東京中に謎のシールが貼られている
※公共物にシールを貼りつける行為は犯罪行為に当たります。また、本記事はそのような行為を推奨するものではありません。
東京都 築地駅のホームの自動販売機に「ありがとうございます」と書かれたシールが貼られているのを見つけた。
築地という地名は有名だが、築地駅は東京メトロ日比谷線が通るだけの小さな駅だ。シールを見かけたとき、思わずどういたしましてと思ってしまった。特に買ってはいないのだが。
数日後、渋谷駅でもまったく同じシールを見つけた。京王井の頭線の近くだった。
もし、渋谷駅のシールが東京メトロ銀座線の近くにあれば、東京メトロが独自に貼っているシールなのか、と思っていただろう。しかし、京王線の近くにあるためそうとは考えづらい。
それに自販機の会社も異なっている。となると、自販機の会社がシールを貼っているとも考えにくい。じゃあ誰が貼ってるんだ。
念のため自販機の会社に電話し、駅員さんにも訊いてみたが、どちらでも「うちではない」「おそらくイタズラだろう」と言われただけだった。うーん、ただのイタズラなのか……
いや、そうは思えなかった。
池袋にも
新宿にも
上野にも
行く駅すべてに同じシールが貼られているのだ。
東京中の自販機に「ありがとうございます」のシールを貼っている誰かがいる?
仮にイタズラだとしても「ありがとうございます」のシールを貼るか?誰が?何のために?このシールはどんだけあるんだ??
なんとなく、見れば見るほど不気味に思える。こんなフォント使うか?公共物に使うフォントとしては違和感がある。
1.調査準備
ちょっも気になったので、東京メトロ日比谷線と、東京を代表する路線の山手線の駅に貼られているシールを調べてみることにした。
山手線を制覇すれば、大体の有名な駅は抑えられるから調べておきたい。
基本は調べている会社と同じ路線(山手線沿いを調べているときはJRの路線)を調べるという方針で調査をする。もちろん、気になったら他の路線も見てみようと思う。
というわけでさっそく山手線から調べてみることにした。
2.調査
初めは渋谷からスタートして外回りに進み、池袋まで調べる。
渋谷には冒頭で紹介した通り、京王線の入り口近くにシールが1枚ある。
一方でJRのホームにはシールが1枚もなかった。少し幸先が悪い。新宿や池袋で1枚ずつは見つけているので、渋谷にもあるだろうと思っていた。
いきなり別の路線を調べることになってしまうが、見つからないので仕方がない。京王井の頭線のホームを調べてみる。
あった……!!
結局、井の頭線のホームにはこの1枚しかなかった。山手線で見つからなかったのは不安だが、とりあえず2枚見つかったので安心した。
原宿と代々木駅。原宿では山手線のホームにシールが2枚貼られている。一方で、代々木ではどこを探しても1枚も貼られていなかった。すべての駅に貼られているわけではなさそうだ。
貼る駅は意図的に選ばれているのだろうか。
新宿駅にはおもちゃの自販機にもシールがある。
この自販機にも貼ってあるということは、自販機で売られている物は関係ないのかもしれない。
そして8つあるJRのホームのうち、シールがあるのは山手線のホームだけだった。
シール貼りの人はおそらく山手線で新宿駅に来たのだろう。でも貼るなら徹底的に全部のホームに貼るような気がする。そんなに熱心に貼っているわけじゃないのか、それともほかの路線のホームのシールがはがされて山手線だけ残ったのか。
渋谷でもそうだったように、シールが貼られている場所には偏りがある。駅の中に、明らかに多い場所とまったくない場所がある。
続く新大久保、高田馬場、目白では思うようにシールが見つからず、少し焦ってしまった。シール貼りの人は目白とかに興味はないのだろうか。目白庭園とかありますけどねえ……
池袋駅。JRに34枚のシールが貼られている。多すぎる。かつてシールを34枚持って池袋をウロウロする人がいたのか?
