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幸せな匂いのお前がいい 前/Novel by 赤木

幸せな匂いのお前がいい 前

3,337 character(s)6 mins

ランサーという犬とアーチャーという猫を飼っているエミヤの話。

色々考えている話を、せっかくなので最初だけ書いていこうというコンセプトで後々まとめる話の第一弾になるはずだったのですが、続きました
後編→novel/10198946

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俺の名前はランサー。
犬だ。毛は長い青色で目は赤い。ケンシュ?何だそれ、食えんのか?
ガキだった頃のことはもう覚えちゃいないが、暗くて寒くて嫌な匂いがしているところで小せぇ俺が最期の力を振り絞って情けねぇ声を上げてる時に、褐色の優しい手が俺を助けてくれた。
その命の恩人で俺の飼い主の名前をエミヤという。
身長はでかい体もでかい。多分、他の人間に比べれば。だためちゃくちゃ良い匂いがするし、太ももは筋肉なのにふかふかなので、俺はよくその上に顎を置いて落ち着く。
小さかった頃はその膝に乗って甘えたもんだが、何せ俺の体は立派に大きく育っちまったのでそれは難しい。それでも、エミヤは何か作業をしていても時折無意識のように、昔と変わらず俺の頭を撫でてくれる。俺はそれが堪らなく嬉しくて、エミヤが手入れしてくれるつやつやの毛並みの尻尾を振ってしまうのだ。
エミヤの作る飯は美味い。朝と夜に俺の分のご飯も作ってくれる。栄養バランスもばっちりのそれが常の俺はすっかり舌が肥えてしまい、市販のドッグフードなんてクソ不味いものが食えるわけがない。どんなにエミヤに言い聞かせられても、俺はツンとそっぽ向く。エミヤの飯じゃないなら食わない方がマシだ。
エミヤはとても良い主人だと思う。比べるものがないからわからないが、俺はこんなにも幸せだから、比べるものなんてなくていい。
あるがまま好きにする俺を見て、エミヤは笑ったり、好き放題の度を過ぎると怒ったりする。俺は基本的にエミヤに忠実な犬なので、そんなに悪さはしない。多分、してない。

エミヤの家には一匹の猫がいる。
名前はアーチャー。くすんだ白い毛で鋼色の目をしている。
自分でも何が何だがよくわかってなかったガキの頃はアーチャーにちょっかいをかけては、よく猫パンチを食らったし、ひどい時は噛みつかれもした。今思えば、大抵俺が悪い。けれど、それがわかっていない若い俺とアーチャーの関係は険悪だった。
アーチャーは俺がエミヤに拾われる前からエミヤに飼われている猫だし、俺の方が新参者だから、その内に俺はきちんと立場を弁えるようになった。俺は犬だからな。そういうのには敏感なんだ。
アーチャーはなぜだかどこかつまらなさそうな顔をしていたが、その内に慣れて俺とつかず離れずの距離を保つようになった。
そんなお互いの距離が出来上がっていた頃、俺はどうしようもない寂しさに苛まれていた。エミヤに甘やかされて育ったせいか、多分俺はわりと甘ったれでアーチャーとも本当は仲良くなりたかったのだ。
そうはいっても、俺はガキの頃に受けたアーチャーの猫パンチが怖くて、その頃にはアーチャーの体格のゆうに二倍はあったのに、おそるおそるしかアーチャーに近づくことができなかった。
俺の近づく気配に、アーチャーは俺の方を見ずにするりとその場を離れてしまい、俺は思わず情けなく鼻を鳴らす。
何度も何度もそんなやりとりをして、エミヤはその様子を苦笑したり、時々板みたいな何かをこちらに向けたりして見ていた。アーチャーにフラれて落ち込む俺を慰めたりしてくれた。エミヤからアーチャーの匂いがすることもあったから、アーチャーもエミヤに抱っこされたり撫でられたりしたのだろう。
何だ、それ。ずりぃ。
どちらに言いたいのかわからないけれど、ともかく俺は根気強くアーチャーに近づいていった。
まあ、色々あった。色々あって、今、アーチャーと俺の関係は悪くない。
その話はまた別にすることにしよう。
ついアーチャーのことになるとそっちに気が向いちまう。
アーチャーはそういう猫なのだから仕方がない。ツンとしてるのにこちらを気にしていて、素っ気ないのにとても優しい。面倒くさいがそこが可愛い、俺の大事な家族なのだ。
だが、その話はまた今度。


エミヤは俺をとても大事にして可愛がってくれる。
愛情をもった優しい手で撫でてくれる。時々乱暴に撫でてくれたりするのも俺は堪らく好きだ。何でって?遠慮のなさが愛されてる気がしねぇ?
まあとにかく、怒る時の声だって、どこか柔いのだから始末に負えない。
そんなエミヤは、時々俺の名前を呼ぶ。

「ランサー」

いつもみたいにじゃなく、どこか寂しそうに悲しそうに俺の名前を呼ぶ。

「ランサー」

まるで俺じゃない誰かを呼んでるみたいに、俺を呼ぶ。

その声があんまりにも悲しそうで、その顔があんまりにも切なそうなので俺はガキみたいにきゅうきゅうと声を上げる。

誰だ、エミヤ。
お前を悲しませているのだ、誰だ?
そんな顔をさせているのは誰だ?

