の背をぽんぽんと撫でながら槍兵は困ったとでも言わんばかりに笑う。
 いや、これは参った。欲しいものは何が何でも奪うのが信条であったが、どうやら今回ばかりはそれがない。確かに己はコレが欲しい。しかし、与えたいと思ってしまった。頑なだった精神が緩み、幼い感情を現すようになった弓兵に幸福と、喜びと、安らぎを。


「なぁ、アーチャー」
「さっきからなんなんだ君は。突拍子もないことばかり、」



「お前が好きだ」



 あまりの衝撃に弓兵がビシッと固まった。槍兵はそうなるのは当然と分かっていたからこそ、腕に力を込めて逃がさないように捕まえておく。


「俺はお前が愛しいと思う。共に在りたいと願う。だからよ、同じモンを返せとは言わねぇよ。ただ、そこにいて笑ってりゃあいい」


 みるみるうちに耳まで真っ赤になっていく弓兵の様子からして嫌悪感は浮かんでいない。これは脈アリと受け取っていいのだろうか。


「まて、きみは、なにを、」
「俺がお前を愛したいってこと。分かんねぇか?」
「あいっ!? と、とにかく離せ!!」
「やだ。ぜってーお前逃げるもん」


 混乱した彼の頭からは筋力差のことなどすっぽり抜け落ちているらしく、どうにか腕を外そうと躍起になっていた。そんな姿も可愛いとしか見えなくなり、軽いリップ音を立てて口付けた。


「っ!!? らっ!! なっ!!!」


 明らかにキャパオーバーの弓兵にこうしたらどうなるのだろうと、悪戯心でやったのだが想像以上の反応が返ってきて、思わず「ぶはっ」と噴き出した。振りかぶった腕が見え、殴られる前に五メートルほど離れる。


「まぁ返事はいつでもいいからよ、期待して待ってんぜ」


 ひらひらと手を振り、その場から槍兵が消える。残った弓兵はといえば、わなわなと体を震わせ、そして。









「こっっっの馬鹿ランサーーーーーーー!!!!!!!」




 照れ隠しの怒号が森中に響き渡った。


Comments

  • p13
    January 15, 2023
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