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シンデレラなら躓かない(槍弓)/Novel by うたみ

シンデレラなら躓かない(槍弓)

48,456 character(s)1 hr 36 mins

昼間だけ女になってしまう体になったアーチャーさんが、正体を隠したままランサーさんとデートを重ねる話。ホロアタ時空っぽい与太時空。ハッピーエンドです!

2020年発行の完売済み短編集から、1本をWeb再録しました。
本のテーマが「弓のTSをきっかけに恋が進展する槍弓」だったので、そんな話です。
以下、注釈です。

■作中の携帯電話事情は、ホロアタが発売された2005年辺りを参考にしています。
■と言いながら、アーネンエルベとひびちかちゃんが登場しているので、「まほ箱」「カニファン」的な何でもありの与太時空です。
■えっ!? ひびちかちゃんをご存じない!? すぐに「まほうつかいの箱」でググるんだ! そしてドラマCD「狙われたアーネンエルベ」をゲットして聞くんだ! めちゃめちゃ格好良いウエイターランサーさんが聞けるぞ!!!(これが言いたかっただけ)

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 ここひと月ばかり、庭の手入れは夜に行うようにしている。理由は単純に、人の目に触れたくないからだ。
 高い鉄柵に囲まれ、鬱蒼とした木々が目隠しをする遠坂邸の庭は、外部から容易に覗けはしないが、それでも用心はするべきだろう。柵の高さや視界の悪さなどものともしない人物に、幾人か心当たりがあるならなおさらだ。
 事実、今ここに近づいて来る魔力を、アーチャーは感知していた。距離があるうちは、魔力が誰のものなのか推測することしか出来なかったが、気配が屋敷の前の坂道を登ってくる段になれば、さすがに確信を持った。
 静謐な夜の空気を揺らす存在感を、あの男は隠そうともしない。
 奴がこの屋敷を目指しているのも確定だろう。用があるのは、屋敷の主人か、それとも……。
 敷地に結界が張られているため、こちらの魔力はまだ向こうには感知されていないはずだ。さっさと霊体化して屋敷に閉じこもることも考えたが、逃げるようで少し癪だった。
 素知らぬ顔をすることに決め、アーチャーは細口のジョウロを手に取ると、カトレアの鉢植えに水をやり始める。
 程なく、気配が門の前で立ち止まった。
「なんでえ、いるじゃねえか」
 聞こえた声に数拍の間を置いて、アーチャーはゆっくりと振り向いた。
 植物の蔓が絡む鉄柵の向こう、青い人影が僅かな月明かりに照らされ佇んでいる。
「随分な挨拶だな。私がここにいると不都合なことでもあるのかね?」
 数歩近づき、不躾な台詞を咎めるように嫌味を返せば、人影――ランサーは小さく溜め息をついたようだった。
「別に来たくて来たんじゃねえよ。セイバーに最近テメエを見かけねえがどうしてるのかって、しつこく訊かれたんで仕方なくだ」
「セイバーが?」
 意外な名が出て、アーチャーの胸に複雑な思いが湧いた。彼女に気にかけられているという面映ゆさと、現状に関わってほしくないという後ろめたさと。そして更に疑問がひとつ。
「何故セイバーが、私のことを君に訊くんだ」
「オレが知るかよ。おおかた、他のサーヴァントの顔見て思い出したとかじゃねえか。今日の昼、店に来たんだ」
 店、というのは、ランサーが現在バイトをしている喫茶店のことだろう。時折立ち寄ることがあると、凛からも聞いている。
「言われてみりゃ、オレもしばらくテメエの姿を見てなかったしな。ついに座に還ったかと、一応見に来たんだ」
「わざわざご苦労なことだ。私が座に還ろうが還るまいが、君は興味もないだろうに」
「そこはあれよ。テメエが座に還ったとなりゃ、遠坂の嬢ちゃんが寂しがるかもしれねえだろ。で、美人が落ち込んでるとなりゃ、見過ごすわけにいかねえからな」
「軽薄な男の言葉を凛が聞くとも思えんが……、ああ、笑いの種くらいにはなるかもしれないな。道化に心が慰められることもあるだろうさ」
 肩をすくめて皮肉を重ねるが、ランサーは涼しい顔で、
「そりゃいいな。いい女に笑顔が戻るんなら、男冥利に尽きるってもんだ」
 しゃあしゃあと言ってみせた。珍しい態度だ、と思う。
 アーチャーの皮肉に対し、ランサーは大抵、呆れながらの反論かうんざりとした沈黙で返す。皮肉を逆手に取って軽口で切り返してくるなど、あまり無いことだ。嫌々尋ねて来たと言っていたわりに機嫌はいいのだろうか。
「お、そうだ、美人で思い出した。お前に会えたら、ついでに訊きてえことがあったんだよ」
 不意にそう切り出され、アーチャーはぎくりとする。まさか気づかれていたのだろうか。
 だがあの日ランサーは、そんな素振りは見せなかったはず――……