ここまでシールが多いと駅の外も気になる。探索してみることにした。
1時間ほど調べたところ、駅の外では自販機を80台見てもシールは1枚しかなかった。こうなるとなぜ1枚だけ貼られているのか気になってくる。外に出るならもっとたくさん貼りそうなのに。
ここで初日は終了。16時ごろに渋谷からスタートして池袋を出たときには22時を過ぎていた。ひとまず手に入れた情報を整理してみる。
3.分析
やはり池袋や新宿といった巨大な駅が目立つ。
はじめ、大きな駅は自販機が多いから単純にシールの枚数が多いのだろうと思っていた。実際に見てみると、割合も高かったのだ。私生活の中でシールを貼っているという感じがする。
それと、1回目の調査を終えてから縦のシールと横のシールがあることに気がついた。
現状この2種類に大きな違いは感じられないが、なんとなく、縦のシールと横のシールがそれぞれ固まって貼られている気がする。何を基準に縦と横を使い分けているのかも謎だ。
続いて何らかの情報を得るために様々なサイトやSNSを調べてみた。しかし、同じ調査をしている人はおろか、シールに言及している人も確認できなかった。ほとんど気づかれていないらしい。
実際、僕も探し始めてから急にシールに気づくことができるようになった。人生の追加コンテンツを買ったような気分。意識しないと見つけられないほど自販機に溶け込んでいるのだ。
ところで、いつシールが貼られたのかが気になる。シールが貼られた時期を特定できれば手掛かりになるかもしれない。
シールのある自販機の設置時期を知ることができれば、少なくともその設置時期より後に貼られていることがわかる。
もしくはネット上の画像にシールが映り込んでいれば、投稿時期にはすでにシールが貼られ始めていたことがわかる。
この2つを使って時期を絞り込んでいきたい。
まずは前者の方法で考えてみる。
とはいえ、自販機の会社に再び連絡してみても、それぞれの自販機がいつ設置されたかは教えることができないと言われてしまった。まあ、当然も当然の結果だ。何か他の方法で、設置時期を推定する必要がある。
自販機によっては設置時期が書かれているものもあるが、シールが貼られている自販機に書かれていないと意味がない。なにか、いい方法がありそうなのだが……
あっ、
デザイン自販機。
ラッピングされた自販機はイベントやコラボの時に登場する。その際、公式からその導入時期が明言されていることが多い。つまり、デザイン自販機にシールが貼られていれば時期を特定できる。
そして、ある。シールの貼られたデザイン自販機が!
池袋で見かけた大谷翔平の自販機。着ているユニフォームはドジャース。嫌な予感。
2025年。
この商品が発売され、ラッピング自販機が設置されたのは2025年4月以降。で、そのあとにシールが貼られた。
1年以内にシールが貼られている。
もしかしたら今この瞬間もシールが増えているのかもしれない。
電車の中に、ホーム上に、駅の周りに、すぐそばに、シールを貼っている本人がいるのかもしれない。
このシールのことはなんとなく過去のものだと思っていた。かなり最近の現象だ。もし、シールを貼ってる人と鉢合わせてしまったら?その時は左腕に1枚くらい貼ってもらおうと思う。
一方、ネット上のあるブログを見つけた。
一見ただの個人ブログだが、2018年に投稿された新宿の記事画像の右下に……
赤丸は筆者によるもの
あのシールが映っている。
さっきの大谷翔平と合わせると、少なくとも2018年から2025年までの7年にわたってシールが貼られていることになる。
個人が?7年も???
しかも「ありがとうございます」としか書かれていないシールを?これほんとにただのイタズラか??
そして、もう一度さっきの画像を見てほしい。
なんか大きい。
現代のシールと比較すると一目瞭然だ。昔のシールはひと回り大きい。縦と横のシールといい、何種類かあるのだろうか。
8年間も貼られている謎のシール。個人のイタズラとは思えない。少し怖くなってきた。
4.調査②
次は複数日に分けて大塚から上野、そして恵比寿から御徒町までを調査してみる。これで山手線は制覇できる。
大塚からの経路では駒込、西日暮里にシールがある。この辺はあまり特徴のない駅が多い。
特に収穫のないまま降りた日暮里駅。
1台の自販機に2枚のシールが貼られている。
1台に1枚。それすらも思い込みだった。
パッと3つの仮説が思いつく。
わからない。
現状、日暮里以外の例がないので推理のしようがない。
もし別の人が貼ったのだとしたら、集団でシールをばら撒いている可能性も考えられる。ますます意図がわからない。こんなシールをわざわざ集団で……?
さらにその後の上野駅。ホームを歩いていた足が急に止まった。なにか見えた……
消火栓にシールが貼られている。
自販機に「ありがとうございます」ならギリわかるが、消火栓に貼られているのは本当に意味がわからない。
このシールは明らかに異常だ。
興奮気味に階段を駆け上がり、地下鉄のホームから出る。構内の自販機を探そうとした瞬間、
証明写真機にもシールが貼られている。これ実は今までの駅にも貼られてたんじゃないか?
いや、自販機は台数が多いから目立っていただけで、もしかしてあらゆる場所にシールが貼られているのか?