俺がとっちめてやる。
俺は強いからな、どんなのが来ても負けない。

だから、エミヤ。そんな声で、顔で俺を呼ぶな。


俺は堪らなくなって、エミヤに飛びついてきゅうきゅうと声を上げながらその顔をべろべろと舐める。

「ランサー!こら、止めろ!ランサー!!いい子だからっ、ふ、はははは!くすぐったいぞ!!」

ほら、笑っている顔の方がいい。
もう寂しくないか。エミヤ。大丈夫だ、俺がいるからな。

ニンゲンは悲しい時には悲しい匂いが、寂しい時には寂しい匂いがする。
俺は犬だから、鼻がいいんだ。

ぐいぐいと俺は大きな体をエミヤに押し付ける。エミヤより小さいが、それでも犬にしてはデカい方だ。俺がデカくなるように生まれたのは、エミヤにこうして寄り添うためだと思う。

遠くでアーチャーが俺たちの騒ぎに呆れたように息を吐いている。
アーチャーだってエミヤが心配なはずなのに、素直じゃない猫だ。


そんなエミヤの家で、俺とアーチャーは暮らしている。



それはある日の出来事だった。
夜飯を食べた後エミヤは新聞を読んでいて、俺はいつものようにその膝に顎をのせてくつろいでいた。
アーチャーが珍しくそわそわとしている。
どうしたんだ、と思っていると、ふいに俺の良く聞こえる耳が玄関の方に向いた。
誰か来た。
俺は立ち上がり、玄関へ向かう。俺は番犬も兼ねているから仕事の時間だ。
ふんふんと臭いを嗅ぐが、知らない──いや、どこかで嗅いだこともあるような臭いだ。
その時、俺の本能が稲妻のように身体中を支配した。
ぐるりと喉が鳴る。

玄関の向こうに誰かいる。

俺の本能が告げている。警告している。

あれは駄目だ。
あれはとても危険だ。

爆発するように俺は吠えたてた。
俺は無駄吠えするような馬鹿な犬じゃない。必要な時だけ。
それが今だ。

「え、犬?」

扉の向こうで何か言っている。
知ったことか。

「ランサー!」
エミヤが声を上げる。
けれど、俺は止まらない。玄関に向かって歯をむき出しにしてうなり、吠え続ける。
「ランサー!どうしたんだ、ランサー!!」
首輪を握られても、俺は吠えるのを止めない。
「ランサー!ストップ。落ち着け、落ち着くんだ」
体を軽く叩かれ、俺の体は本能よりもエミヤの声に従い始める。だが、まだ喉の奥でグルググルと唸り声を上げる。
「ランサー……」
エミヤの声に俺は仕方なく、低い声だけ上げながらその顔を見る。エミヤがとても困って焦ったような顔をしている。
「ランサー、おすわり。いい子だな。どうしたというんだ。お客さんが来たくらいで」
違う、ちがうんだ、エミヤ。あれはただの客じゃない。あれは──。
玄関の向こうで戸惑うような人の気配に、エミヤがそちらに気を向ける。
うぅっと唸った俺の体をまた優しく叩く。
「ランサー、ステイだ。いい子に出来るな?」
エミヤの命令は俺にとっては絶対に近い。ステイの言葉を、今にも動き出しそうになりながらも忠実に守る俺を気にしながら、エミヤが玄関に近寄る。

駄目だ、エミヤ。

「うちの子がすいません。どちら様でしょうか?」
扉を開けなかったのは、防犯というより俺が飛びかかることを恐れてだろう。


駄目だ、あれはお前を、
悲しませるものだろう?


「……エミヤ、俺だ」

玄関のすりガラスを隔てた向こう、低い男の声がした。
エミヤが驚きに大きく目を開く。

「ランサー……」


エミヤが、俺じゃない誰かを、俺の名前で呼んだ。


Comments

  • 伊吹〜文章は気の向くまま〜

    ぎええ…気になる!

    September 9, 2018
  • 0

    続きお待ちしてます…!

    September 9, 2018
  • 0
    September 9, 2018
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