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〔284〕年たけてまたこゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山
西行法師の歌。語句・語意・品詞分解・現代語訳。こんなに年老いて、ふたたび私は、この険しい道を越えられると思っただろうか、思わなかった。命がそなわっていたのだなあ、私は小夜の中山を越えたのだ、と、西行法師はいった。
1 歌
あづまの方にまかりけるによみ侍りける
年たけてまたこゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山
(新古今和歌集 羇旅歌 西行法師)
2 語句・語意・品詞分解
あづまの方にまかりけるによみ侍りける
※あづま(東・あずま):〔名詞〕東国。逢坂の関より東の方の国々の汎称。
※の:〔格助詞〕…の。
※方(かた):〔名詞〕方(ほう)。方向。方角。
※に:〔格助詞〕…に。…へ。
※まかり(罷り):ラ行四段活用動詞「まかる(=行く・参る)」の連用形。
→「行く」の謙譲語・丁寧語。
※ける:過去の助動詞「けり(=…た)」の連体形。
下に、「時」「折」「際」などを補う。
※に:〔格助詞〕…に。
※よみ(詠み):マ行四段活用動詞「よむ(=詠む・歌を作る)」の連用形。
※侍り(はべり):ラ変補助動詞「はべり(=…ます)」の連用形。
※ける:過去の助動詞「けり(=…た)」の連体形。
あづまの方にまかりけるによみ侍りける
=あづまの方(東国)に(に・へ)まかり(参りまし)ける(た《とき》)に(に)よみ(詠み)侍り(まし)ける(た)《歌》
=東国へまいりました時に詠みました歌。
年たけて
※年たけ(としたけ・年長け・歳長け):連語「としたく(=としをとる・年寄る・年老いる・としよりになる)」の連用形。
としたく(年長く・年長く)
=名詞「年(とし)・歳(とし)・年齢(ねんれい)」+カ行下二段活用動詞「たく・長く(=盛りを過ぎる・末に近づく)」の連用形。
年長く(としたく)≒年老ゆ(としおゆ=年老いる)
※て:〔接続助詞〕…て。
年たけて
=年たけ(年老い)て(て)
=年老いて
またこゆべしと
※また(又・復):〔副詞〕また。ふたたび(再び)。
※こゆ(越ゆ):ヤ行下二段活用動詞「こゆ(=越える)」の終止形。
※べし:推量の助動詞「べし」の終止形。
ここは、
(1)推量
…だろう。
(2)意思
…(し)よう。
(3)可能
…(こが)できる。
…られる。
(1)(2)(3)のどれかである。
西行法師に聞かなければ分からないが、ここでは「…(ことが)できる・…られる」とする。
こゆべし:こえることができる。越えられる。
※と:〔格助詞〕…と。
またこゆべしと
=また(また・ふたたび)こゆ(越え/越える《ことが》)べし(られる/できる)と(と)
=ふたたび越えられると
思ひきや
※思ひ(おもひ・おもい):ハ行四段活用動詞「おもふ(=思う)」の連用形。
※き:過去の助動詞「き(=…た)」の終止形。
※や:〔係助詞〕…(だろう)か、いや、…ない。
思ひきや
=思ひ(思っ)き(た)や(だろうか、いや、思わなかった)
=思っただろうか、いや、思わなかった。
命なりけり
※命(いのち):〔名詞〕命。生命。生命力。息の緒(いきのを・いきのお=息・いき・いのち)。生存するもととなるもの。生きる力。生命力。
※なり:断定の助動詞「なり(=…である)」の連用形。
※けり:詠嘆の助動詞「けり(=…ことよ・…なあ)」の終止形。
「なりけり」は、ここでは、
なりけり:…であるなあ。…であるわなあ。…だよなあ。
命なりけり
=命(いのち《次第》)なり(であるわ)けり(なあ)
=寿命しだいであるわなあ
=命が具(そな)わっていたのだなあ
「命なりけり」は、この歌の核心である。
佐夜の中山
※佐夜の中山(小夜の中山・さよのなかやま・さやのなかやま):〔地名〕小夜の中山。
サヤノナカヤマ
佐夜の中山 佐夜はまた小夜・佐盆・佐野等にも作る。旧東海道にかかる一険阻。遠江国小笠郡の日坂駅と榛原郡金谷駅に至る間にあり二郡の境をなす坂路。
山の西麓の地は往時佐夜郡のあった所。名称はこれより起こるか。古来詠歌多し。
古今・東国歌「甲斐が根をさやにも見しかけけれなく横ほりふせるさやの中山」
新古今「年たけて又こゆべしとおもひきや命なりけりさやの中山 西行」
山上に夜泣石の遺跡や子育観音の伝説を有す。
出典:大辞典 第十二巻 平凡社編 (平凡社 1936) 国立国会図書館近代デジタルコレクション インターネット公開(保護期間満了)
佐夜の中山
=佐夜の中山(小夜の中山《を越えたのだ》)
=私は小夜の中山を越えたのだ
3 現代語訳
あづまの方にまかりけるによみ侍りける
=あづまの方(東国)に(に・へ)まかり(参りまし)ける(た《とき》)に(に)よみ(詠み)侍り(まし)ける(た)《歌》
=東国へまいりました時に詠みました歌。
年たけてまたこゆべしと思ひきや命なりけり佐夜の中山
=年たけ(年老い)て(て)また(ふたたび)こゆ(越え)べし(られる)と(と)思ひ(思っ)き(た)や(だろうか、いや、思わなかった)命(いのち《次第》)なり(であるわ)けり(なあ)佐夜の中山(《険しい》小夜の中山《を越えたのだ》)
=年老いて、ふたたび越えられると思っただろうか、いや、思わなかった。命しだいであるわなあ、私は小夜の中山を越えたのだ。
=こんなに年老いて、ふたたび私は、この険しい道を越えられると思っただろうか、いや、思わなかった。命がそなわっていたのだなあ、私は小夜の中山を越えたのだ。
4 付記
願はくは花の下にて春死なんそのきさらぎの望月のころ
=願はくは(願わくは)花(桜の花)の(の)下(した)にて(で)春(春)死な(死に)ん(たい)その(《然して・而して》願わくは)きさらぎ(《仏が入滅なさった》二月《十五日》)の(の)望月(満月)の(の)ころ(ころ)《に死にたい》
=願わくは、桜の花の下で、春に死にたい。そして願わくは、仏が入滅なさった(陰暦)二月十五日の、満月のころに死にたい。
と言った西行(1118-1190)は、
陰暦2月16日、死んだ。
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いずれも西行の歌。
ついでに
万葉集巻第5-800から、
妻子見れば、めぐし愛し。
世の中は、かくぞ道理。
(山上憶良)
=めこみれば、めぐしうつくし。
かくぞことわり。
=妻子を見れば、いとおしくかわいく思われる。
この世の中は、これが自然の道ではないか。
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