肝心の自販機は、JRでは新宿と同じく山手線のみにシールが貼られていた。それに対して、地下鉄ではあらゆる場所に貼られていた。消火栓と写真機のシールも地下鉄の近くにあったものだ。
80台ほど記録した時、ふと、ロッカーにも貼られているのではと思い始めた。シールを貼れそうな場所はそう多くない。消火栓にシールを貼るやつは、きっとロッカーにも貼るだろう。
ロッカーを確認する。
シールはない。見当違いだったか。しかし、念のため駅の逆側も確認する。上野駅にはロッカーが多い。
ビンゴ。わかってきた。
相変わらず得体は知れない。それでもシールには慣れてきた。自販機のシールもかなり遠目からでも判別できるようになり、歩いているだけで気づけるようになった。むしろ、見逃すことができない。
例えば、
これとか。上野はもう何でもアリだ。
こうなるとシールを貼ること自体が目的なのでは?と思える。どこに貼るか、誰に見せるかではなく、「貼ること」自体が目的なように感じる。
まるでノルマがあって、それを消化するために貼っているかのような……
品川は池袋や上野と同じく巨大な駅だが、自販機を100台見た時点で1枚も貼られていなかった。新宿や池袋のことを考えると、何枚もシールがありそうだったので拍子抜けだ。
唯一のシールは新幹線乗り場にあった。もしかして、他県から新幹線で来て貼ってるのか……?東京だけの話じゃないのか?
新橋駅では駅の中にはシールが1枚もなく、外に何枚もシールが貼られている。一方で、ひとつ隣の浜松町駅では、駅の中のほとんどの自販機にシールが貼られている。
ひとつ隣の駅なのにこうも貼り方が違うのは、やっぱり複数人で貼っているからなんじゃないかという気がする。それとも気分で変えてるだけ?納得いかない貼られ方が多い。
東京駅。ホームの数が日本で最も多いこの駅にも2枚貼りの自販機がある。しかも、2枚とも完全な状態で。
となると、日暮里での仮説のうち、①片方のシールが小さくなってしまったからもう1枚貼った というのは間違っていたことになる。
複数人の可能性が現実味を帯びてきた。
しかしやっぱりおかしい。残った仮説のどちらかが正しいとすると、2枚貼りの自販機が何台も生まれていいはずだ。なのに日暮里と東京にしかないのは偶然なのだろうか。
と思っていたら、秋葉原にも2枚貼りの自販機があった。
これで2枚貼りの自販機は3台目。
よく見てみると、どの自販機も縦のシールと横のシールが1枚ずつ貼られている。縦が2枚や横が2枚といったケースは見つからない。
つまり縦のシールと横のシールは別々に貼る人がいて、どちらか一方の人が、もう片方の人が既に貼っていることに気づかないまま2枚目を貼ってしまったという可能性も考えられる。
いやそれどんな状況なんだ……?何らかのグループが、大勢の人に、一斉にシールを貼るよう指示していないとあり得ない。
それ以外にも秋葉原はシールが多い駅で、67台の自販機に対して45枚ものシールが貼られていた。さらに駅の外にも26台の自販機に対して19枚のシールが貼られている。
駅の中と外、両方でシールが貼られている割合が高い駅は山手線沿いでは他にない。
こうして山手線沿いの全30駅を調査し終えた。自販機は合計で974台。貼られていたシールは合計で193枚だった。(駅周辺の調査を除く) およそ5台に1枚貼られている割合だ。思っていたよりも多い。
続いて日比谷線の全22駅も調査した。いくつかの駅を抜粋すると以下のようになる。
日比谷線での自販機は全部で294台。シールは117枚だった。3台に1枚以上の割合でシールが貼られている。
日比谷線で気になったのは北千住駅。JRとメトロの乗り換えもある、そこそこ大きい駅だ。この駅はとにかくシールが多い。
さらに駅の外にも幅広くシールが貼られている。その範囲は驚異的で、普通は駅から10m程度の範囲にシールがあるのが基本だが、北千住は駅から300mの場所にもシールがあった。すべてを調べたわけではないので、もしかしたらもっと遠くにもあるかもしれない。
左半分が剥ぎ取られている
これらに加えて、調査期間中、私用で東京の駅に行くときには同じように駅の自販機を片っ端から見るようにした。その結果、飯田橋や後楽園などの南北線の駅でもシールが何枚も見つかった。
ほかの路線や駅周辺の調査も合わせると、最終的に自販機は1549台を調査し、シールは384枚見つけることができた(内、ロッカーなどのシールは27枚)。
自販機の台数が分母なのに、ロッカーや消火栓も含むシールの枚数が分子なのは変な気もするが、駅にあるすべてのオブジェクトを調べるわけにもいかないので許してほしい。
