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目覚め/Novel by 赤木

目覚め

1,846 character(s)3 mins

こちらは『贄と花』というセタ弓の完結済ファンタジーパロの後日譚のようなものです。
後日譚のため、本編のネタバレがてんこもりです。
よろしければ、先に本編をお読みください。

本編の1話目はnovel/9262736です。
全16話。一話は短めです。

前日譚の1話目はnovel/9372358です。
全9話。

後日譚です。

※7/4 申し訳ありません!整理するために、最初に投稿していたものから大幅に編集しております。

1
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ぽつりと鼻先に水滴が落ちて来た。
次いで、先ほどよりも大きな粒がいくつも、今度は頬に口に容赦なく降り注ぐ。
「う……」
早く目を覚ませと催促しているようなそれに、思わず呻き声を上げる。
一つ息を吐いてから深く吸い込み、感じたのは空気の薄さだった。
ゆっくりと、そのまま味わうように呼吸を繰り返し、目を閉じたまま周囲の感覚を探りながら、一つ一つ今までのことを思い出していく。
雨の音、湿った土と青臭くむせかえるような森の匂い。ぽつんと額に落ちて来た雨粒が肌を伝い、思わず頭を振る。
空気が薄いのではない。今までが濃すぎる場所にいたのだ。
閉じた目の奥に感じる僅かな光。重い身体。たが動けぬことはない。
手足の感覚。思うようにいかないことに顔をしかめるが、己の右手に、自分のものではないものの繋がりを感じ、深く安堵の息を吐く。
そうして、ゆっくりと目を開いた。

雨が降っていた。
絶え間なく降り注ぐ雨に、濡れそぼる森。
枝ぶりの良い古い木にもたれかかるようにして足を投げ出していた。短くどこか丸みを帯びた己の足は裸足のままだ。そこにも不規則に水滴が落ちてくる。
濡れて色を濃くした森が眼前に広がっている。
何も感じない、ただの何の変哲もない森であることに物足りなさを感じるほどには、あの森の気配に慣れてしまっていたことに苦笑する。
惜しむ場所ではなかったはずなのに、幾百年もあれとともにあったと思えば心持ちが変わってくるから厄介なことだ。同時に、本来ならば永遠に会うこともできぬ永劫の牢獄であったはずなのに。
(コイツが愛した森だからなぁ)
もっとよく見ようと顔を上げて見上げると、今までよりも大きな雨粒が葉々を伝いぼたぼたと落ちて来た。
「……」
そのおかげですっかり濡れ鼠だ。
まるで見る場所が違うだろう、とばかりの所業だ。落ちても元は魔の森か、と動物のように頭を振って水滴を飛ばす。
確かに、その通りだ。
右手にあるのを確かめるように握りながら、視線を転じる。
ただ木に寄りかかっていた自分と違い、その男は大きな木のうろに包み込まれ、その中に身を預けていた。
反転する森が、男が傷つかぬようにと守ったのか。それとも、手放したくないという、最後の意思表示なのかもしれない。
男が森を愛していたように、森もまたこの男を愛していたのだ。
思わず握った手に力がこもる。
いらぬ嫉妬をしてしまいたくなるほどに。


ともあれ、共に戻ることが出来たのならそれが一番だ。
戻る勝算があるわけではなかった。むしろ、共に消える確率の方が高いのではないかとすら思っていた。

それでも、構わなかった。



握った褐色手は、まるで無機物のように体温を感じず、力が全く入っていない。
顔色は悪いが、僅かに胸が上下している。それだけで十分だ。
もう離さないようにと、確認するよう何度も手を握る。
呆れるほど小さな頼りない手も、一年も共にあれば嫌でもなれる。
元の世界に戻れば、身体も戻るかもしれないと思ったがやはり甘かったようだ。圧倒的な魔力不足に空間転移。身体の負担が大きすぎる。

何度も意識して深い呼吸を繰り返し、身体のこの世界に馴染ませる。
立ち上がる。そうしても、男を僅かに見下ろすだけの低すぎる身長が歯がゆい。
手を離さぬようにしっかりと握り、反対の手で冷えた頬に触れる。そのまま確かめるように滑らかな首筋をなぞながら、投げ出した男の太ももの上を足で跨いで座る。
ぺたりと体を密着させ、左胸に耳を寄せる。
己で穿ち、再生させた心臓。己の生きる縁。
ト、ト、ト……と僅かにゆっくりだが確かに鳴る胸の音にゆっくりと息を吐く。
幼い体では包むように抱きしめてやることは出来ないのが惜しいが、子供故の高い体温と僅かな魔力をこうして分け与えることは出来る。


己のせいで永久に失ったはずの男が、再びこの手の中にある。先が残されているのならば、もう二度とこの手を離すことはしまい。
このわからず屋の男が、もう少し生きたいと言うまでたっぷりと愛を注いでやろう。
空だったその身体を再生させたように、心も満たしてやりたい。

繋いでいた手がぴくりと僅かに跳ねる。ほんの少し握り返された。
手を伸ばして、再び頬に触れる。
白いまつ毛が揺れる。

「エミヤ」

小さな掌で頬を撫でる。
「エミヤ」
瞼が震え、薄く目が開かれる。
何物にも代えられない美しい瞬間がそこにある。

男の鋼の瞳に光が入る。

「おかえり」

Comments

  • 茉莉花茶
    July 3, 2018
  • July 2, 2018
  • 猫汰

    わあああ!後日譚ありがとうございます!待ってましたー!!・:*+.\(( °ω° ))/.:+

    July 2, 2018
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