「ケータイってのは、どうすりゃ持てるんだ?」
「…………なんだと?」
「だからケータイだよ、携帯電話。今は大抵の奴が持ってて、それで連絡を取り合うんだろ? だからオレも買おうと思ってよ。売ってる店は教えてもらったんだが、行ってみたら『ホンニンカクニンショルイが必要です』とか言われて、結局売ってくれなかったんだよな。ありゃどうやって買うんだ?お前、現代のことには詳しいんだろ? 教えてくれよ」
「ま、待て、ランサー。一向に話が見えん」
 立て板に水とばかりに言い立てられ、情報の整理が追いつかない。
「何故いきなり、携帯を持つなどという話になるんだ?」
「なんでって必要になったからに決まってんだろ」
「必要になった? またバイト先でも変えるのか?」 
 職種によっては電話連絡必須ということもあるだろう、と推測しての問いだったが、ランサーは首を振った。
「変えるわけねえだろ。今の店辞めたら、エミさんに会えるチャンスもなくなっちまうし――」
 一瞬、耳にした名に心臓が止まるかと思った。いや、実際に止まったのかもしれない。
 分かるのは、自分の心臓が今、早鐘を打っていることと、鼓動が胸腔内から聞こえるのだから、心臓が口から飛び出す事態は避けられたらしいということだ、等々。
 現実逃避じみた理屈を脳内でひとしきり走らせてから、アーチャーはようやく、問いの響きでその名を口にした。
「――……エミ、さん?」
「応よ! この間、ちっとばかし運命的な出会いをしちまってな。ケータイ持ちたいって理由もそれよ。現代の男と女ってのは、ケータイの番号だかアドレスだかを交換するところから始まるらしいじゃねえか。ひびきと千鍵にそう聞いたぜ?」
 ひびきと千鍵、とはランサーと同じバイト先で働く女子高生だ。男女交際は連絡先の交換から、という主張は学生らしくはある。
 つまりランサーは“運命的な出会い”とやらの“エミさん”と連絡先を交換したいから、携帯電話を持ちたいのだと主張しているわけだ。
 普段のアーチャーならば、どうして私が君のナンパの手助けをしなければならない、と一蹴するところだが。
 ――その展開は、些かまずいのではないか?
 先ほどから思考の裏で、やかましく警鐘が鳴っている。このままランサーを追い返し、事の成り行きに怯えて過ごすより、事態を手の届くところに置いておく方がマシかもしれない。
 半分は仕方ないというポーズを作るために。
 もう半分は本気の心労から、アーチャーは大きな溜め息をつく。
「……いいだろう。話くらいは聞いてやる」
 言葉を投げ返してから、アーチャーは裏門の掛け金を外してやった。
「入っていいのか?」
 ここが魔術師の工房であるという認識はあるのだろう。ランサーが意外そうに尋ねてくる。
「家の周りを不審な男がうろついていると噂が立つ方が、凛に迷惑だろう」
 門を開け、ランサーを促す。内側から招き入れる分には、屋敷の結界も作動しない。
 庭に足を踏み入れたランサーは、物珍しげにきょろきょろと周囲を見回しながら、アーチャーの後をついてくる。
 裏門から続く小道の先、季節の花に囲まれた小さな広場には、アーチャーが手入れをした木製のテーブルセットが置いてある。
 晴れた日は、凛が花を眺めてくつろいだり、姉妹がお喋りに花を咲かせたりする場所だ。彼女たちに紅茶や菓子を振る舞うのは、アーチャーの楽しみでもあるわけだが、今夜の客には不要だろう。ランサーとて、アーチャーからの持て成しなど期待していないはずだ。
 二脚ある椅子の片方に、アーチャーが足を組んで座れば、もう一脚の椅子へランサーもどっかと腰を下ろした。
「さて、携帯の説明をする前に、何があったのか聞かせて貰おうか」
「お、聞きてえか。オレとエミさんの運命の出会いを」
「たわけ。貴様が無体を働いていないか心配なだけだ。万一にも、狗に噛まれるご婦人が出てはいけないからな」
「相変わらず失礼な野郎だな。このオレが美人相手に無体なんぞ働くかよ。……まあいい。話聞いて、やましいことなんざ何もねえって納得したら、ちゃんと携帯の買い方教えろよ」
 テーブル越し、身を乗り出して言ってくるランサーに、いいだろう、とうなずいてみせる。とにかく話を聞かないことには、アーチャーもこれからのことを決められない。
 聞いて、見極めなくては。ランサーが本当に、気づいていないのか。
 審判でも受ける気持ちで耳を傾ける。そのアーチャーの心中を知ってか知らずか、ランサーは数日前の“運命の出会い”を語り始めた。

Comments

  • nunu
    September 29, 2022
  • ゆんこ
    September 26, 2022
  • emikof
    September 25, 2022
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