また、すべての駅のシール情報については、記事の最後にデータとして配布するので、細かい比率や情報はそちらを参照してほしい。記事では飛ばした特徴のない駅についてもすべて掲載している。
5.分析②
ここまででわかったことを簡単にまとめる。
見れば見るほど1人の仕業とは思えない。なんなら数人とも思えない。もっと大きな何かが動いているのでは、とつい勘ぐってしまう。
そしてデータが集まったので、マップ上でシールが貼られていた駅にピンを差してみた。
大体15㎞四方くらい
山手線に注目すると、シールの貼られている駅は東に偏っている。わかりやすいようにピンを山手線沿いのみにし、シールの貼られていない駅には青いピンを差してみることにした。
山手線のみのマップ
上野駅から田町駅にかけて青いピンが一切なく、どの駅にもシールが貼られていることがわかる。
加えて、自販機の台数に対するシールの比率を半径に反映させた円を置いてみることにした。
東京駅付近は貼っている駅の数が多いだけでなく、その比率も高いようだ。東京駅の近くではめっちゃやる気を出して貼っている。
また、調査の途中では「縦のシールと横のシールは貼った人が別なのでは?」という仮説を立てた。
これを検証するために秋葉原と北千住にて、縦のシールの位置に青のピン、横のシールの位置に赤のピンを構内図に差してみることにした。
もし縦と横が綺麗に分かれていれば、それぞれ別の人が貼った可能性が高い。そうでなければ、1人が貼っていると考えるのが妥当になる。
結果はこうだ。
秋葉原駅(JRのみ)
北千住駅
赤いピンが横のシールがある場所であり、青いピンが縦のシールがある場所である。また、各駅に一つだけある紫のピンはシールが2枚貼られている自販機の位置を示している。
全体的になんとなく赤と青が固まっているような気がする。特に並んでいる自販機のすべてにシールが貼られていた場合、その縦と横は一致している。
秋葉原駅のホーム上に注目してみる。
1・2番線と6番線ホームには横のシール(赤)のみが、3・4番線ホームには縦のシール(青)のみが貼られている。こんなきれいに分かれるとは。さらに5番線ホームでは縦と横が真ん中あたりで分かれている。なお、紫のピンは縦と横の2枚が貼られていた自販機だ。
縦(青)の塊と横(赤)の塊のちょうど交点に2枚貼りの自販機がある。
これは縦のシールと横のシールで貼る人が分かれていることと、2枚貼りの自販機が「片方のシールに気づかず貼ってしまった結果」であることを同時に示している。
おそらく、縦のシールを貼る範囲と横のシールを貼る範囲が決まってて、それらがちょうどこの2枚貼りの自販機の部分で交わっているのだろう。
一方で、何箇所か赤の中に青があったり青の中に赤があったりもする。
青の塊は13個ある
例えば、秋葉原駅では13枚の縦のシール(青)の近くに1枚だけ横のシール(赤)がある。ほかの場所では赤と青で固まっていることを考えると不自然だ。
しかし、この紅一点な横のシールは先ほど紹介した―営業承認証によって2025年以降に貼られたとわかる自販機である。
つまり、
2025年以前に縦のシール(青)の範囲にシールを貼っていて、2025年以降に新たな自販機にシールを貼る時はどうでもよくなり、横のシール(赤)を貼ったのではないか
と推測できる。
北千住ではまた別の推測ができる。北千住駅は大きく右の部分と左の部分に分けられるが、右の部分のシールの貼り方について考えてみる。
やや見づらいが、2Fのフロアには縦(青)が2枚貼りの自販機も含めて8枚ある。その中で1枚だけ、横のシール(赤)が縦のシール(青)に挟まれて貼られている。秋葉原と同様に紅一点のシールがある。
この横のシールは公衆電話に貼られたものである。そして同じフロアに貼られている縦のシールはすべて自販機に貼られている。
つまり公衆電話のシールは後から貼ったのではないか?と推測できる。
さらに3Fの横のシール(赤)は消火器のシールだ。公衆電話と消火栓。自販機以外のものに横のシールが貼られている。ということは自販機以外には後から貼ろうとしていて、その時に横のシールを使ったのでは?と考えられる。
ただ気になるのが、2枚貼りの自販機がなぜ存在するのか。という点だ。もともと縦のシール(青)を自販機に貼っていたとすると、この自販機だけに2枚目となる縦のシールが貼られているのは不自然に感じる。
しかし、これはある程度説明できる。
2枚貼りの自販機をよく見ると、おそらく1枚目に貼られたであろう縦のシールがかなりクレジット端末に隠れている。自販機の右側から歩いて近づくと、縦のシールが隠れてしまうような気がする。
右から来たとすれば、縦のシールが貼ってあることに気がつかずに2枚目のシール(横のシール)を貼ってしまった。というのは十分考えられる。
実際、自分もシールを見逃して後から見つけることが何度もあった。いくらシールを貼って回る人でも、見づらい位置にシールがあれば気づけないということは起こりうるだろう。
そして2枚貼りの自販機を右から通ったとすると、一気にルートが見えてくる。
このルートなら紫のピンを(自分から見て)右側から通過できる
さらに、1Fから階段で2階に上がった位置から、横のシール(赤)が貼られている公衆電話がちょうど見える。
1Fから上がって、公衆電話を見つけて横のシールを貼りに行こうとする
→手前の自販機を右から通ったためにクレジット端末に隠れた縦のシールに気づかず、横のシールを貼った
→3Fに上がって消火栓に横のシールを貼った
と考えれば、縦のシールの中に紛れる横のシールをすべて説明できる。自販機の情報だけでここまで推測できる駅は貴重だ。
6.遠征
自販機から得られる情報はこれ以上なさそうなので、ここからはネットでの調査に専念することにした。
ネット上の自販機の画像をひたすら見ていく。とても令和8年にやる調べ方ではない。できればシールの映り込みを見つけて、より詳しく年代を特定したり、東京以外にもシールが貼られている証拠を見つけたりしたいところ。
そうして作業を始めて2日目。こんなブログが引っかかった。
転勤族のサラリーマンによるブログで、2023年に博多駅を紹介する記事が投稿されている。
記事に貼られている画像の、ここ
赤丸は筆者が加えたもの
この白い部分、あのシールなのでは……?
1500台の自販機を見てきた経験から考えると、このサイズでこの位置に貼られているのはあのシール以外あり得ない。
しかし、画質が荒いため判断はできない。もしかしたら、東京には貼られていないまったく別のシールかもしれない。
というわけで確認のため博多駅まで来た。東京から飛行機で片道2時間ほど。生まれて初めての旅行がこれになった。
博多駅を歩き回ること30分。
ブログに載っていた自販機とまったく同じ場所を見つけた。
そして、左の1台。
福岡にもシールがあった。
この話は東京だけじゃない。とんでもない規模で起きているのかもしれない。
中央の自動販売機は取り替えられており、シールは貼られていなかったが、左の一台にはシールが残っていた。
このまま調査を続け、福岡では100台以上の自販機を調べた。しかし、このジョジョの自販機以外ではシールを見つけることはできなかった。福岡にはこの1箇所しかないのだろうか。
と思っていたら、福岡空港の保安検査を通った後のラウンジに2枚のシールが貼られていた。完全に油断していた。
空港に貼られているということは、シールを見るためだけに博多に行った僕と同じように、シールを貼るためだけに博多に行った人がいたのだろうか。なんとなくずっと、シールを貼る人とまったく同じルートを辿ってる気がする。
そして博多でも見つかったということは、このシールは全国に貼られているのかもしれない。
さすがにすべての都市に行って確認することはできないので、名古屋に住む友人と大阪に住む友人に、シールが貼られていないか確認してもらうことにした。
名古屋にも、大阪にもある。
さらに大阪メトロの江坂駅には、巨大なシールが全ての出入り口に貼られているらしい。不気味でしかない。それに、左の見慣れた白黒のシールはあまりに巨大すぎる。50cmくらいはあるだろう。
8年以上にわたって全国に貼られているシール。どう考えても個人の仕業には思えない。
何なんだ、何なんだこのシール。
7.解決編……?
きっかけはまたも個人ブログだった。
Googleの検索エンジンで様々なワードの組み合わせを試していたところ、手掛かりとなりそうな個人ブログがヒットした。
※http接続になっています
さまざまな道について書かれた「路面と勾配」というブログだ。その中でこの記事は滋賀県の東近江市について書かれていて、「ありがとうボランティアグループ」というものについて言及されている。
明るさ100 露出100 コントラスト100 にしたもの
あのシールだ。
自販機に貼られていたものと比べるとこれもかなり大きい。江坂駅に貼られていた巨大なシールと同じものに見える。
このブログによると、滋賀県の山奥で宗教じみた活動をしているボランティアグループが「ありがとうございます」と書かれたシールを貼っているそうだ。
宗教じみたと書いたのは、グループは自らを宗教団体としていないからだ。あくまでこの地域で活動するボランティアグループらしい。
宇宙神ありがとうございます?
記事によると、シールのサイズや種類は多岐にわたり、壁や柱、車にも貼られていることが確認できる。
このグループが、東京、そして全国のシールを何年にもわたって貼っていたのか……?
ついでにこのグループのホームページも閲覧してみた。
※http通信になっています
ありがとうボランティアグループは、組織や団体ではありません。
(中略)感謝と奉仕をさせて頂くという共通性をもって自然と集まった仲間です。
「私たちについて」のページを開いても、いまいちどんなグループなのかはよくわからない。
おそらくは「ありがとう」という言葉にスピリチュアルな何かを見出している人たちが、山仕事や護摩焚きを通じて繋がっているコミュニティ、といったところだろう。
「護摩木の書き方&シール」というページを開く。あのシールについて何か詳しいことがわかるかもしれない。
~24時間、(中略)「宇宙神ありがとうございます」を心に焼きつけてること~それを実現できるのが、宇宙神ありがとうございますシールです!
しかしページを開いても「宇宙神ありがとうございますシール」という別のシールについての、よくわからない説明があるだけ。残りのほとんどは護摩木(護摩焚きで燃やす木)の作り方が書いてあるだけだった。
他のページを見ても、東京にあった白黒のシールについての言及は一切されていなかった。それなら東京のシールと、このグループは無関係なのか……?よくわからなくなってきた。
しかし、「路面と勾配」には東京で大量に見かけたシールと明らかに同じデザインのものが貼られている。
車にもシールが貼られている……?
特に右のシール(と思われるもの)は自販機に貼られていたと同じくらいのサイズに見える。じゃあやっぱ関係はあるのか?このグループが貼っているのか?少なくともこの車の持ち主は何か知っていそうだ。
それでも一つ、大きな疑問が残る。
滋賀県の山奥で活動している小さなボランティアグループが、本当に、何年にもわたって全国にシールを貼り続けているのだろうか。
見たところこのグループは近所の人を中心に活動しており、比較的クローズドなコミュニティを形成しているように思える。これまで東京、博多、名古屋、大阪で見た数百枚のシールのすべてを貼っているとは考えにくい。
でも、だとしたら結局何なんだ。
滋賀。
行ってみるか……
8.接触
※本記事は客観的な事実の提示をするとともに個人的な感想を述べたものです。特定の団体や個人を攻撃する意図も、擁護する意図もありません。
※画像はすべて公道から撮影しています。
名古屋の友人と大阪の友人と共に、滋賀に向かうことにした。直接話を訊こうというわけではない。東京の自販機と同じ大きさのシールがあるかどうか。どのくらいシールが貼られているのか。ネットの情報からわからないことを確認しに行きたい。
と言いつつ、実際は単純に行ってみたかった。シールを探し始めてから半年以上が経った。まだ見つけていないシールがあるなら、見に行きたい。
車のスタックが怖くなってきた。目的地まで800mほどの地点で車を止め、そこからは徒歩で向かうことにした。間違えて普通のブーツで来てしまったので凍った道がつらい。
着いた。ここがありがとうボランティアグループの本拠地だ。
壁や柱、車などあらゆる場所に「ありがとうございます」が貼られている。貼れる場所にはすべて貼っているかのようだ。
気になっていた車のシールだが、自販機に貼ってあったものよりは明らかに大きいと感じた。どちらかというと、2018年のブログにあったシールと同じものな気がする。
これよりも小さいシールについては見つけることができなかった。本当にどのシールもデカい。東京にあったような小さいシールが見当たらないのはやや気になるところだ。
少し離れた公道からこれだけのシールが確認できるということは、実際には見えている数倍のシールが貼られているのだろう。建物の中はどうなっているのだろうか。
かなり迫力がある。事前の下調べでは大丈夫だろうと思っていたが、流石に目の前にすると感じるものも変わってくる。
いやー……
この辺に、しておきましょうか……
逃げるように山をあとにする。山のふもとには例のシールが全方向に貼られた石柱があった。なぜかはわからないが、近くにあった飛び出し坊やは体がねじ切れていた。
話を訊いてみたい気持ちは0ではない。ただ現地に行ったら結構ビビってしまった。結局、本拠地にシールがたくさんあったのだから、「ありがとうボランティアグループがシールを貼っていそうだ」ということで満足しておこう。
……
とはいえ、やはり納得はいかない。現地でビビッて話を訊けなかったのは事実だ。でもそれとこれとは話が違う。モヤモヤはしている。
……ありがとうボランティアグループのホームページに連絡先が載っている。通じるかはわからない。一途の望みをかけて、とりあえず連絡してみることにした。
最初からそうすればよかったな。
メールでの質問状を送った翌日に返信が来た。
9.解決編
それから、ありがとうボランティアグループと一週間ほど何回かメールのやり取りをした。メールの情報をつなぎ合わせていくと、このようなことがわかってきた。
まず第一に、ありがとうボランティアグループはシールを貼る活動を全然しておらず、東京などに貼られているシールについてはまったく知らないというのだ。
しかし、滋賀に貼られていたようにシールは作っている。イベントや薪を販売する時に、希望した人に配ってもいるそうだ。その上、配られた人がオリジナルのカラーシールを作るということもしている。
一方で、配っていると言っても10枚程度で、何百枚も配ったり全国に貼ったりするというのはあり得ないとのことだ。シールは作ってるし配っている。でも東京のシールは知らない。一体どういうことなのだろうか。
加えて、アメリカの写真にもありがとうシールが映っていたらしい。
情報源はわからないが、もし本当ならシールは把握しきれないほどの範囲に広まっているのだろう。ネット上で検索をかけても見つからない上、向こうもその写真を持っているわけではないらしい。真偽はわからない。
そして一番気になるのが
ほかの団体がいるというのだ。
メールで話を訊きつつ、「他のありがとうを広めているところ」というのを見つけるためにひたすらネットを調べ続けた。すると、「ありがとう教問題」というものを取り扱っている2chのアーカイブが複数見つかった。
これらのスレッドやそこに貼られているリンクを調べ、追加でありがとうボランティアグループに質問をしていった結果、ありがとうシールを巡った一つのストーリーが浮かび上がってきた。
それは、思っていたより複雑なものだった。
10.おそらくの答え
ありがとうボランティアグループは約30年前から存在している(当時はありがとう村という名前だった)。
グループは当時から「ありがとう」という言葉に特別な力があるとして、様々な活動をしていた。その中で「宇宙神ありがとうございます」や大きなありがとうシールを作って敷地に貼ったり、イベントに参加した人に配ったりしていた。
メールに書かれていた通り、江坂に貼られていた大きなカラーのシールは、ありがとうボランティアグループに関係のある人が自主的に制作したものだ。
しかし、ありがとうボランティアグループは東京や博多、名古屋の自販機に貼られていたシールに直接の関係はしていないと考えられる。
その昔、小林正観という人物がいた。
小林 正観(こばやし せいかん、1948年11月9日 - 2011年10月12日)は、日本の著作家。心学研究家。コンセプター(基本概念提案者)。デザイナー(SKPブランドオーナー)。歌手。2008年には、作詞家「星(ほし)間(あいだ)」としてデビュー。
彼は、ありがとうボランティアグループの中心人物と交流があったほか、グループとも何らかの関わりがあったと考えられる人物だ。
小林氏は「ありがとう」という言葉に特別な力があるという考えを講演や書籍を通して伝える活動をしていた。ここで注意しておきたいのが、彼はありがとうボランティアグループとして活動していたわけではないという点だ。
小林正観はありがとうボランティアグループを参考にした上で、自らの教えを広めていた。なおメールのやり取りから、グループは小林氏の活動について把握しているわけではないと思われる。あくまで小林氏個人の活動なのだろう。
小林氏の講演は人気を博し、経営者を中心に彼の考えが広まっていった。
その中で経済的に成功した経営者が、さらに自らのオリジナリティを加えたものをセミナーで話したり、書籍にしたりする。こうして小林正観の教えの大枠が、スピリチュアルの一種として一部で広まることになった。
そして、小林氏に影響を受けた人の中に、ありがとうを実践するツールとしてありがとうシールを講演で配布したり販売したりする人が現れた(注1)。こうしてありがとうシールは一般の人の手にわたり、自販機などに貼られることになった。と考えられる。
注1―以下の記事に、ありがとうシールを配布した旨の記載がある。これがあの白黒の小さいシールである証拠はないが、文脈からあのシールが配られたと考えることは十分できる。
【 「ありがとう」の絶大な効果 】熊本市南 経営者モーニングセミナー|熊本県倫理法人会
小林氏がシールについてどの程度言及したのかは不明だ。しかし、経営者とありがとうボランティアグループの間に直接的な関係が見られないことから、小林氏が何らかの形で話しているというのは間違いないだろう。
このように考えると、なぜ滋賀には大きいシールしかなかったのか?という謎を説明できる。
東京のシールはなぜ小さいのか?と考えればいい。
滋賀ではありがとうボランティアグループがイベントでシールを配ったり、自分たちで作って貼ったりしていたので、大きいシールでも問題はなかった。むしろ、大きい方がご利益があると考えていても不思議ではない。
しかし、東京では事情が違う。
講演会の後に配ることを想定すると、滋賀にあるような40㎝や50㎝もあるシールを用意するわけにはいかない。手のひらサイズの、東京の自販機に貼られていたような小さいシールを配るはずだ。
つまり、滋賀(広く関西)とそれ以外の地域でシールの源流が異なっているから大きさが異なる。と考えられる。
このように考えれば、ありがとうボランティアグループが東京のシールを知らなかったことにも筋が通る。彼らは大きいシールを貼っていただけなのだろう。ありがとうシールは、その起源を2つに分けられるのだ。
11.残った疑問・矛盾
ここまでの「おそらくの答え」は概ね無理のないものだと思っているが、完全なものではない。いくつか残ってしまった疑問や矛盾がある。
以下ではそれらの疑問・矛盾のうち2つを挙げる。
・2018年に新宿に貼られていたシールは何だったのか
これが最大の矛盾点である。
記事の序盤で紹介した、2018年の新宿に貼られていた大きいありがとうシール。これだけが説明できない。
僕の仮説では本来、大きいシールは滋賀および関西にしかない。
2018年の新宿に存在してはいけないはずだ。
一応、無理やり推測するとしたら、2018年には「シールの縮小規格が異なっている人がいた」とすることもできる。
ただその場合、
2010年代に流行った講演の中でシールの規格が違う人がいて、そのシールは2018年の段階で残っていたが、現代ではなくなっており、今では縮小規格が揃えられた。
というストーリーになるが、これは少し無理があるような気もする。
もしくは、滋賀の人がたまたま東京に来ていて、その時に貼ったとも考えられる。ただどちらにしても特に論拠はなく、否定することもできないため謎のままとなっている。
・そもそもこんなに自販機に貼りたがる人がいるのか
講演でどのように説明されていたのかはわからないが、そもそもシールをもらって自販機に貼ろうとする人は少数派な気がする。
また、ある程度シールを貼る位置が統一されていることを考えると、不特定多数が貼っているというよりは、一部の人が貼っているとしか思えない。でもそんな少数の人が、300枚以上を全国に貼っているのか……?
ありがとうシールについて言及されていた熊本倫理法人会では、「ありがとうシールはできれば夫婦で使っていただき、お互いに良くなってください。」という文言が確認できる。
講演者が全員このような立場をとっているかは不明だが、少なくとも、夫婦で使っていただき、と言われているものを自販機に貼るのは意味が分からない。
結局、シールの詳細はわかっても「なぜこんなに貼られているのか」という最初の疑問はいまいち解決できないまま終わってしまった。
12.データ・協力してくれた人・参考資料など
・データ配布
※自販機の撤去や移動、シールがはがされたり新たに貼られたりしたために現在のデータとは異なっている可能性があります。また、すべての駅で本当に全部の自販機を調べたということは保証できないので、あくまで参考程度にご覧ください。
※二次配布はご遠慮ください
・協力
名古屋の友人:精一杯(@nk14w)
大阪の友人:幼児退行(@baboobabubabu)
滋賀までの運転は精一杯さんにしていただきました。本当に、ありがとう……
また、執筆にあたって多くのWebライターや友人に助言・協力をいただきました。改めて感謝申し上げます。
・参考にしたネット上の資料
【新宿バスターミナル】バスタ新宿とはこんなところ!写真満載で説明/新宿駅南口直結で便利だよ。 | 正直レビュー.com
―2018年にもシールが貼られていたことを示す記事。ブログ自体は2025年末まで更新があった。
―博多にもシールがあるのでは?となったきっかけの記事。ブログ自体は今も更新されている。
【多賀町/東近江市】ありがとうボランティアグループ(宇宙神ありがとうございます) | 路面と勾配
※http通信になっています。
―ありがとうボランティアグループという存在を知ることになった記事。雰囲気が好きなので何本か読んだが、更新は止まっている。
ありがとうボランティアグループ | 宇宙神ありがとうございます
※http通信になっています。
―ありがとうボランティアグループのホームページ。スピリチュアルや宗教的なもののすべてを否定するつもりはないので、特にコメントはしないでおく。
―ありがとうボランティアグループとその関連人物・団体について議論されている2chのアーカイブ。一方的であり、かつ裏どりもできていないので100%の信用はできないが、登場人物の把握など話の全体をなんとなくつかむのにはいいと思う。荒らしと荒らしに対する苦言が多くて読みにくい。
【 「ありがとう」の絶大な効果 】熊本市南 経営者モーニングセミナー|熊本県倫理法人会
―「ありがとうシール」について言及されている記事。本筋とは関係ないが、僕も服装でテンションが上がる人間だなあと思った。
―170にAAの中ではあるが、「ありがとうシールを街に貼る」という内容が含まれている。とても珍しい。
長い記事をここまで読んでいただきありがとうございました。良ければ感想などXに投稿していただけると嬉しいです。
以上!りろでした!
※本記事は特定の団体や個人への攻撃を促すものではありません。直接の問い合わせや迷惑行為は厳に謹んでいただくようお願い申し上げます。

